部門・センターの研究活動」カテゴリーアーカイブ

3.3.3 浅部マグマ活動に関する研究

浅部マグマ活動に関する研究では,マグマ活動の実体を明らかにすることを目標に,化学組成,含水量測定や組織観察を中心とした火山噴出物の解析を行なっている.マグマ中の含水量は火山噴火のポテンシャルとして重要であり,噴火に到る準備過程を理解する上でマグマ中の含水量変化を明らかにする意義は大きい.また,含水量を適切に評価することによって,斑晶鉱物やマグマの液組成を用いた熱力学的温度圧力計の精度向上も期待できる.斑晶の組成累帯構造や石基組織の観察からは,噴火に伴うマグマの運動についての情報が得られる.これらの情報を総合して,火山噴火の前駆現象の解明に取り組んでいる.

2022年度は火山噴火予知研究センター,山梨県富士山科学研究所,常葉大学,静岡大学,熊本大学等との共同研究を実施し,西之島,諏訪之瀬島,伊豆大島,富士山,雲仙,阿蘇山,霧島、桜島など,いくつかの活動的火山について,噴火前のマグマの状態を検討した.加えて,受託研究「次世代火山研究推進プロジェクト」の一環として,火山噴出物の分析・解析プラットホームの構築を進めている.これは,膨大な量の火山噴出物を高精度かつ高効率に解析可能にするとともに,火山噴出物解析の自動化と分析結果のデータベース化によって火山噴火の推移予測に資することを狙っており、分析結果をもとにして、マグマ供給系の時代変化についての検討や様々な火山のマグマ供給系の類型化を行なっている.

例えば、富士山では、およそ2900年前の御殿場岩屑なだれの発生を境にして小規模で爆発的な噴火が続く時期がしばらく継続した。火山噴出物の斑晶とメルト包有物の解析から、マグマの上昇中に斑晶の結晶化がおきており、さらに全岩化学組成や石基メルトとの比較検討から、この期間の噴火は深部マグマから直接地表に噴出していることが明らかになった。この時期の深部マグマは温度が高く含水量が低いため、周辺岩石との密度差によって自発的に噴火に到る可能性は低く、マグマの上昇はより深部からのマグマ注入によって生じた過剰圧力を解消するために起きていた可能性が高い。これらの観察に基づき、マグマ供給系モデルと結びつけた噴出量階段ダイアグラムの定量的解釈を行なっている。

3.3.2 融点近傍における多結晶体の非弾性の研究

地球内部の3次元地震波速度構造から地球内部の温度分布や流体分布を定量的に推定するためには,岩石の非弾性特性の解明が不可欠であるが,実験データが少なく未知の部分が多い.我々は,有機物多結晶体を岩石アナログ物質として用い,試料のヤング率Eと減衰Q-1を6桁の広周波数帯域(100-0.1 mHz) で精密に測定できる独自の非弾性測定装置を開発した(図3.3.1).この装置を用いて,多結晶体の弾性・非弾性・粘性を,融点直下から融点を超えて部分溶融に至るまでの温度範囲(T/Tm=0.89~1.01)でほぼ連続的に測定を行った.その結果,部分溶融が多結晶体の物性に与える影響は,これまで知られてきたような,メルトが生じたことによる直接的な影響に加えて,溶ける直前にも大きな変化が生じていることがわかった.つまり,ソリダス直下(T/Tm > 0.94)の固体状態において,多結晶体の減衰が顕著に増大し,また,粘性の活性化エネルギーも顕著に増大することがわかった.しかも,融点で0.4%程度の微少なメルトしか生成しない試料でもこの固体状態での変化は大きく,メルトによる直接的な影響を遥かに凌ぐ.上部マントルに存在し得るメルト量は,地球化学的制約条件から1%未満であると予想されているが,部分溶融の影響に対する従来の理解では,上部マントルで観測される地震波低速度域を微少量のメルトで定量的に説明することは困難であった.本研究の成果は,地球化学と地震学の結果を整合的に説明することを可能にするものとして重要である.実際,海洋リソスフェアの地震波速度及び温度構造から得られた横波速度の温度依存性は,カンラン岩のソリダス直下で急激な速度低下を示す(Priestley and McKenzie, 2013).本実験データから得られた非弾性モデルは,この速度低下をほぼ定量的に説明することに成功した.融点直下における物性変化の詳しいメカニズムはまだ解明できていないが,粒界構造の無秩序化(プリメルティング)によるものと推測している.

3.3.1 多結晶体特性からみた地球内部ダイナミックスの素過程

岩石のほとんどは多相固相系であり、第1相鉱物の粒界に孤立して存在している第2相がオストワルド成長し、それに応じて第1相粒子も粒成長する。その時、粗大化する第2相と第1相の重なりを解消するように、第1相粒子の変形(クリープ)が必要と考えられ、多相固相系のクリープと粒成長は同じメカニズムで進むと予想される。本研究では、フォルステライト(Mg2SiO4)+ペリクレース(MgO)多結晶体のクリープ実験と粒成長実験を行い、クリープと粒成長を支配する拡散メカニズムを明らかにした(Okamoto & Hiraga, 2022 JGR)。最も遅い拡散種であるケイ素は、この多結晶体では第1相であるフォルステライトにのみ含まれており、先程の仮説を検証するために適した試料だと考えられる。このフォルステライト+ペリクレース多結晶体に対して、大気圧・高温(1150〜1400℃)下での一軸圧縮方向のクリープ実験を行った。また、1300℃から1450℃の異なる温度で500時間の粒成長実験も行った。実験後の試料の微細構造を走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、クリープ速度と粒成長速度の両方から推定される拡散係数は実質同じであることがわかった。この結果は、フォルステライト+ペリクレース多結晶体のクリープと粒成長が、共通の拡散メカニズムに制御されていることを示す。多くの岩石において、最も遅い拡散種が第一相(例えば、Si)に含まれることから、クリープと粒成長の速度が共通の拡散係数で決まるとことが予想される。粒成長を伴う拡散クリープ中の多結晶体の粘性率はその共通な拡散係数と時間で記述することでき、粒径‐時間粘度計が提案された。

上部マントル主要鉱物であるオリビンの結晶軸が、岩石中である方向に配向することが知られ、上部マントル内の地震波速度異方性の成因と考えられている。せん断面およびせん断方向に対して結晶軸が並ぶパターンに様々なものがあることが知られている。Miyazaki et al. (2013 Nature) において、拡散クリープ下で結晶軸選択配向が生じること、Maruyama & Hiraga (2017ab JGR)で、その配向が粒界すべりによって生じることを明らかにした。本研究では、様々な結晶軸選択配向のパターンが拡散クリープで生じるかを実験的に調べた(Kim et al., 2022 JGR)。Miyazaki et al. (2013) およびMaruyama & Hiraga (2017ab)で用いた同一試料であるオリビン+20vol%ダイオプサイド多結晶体に対して、異なる温度、変形時間条件での純粋せん断変形実験を行った。オリビンのb軸がせん断面の法線方向に集中するタイプ、その集中に加えてa軸がせん断方向に並ぶタイプ、配向しない(ランダム)タイプが見いだされた。そのタイプが、オリビン粒子形で決定されていること、粒子形は粒子成長と共に変化することが分った。これまで、オリビンの配向およびそのパターンは、転位クリープ下での水の有無、応力の大小、温度の違い等によって変化すると考えられてきたが、我々は、粒成長によって粒界すべりし易い方向が変化し、それに応じて結晶軸選択配向パターンが変化するという新しいメカニズムを提案する。

 

4.2.2 国際室の運営と業務

国際室は教授6名,准教授3名,オブザーバー(所長,事務長,副事務長,人事及び研究協力担当)及び業務スタッフ(特任専門職員2名,技術補佐員1名)で構成され,ほぼ毎月定例の国際室会議を開催して運営にあたっている.共同利用担当など事務部を支援して,海外からの研究者招聘(長期・短期)業務に加え,地震研に滞在する研究者・留学生の招聘に関する手続き支援,学術協定締結・更新業務,協定に基づく共同研究や全学主催の行事への派遣,ワークショップ・サマースクール開催に関する業務を行っている.育成室・広報アウトリーチ室と協力し,国際学会でのブース展示をここ数年実施している.

(1)招聘事業

外国人研究員の招聘事業は, 3ヶ月以上の長期招聘(特任教授・准教授などの教員級と若手のPD級)と3ヶ月未満の短期招聘との2種類で構成されている.長期招聘研究員については,地震研ホームページで公募し,パンフレットを作成して国際学会で配布したりなど広く呼びかけており,平成31年度42名,令和2年度34名,令和3年度33名, 令和4年度24名,令和5年度20名の応募があった.短期招聘については,地震研の教員による推薦として所内公募を行っている.これらの応募者について,国際室メンバーで選考会議を開催,候補者を決定し,教授会・共同利用委員会へ推薦している. 令和4年度の外国人研究員のリストを[表4.2.1](長期招聘者), [ 4.2.2] (短期招聘者)に示す.

また招聘研究者への待遇・環境改善に取り組んだ.ロッジの使用料が値上げされたことと, 物価上昇等のため,手当(雇用)や宿泊費(短期招聘)の支給額の見直しを継続した.また居室の環境改善に取り組んだ.

(2)国際共同研究・教育の推進

2019年度まで実施していた中国科学院大学のサマースクールへの講師派遣は行われなかった.令和4年度の国際室招聘研究者の集いを,2022年6月13日(アメリカ,中国,パキスタン各1名,フランス2名,インド3名,計8名)と2022年12月23日(アメリカ,インド,インドネシア,スペイン,フランス,香港各1名,中国,チリ各2名,計9名)の2回,ハイブリット形式で開催し, 各自の研究内容を含めた紹介等を行った他,2022年7月23日には,神戸大学の山本由弦教授を講師として三浦半島への巡検を実施し,招聘者7名とその家族・職員・学生等,計26名が参加した.今年度で8回目となるJSTさくらサイエンスプログラムによるサポートを受けて,8月27日-9月16日の間,スラバヤ工科大学,バンドン工科大学各2名(インドネシア),インド工科大学(インド),マレーシア・サバ大学(マレーシア), 国立台湾大学(台湾),延世大学校(韓国)各1名の計8名の大学生・院生を約3週間招聘し,滞在中,学生たちは受入教員の指導のもとそれぞれの研究に従事した.中国科学院の参加者1名は,来日がかなわず,オンラインにて参加した.また草津・白根・浅間への巡検(9月11-12日),ポスター発表(9月15日)を行った.参加学生からのアンケート結果は,おおむね好意的であった.協定を締結しているフランスの国立地球物理研究所(IPGP)と9月27日から同月29日まで地震研究所にて研究集会を共同開催し,先方より教員,研究員・学生・技術職員計14名が参加し, 研究活動に関しての発表と研究活動に関しての発表と, 活発な意見交換が行われた.

(3)国際アウトリーチ活動

多くの学会がオンライン開催となったため,展示もオンラインでの参加が中心となった.JpGUでの展示は,広報アウトリーチ室と協力して実施し,国際室招聘プログラムの紹介活動を行った.AGUでは国際室長1名で参加, ブース出展し,パンフレットの配布と訪問者の質問の対応などを行った.ブースへの来訪者は多く,数名のOB・OGの訪問もあり,盛況であった.

3.1.3 大気・海洋現象が引き起こす固体地球の弾性振動現象

大量の地震計・気圧計・水圧計などのデータを丹念に解析し,ノイズと思われていた記録の中から新たな振動現象を探り当て,その謎の解明を目指している.その際,大気-海洋-固体地球の大きな枠組みで現象を捉える事が重要である.

(3-1) 脈動実体波に関する研究

 2014 年 12 月 9 日爆弾低気圧が大西洋で発生しイギリスやアイルランドに被害をもたらした. その際に海洋波浪により発生した P 波は地球深部を伝播し日本にまで到達した.観測された P 波の振幅は 0.1μm と一見小さいが,同じ地域で起こったマグニチュード 6 の地震にも匹敵す る.このような海洋波浪起源の地震波は,近年地球内部構造を調べる上で注目されている.そこで,嵐による海洋波浪が励起する脈動 S 波を初めて検出し,観測データから嵐がどのように地震波(P 波・S 波などの実体波)を励起しているかを明らかにした. 大西洋で発生した爆弾低気圧時の日本の地震計記録を解析し,爆弾低気圧によって励起され た周期 5-10 秒の P 波・S 波を検出し,震源位置と強さを推定した.低気圧の移動にともない 震源は海底の等深線に沿って移動している事が分かった.

 同様の脈動実体波を全球的に検出するため,新たにauto-focusing法をを開発した.この手法では,波面曲率とスローネスの情報を用いるため,震源の重心位置と外力を精度良く推定することが可能となった.この方法を2004年から2020年までの日本国内の約780のHi-net観測点の地震記録の鉛直成分に適用した.また海洋波浪数値モデルに基づく合成CSFカタログとの比較し,地震波のS/N比が検出を制約するものの,時間的・空間的パターンは概ね一致している事が分かった.例外的に、海洋波浪モデルはカーペンタリア湾の重要な活動を説明できないことも明らかにした.

 本研究は,遠く離れた嵐によって励起された地震波を使って嵐直下の地球内部構造が推定で きる可能性を示している.地震,観測点ともに存在しない海洋直下の構造を推定できる可能性 を意味し,地球内部構造に対して大きな知見を与える可能性がある.

(3-2)海洋島の地震計記録から海洋外部重力波活動を推定する

 海洋島に設置された広帯域地震計のノイズレベルを解析してみると,しばしば周期100秒から数100程度のブロードなピークが観測される.原因として海洋外部重力波起源だと考えられているが,定性的な議論が中心となっている.最近,津波(物理的には海洋外部重力波と同一の減少)の伝搬にともなう海洋島の弾性変形(Nishida et al.,2019)の定量的な評価できろことがわかってきた.しかし津波は物理的には外部重力波であるが,平面波を仮定していたため,そのままではその活動の見積もりに使うことは出来ない.そこで,津波に対して開発した手法をランダムに励起された海洋重力波に対して拡張し,海洋外部重力波の定量的な議論の可能性を示した.

3.12.8 インターン学生の受け入れ・国際共同研究

日向灘沖のスロー地震発生と海山列沈み込みの関係を理解するため,IODP(国際深海科学掘削計画)に提出した掘削提案の審査が終了した.実現にむけて、構造探査から熱流量を推定する作業などを行った。室戸沖の南海トラフ温度構造解析のため,5月に国際室短期招聘研究員が来日した.また紀伊半島沖の掘削コア試料の物性計測を、フランスの研究所に委託した。

IODP・ICDP(国際陸上科学掘削計画)の日本代表機関(JDESC)の理事として,外務を担当し,科学掘削研究継続のため、ヨーロッパとの連携について協議を進めた.理学部主催のUTRIPオンラインにホストとして参加し,2名の学生(オーストラリア、イギリス)と1か月にわたって,地震波速度構造から間隙率を推定する実習を行った.

3.12.7 古い地震・津波の研究

(1) 古い地震記録に基づく地震・津波の研究

地震研究所や気象庁などに保存されている古い地震記録を用いて過去に発生した大地震の研究を行っている.東北地方太平洋沖や日本海東縁部で20世紀に発生した大地震について地震・津波波形記録を用いて断層パラメータの検証を行った.データベース公開に向け,1921年龍ヶ崎,1922年浦賀水道,1923年鹿島灘,1923年関東(余震),1924年茨城県沖の地震の煤書き記録の高解像度のデジタル画像化を行い,1923年関東地震(本震)の遠地記録の数値化を開始した.

(2) 史料に基づく古地震・津波の研究

2017年度から地震研究所と史料編纂所の部局間連携機構として「地震火山史料連携研究機構」が設置された.この機構では,地震研究所で刊行されてきた『新収日本地震史料』等の史料集を電子化した上で,原本もしくは翻刻した刊本を参照して点検する校訂作業を行っているほか,各地の日記などに書かれた被害を伴わない地震も含めた「日記史料有感地震データベース」を作成している.

ロシアのフリゲート艦ディアナ号の航海日誌に基づき,安政東海地震の発震時が1854年12月23日午前9時45分(から10時までの間)であったことを解明した.

(3) 地質痕跡に基づく古地震・津波の研究

琉球海溝沿いのサンゴのマイクロアトールの形状・年代から過去の水面変動を復元する研究を,パリ地球物理研究所や琉球大学などと共同で行っている. 2018年に石垣島・宮古島などで採取した現生のサンゴ試料について解析結果を出版し,化石サンゴについても分析を進めた.また,津波で移動した巨礫(津波石)の放射年代や残留磁気を測定し,津波の発生年代を推定した,

特定共同研究「地質記録と数値シミュレーションに基づく南海トラフ〜琉球海溝の長期間の津波発生履歴と巨大地震破壊域の解明」では,九州地方東部沿岸の3地域において津波堆積物の掘削調査を実施し,またその分布を説明するための津波の数値計算も行った.

3.12.6 巨大地震・津波の研究

津波データや測地データ,地震データを用いて,世界の巨大地震の断層運動の詳細や津波の発生過程について調査している. 2020,2021年アラスカ沖地震(Mw 7.8,8.2),2021年ケルマデック地震(Mw 8,1, 7.4)について,主に津波データから断層面上のすべり分布の推定を行った. 2022年1月にトンガ諸島で発生した火山噴火による津波について,日本周辺や太平洋の津波記録の解析をおこなった.1994年ミンドロ地震(フィリッピン)による津波は主に海底地すべりによるものであったこと,2015年須美寿カルデラで発生した地震(鳥島地震,Mw 5.7)は火山性の津波地震であり,トラップドア断層と呼ばれるメカニズムによるものであったことを明らかにした.

日本海東縁部で20世紀に発生した大地震について,日本海地震・津波プロジェクトで得られた断層モデルからの津波波形を観測波形と比較して,起震断層を推定した.また,断層パラメータの相似則やすべり角の不確定性が確定論的津波予測に及ぼす影響について調べた.