部門・センターの研究活動」カテゴリーアーカイブ

3.5.11 日向灘における国際深海科学掘削計画推進プロジェクト

 日向灘は,巨大地震の発生してきた強い固着域である南海トラフの西端に位置し,固着が弱いと考えられている琉球トラフへの遷移域である.日向灘・豊後水道における巨大地震の発生は確認されていないものの,南海トラフ地震の破壊領域の端に位置し,地震活動や固着メカニズムの解明及び防災計画立案に対し重要海域である.南海トラフと琉球トラフの境界に九州パラオ海嶺が存在し,そこを境として沈み込むプレートの凹凸や熱流量値が急激に変化している.また海山列の沈み込みが上部プレートの破砕や応力の局所的な増大をもたらし,日向灘・豊後水道における地震発生に大きく影響を及ぼしているであろう.これまでになされていない詳細な構造推定や原位置の岩石物性の把握を進め,定量的に地震分布・発生との関係を導く必要がある.

 このプロジェクトでは,海山が現在沈み込みつつあるトラフ付近に焦点を当てる.沈み込む海山の前方に微動・超低周波地震が分布しており,明瞭な関連性が見られる.しかしながら,海山の具体的な位置・形状,プレート境界断層の形状,上盤内部の構造は十部に得られたとはいいがたい.加えて,過去に掘削が実施されていないため物性が不明であり,定量的なモデル評価が困難である.地震波による地殻構造推定が不可欠であると同時に,掘削を通じたコア採取・原位置計測・室内実験,孔内観測が必須である.

 2020年4月に,国際深海科学掘削計画(International Ocean Discovery Program; IODP)に対して掘削予備提案を提出した.その後国際ワークショップ(2020年9月)等を経て,2022 年8 月に提案が受諾され,掘削実施に向けた準備に入った.地震学・地質学・地球化学など学際的な連携が不可欠であり,国内(海洋開発研究機構・京都大学・高知大学・神戸大学など)のみならず,アメリカ・カナダ・ニュージーランド・フランスなどを含めた国際性の高いプロジェクトである.日向灘~豊後水道域では,海底地震観測,GNSS 観測が継続的に実施されていることに加え,防災科学技術研究所による N-net の敷設が予定されており,関連研究と連携していく予定である.

3.5.10 海溝近傍での海洋プレート変形に伴う水・熱の流動過程の研究

日本海溝海側における太平洋プレートの屈曲変形に伴い,プレート上層部で水や物質・熱が活発に移動することを示す現象が,近年相次いで発見された.プレート内火成活動(プチスポット),広域的な高熱流量異常,地震波速度構造の異常等である.速度構造の異常は,屈曲変形で生じた亀裂に水が取り込まれたことを示唆しており,熱流量異常も,海洋地殻の破砕により流体循環が発達し,熱を運ぶことで生じたと考えられる.このような海溝海側での水と熱の流動は,沈み込むプレートの温度構造と水分布を変化させ,プレート境界の地震発生帯付近の環境条件に影響を及ぼすものである.また,海洋プレートに水が侵入し沈み込み帯に持ち込まれる過程は,物質循環やマグマの成因等,物質科学の観点からも注目されている.

これらの海溝海側で生じる過程に関して,科学研究費・基盤研究(A)「海溝近傍での海洋プレート変形に伴う水・熱の流動過程とその沈み込み帯への影響の解明」(2018~2021年度)を軸とした総合的な研究を進めた.この研究では,海洋プレート上層部における水の動きとそれによる熱輸送に焦点を絞り,複数の研究機関が共同することで,地球物理学的探査,物質科学的分析,室内実験,数値モデリングといった幅広い手法を用いた.

2022年には,三陸沖日本海溝及び北海道沖千島海溝の海側海域で観測調査航海を実施し,高密度の熱流量測定,堆積物コアと底層水の採取・分析,海底地形と表層堆積層構造の詳細な探査を行った.2018〜2020年に実施した航海の結果とも合わせて,日本海溝アウターライズでは海溝に平行する方向にも熱流量が大きく変動すること,千島海溝アウターライズでは日本海溝に比べて熱流量異常が顕著でないこと,日本海溝海側斜面に発達する正断層の近傍で間隙水中に深部由来のHe及び局所的な高熱流量が検出されること,等が明らかになった.これらは,いずれも海溝海側の海洋地殻内における水・熱の流動について重要な情報となるものであり,地震波速度構造や反射法地震探査・海底電磁気探査の結果,流体循環のモデル計算等と組み合わせて,海洋地殻の破砕とそれに伴う流体流動の過程の検討を進めている.

一方,多様な分野の研究者による議論や情報交換を推進する場として,地震研究所共同利用研究集会「海溝海側の過程に関する横断的研究:沈み込み帯インプットの実態解明を目指して」,及び日本地球惑星科学連合大会で同様な趣旨のセッションを開催した.また,日本海溝アウターライズにおける掘削調査について,プチスポット火山地域で浅層掘削を行い,火成活動がプレート境界地震発生帯に及ぼす影響を解明する提案を推進した.

図3.11.2

fig3_11_2

四国西部における深部超低周波地震累積個数の経年変化.G1は豊後水道域,G2は愛媛県西部,G3は愛媛県中部に対応する.黒い矢印は豊後水道の長期的SSEの発生時期を表し,赤い直線は2004年4月–2009年12月および2014年7月–2017年3月の回帰直線を示す.回帰直線の傾きを比較すると,G1とG2で2014年後半以降超低周波地震の活動が静穏化していることがわかる(Baba et al. 2018).

図3.11.1

fig_3_11_1_a

fig_3_11_1_b

fig_3_11_1_c

 

1997年7月11日から2017年12月31日までの鋸山観測所における歪, 傾斜, 気圧, 雨量のデータ.2011年の東北地方太平洋沖地震の影響によるデータ欠測期間を破線で示した.

上段:歪三成分 (NS, EW, NE,いずれも伸びが正)と大気圧.

中段:傾斜二成分 (NS:N-down正,EW:E-down正).

下段:24時間降水量.

 

東北地方太平洋沖地震後の関東領域におけるM4以上の地震数の推移(赤:予測,黒:観測).

東北地方太平洋沖地震後の関東領域におけるM4以上の地震数の推移(赤:予測,黒:観測).