【研究速報】ひまわり8号による西之島2019年12月活動の観測

ウェブ掲載日:2019年12月16日

西之島では2018年の小規模活動(第3期)に続いて,2019年12月4日,新たな活動が始まった.火山噴火予知研究センターでは,この活動についてひまわり8号,GCOM-C/SGLI(しきさい)等の衛星赤外画像により噴火経過の観測を行っている.

 今回の観測によって,2019年12月の活動は2017年噴火(第2期)の最盛期を上回る高い噴出率をもつことがわかった.今後の経過が注目される(これまでの活動,予想される災害等については,“2013年11月21日西之島の噴火活動”*1,“西之島噴火に伴い発生する可能性がある津波について”*2等を参照).以下に,12月4日から13日までの経過を報告する.

12月4日-5日未明:

 西之島では2019年12月4日夜から5日未明にかけて噴火と思われる熱異常が観測された.活動は,4日20時50分頃から徐々にレベルが上がり(a1), 21時30分頃~0時頃には高い状態(a2)となり,その後若干低下したものの比較的高い状態が5日0時~3時50分頃まで継続し(a3),4時頃にバックグラウンドレベルまで低下した(A: 前駆的活動期)(図1).この間,爆発的噴火や溶岩流の噴出等が起きたと考えられる.

12月5日午後:

 先の活動は一旦収まったかに見えたが,5日15時前に活動が再開した.16時30分以降,高い熱異常が一定レベルで継続する(図1)ことから,この頃には溶岩流が定常的に噴出していたと考えられる(B: 溶岩流の噴出期).

図1.ひまわり8号による熱異常の時間変化(12月4日朝-7日朝).熱異常レベルの確認は夜間,雲のない時期を選んだ.
図2.ひまわり8号による熱異常の時間変化(12月7日朝-10日朝)

12月5日夕方-10日夕方:

 一部,雲の被覆により確認できない部分もあるが,10日夕方までほぼ一定レベルの熱異常が続くことから(図2), 5日夕方に始まった溶岩流の噴出は,この間ほぼ一定の噴出率で継続していたと考えられる(各バンドの黄色/オレンジの実線). 9日の「しきさい」熱赤外画像で,島中央部にある火砕丘の東側基底部付近から噴出したと思われる溶岩流(白色部)が,東南東に向かって 700~800 m 程流下しているのが認められる(海に達している) (図3).

図3. a 「しきさい」 12月9日21時57分の熱赤外画像(11μmバンド). b 2017年8月28日のプレアデス画像.2019年12月溶岩流の分布範囲(9日)を赤点線で示す.
図4.ひまわり8号による熱異常の時間変化(12月10日朝-13日朝)

12月10日夜-11日未明:

 12月5日から一定レベルの溶岩噴出が続いて来たが,10日22時から11日6時頃にかけて熱異常レベルが上がる(赤太矢印間)ことから,この間,噴出率が上昇したと考えられる(図4).

12月11日-13日:

 熱異常のレベルから,11日6時頃から続く高い噴出率は,現在(13日6時)も継続していると考えられる.

噴出率の推定: 

 ラウン2015年噴火及び西之島2017年噴火(Kaneko et al.,2019a,2019b)のデータから求めた“夜間ひまわり8号1.6μmバンド輝度値と噴出率の間の経験式(ER-model ver.1)”を基に,噴出率の推定を行った.噴火当初の噴出率は 0.29 x 106 m3/dayであったが,11日5時以降は 0.45 x 106 m3/day  程度まで高まっていると推定される.この値は,2017年噴火の最盛期の噴出率を上回っている.  (2019 年12月13日 文責・金子)

リンク:

*1: ”2013年11月21日西之島の噴火活動“ http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/2017/04/21/2013%E5%B9%B411%E6%9C%8821%E6%97%A5%E8%A5%BF%E4%B9%8B%E5%B3%B6%E3%81%AE%E5%99%B4%E7%81%AB%E6%B4%BB%E5%8B%95/

2* ”西之島噴火に伴い発生する可能性がある津波について“ http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/VRC/nishinoshima/nishinoshima_tsunami/

第一回サイエンスカフェ開催報告

「第一回 地震・火山噴火予測研究のサイエンスカフェ」 を、 地震・火山噴火予知研究協議会と広報アウトリーチ室の共同で、2019年12月3日に開催いたしました。

今回は、「 近年の浅間山噴火等を例にした、火山噴火予測研究の現状 」というテーマで開催し、話題提供者に 武尾実 名誉教授 (東京大学・火山学) 、ゲストスピーカーに 堤 隆 浅間縄文ミュージアム館長(地元代表・考古学) をお迎えし、加藤尚之教授の司会の元、ご参加いただいた方々と活発な質疑応答がされました。

【地震・火山噴火予測研究のサイエンスカフェ 】地震や火山噴火に関する研究の成果は、予測の基礎となることが期待されています。これまでの研究から、地震や火山噴火のメカニズムへの理解は深まってきました。また、今後発生する可能性のある地震や火山噴火を指摘することもある程度はできます。しかし、規模や発生時期についての精度の高い予測はまだ研究の途上です。このサイエンスカフェでは、地震・火山噴火の予測研究の現状について研究者と意見交換を行い、研究者・参加者双方の理解を深めることを目的とします。

南海トラフ沿いのスロー地震の発生域の特徴

S. Takemura1*, T. Matsuzawa2, A. Noda2, T. Tonegawa3, Y. Asano2, T. Kimura2 and K. Shiomi2 (2019). 1東京大学地震研究所, 2防災科学技術研究所, 3海洋研究開発機構

Geophysical Research Letters, 46(8), 4192-4201 https://doi.org/10.1029/2019GL082448 *論文投稿時は防災科学技術研究所

南海トラフの巨大地震発生域の浅い側(トラフ軸周辺)では、通常の地震と比べてゆっくりとしたすべり現象(スロー地震) が発生している。スロー地震の発生は、プレート境界の構造的特徴と関連があると考えられ、プレート境界の状態と巨大地震発生域の特徴を知る上で重要な手がかりとなると期待される。

我々はそのようなスロー地震発生域の特徴を調べるため、室戸岬沖から紀伊半島南東沖で発生するスロー地震(浅部超低周波地震)の特徴(空間分布、規模、メカニズム解)を詳細に調査した。本研究では、長期間の活動状況を調査するために防災科学技術研究所F-netの広帯域地震計記録を利用した。陸域の地震波形のみを用いて海域の地震を解析するには、海洋プレートや海洋堆積物などの海域特有の複雑な地下構造の影響の考慮が必要である。そこで、本研究では3次元不均質地下構造を用いたスーパーコンピュータによる地震波伝播シミュレーションに基づいて震源の特徴を推定するTakemura et al. (2018)の手法を適用した。

本研究により推定された2003年6月から2018年5月までに発生した浅部超低周波地震のメカニズム解の分布を図aに示す。プレート境界での断層運動を示唆する低角逆断層のメカニズム解が多く推定されたことから、浅部超低周波地震はプレート境界のすべりの状態をモニタリングする上で重要な現象であることがわかった。また、我々の解析手法ではメカニズム解と位置だけでなく、規模も正確に推定できることから、浅部超低周波数地震の活動度の定量的な評価(図b)が可能となった。

本研究の解析結果を既往の研究結果と比較したところ、スロー地震(浅部超低周波地震)がフィリピン海プレート上面のすべり欠損速度が大きい領域の周囲、かつ地震波速度が遅い領域で活発に発生していることが明らかとなった。

本研究で得られた2003年6月から2018年5月までの浅部超低周波地震のカタログは、論文のウェブページ(https://doi.org/10.1029/2019GL082448)とスロー地震データベース(http://www-solid.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~sloweq/)にて公開されています。

図. 浅部超低周波地震の震源メカニズム解の空間分布と活動度の時間変化。浅部超低周波地震の震源球の色と活動度の時間変化のシンボルと線色を対応させてある。

ミュオグラフィ画像がとらえた桜島のマグマの動き

László Oláh1・Hiroyuki K.M. Tanaka1・Takao Ohminato1・Gerg˝o Hamar2・ Dezs˝o Varga2
1東京大学地震研究所, 2ハンガリー・ウィグナー物理学研究センター
Geophysical Research Letters, 46, 10,421-10,424, doi:10.1029/2019GL084784
First Published: 06 September 2019

桜島ミュオグラフィ観測所は、2017年まで活動が活発だった昭和火口直下にプラグ(マグマ流路をふさぐ栓のようなもの)が存在する様子を捉えました。画像の分解能は60メートルであり、プラグの形成時期は昭和火口の活動が低下した2017年からその隣の南岳火口が活発化した2018年の間と推定されます。このプラグはミュオグラフィ画像内の昭和火口直下に現れた物質量(密度)の上昇によるものと解釈され、その確からしさは99.7%以上になります。南岳火口近傍においても非常に高い確率で物質量の上昇が推定されました。これは、活発化した南岳火口から噴出した物質の堆積による効果と考えられています。

桜島昭和火口直下及び南岳火口近傍における密度上昇を示すミュオグラフィ画像。(a)2017年7月~10月にかけて得られたデータ。(b)2018年2月~6月にかけて得られたデータ。

桜島ミュオグラフィ観測所、観測装置の写真

原田 智也特任助教、西山 昭仁助教、佐竹 健治教授、古村 孝志教授らが日本地震学会論文賞を受賞

原田 智也特任助教、西山 昭仁助教、佐竹 健治教授、古村孝 志教授らの論文が、2018年度日本地震学会論文賞を受賞しました。

受賞論文
明応七年六月十一日(1498年6月30日)の日向灘大地震は存在しなかった ―『九州軍記』の被害記述の検討―
地震第2輯,第70巻,89-107,2017