EPRC」カテゴリーアーカイブ

2.5 Earthquake Prediction Research Center

3.5.13 光ファイバ振動計測による陸域超稠密地震観測

 分散型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing,以下DAS)技術を用いて,四国中央部において超稠密な地震観測を2023年1月上旬から3月下旬にかけて実施した.既設の光ファイバの末端にDAS装置を接続し,コヒーレントな光パルスを光ファイバに連続的に伝送し後方散乱信号を測定することで,ファイバ軸方向の動的ひずみデータを取得した.観測には,徳島県三好市池田町を起点に,国道32号線と国道192号線に沿う2本の光ファイバを使用した.たとえば,観測期間中の2023年2月6日にトルコ南東部で発生したMw7.8の大地震による良好な波形データが取得された.さらに,測線近傍で発生した微小地震や低周波地震による波面の取得に成功した

3.5.12 歴史地震に関する研究

 2017年度より地震研究所と史料編纂所との連携による「地震火山史料連携研究機構」が設置され,地震予知研究センターからも教員・研究員が参画している.同連携研究機構では,東京大学デジタルアーカイブズ構築事業および災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画の一環として構築した「日記史料有感地震データベース」「地震史料集テキストデータベース」(https://materials.utkozisin.org/)を公開している

 1854年安政東海地震の甲府盆地東部の家屋被害に関する史料に関して分析を進め,救済金額などから村ごとの本潰軒数と半潰軒数の内訳を推定した.1826年~1868年(文政9年~明治元年)にいたる阿蘇山の火山活動に関する史料を収集し,1830年(天保元年)の小スコリア丘の形成をともなう活動に関する記事を見出した.18世紀の宮城県南部の地震活動の分析,既刊の地震史料集の記述の再検討などをおこなった.市民参加型の歴史資料解読プロジェクト「みんなで翻刻」の運営を継続した.

3.5.11 日向灘における国際深海科学掘削計画推進プロジェクト

 日向灘は,巨大地震の発生してきた強い固着域である南海トラフの西端に位置し,固着が弱いと考えられている琉球トラフへの遷移域である.日向灘・豊後水道における巨大地震の発生は確認されていないものの,南海トラフ地震の破壊領域の端に位置し,地震活動や固着メカニズムの解明及び防災計画立案に対し重要海域である.南海トラフと琉球トラフの境界に九州パラオ海嶺が存在し,そこを境として沈み込むプレートの凹凸や熱流量値が急激に変化している.また海山列の沈み込みが上部プレートの破砕や応力の局所的な増大をもたらし,日向灘・豊後水道における地震発生に大きく影響を及ぼしているであろう.これまでになされていない詳細な構造推定や原位置の岩石物性の把握を進め,定量的に地震分布・発生との関係を導く必要がある.

 このプロジェクトでは,海山が現在沈み込みつつあるトラフ付近に焦点を当てる.沈み込む海山の前方に微動・超低周波地震が分布しており,明瞭な関連性が見られる.しかしながら,海山の具体的な位置・形状,プレート境界断層の形状,上盤内部の構造は十部に得られたとはいいがたい.加えて,過去に掘削が実施されていないため物性が不明であり,定量的なモデル評価が困難である.地震波による地殻構造推定が不可欠であると同時に,掘削を通じたコア採取・原位置計測・室内実験,孔内観測が必須である.

 2020年4月に,国際深海科学掘削計画(International Ocean Discovery Program; IODP)に対して掘削予備提案を提出した.その後国際ワークショップ(2020年9月)等を経て,2022 年8 月に提案が受諾され,掘削実施に向けた準備に入った.地震学・地質学・地球化学など学際的な連携が不可欠であり,国内(海洋開発研究機構・京都大学・高知大学・神戸大学など)のみならず,アメリカ・カナダ・ニュージーランド・フランスなどを含めた国際性の高いプロジェクトである.日向灘~豊後水道域では,海底地震観測,GNSS 観測が継続的に実施されていることに加え,防災科学技術研究所による N-net の敷設が予定されており,関連研究と連携していく予定である.

3.5.10 海溝近傍での海洋プレート変形に伴う水・熱の流動過程の研究

日本海溝海側における太平洋プレートの屈曲変形に伴い,プレート上層部で水や物質・熱が活発に移動することを示す現象が,近年相次いで発見された.プレート内火成活動(プチスポット),広域的な高熱流量異常,地震波速度構造の異常等である.速度構造の異常は,屈曲変形で生じた亀裂に水が取り込まれたことを示唆しており,熱流量異常も,海洋地殻の破砕により流体循環が発達し,熱を運ぶことで生じたと考えられる.このような海溝海側での水と熱の流動は,沈み込むプレートの温度構造と水分布を変化させ,プレート境界の地震発生帯付近の環境条件に影響を及ぼすものである.また,海洋プレートに水が侵入し沈み込み帯に持ち込まれる過程は,物質循環やマグマの成因等,物質科学の観点からも注目されている.

これらの海溝海側で生じる過程に関して,科学研究費・基盤研究(A)「海溝近傍での海洋プレート変形に伴う水・熱の流動過程とその沈み込み帯への影響の解明」(2018~2021年度)を軸とした総合的な研究を進めた.この研究では,海洋プレート上層部における水の動きとそれによる熱輸送に焦点を絞り,複数の研究機関が共同することで,地球物理学的探査,物質科学的分析,室内実験,数値モデリングといった幅広い手法を用いた.

2022年には,三陸沖日本海溝及び北海道沖千島海溝の海側海域で観測調査航海を実施し,高密度の熱流量測定,堆積物コアと底層水の採取・分析,海底地形と表層堆積層構造の詳細な探査を行った.2018〜2020年に実施した航海の結果とも合わせて,日本海溝アウターライズでは海溝に平行する方向にも熱流量が大きく変動すること,千島海溝アウターライズでは日本海溝に比べて熱流量異常が顕著でないこと,日本海溝海側斜面に発達する正断層の近傍で間隙水中に深部由来のHe及び局所的な高熱流量が検出されること,等が明らかになった.これらは,いずれも海溝海側の海洋地殻内における水・熱の流動について重要な情報となるものであり,地震波速度構造や反射法地震探査・海底電磁気探査の結果,流体循環のモデル計算等と組み合わせて,海洋地殻の破砕とそれに伴う流体流動の過程の検討を進めている.

一方,多様な分野の研究者による議論や情報交換を推進する場として,地震研究所共同利用研究集会「海溝海側の過程に関する横断的研究:沈み込み帯インプットの実態解明を目指して」,及び日本地球惑星科学連合大会で同様な趣旨のセッションを開催した.また,日本海溝アウターライズにおける掘削調査について,プチスポット火山地域で浅層掘削を行い,火成活動がプレート境界地震発生帯に及ぼす影響を解明する提案を推進した.

3.5.9 森本・富樫断層帯の重点的な調査観測

森本・富樫断層帯は石川県の金沢平野の南東縁にある長さ26 km,北東走向の活動的な逆断層である.平均変位速度は約1 m/千年とされ,北陸地方に分布する活断層のうち,最も活動的な主要活構造である.本断層帯の周辺には金沢市をはじめとする北陸地方有数の人口密集地が分布しており,その長期評価は本断層帯の活動に伴う地震被害を想定する上で大変重要である.長期評価では,発生する地震規模はM7.2,今後30年間の地震発生確率は2〜8%と高く,強震動評価としては,この断層帯が活動した場合には,震源断層近傍の金沢平野をはじめとして,富山県西部も含む周辺の広い領域が震度6弱以上の強い揺れに見舞われる可能性を指摘している.しかし,本断層帯の長期評価を行う上で最も重要な断層活動性のデータは不足しているほか,強震動予測を行う上で重要な震源断層面の形状や盆地の構造を推定するための反射法地震探査をはじめとする地球物理学的手法による探査は十分に実施されていない.このような課題を解決するために,2022年度から3ヵ年で「森本・富樫断層帯の重点的な調査観測」(研究代表者 岩田知孝・京大防災研教授)が開始された.このうち,サブテーマ1.1「活断層の詳細位置・形状・活動性解明のための調査」を担当し,断層帯の変動地形解析および深部構造探査を実施した.

3.5.8 地震活動の特徴に関する研究

地震活動モデルの高度化を目的とし,ハイパーカミオカンデの建設にともなう世界最大級の大空洞掘削工事によって生じる応力場の時空間変化と誘発地震活動の高精度な把握を進めている.2022年9月から,高感度地震計(約30台)をハイパーカミオカンデの建設サイト直上に高密度に展開し,連続波形記録の取得をおこなっている.

3.5.7 Slow-to-Fast 地震学プロジェクト:情報科学と地球物理学の融合によるSlow-to-Fast地震現象の包括的理解

 科学研究費・学術変革領域研究(A) 「Slow-to-Fast 地震学」プロジェクトの活動を継続した.地震研では,全国11の大学・研究機関に所属する情報科学と地球物理学の若手研究者を中心に,データに潜む Slow・Fast 地震のシグナル検出や活動様式・震源特性の解明や,Slow・Fast 地震のモニタリング手法の刷新,Slow・Fast 地震の統計科学的・地球物理学的性質を明らかにするための研究を推進している.

3.5.6 ニュージーランド北島ヒクランギ沈み込み帯の研究

 オーストラリア・プレート上にあるニュージーランド北島の下には,東から太平洋プレートが沈み込むことによって,ヒクランギ沈み込み帯が形成されている.特にこの地域は,西南日本地方と類似して浅い沈み込みが進行し,プレート境界の物理特性とその挙動を明らかにする上で格好の地域である.海底資源の調査のため,およそ10 km間隔でひかれた海溝軸に直交した測線で人工震源を用いた反射法地震波構造調査も行われており,海域下のプレート境界の形状も詳細に把握されている.2009年以来,当センターでは,ニュージーランドGNS Science,ビクトリア大学ウェリントン校,コロンビア大学,カリフォルニア大学サンタクルーズ校,及び南カリフォルニア大学と国際共同観測研究を実施してきた.海陸統合制御震源地震探査からは,北島下に沈み込む地殻の厚い(~12 km)ヒクランギ海台やプレートの沈み込み形状の構造が明らかになった.また,散乱波を用いた解析によって,プレート上盤側のワイララパ断層のイメージングに成功した.

 2012年4月から2013年3月にかけて,ヒクランギ沈み込み帯北部においておよそ2年間隔で周期的に発生するスロースリップイベント(SSE)を観測することを目的として,東京大学地震研究所の海底地震計を用いて,日・NZ共同でヒクランギ沈み込み帯では初となる海域地震観測を実施した.本海域では,人工震源地震波構造調査によって,沈み込んだ海山や,その沈み込み前方に見られるプレート境界からの地震波反射強度が強い場所,すなわち水の含有量が大きいと考えられる領域が確認されている.本観測で観測された海域から陸域にかけて発生する地震の震源を詳細に決定するとともに,地震波速度構造を明らかにした.その結果,沈み込む太平洋プレートの海洋性地殻内にP波とS波の速度比(Vp/Vs)が大きい場所が局在していることが確認されるとともに,通常の地震活動がVp/Vsが極大となる場所を避け,その周辺域で発生していることを明らかにした.また,プレート境界面上の流体が豊富に存在する領域は,このVp/Vsが大きい領域の上面にあたることが分かった.Vp/Vsの大きい場所では,プレートの沈み込みに伴う海洋性地殻内の脱水反応が大きい場所にあたること,また地震の発生は脱水反応によって生成された流体の間隙圧が適当な領域で発生している可能性を示した.

 2014年5月から2015年6月にかけて,日・NZ・米の国際協力による大規模な海域地球物理観測(HOBITSS:Hikurangi Ocean Bottom Investigation of Tremor and Slow Slip)を行った.本観測では,地震研究所から海底地震計5台,海底圧力計3台,東北大学・京都大学から海底圧力計4台,海洋研究開発機構から海底電位差磁力計3台,コロンビア大学から海底地震・圧力計10台,海底圧力計5台,テキサス大学から海底圧力計5台の総計35台の海底観測機器を使用した.観測期間中の2014年9~10月には,2000年ころから整備された陸上GNSS観測網によって捉えられたSSEとして,2番目に規模の大きなSSEが本海底観測網直下で発生し,これによる地震活動,海底地殻変動などを観測することに成功した.海底圧力計のデータを用いて海域における断層すべり分布を詳細に求めた結果,断層すべりは沈み込んだ海山を避けるように分布していること,断層すべりの一部は海溝軸近傍まで達していることが初めて明らかとなった.さらに海底地震計の解析から,海域下における微動の発生が初めて確認された.この微動活動について詳しく調べてみると,SSEにおけるプレート境界面上の断層すべり運動が終了するころになって沈み込んだ海山周辺域に限って活動を開始し,その後およそ3週間にわたって連続的に発生していることがわかった.一方通常の地震活動は,そのほとんどが沈み込むヒクランギ海台の海洋性地殻内で発生していることが改めて確認され,その発震機構を調べたところ,平常時は横ずれ型地震が起こっているが,SSE発生直前には横ずれ型から逆断層型まで,多様な地震活動が見られるようになることがわかった.これは,海洋性地殻内における脱水反応によって間隙水圧が上昇し,最大主応力周辺の差応力が減少したことによると解釈される.従ってSSE発生直前には,間隙水圧が海洋性地殻からプレート境界まで上昇していることが考えられる.このようなSSE発生に伴う変化は,陸側プレート内の地震波速度異方性にも現れていることが確認された.さらに,2018年10月から2019年10月にかけて,地震研究所の海底地震計5台を用いて同様の海域にて地震観測を実施した.先のHOBITSS観測によって海域での微動活動分布が確認されたため,その活動の詳細を把握するため,活動分布を取り囲むように海底地震計を設置した.観測期間中にはふたたび大規模なSSEが発生し,2014年SSEと同様,その終息時期から約3週間にわたる微動活動も発生した.エンベロープ相関法によって3000を超える数の微動の震央を決定したところ,沈み込んだ海山の核部分を囲むように分布していることが分かった.同様の手法をHOBITSS観測記録に適用したところ,検出された微動は大幅に増加し,2000を超える数の微動の震央が決定された.2014年と2019年の活動分布はほぼ重なっていることがわかった.

 2020年11月には,これまでのヒクランギ沈み込み帯北部から,プレート間固着強度が大きく変化する中部へと観測領域を移し,海底地震計10台を用いた1年間の海域地震観測を行った.ヒクランギ沈み込み帯北部での結果によると,多様な断層すべりの特徴は,沈み込むプレートの海洋性地殻内における脱水反応との関係が示されている.プレート間固着強度の大きな変化も,脱水反応の大きさのコントラストに起因する可能性も考えられ,固着強度遷移域をカバーした海域地震観測によって地震活動と沈み込みの構造を明らかにし,固着強度変化の要因を明らかにすることを目的とした.2020年中のコロナ禍の中,NZへの入国許可は限定的であったが,NZ側共同研究機関であるGNS Scienceによって関係する日本人研究者の特別な入国が申請され,地震研究所と国内共同研究機関の東北大学・京都大学から観測人員の入国が許可された.2021年9月から10月にかけて行われた航海で,設置していた10台前代の回収に成功し,良好なデータが得られていることを確認した.この観測期間中の2021年5月には,観測網内の固着強度遷移域でSSEが発生しており,これを捉えることに成功した.本海域でも海域での微動活動が確認され,SSE発生前の2月から,観測網北部から固着強度遷移域に向かう微動のマイグレーションが確認され,また固着強度遷移域では明瞭なプレートの沈み込みに沿った活動境界が見られることが明らかとなった.SSEが発生した5月にも,固着強度遷移域に沿った狭い領域の中で再度微動活動の活発化がみられた.現在,詳細な解析を進めている.

 2021年10月に実施した航海にて,海底地震計9台を用いて2018-19年と同様の観測網を構築して,1年間の観測を開始し,2022年9月に全台の回収に成功した.現在,その観測データを解析中である.またここで回収した海底地震計9台に前年投入しなかった1台を加えた10台は再整備し,10月の航海で投入して前年と同様の観測網を構築した.2023年10月までの予定で観測中である.

 人工震源および海底地震計を用いた構造調査としては,2017年11月にはヒクランギ沈み込み帯全域にわたる海域下地震波速度構造を調べるため,北島全長に渡るヒクランギ・トラフに沿った測線,それに平行なトラフ軸海側の測線,さらにはヒクランギ・トラフに直交する北島北部,南部の2測線において,エアガン発震を行った.ヒクランギ・トラフ北部の海山が沈み込んでいる海域の周辺で海底地震計100台を用いた3次元構造調査を実施し,現在,本調査について解析を進めているところである.特に地震波走時トモグラフィー解析では,地震波速度異方性を含めた解析を行なっており,海山の沈み込みに伴う構造の詳細について調査を行なっている.また,陸域には,タウポ背弧リフト帯の地震波速度構造,反射面分布を高分解能で得るために,ニュージーランドの GNS Science, ビクトリア大学ウェリントン校,アメリカのテュレーン大学と共同で,Plenty湾岸に臨時地震観測点を約2㎞間隔で25台設置し,エアガン発震及び自然地震の観測を実施した.取得したエアガン発震記録からは,初動到達後に,深部地殻からの反射波と考えられるイベントが確認できる.そこで,NMO補正を適応し,CMP時間断面図を作成したところ,往復走時7秒付近(深さ約20㎞相当)に顕著な反射面が確認でき,さらに深部にも反射イベントが確認できた.Plenty湾内で実施された構造探査で得られた結果(Gase et al., 2019)と比較すると,これらはモホ面やマントル内の反射イベントと考えられ,さらに詳細なイメージングを得るための解析を進めている.

 ヒクランギ沈み込み帯では,その北部の浅いプレート境界において2年という短い周期でSSEが発生している.このような高頻度でSSEが発生している場所は世界的にも類を見ず,プレート境界も浅いために境界面上の現象を捉えるにも恰好の場所である.東京大学地震研究所では,これまで,低周波微動やSSEが発生している南海トラフ豊後水道周辺の陸域で,ネットワークMT観測を実施してきた.同様の観測をヒクランギ沈み込み帯においても実現すべく,2019年にGNS Scienceならびに現地の電話会社Chorusと共同して,観測に必要なメタル通信回線網の現状を調査した.2019年12月より,Gisborneの北にあたるTolaga Bay地域において,4電極点と2磁場観測点からなる試験的なネットワークMT観測を開始した.2020年3月~7月にかけてのデータの解析から,特に数100秒以上の長周期帯で従来のMT法に比べて安定したMT応答関数が推定できることが明らかとなった.2023年1月まで観測を継続しており,現在取得されたデータの解析にあたっている.

3.5.5 地殻変動

 巨大地震後に測地学的に観測される余効変動は,地震時の応力変化が緩和されるによって生じる現象であり,主要なメカニズムとしてプレート境界における余効すべりと下部地殻・上部マントルにおける粘弾性応力緩和が挙げられる.従って,余効変動の時空間パターンは地震時の応力変化,プレート境界の摩擦特性,地殻・マントルのレオロジー特性に依存する.このことから,観測される余効変動からプレート境界の摩擦特性や地殻・マントルのレオロジー特性を推定できる可能性があるが,余効すべりと粘弾性緩和の間のトレードオフのために,客観的な推定は現状では困難である.そこで,余効すべりと粘弾性緩和を組み合わせた物理モデルを用いて,余効変動からプレート境界の摩擦特性や地殻・マントルのレオロジー特性を推定する手法の開発を行っている.モデルでは,余効すべりは摩擦構成則,粘弾性緩和は非線形のBurgers rheologyに従い,これらのプロセスが地震時の応力変化により駆動され,力学的に相互作用すると仮定した.このモデルを地震時と地震後の測地データと組み合わせて,地震時の応力変化,プレート境界の摩擦構成則パラメータ,マントルの粘弾性レオロジーのパラメータの空間変化とそれらの不確実性を推定する手法を開発した.この手法の性能を評価するために,モデルを用いて作成した人工的なGNSS時系列データを用いてパラメータ推定の数値実験を行った.その結果,開発した手法によるパラメータ推定結果は真のパラメータ空間分布を良く再現できることが示された.また,地震時の応力変化が大きい場所でパラメータ推定の不確実性が小さいという妥当な結果が得られた.