「部門・センターの研究活動」カテゴリーアーカイブ
3.4.1 被害地震の震源過程と強震動の生成過程
(1)三次元グリーン関数を用いた震源過程解析
震源過程解析の精度にはいろいろ要因が影響しているが,中でもグリーン関数の精度が大きな影響を与える.グリーン関数は地下構造モデル内の単位震源に対して理論的に計算されるので,地下構造モデルは通常用いられる一次元構造モデル(水平成層構造モデル)より現実に近い三次元構造モデルを用いる方がグリーン関数の精度を大きく高める.こうした三次元グリーン関数の計算手法の研究を進めるとともに,1923年関東地震,1952年と2003年の十勝沖地震,1995年兵庫県南部地震などに対して,三次元グリーン関数を用いた震源過程解析を行った.
(2)国内外の被害地震の震源モデル
強震動(災害につながる強い揺れ)の研究とは,地震の震源の破壊過程・地震波が地球を伝わる現象(波動伝播)・地面が揺れる現象(地震動)といった一連の現象を理解することである.強震動をともなう地震は,他の自然災害に比べて稀にしか起こらないため,起こった地震の詳細な震源モデルを着実に蓄積することに格別の重要性がある.これらの震源モデル群からは海溝型地震のスケーリング則などが見出された.また,2018年北海道胆振東部地震をはじめとする被害地震の震源過程を検討した.
(3)ネパールヒマラヤ巨大地震とその災害軽減の総合研究
プレート衝突帯に位置することにより巨大地震の発生と山岳地形の形成という危険にさらされているネパールにおいて,ヒマラヤ前面における地震発生シナリオの作成,カトマンズ盆地の地下構造モデル構築や表層地質の影響評価などを行い,その巨大地震によるカトマンズ盆地のハザードを2016年度から約5年間,総合的に研究した.地震観測システムや,地震学の高等教育,耐震政策への提言などを検討し,それらを通した研究成果の社会実装を目的とした.
3.3.5 地球化学分野
「地球化学グループ」は,火山の諸現象,地球や惑星を構成する物質の進化,地球内での物質循環などを探求する研究を,微量元素,同位体などのトレーサーを用いた地球化学的手法で行っている.
沈み込み火山のマグマの生成には,沈み込むスラブからの流体が関与していることが知られている.流体の関与の指標として,ホウ素(B)の濃度や,ホウ素と他の微量元素との比(例えばB/Nb)が有効であることが知られている.ホウ素は化学的な取り扱いが難しく,また分析中に環境からの汚染を受けるため,今世紀にはいってから,化学処理が不要な即発ガンマ線分析により定量が行われてきた.しかし,2011年の原発事故以降,実験用の原子炉の利用が難しくなり,国内での研究は止まっている.そこで所内の既存の実験設備をホウ素分析に適した環境に改善し,ホウ素を湿式分析により定量分析を行えるようにした.クリーンルームの空気導入フィルターを低ホウ素の素材に切り替えるなどでブランクの低減を図り,同位体希釈分析による定量法を確立した.ホウ素の信頼できる定量値が報告されている標準岩石試料を用いて,分析の正確さ,精度や,どの程度の低濃度の試料が分析可能かについて検討した.その結果,比較的ホウ素濃度の高いJB2から,ホウ素濃度が1ppm以下のBIR2にいたるまで,これまでの報告値と,よく一致する定量結果が得られた.この成果は論文発表され,一般共同利用研究などで島弧マグマの研究に適用されている.その他に,九州の諸火山の放射非平衡測定を行い,阿蘇山では融解した地殻物質の同化が放射非平衡を生み出している可能性を見出した.
また,火山岩や隕石中に含まれる希ガス同位体組成を調べ,それをもとに火成活動の時空分布,惑星内部からの脱ガスや大気形成過程,惑星の形成・進化史の解明を目的とした研究も行っている.希ガスは不活性なため物理的プロセスを探求するのに有用なトレーサーであり,4He ,40Ar ,129Xe など年代測定に応用できる放射起源同位体を有する.特に分化隕石(火成活動を伴う小惑星・惑星・月からもたらされた隕石)の希ガス同位体組成や月惑星探査データをもとに、太陽系初期の形成・進化や起源物質に関する新たな知見の取得,分化の熱源や熱史の解明,地球型惑星の大気進化モデル構築,などを行っている.また、火星着陸探査機への搭載を念頭に新手法である「分離膜を用いるNe同位体分析法」の開発を進めている.火星衛星探査計画(MMX)(JAXA主導の火星衛星サンプルリターン計画) における試料採集・揮発性元素分析のための機器や測定手法の検討,はやぶさ2回収試料(小惑星Ryuguからの試料)の初期分析・揮発性元素分析の共同研究,に参加している.
3.3.4 高温高圧実験装置を用いた地球内部の物質科学的研究
川井型マルチアンビル高温高圧発生装置やダイヤモンドアンビル高温高圧発生装置等を用いて,地球の進化や地球内部の物理化学的状態を明らかにするための研究を行っている.地球内部に水が多く存在する場合,温度圧力条件によってはマグマとともに水を主体とする流体とが共存しうる.高温高圧下ではマグマの中に大量の水が溶解し,同時に水を主体とする流体中にも大量のマグマ成分が溶解する.そして,ある臨界条件以上の高温高圧下では水を主体とする流体と含水マグマとは完全に混和して,1つの超臨界流体マグマとなる.我々は国内外の研究者と共同で,現在までにマントルや沈み込むプレート中に水がある場合のこの臨界温度圧力条件を実験的に決定し(図3.3.2),さらにはこの臨界条件近傍で共存する含水マグマと水を主体とする流体の両方の主成分元素化学組成を決めることに成功している.これらの結果から,これまで別々の条件で生成したと考えられてきた2種類のマグマが,実は同じ温度圧力下で同時に生成した可能性があることが明らかになりつつある.これらの研究に加え,高温高圧下での鉱物やマグマの弾性波速度測定実験や,電気伝導度測定実験なども行っている.