「部門・センターの研究活動」カテゴリーアーカイブ
3.4.4 鉄筋コンクリート構造物の耐震性能評価
近年,建物の設計においては,建物を詳細にモデル化し,その非線形挙動を解析的に追跡してその性能を評価することが主流となっている。建物の非線形特性においては,非線形化による減衰効果の評価が極めて重要であり,その主要なパラメータは降伏時変形である。一方,降伏時変形の推定式は40年以上前に実験結果の統計処理により求められた経験式を現在も用いているのが現状である。そこで,過去30年の国内で発表された鉄筋コンクリート部材の実験結果に関する論文を収集し,そこに示されている荷重―変形関係をデジタル化することにより,降伏時変形に関するデータベースを構築した。更に,部材の変形を①曲げ変形,②せん断変形,③鉄筋の抜け出し変形,に分けて理論的に降伏時変形を推定する方法を考案し,実験データベースを用いて検証している。また,高強度の鉄筋を用いた鉄筋コンクリート梁の実験を行い,高強度鉄筋コンクリート梁の非線形挙動に関する実験データを蓄積するとともに,降伏時変形の評価方法を検証している。
3.4.3 長周期地震動の即時予測
大地震による長周期地震動の即時予測の実現に向け,震源近傍の地震観測データから、遠地の平野の長周期地震動の波形を機械学習(Temporal Convolutional Network , TCN)により即時に予測するシステムを開発した。長周期地震動のレベルのみならず、波形そのものを予測することで、長周期地震動の大振幅かつ長い継続時間による構造物の影響と被害の予測が可能となる。まず、2011年東北地方太平洋沖地震の発生前に日本海溝で発生した大地震における、福島地点の強震観測波形と横浜地点の地震波形の関係を学習し、次に、学習済みTCNモデルを用いて東北地方太平洋沖地震の本震と、その後に発生した大地震における横浜地点の地震波形を予測した。予測結果を、応答スペクトル、地震動継続時間、波形エンベロープの相関係数から評価し、プレート間地震、アウターライズの地震、内陸地震など多様な場所とメカニズムを持つ大地震に対する予測性能を確認した。学習はGPUを用いて数分で完了し、学習済みのTCNモデルを用いた予測はCPU計算で瞬時に実行可能である。地震発生からの時間経過と震源近傍での観測波形の取得状況に合わせて予測更新を短時間で繰り返し行うことで、予測精度と猶予時間のトレードオフに対処できる。今後は、多次元 TCNを用いた多観測点入力による予測や、高層建物の各階の応答関数をTCNにより学習して多段階の予測を行うことで、地面の揺れのみならず、建物の各階の揺れの予測へと拡張する予定である。
3.4.2 強震動予測手法の国際展開
地震災害軽減のための強震動予測では,頻発する被害地震の強震記録に基づき,地震学,特に震源物理に裏打ちされた最先端の手法開発を目指すと共に,地震工学分野で利活用価値の高い応答スペクトルの客観的評価指標を積極的に導入することにより,国際的に受け入れられる検証活動にも注力する必要がある.近年,標準化の意義が強く認識されるようになり,その流れは規格や技術性能にとどまらず,研究開発にも及んでいる.強震動評価に関しては,Verification and Validation(V&V:検証と妥当性確認)による品質管理基準を堅持することにより,過去の地震の観測波形再現と将来の地震の予測波形の双方に対して定量的根拠を明確にし,オープンソースとして強震動予測の開発コードを国際的なプラットフォームにおいて公開することが重要とされている.
米国南カリフォルニア大学に本部を置く南カリフォルニア地震センターSCECでは,断層面と地下構造モデルを入力情報として,複数の強震動予測手法によるValidationを行う場として広帯域地震動プラットフォーム (SCEC Broadband Platform) が構築されている.特徴は,時刻歴波形ではなく工学的利活用を目的とした5%加速度疑似応答スペクトルによる評価,地震動の再現度合を判断する客観的評価指標の導入,そして計算コードの公開である.本研究では,このプラットフォームに米国や韓国で開発された手法に加え,日本で開発された強震動予測手法を実装すると共に,国際展開を図っている.
また,強震動予測に関する国際共同研究を米国・トルコ・インドネシア等と行い,各国の被害地震への適用と強震動評価を進めている.