部門・センターの研究活動」カテゴリーアーカイブ

2012年4月11日に発生したスマトラ地震によって誘発された深部低周波微動.色付きの大きな丸が今回検出された誘発微動で,白抜きの小さな丸は以前の研究で検出されている誘発微動である.各波形はそれぞれの地域における表面波トランスバース成分記録及び水平動成分の2-8 Hzのバンドパスフィルター記録で,時刻ゼロがスマトラ地震の発震時を示す.小さい黄色の丸印は2003年から2012年までの西南日本に発生した深部低周波微動,橙色の星印は浅部超低周波地震である.

2012年4月11日に発生したスマトラ地震によって誘発された深部低周波微動.色付きの大きな丸が今回検出された誘発微動で,白抜きの小さな丸は以前の研究で検出されている誘発微動である.各波形はそれぞれの地域における表面波トランスバース成分記録及び水平動成分の2-8 Hzのバンドパスフィルター記録で,時刻ゼロがスマトラ地震の発震時を示す.小さい黄色の丸印は2003年から2012年までの西南日本に発生した深部低周波微動,橙色の星印は浅部超低周波地震である.

3.10.5 拠点間連携共同研究

 「地震・火山科学の共同利用・共同研究拠点」である地震研究所は,「自然災害に関する総合防災学の共同利用・共同研究拠点」である京都大学防災研究所と,2014年度から地震・火山に関する理学的研究成果を災害軽減に役立てるための研究を推進するために,拠点間連携共同研究を実施している.両研究所の教員及び所外の教員からなる拠点間連携共同研究委員会を設置して,共同研究の基本方針を決定した上で,両研究所の拠点機能を活用し全国連携による共同研究を実施している.これまでに,震源から地震波伝播,地盤による地震動増幅,建物被害など,地震動被害に影響を及ぼす個別の要因を評価した上で,全体としての評価の精度を向上させることを目的として,南海トラフ巨大地震のリスク評価研究などを実施してきた.

沈み込み帯でのプレート間固着強度分布を把握するためには,海底地殻変動データに加え,通常の地震からスロー地震まで,プレート境界周辺での断層すべり運動の性質を理解することが重要である.南海トラフ沿い巨大地震断層域に当たる紀伊半島沖では,ケーブル式地震・津波観測監視システムDONETによって,海域下の多様な地震活動をリアルタイムで観測している.ここで観測される地震活動を詳細に把握するためには,特に速度の遅い堆積層を含む海底下S波速度構造を考慮に入れ,精度の高い震源分布を求める必要がある.これまでに,DONETの観測記録を用いたレシーバー関数解析によって,構造調査に匹敵する解像度でS波速度構造を推定できることを示している.

熊野灘より海溝軸近辺のスロー地震が比較的頻繁に発生する場所では,紀伊半島南東沖のDONET1と紀伊半島南西沖のDONET2の間に若干の観測網でカバーできていない領域が存在するため,海底地震計を用いた機動的観測を行うことによって海底下速度構造および震源決定の精度を向上させることができる.この目的のために,2019年6月に紀伊半島沖南海トラフ沿いに15台の海底地震計を設置して観測を開始した.2020年12月から2021年1月にかけて,この観測網周辺にて活発な微動活動も発生しており,プレート境界の空間的特徴を把握するためには通常の地震と微動との判別をする必要が生じた.これには機械学習の適用を念頭に手法の検討を進めており,海底地震計観測波形から代表的な地震は検出可能であることを確認した.さらに,微動と地震の検出判定に関して,その判別精度の確認を進めている.このDONET観測網でカバレッジの悪い領域で海底地震計を用いた機動観測は継続して実施しており,これまで取得された観測記録も利用して,南海トラフ軸近傍までの地震波速度構造の改良,および震源決定精度の向上を目指した研究を進めている.

 

Fig.6

図3.8.6 月面に衝突した一次宇宙線が生成する,上向き電子陽電子の,月面上空100kmにおけるエネルギースペクトル.太線・細線は,月面の組成をケイ素・氷とした場合である.密度は2g/ccとしてある.組成の違いによって,月面から上方に放射される二次宇宙線のスペクトルが変化することがわかる.

Fig.5

図3.8.5 (a)大室山の地形を用いた深さごとの再構成イメージ(64方向).(b)ある深さ,ある緯度における密度初期モデルと再構成された密度イメージの比較(Nagahara and Miyamoto, 2018 に加筆).

FIG4

図3.8.4 アップグレードしたリアルタイム透視画像表示システム.第2世代用透視画像表示システム(上)及び第3世代用透視画像システム(下).リニア,ログスケール表示を選択できる.

Fig.3

図3.8.3 跡津川のボアホールに設置した検出器(左),ボアホールを中心とした周囲の地形(中),深さ50mにおける方位ごとのミューオン到来数の比の測定値と,断層の影響を考慮しない場合のシミュレーションによる期待値の比較(右)

FIG2

図3.8.2 2017年1-7月と2018年1-6月の観測で得られた画像の比較.黒点線で囲んだ部分が有意に変化した部分,赤線は昭和火口と南岳中央火口の一部を示す.

3.6.5 霧島山

霧島山に関してはこれまでの本センターの研究により以下のような知見が得られている.

(1)噴火に関連する微動活動と地殻変動

 新燃岳における微弱な火山性微動の長期活動の解析を行った.2008年8月の水蒸気爆発以降の約8か月間微弱な微動がほぼ同じレベルで継続していたことと,2010年10月から2011年噴火に向けては,顕著に振幅の増加が進んだこと,2017年噴火の数か月以上前からも振幅の加速的増加が発生し,2018年噴火まで続いていることが明らかになっている.この微動の成長期は,深部マグマだまりの膨張を示す地殻変動も発生していること,その震源は新燃岳火口近傍の2 km以浅にあると考えられることから,噴火前の長期的なマグマ移動に伴う振動であると解釈される.また,2011年噴火の主噴火発生後の調和型微動については,非線形振動系を示唆する 特徴が抽出され,流体の流れが励起する振動であることが示されている.

(2)地殻変動観測とマグマ蓄積過程

 稠密なGPS観測網により,霧島新燃岳の2011年1月噴火に関与するマグマ溜りの位置や,噴火前の蓄積レート,噴火に伴う流出量,噴火後の再蓄積レートが詳細に求められている.また,2018年3月に発生した7年ぶりのマグマ噴火に先行する蓄積レートも求められている.このようにマグマ溜まりへのマグマ蓄積の時間変化を長期間にわたって精度よく捉えることで,マグマ蓄積と 噴火発生の関係が解明されつつある.

(3)火口近傍多項目観測による噴火過程の解明

 霧島山新燃岳の火口近傍で観測された広帯域地震計,傾斜計により,2011年噴火活動初期の準プリニー式噴火,マグマ湧出期,ブルカノ式噴火という異なる火山活動に伴う火道浅部に起因する傾斜変動を捉え,これらの火山活動に関連する火道浅部のプロセスに関する詳細な知見が得られている.また,2017年10月の再噴火発生から2018年のマグマ噴火までの噴火については,火口近傍の広帯域地震記録から抽出した傾斜成分の解析により,噴火に先行する膨張と噴火後の収縮の時定数が推定されている.

(4)微小地震活動

 火山性地震活動特性の把握のため,機会学習を利用した地震検出及び震源位置推定手法の開発を進めた.過去に様々な火山で観測された火山性地震の波形記録を教師データとした学習モデルを構築し,この手法を霧島山地震観測網の2008年以降の波形データに適用し高精度な震源カタログを得た.新燃岳や硫黄山浅部において微小な火山性地震が多数検出され,噴火に先行して火口浅部で地震活動の高まりや,b値の増加,低周波地震の増加が推定された.

(5)噴出物解析に基づく大規模噴火の推移の解明

 霧島山御鉢火山13世紀高原噴火で発生した苦鉄質マグマによる3回のサブプリニー式噴火の堆積物層序を再構築し,この噴火の噴出量を再検討した.また層序毎の火砕粒子の粒子物性(粒径分布,みかけ密度,連結空隙量,粒子形状指数など)と岩石組織(空隙構造,気泡サイズ分布など)の定量化を進め,これらのパラメータが層序毎に系統的に変化していることを明らかにした.これらのデータにより,高原噴火の推移と噴火強度の盛衰について,従来よりも詳細に議論することが可能となった.この研究により,粒子物性-岩石組織の統合解析が噴火プロセスの理解に有効であることもわかった.