部門・センターの研究活動」カテゴリーアーカイブ

3.6.4 富士山

富士山に関してはこれまでの本センターの研究により以下のような知見が得られている.

(1)地質・岩石学的データに基づく火山発達史

 深部掘削で得られた試料の岩石学的検討により,先小御岳火山,小御岳火山,富士火山はそれぞれ独自の化学組成上の特徴をもち,安山岩組成の小御岳から段階的に富士の玄武岩組成の火山へと変化してきたことが明らかになった.一方,古期後半のスコリア層のメルト包有物を主体とする解析から,富士山の浅部深さ4-6㎞付近には安山岩質の小マグマ溜りが存在し,深部の主玄武岩質マグマ 溜りから上昇したマグマとこの安山岩質マグマとが混合することによって富士山の噴出物が生じているとするモデルを提案した.さらに,新期のスコリア層の解析により,新期では安山岩質マグマ溜り内のマグマがやや分化し,よりSiO2に富む組成となっている可能性を指摘した.宝永の噴火で想定されているデイサイト質小マグマ溜りはこのような浅部マグマ溜り内のマグマがより分化し高いSiO2 量となったものと解釈される.この他,物質科学系研究部門が中心となって企画した富士山起源火山灰層のデータベース構築計画を同部門と連携して進めている.

(2)富士山深部の地震波速度構造の解析

 富士山においては,過去に発生した低周波地震の震源分布や岩石学的な考察から地下15-20km付近にマグマだまりがあると推定されていたが,地震学的手法であるレシーバ関数解析により,富士山周辺の数10kmまでの深さの地震波速度の不連続構造が明らかになった.その結果,富士山下40-60kmの深さに南北に沈み込む顕著な速度境界面があり,富士山直下でその境界面は不連続になっていること,また,富士山下で火山性の低周波地震が発生する地下10-20kmの領域の下およそ25kmの深さに顕著な速度境界面があることが示された.さらに,レシーバ関数と富士山周辺の表面波分散曲線を合わせて逆解析することで富士山直下の深さ約50km以浅のS波速度構造が明らかになり,富士山直下の深さ20kmから40kmの深さに大きなマグマ溜まりが存在する可能性が示されている.このような研究に加えて,富士山の各所にボアホール型を含む地震計,GNSS,傾斜計,歪計,全磁力計等を設置し,定常的な活動観測を行っている

(3)富士山の雪崩観測

 富士山のような標高の高い火山では,冠雪期に噴火が発生した場合,融雪による大規模な泥流が発生する可能性がある.この現象は甚大な被害をもたらすため,監視技術の開発が必要である.山梨県富士山科学研究所と協力し,冬季の富士山という厳しい環境の中で効率よく監視を行うため,空振計の配置や解析手法を検討した.観測期間中には,多数の空振イベントが検出され,その時期や波形,発生位置から,小規模雪崩であると結論付けた.また,同時期に展開された地震観測網のデータを合わせて解析することにより,雪崩の性質を推定することのできる可能性を示した.また,温度プローブを用いた鉛直温度分布を計測することにより,降雪や融雪の時間変化を把握することが出来た.これらの結果を踏まえて,空振・地震・温度プローブ観測網の設計を行い,3回目の冬季観測を実施している.

3.6.3 伊豆大島

伊豆大島に関してはこれまでの本センターの研究により以下のような知見が得られている.

(1)地震・地殻変動と広域応力場

フィリピン海プレート北縁にある伊豆大島では,フィリピン海プレートと日本列島のプレートが伊豆半島北縁で衝突していることにより,その周辺の広域応力場は,北西―南東方向に圧縮場,北東―南西方向に伸張場が卓越している.このように水平方向に伸張と圧縮の双方に大きな応力場が卓越する火山では,岩脈(ダイク)の貫入や側噴火(山腹噴火)がしばしば発生する.伊豆大島においても側噴火火口が圧縮軸方向に延び,山頂を中心に島内だけでなく,海底においても島の北西延長に火口丘がいくつかあり,それは静岡県伊東市沖まで続いている.前回の1986年の噴火では,大規模なダイク貫入により山腹割れ目噴火が発生し,一部の溶岩流が住居地域に近づいたため,全島民が避難する事態になった.伊豆大島のような火山島においては,カルデラ内にある山頂で噴火する場合と異なり,居住地近くで噴火を引き起こす山腹噴火の発生予測は火山防災上の大きな課題を抱えている.また,山頂噴火と山腹割れ目噴火の噴火様式の差は何が作るのかを解明することは火山学的にも極めて興味深い研究テーマであり,同様の地球物理学的環境にある三宅島,伊豆東部におけるダイク貫入現象も併せて研究を進めている.これまで,地震活動と地殻変動の同時解析から,これらの地域でのダイク貫入現象について多くの知見が得られている.

1986年11月の前回の噴火から既に30年以上が経過し,更にその前3回の中規模噴火から始まる一連の噴火活動の開始が1876年,1912年,1950年と36~38年間隔で規則的であったことから,次の噴火に近づいていると考えられる.伊豆大島と同様に,噴火間隔が比較的規則的で,山腹噴火も繰り返す三宅島との比較が重要であることから,2017年12月25日~26日に地震研究所共同利用研究集会「次の伊豆大島・三宅島の噴火について考える」を開催した.これを契機に,文部科学省委託研究「次世代火山研究推進事業」の中で三宅島でも機動観測を実施し,観測開発基盤センターと協力しながら,両火山を比較検討して研究を進めている.

(2)地震・地殻変動によるマグマ蓄積過程

伊豆大島では前回の一連の噴火活動(1986年11月~1990年10月頃)以降,1990年代半ばまで山体が収縮していたが,1990年代後半から山体膨張に転じ,その後は長期的には山体膨張が継続している.これは,火山の地下でマグマが蓄積していることを示している.2003年から地震観測網の高度化及びGPS観測網の構築を行い,地震活動及び地殻変動の時間変化が詳細に観測できるようにした.その結果,以下のような特徴が明らかになった.1)長期的にはマグマ蓄積が進み,山体膨張が進んでいるが,その中に1~3年間隔で収縮と膨張を繰り返している.2)マグマ蓄積の圧力源は,ほぼ同じ場所で膨張と収縮を繰り返していると推定され,伊豆大島カルデラ内北部地下約5kmの場所であると推定される.このような間欠的な山体膨張・収縮の原因,噴火へ至る過程の解明が課題である.地震活動と地盤変動の関連については,大変興味深い現象が見いだされており,それについては開発観測基盤センターの項で詳述する.

(3)伊豆大島における比抵抗構造と電磁気観測

伊豆大島では,比抵抗ならびに全磁力等の電磁気連続観測を実施している.比抵抗連続観測は人工電流源を用いたCSEM法に基づくもので,火口の南および北東に2つの電流送信局と,火口周辺に5点の測定点を設置している.その結果,浅部から深部に向かって,高比抵抗-低比抵抗-極低比抵抗のおおむね三層構造からなることがわかった.また,連続観測により,帯水層上面の昇降によるものと考えられる年周変動が確認された.また,島内9点における全磁力連続観測からはここ数年,火口近傍の帯磁傾向の鈍化がみられる.なお,この他にも直流法比抵抗測定,地磁気3成分,ならびに,長基線電場測定の連続観測も引き続きおこなっている.

(4)伊豆大島における大規模噴火の推移とマグマ供給システム

伊豆大島では,これまでおよそ100~150年おきに大規模な噴火(噴出量1億トン以上)が発生している.これら歴史時代の代表的な大規模噴火について,地質学的,物質科学的研究を進めている.最新の安永噴火については,新たな層区分を提案するとともに,層序毎の岩石鉱物化学組成・組織の特徴を明らかにした.その結果,しだいに斜長石斑晶に富むマグマが噴出したことや,それに対応した噴火強度やマグマ噴出率(噴煙高度)の変化など,マグマの特徴と噴火推移の詳細が明らかになってきた.他の噴火についても同様の解析を進め,伊豆大島の大規模噴火の特徴や共通性,それらの原因を明らかにする研究を進めている.

インドのChandigarh市で建物センサーを用いて地震動観測を実施している建物の位置図

インドのChandigarh市で建物センサーを用いて地震動観測を実施している建物の位置図

安政江戸地震の被害と余震を記録した史料『萬歳楽 安政見聞誌 上』(東大地震研所蔵)

安政江戸地震の被害と余震を記録した史料『萬歳楽 安政見聞誌 上』(東大地震研所蔵)

2014年チリイキケ沖で発生したMw8.2の地震の遠地実体波インバージョンと津波・GPSジョイントインバージョンから得られた震源時間関数とすべり分布の比較.

2014年チリイキケ沖で発生したMw8.2の地震の遠地実体波インバージョンと津波・GPSジョイントインバージョンから得られた震源時間関数とすべり分布の比較.

3.7.2 フロンティア解析による地球の内部構造と内部過程の解明

グローバルトモグラフィーによる浅部構造の解像を実現するため,表面波エンベロープ形状の直接フィッティングを用いた構造解析手法開発研究をまとめ,成果を国際学術雑誌に発表した.急激な群速度変化が起こる周波数帯域や,複数のブランチが干渉しあう帯域の活用が可能になり,地殻のP波速度,S波速度,厚さを独立に解像するなど,浅部構造を高解像度で推定することに成功した.こうして得られた構造モデルを初期モデルとし,比較的長周期の表面波観測波形を波形インバージョンにより解析することにより,地殻からアセノスフェアにわたって深さ方向に連続的なモデルを推定できることを確認した.
本手法を用い,西太平洋域の詳細なトモグラフィーを実施するため,既存の広帯域海底地震波形データから,みかけ群速度を計測した.アウターライズ近傍をサンプルする短周期表面波に顕著な低群速度異常が検出され,その信頼性と成因を現在検討している.

北西太平洋に展開された広帯域海底地震計のデータから北西太平洋下のP波速度異方性を推定し,この領域の選択配向様式を制約する研究をまとめ,成果を国際学術雑誌に投稿した.P波速度の詳細な方位依存性が,選択配向様式の有力な情報源であることが示された.北西太平洋などの古い太平洋域では,テクトニックな擾乱により生ずる再結晶過程が,複雑で強い異方性の原因になっていることを示唆した.

海底地震計アレイで取得された地震波形から,海底堆積層の詳細な構造を解析する手法を開発した.海底堆積層は,海底地震波形を複雑にするため,海洋マントル構造などの深部構造の検出を阻んできた.本手法を活用することにより,深部構造の高精度推定が期待できる.

2012~2013年にかけてドイツGEOMARの研究グループと共同で実施した南大西洋トリスタン・ダ・クーニャホットスポット下のマントル電気伝導度構造について,Usui et al. (2015; 2018)に基づく先進的3次元インバージョン解析手法を用いた再解析に着手した.先行研究(Baba et al., 2017)で用いられたマグネトテルリック応答関数に,新たに鉛直・水平磁場応答関数を入力データとして加えることで,トリスタン・ダ・クーニャホットスポットに関連したマントルのダイナミクスをより強く制約することを目指す.

3次元電気伝導度構造に対する電磁気応答関数順計算の不確定性について,定量的な評価方法を開発した.

長基線電位差と地磁気データの解析に基づいた,局所的な地磁気ジャークの原因となる外核表層付近の磁場とマントル最下部電気伝導度異常に関する研究を継続した.これまでに調査を行った,2003年および2007年に発生した大西洋域の地磁気ジャークに加え,2014年以降に見られる西太平洋域の地磁気変化の特徴と長基線電位差変化を説明可能なモデルを構築中である.

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図3-7-5 「かいこう7000II」によって撮影されたNM16に設置したEFOS.2014年9月17日,記録計の入った耐圧容器が回収された.