第一回サイエンスカフェ開催報告

「第一回 地震・火山噴火予測研究のサイエンスカフェ」 を、 地震・火山噴火予知研究協議会と広報アウトリーチ室の共同で、2019年12月3日に開催いたしました。

今回は、「 近年の浅間山噴火等を例にした、火山噴火予測研究の現状 」というテーマで開催し、話題提供者に 武尾実 名誉教授 (東京大学・火山学) 、ゲストスピーカーに 堤 隆 浅間縄文ミュージアム館長(地元代表・考古学) をお迎えし、加藤尚之教授の司会の元、ご参加いただいた方々と活発な質疑応答がされました。

【地震・火山噴火予測研究のサイエンスカフェ 】地震や火山噴火に関する研究の成果は、予測の基礎となることが期待されています。これまでの研究から、地震や火山噴火のメカニズムへの理解は深まってきました。また、今後発生する可能性のある地震や火山噴火を指摘することもある程度はできます。しかし、規模や発生時期についての精度の高い予測はまだ研究の途上です。このサイエンスカフェでは、地震・火山噴火の予測研究の現状について研究者と意見交換を行い、研究者・参加者双方の理解を深めることを目的とします。

南海トラフ沿いのスロー地震の発生域の特徴

S. Takemura1*, T. Matsuzawa2, A. Noda2, T. Tonegawa3, Y. Asano2, T. Kimura2 and K. Shiomi2 (2019). 1東京大学地震研究所, 2防災科学技術研究所, 3海洋研究開発機構

Geophysical Research Letters, 46(8), 4192-4201 https://doi.org/10.1029/2019GL082448 *論文投稿時は防災科学技術研究所

南海トラフの巨大地震発生域の浅い側(トラフ軸周辺)では、通常の地震と比べてゆっくりとしたすべり現象(スロー地震) が発生している。スロー地震の発生は、プレート境界の構造的特徴と関連があると考えられ、プレート境界の状態と巨大地震発生域の特徴を知る上で重要な手がかりとなると期待される。

我々はそのようなスロー地震発生域の特徴を調べるため、室戸岬沖から紀伊半島南東沖で発生するスロー地震(浅部超低周波地震)の特徴(空間分布、規模、メカニズム解)を詳細に調査した。本研究では、長期間の活動状況を調査するために防災科学技術研究所F-netの広帯域地震計記録を利用した。陸域の地震波形のみを用いて海域の地震を解析するには、海洋プレートや海洋堆積物などの海域特有の複雑な地下構造の影響の考慮が必要である。そこで、本研究では3次元不均質地下構造を用いたスーパーコンピュータによる地震波伝播シミュレーションに基づいて震源の特徴を推定するTakemura et al. (2018)の手法を適用した。

本研究により推定された2003年6月から2018年5月までに発生した浅部超低周波地震のメカニズム解の分布を図aに示す。プレート境界での断層運動を示唆する低角逆断層のメカニズム解が多く推定されたことから、浅部超低周波地震はプレート境界のすべりの状態をモニタリングする上で重要な現象であることがわかった。また、我々の解析手法ではメカニズム解と位置だけでなく、規模も正確に推定できることから、浅部超低周波数地震の活動度の定量的な評価(図b)が可能となった。

本研究の解析結果を既往の研究結果と比較したところ、スロー地震(浅部超低周波地震)がフィリピン海プレート上面のすべり欠損速度が大きい領域の周囲、かつ地震波速度が遅い領域で活発に発生していることが明らかとなった。

本研究で得られた2003年6月から2018年5月までの浅部超低周波地震のカタログは、論文のウェブページ(https://doi.org/10.1029/2019GL082448)とスロー地震データベース(http://www-solid.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~sloweq/)にて公開されています。

図. 浅部超低周波地震の震源メカニズム解の空間分布と活動度の時間変化。浅部超低周波地震の震源球の色と活動度の時間変化のシンボルと線色を対応させてある。

ミュオグラフィ画像がとらえた桜島のマグマの動き

László Oláh1・Hiroyuki K.M. Tanaka1・Takao Ohminato1・Gerg˝o Hamar2・ Dezs˝o Varga2
1東京大学地震研究所, 2ハンガリー・ウィグナー物理学研究センター
Geophysical Research Letters, 46, 10,421-10,424, doi:10.1029/2019GL084784
First Published: 06 September 2019

桜島ミュオグラフィ観測所は、2017年まで活動が活発だった昭和火口直下にプラグ(マグマ流路をふさぐ栓のようなもの)が存在する様子を捉えました。画像の分解能は60メートルであり、プラグの形成時期は昭和火口の活動が低下した2017年からその隣の南岳火口が活発化した2018年の間と推定されます。このプラグはミュオグラフィ画像内の昭和火口直下に現れた物質量(密度)の上昇によるものと解釈され、その確からしさは99.7%以上になります。南岳火口近傍においても非常に高い確率で物質量の上昇が推定されました。これは、活発化した南岳火口から噴出した物質の堆積による効果と考えられています。

桜島昭和火口直下及び南岳火口近傍における密度上昇を示すミュオグラフィ画像。(a)2017年7月~10月にかけて得られたデータ。(b)2018年2月~6月にかけて得られたデータ。

桜島ミュオグラフィ観測所、観測装置の写真

原田 智也特任助教、西山 昭仁助教、佐竹 健治教授、古村 孝志教授らが日本地震学会論文賞を受賞

原田 智也特任助教、西山 昭仁助教、佐竹 健治教授、古村孝 志教授らの論文が、2018年度日本地震学会論文賞を受賞しました。

受賞論文
明応七年六月十一日(1498年6月30日)の日向灘大地震は存在しなかった ―『九州軍記』の被害記述の検討―
地震第2輯,第70巻,89-107,2017

1973年にスロースリップイベントが紀伊半島下で発生していたかもしれない -歴史傾斜記録の活用-

加納将行(東北大学)・加納靖之(東大地震研)
Earth, Planets and Space volume 71, Article number: 95 (2019)
doi:10.1186/s40623-019-1076-9

近年、南海トラフ沿いをはじめとして、世界各地でスロー地震の発生が知られるようになりました。スロー地震とプレート境界で起きる巨大地震との関係が広く議論されており、スロー地震がいつどこで発生しているかを調べることはとても重要です。スロー地震のひとつにスロースリップイベント(SSE)があります。現在は、SSEに伴なう地殻変動をGNSSやボアホール傾斜計によって観測したり、SSEに合わせて発生する微動を地震計で観測したりしてSSEが検出されています。では、これらの観測装置が整備される以前の南海トラフでのSSEの発生状況はどうだったのでしょうか?

私たちはGNSS等の観測網が整備される以前の1970年代の京都大学の紀州観測点の傾斜計記録を用い、SSEを検出することができるかを検討しました。同観測点では、1950年代から振り子を利用した装置による傾斜観測が実施されていました。検出された地面の傾斜はブロマイド紙(感光紙)に記録され、京都大学阿武山観測所で大切に保管されてきました。この記録を写真撮影し数値化して、SSEの分析を用いました。

1973年11月の記録にSSEによる傾斜変化と解釈できる変化を見つけました。1-3日かけて起きた1.4マイクロラジアン程度の傾斜変化でした。この変化を、最近(1996 年から2012年)観測されたSSEの際に同観測点で生じる傾斜変化を計算して比較し、観測点の数十km西側にSSEを仮定することで、傾斜変化の方向が説明できることがわかりました。一方、傾斜変化の大きさは、最近発生したSSEのものより1-2桁大きいものでした。これは、1973年に発生したSSEの規模がより大きかった可能性を示しています。数値シミュレーションにより、地震発生サイクルにおいて次の巨大地震の発生が近づくにつれて、SSEの規模が小さくなっていく結果が示唆されており、そういった傾向を見ているのかもしれません。今後、歴史記録をさらに活用して過去のSSEの規模や発生間隔を知ることにより、南海トラフでの地震発生サイクルのなかでのSSEの役割の理解につながると考えています。

(左上)京都大学阿武山観測所に保管されている傾斜記録紙の例(1973年11月19日から26日)。(右上)1960〜70年代の記録紙。(左下)1973年11月19日から12月10日までの記録を数値化して表示(黒線)。計算から求められた潮汐(青線)と比較している。(右下)記録紙にみられた傾斜変化(緑矢印)と最近発生したSSEから計算された傾斜変化(赤矢印)の比較。