長期観測型海底地震計を用いた伊豆小笠原西之島火山の連続地震モニタリング観測

Masanao Shinohara1 , Mie Ichihara1, Shin’ichi Sakai1, Tomoaki Yamada1, Minoru Takeo1, Hiroko Sugioka2,
Yutaka Nagaoka3, Akimichi Takagi3, Taisei Morishita4, Tomozo Ono4 and Azusa Nishizawa4

1 Earthquake Research Institute, The University of Tokyo. 2 Department of Planetology, Graduate School of Science, Kobe University. 3 Meteorological Research Institute, Japan Meteorological Agency. 4 Hydrographic and Oceanographic Department, Japan Coast Guard.

Earth Planets Space 69:159, DOI;10.1186/s40623-017-0747-7 , 2017.

伊豆小笠原島弧に位置する西之島は2013年11月に噴火活動を開始し島の面積が拡大した。火山の形成過程の研究には連続したモニタリング観測が重要であるが、このような遠方の無人島では連続観測の実施は難しい。そのため、我々は2015年2月から西之島近傍において長期観測型海底地震計(LT-OBS)を用いた観測を開始した。使用したLT-OBSは1年程度連続観測が可能であり、回収・再設置を繰り返すことにより連続観測を実施した。LT-OBSは西之島火山火口から13km以内に設置した。噴火が発生している期間では特徴的な波形をもつイベントが多数記録されていた。西之島近傍の観測船上におけるビデオカメラと空振計の記録と比較したところ、この特徴的なイベントは火口からの噴煙上昇と関係していることがわかった。火山活動を把握するためにSTA/LTA法によるイベント検出を行った。その結果、2015年2月から7月にかけては1日あたり1800個程度のイベントが発生していることがわかった。イベント数は同年7月から減少を始め、11月には1日あたり100個以下となった。表面活動の観察では噴火活動は11月に停止したと推定されている。特徴的なイベントは、2017年4月中旬に再び発生し始め同年5月下旬には1日あたり約1400個に達した。このように、海底地震計を用いた海底地震観測は島嶼火山活動の連続モニタリングに有益であることがわかった。

篠原教授が海洋調査技術学会岩宮賞を受賞

篠原雅尚教授が、海洋調査技術学会より岩宮賞を受賞しました。

11月6日に行われた海洋調査技術学会総会にて、表彰がされました。

*岩宮賞について
(目的)第1条 本規定は、本会の活動に貢献した者及び海洋の調査とそれに必要な技術開発の進歩、普及に貢献した者で、その功績顕著な者を表彰することによって、本会業務の向上を図ることを目的とする。海洋調査技術学会HP岩宮賞表彰規定より引用)

大規模数値シミュレーションと人工知能に関する研究がSC17にて受賞

米国・デンバーで開催された高性能計算に関する世界最高峰の国際会議のひとつであるSC17で、市村強准教授、山口拓真さん(博士課程1年)らの研究が以下の二つの賞を受賞しました。

■市村強准教授、藤田航平助教、山口拓真さん(博士課程1年)、堀宗朗教授、Lalith Wijerathne准教授、上田修功副センター長(理化学研究所革新知能統合研究センター)による研究が、SC17 Best Poster Awardを受賞しました。SC17のResearch Posterは高性能計算に関する萌芽的な高いレベルの研究が発表されることで知られています。本年度は、全世界から169件の投稿があり、そのうち99件が採択されました(採択率58%)。Best Poster Awardは、そのうちの1件のみに授与されました。

研究概要
受賞の対象となった成果は、京コンピュータによる大規模数値シミュレーションと人工知能を組み合わせた次世代地震動分布予測システムに関する研究成果です。京コンピュータ全体を利用して解析した地震動分布データを使って学習させた人工知能により、従来では不可能であった不確実性を考慮した地震動分布を広域において高速に推定できるようになりました。

対象論文
Tsuyoshi Ichimura, Kohei Fujita, Takuma Yamaguchi, Muneo Hori, Maddegedara Lalith and Naonori Ueda (2017), AI with Super-Computed Data for Monte Carlo Earthquake Hazard Classification.

http://sc17.supercomputing.org/SC17%20Archive/tech_poster/tech_poster_pages/post129.html

http://www.aics.riken.jp/library/topics/171117.html (理化学研究所計算科学研究機構による受賞紹介)

■山口拓真さん(博士課程1年)、藤田航平助教、市村強准教授、堀宗朗教授、Lalith Wijerathne准教授、中島研吾教授(情報基盤センター)による研究が、SC17にて開催されたアクセラレータ・プログラミングに関するワークショップであるFourth Workshop on Accelerator Programming Using Directives (WACCPD)にてBest Paper Awardを受賞しました。

研究概要:
受賞の対象となった成果は、詳細な3次元地殻変動解析に必要とされる大規模・多数回の有限要素法解析の実行時間をGPUにより短縮する技術に関する研究成果です。これにより、大規模な地殻変動解析を多数回実行できるようになり、地殻変動現象の分析が進むことが期待されます。

対象論文:Takuma Yamaguchi, Kohei Fujita, Tsuyoshi Ichimura, Muneo Hori, Maddegedara Lalith and Kengo Nakajima (2017), Implicit Low-Order Unstructured Finite-Element Multiple Simulation Enhanced by Dense Computation using OpenACC.

https://waccpd.org/best-papers/

 

なお、本研究グループの研究は2014年から2016年までに開催されたSC14, SC15, SC16においても受賞・ノミネートされています。本年の受賞研究成果はこれらをさらに発展させた成果として、今後の研究の促進につながると期待されます。

参考(本研究グループのSCにおける過去の受賞・ノミネート):
・SC14(2014)において、市村強准教授らの京コンピュータによる都市シミュレーションに関する論文がACM Gordon Bell Prize Finalistにノミネート。ACM Gordon Bell Prizeは理工学全般の計算科学では最高の賞のひとつで、毎年全計算科学分野からFinalistが3-6グループノミネートされます:

対象論文:Tsuyoshi Ichimura, Kohei Fujita, Seizo Tanaka, Muneo Hori, Lalith Maddegedara, Yoshihisa Shizawa, Hiroshi Kobayashi (2014), Physics-based urban earthquake simulation enhanced by 10.7 BlnDOF × 30 K time-step unstructured FE non-linear seismic wave simulation.

https://dl.acm.org/citation.cfm?id=2683596

・SC15(2015)において、 市村強准教授らの京コンピュータによる統括的な地震シミュレーションに関する論文がACM Gordon Bell Prize Finalistにノミネート。二年連続でGordon Bell Prize Finalistノミネートされるにことは非常に珍しいことです:

対象論文:Tsuyoshi Ichimura, Kohei Fujita, Pher Errol Balde Quinay, Lalith Maddegedara, Muneo Hori, Seizo Tanaka, Yoshihisa Shizawa, Hiroshi Kobayashi, Kazuo Minami (2015), Implicit nonlinear wave simulation with 1.08T DOF and 0.270T unstructured finite elements to enhance comprehensive earthquake simulation.

https://dl.acm.org/citation.cfm?id=2807674

・SC16(2016)において、 藤田航平助教(当時理化学研究所)、市村強准教授らの京コンピュータによる地殻変動解析に関する論文がSC16 Best Poster Awardを受賞:

Kohei Fujita, Tsuyoshi Ichimura, Kentaro Koyama, Masashi Horikoshi, Hikaru Inoue, Larry Meadows, Seizo Tanaka, Muneo Hori, Takane Hori (2016), A Fast Implicit Solver with Low Memory Footprint and High Scalability for Comprehensive Earthquake Simulation System.

http://sc16.supercomputing.org/sc-archive/tech_poster/tech_poster_pages/post185.html

・SC16-WACCPD (2016)において、 藤田航平助教(当時理化学研究所)、山口拓真さんらのGPUによる地殻変動解析に関する論文がThird Workshop on Accelerator Programming Using Directives (WACCPD)にてBest Paper Awardを受賞:

Kohei Fujita, Takuma Yamaguchi, Tsuyoshi Ichimura, Muneo Hori and Lalith Maddegedara (2016), Acceleration of Element-by-Element Kernel in Unstructured Implicit Low-order Finite-element Earthquake Simulation using OpenACC on Pascal GPUs.

https://dl.acm.org/citation.cfm?id=3019121

SC17 Best Poster Award授賞式 (写真:理化学研究所計算科学研究機構提供)
SC17 Best Poster Award記念写真:左から山口拓真さん(博士課程1年),市村強准教授,藤田航平助教 (写真:理化学研究所計算科学研究機構提供)
SC17-WACCPD Best Paper Award記念写真:左から藤田航平助教,市村強准教授,山口拓真さん(博士課程1年)  (写真:NVIDIA/PGI提供)

Dr.Aditya GusmanがAGU論文誌査読者評価プログラムで編集者より優秀査読者として選出

Dr.Aditya Gusmanが、アメリカ地球物理連合(AGU)の論文誌における査読者の評価プログラムで、編集者より、優秀査読者として選ばれました。

賞名:2016 Editors’ Citation for Excellence in Refereeing
受賞年月:2017年5月31日にAGUの雑誌Eosにオンライン掲載
https://eos.org/agu-news/in-appreciation-of-agus-outstanding-reviewers-of-2016

竹尾助教がAGU論文誌査読者評価プログラムで編集者より優秀査読者として選出

竹尾明子助教が、アメリカ地球物理連合(AGU)の論文誌における査読者の評価プログラムで、編集者より、優秀査読者として選ばれました。

賞名:2016 Editors’ Citation for Excellence in Refereeing
受賞年月:2017年5月31日にAGUの雑誌Eosにオンライン掲載
https://eos.org/agu-news/in-appreciation-of-agus-outstanding-reviewers-of-2016

 

 

 

 

大規模シミュレーションモデルのための4次元変分法データ同化に基づく予測不確実性評価法

伊藤伸一(1),長尾大道(1,2),糟谷正(3),井上純哉(3,4)

(1)東京大学地震研究所 (2)東京大学大学院情報理工学系研究科 (3)東京大学大学院工学系研究科 (4)東京大学先端科学技術研究センター

Science and Technology of Advanced Materials (2017), 18:1, 857-869, http://dx.doi.org/10.1080/14686996.2017.1378921

 データ同化は、限られた観測データとシミュレーションモデルをベイズ統計学に基づいて融合することで、モデルのパラメータや観測できない内部の状態などの推定や、その推定値の不確実性の評価を可能にする計算技術であり、特に台風の進路予測および予報円の評価など、近年の天気予報では無くてはならないものとなっています。データ同化は原理的には、天気予報のシミュレーションモデルだけではなく、さまざまなシミュレーションモデルに利用できるため、近年その有用性が認知され、断層パラメータの推定や岩石成長過程の推定などの固体地球分野に応用され始めています。

データ同化によるモデルパラメータの推定およびその不確実性の評価はシミュレーションモデルの規模が大きくなるほどに困難になる傾向がありますが、我々は先行研究[Ito et al., Physical Review E (2016), http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/2016/11/18/data-assimilation-for-massive-autonomous-systems-based-on-a-second-order-adjoint-method/]の中で、モデルの規模が大きくなっても高精度な推定および不確実性評価を行えるアルゴリズムを開発しました。

しかしながら、パラメータの推定値の不確実性を得るだけでは、将来予測がどれくらい変わり得るか(予測不確実性)を調べることができません。予測不確実性を調べることは台風の進路予測の例で言えば予報円を計算することに相当しますが、既存のデータ同化手法では予測不確実性を正しく調べるためには一般に膨大な計算コストが必要となり現実的な時間での計算が難しくなるので、精度を犠牲にする代わりにさまざまなアドホックな工夫を凝らしていました。そこで本論文では、上記のアルゴリムを応用することで、大規模シミュレーションモデルにも適用ができる新しい予測不確実性の評価方法を開発しました(図1)。これにより既存の方法よりも計算コストを大きく軽減しつつ高精度に予測不確実性を調べることができるようになりました。論文中では提案手法を検証するために、曲率駆動型の粒成長モデルに適用し、本手法が正しく粒成長を予測できること、データの量・データの質・データ取得のタイミングに対応した予測不確実性の計算ができることを確認しました。

本提案手法は一般の問題に対して適用が可能であるため、断層運動の予測や津波の到達予測などの時間発展を予測することが重要になる地震に関連した様々な固体地球分野へ応用できます。さらに、それらの得られた予測が不確実性付きで評価できるようになるため、予測精度の向上や観測点配置の問題などに広く展開できると期待されます。

レシーバ関数解析から求められたフィリピン海プレートと地殻の接触部の描像:1891年濃尾地震(Mj8.0)の発生原因

飯高隆、五十嵐俊博、橋間昭徳、加藤愛太郎、岩崎貴哉、濃尾地震断層域合同地震観測グループ

Tectonophysics 717 (2017) 41–50

日本では、活断層が活動することによって引き起こされる被害地震が多く発生します。例えば、1995年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災の原因となった地震)(Mj7.3)、2004年新潟県中越地震(Mj6.8)、2016年熊本地震(Mj7.3)は活断層による地震です。このように日本で発生する大きな被害を引き起こす内陸地震はマグニチュード7クラスの地震が多くみられます。しかし、歴史的に見るともっと大きな地震も発生しています。それは、1891年に発生した濃尾地震です。気象庁によって決められたこの地震のマグニチュードは8.0です。マグニチュードが1違うとエネルギーは約30倍違います。このことからみても、1891年の濃尾地震がいかに大きな地震であったかがわかります。この地震は、日本の活断層で発生した内陸地震としては、観測史上最大規模の地震といえます。この地震の発生原因を調べるために、この研究所では、全国の大学や関係機関と共同で臨時の観測点を展開し、様々な手法を用いて研究をおこないました。この研究では、この地震がどのような場所で発生したかを知るために、レシーバ関数解析という手法を用いて解析を行ったものです。地震波は、伝播する途中で速度の境界面があるとP波からS波へ、S波からP波へ変換することがあります。この性質を用いて観測された波を調べることにより地下の構造境界を調べようとするのがレシーバ関数解析という手法です。

レシーバ関数解析によって、濃尾地震断層域の地殻構造について詳細な構造がわかりました。また、この地域においては人工震源を用いた構造探査が行われています。これらの結果からこの地域の構造を考えてみますと、沈み込むフィリピン海プレートは変形しており、伊勢湾から若狭湾にかけて尾根のように張り出した構造をしています。この張り出したフィリピン海プレートは、周囲の地殻と接触していることがわかりました。また、1891年の濃尾地震を引き起こした断層は、湾曲したフィリピン海プレートと地殻の接触部分にそって存在していることもわかりました。この地域ではフィリピン海プレートが北西方向に沈み込んでおり、地殻においても北西方向に力が加わっているものと考えられます。そのため、地殻と張り出したフィリピン海プレートの接触部分では、応力が集中することが十分考えられます。この研究では、このような特異な構造がMj8.0という大きな濃尾地震の原因の一因となった可能性を示唆しています(図1)。

図1 濃尾地震発生域の地殻・マントル構造の概念図。レシーバ関数解析から求められた沈み込むフィリピン海プレートの等深度線から、湾曲したフィリピン海プレートは周囲の地殻と接触していることがわかりました。1891年にMj8.0の地震を引き起こした濃尾地震の断層は、その接触部に位置しており、このような特異な構造が巨大地震の原因となった可能性が考えられます。

 

地震研究所案内 発刊

地震研究所を紹介した案内パンフレット(A4サイズ3つ折り。日・英)が完成しました。一目で地震研で今されている研究などがわかるようになっております。一般公開や学会などで配布しておりますので、ぜひお手に取ってご覧ください。

PDFはこちらからダウンロードしていただけます。

A brochure that introduces ERI is now available in both Japanese and English.

Available on PDF from here 

2017年10月11日霧島火山群新燃岳の噴火【最終更新10月20日】

ウェブサイト立ち上げ:2017年10月16日
最終更新日:2017年10月20日

2017年10月11日に霧島火山群新燃岳が、2011年の噴火以来、6年ぶりに噴火しました。
このページでは現地調査およびその後の分析結果についてを更新しています。


2017年10月20日掲載

新燃岳2017年10月12〜14日噴火の火山灰の組成の時間変化

図1:新燃岳火山灰のSiO2量変化。太矢印は2008年から2011年までの火山灰の変化方向を示す。2017年10月噴火の火山灰は次第にSiO2量に乏しくなってきている。2011年までのデータはSuzuki et al. (2013)による。
図2:新燃岳溶岩と火山灰の組成。太矢印は2008年から2011年までの火山灰の変化方向を示す。2017年10月噴火の火山灰は変動が大きいが,2011年マグマの組成に近づいてきている。
図3:(再掲)2008年〜2011年噴火火山灰の構成物種の時間変化。今回の火山灰の時間変化も2008年から2011年までの変化に似てきた。2008年〜2011年のデータはSuzuki et al. (2013)による。

(東京大学・早稲田大学)


2017年10月20日掲載

霧島火山群新燃岳2017年10月11−14日の噴出量変化

概要: 2017年10月11日−14日における新燃岳での主な3回の噴火の噴出量について検討した。これまでの降灰調査や報告をもとにすると,総噴出量は40万トン前後と推定される。

・   10月11日,12日ついては,すでに報告している通り1),1−4万トン,12日については6−22万トンと推定される。
・   14日については,気象庁により日向市まで降灰があったことが報告されており2),そのおよその分布域が分かっている。また,主軸は北東である。
・   14日に新燃岳北東の夷守台(オートキャンプ場入り口)では,9:30−14:30 の間に1−3mm程度の降灰があったことが,試料採取時の状況から推定される。(この火山灰については,構成種の分析がなされている3)。)
・   近傍での1−3 mm のおよその範囲と,分布限界(0.1−1g/m2)の仮定をもとに,11日および12日の場合と同じ手法により噴出量を見積もったところ,10−30万トン程度と推定された(図1)。
・   14日までの総噴出量は40万トン前後と推定される。

図1: 10月11−14日までの主な3回の噴火による降灰面積と単位面積当たり重量との関係。Weibull関数によるフィッティング4) を行い,その積分値(総重量~噴出量)を算出した。それぞれの日で異なる種類のフィッティングは,降灰面積および降灰重量の仮定に由来するエラーを示す。

参考資料:
1)       東京大学地震研究所・熊本大学教育学部,霧島火山新燃岳2017年10月11-14日噴火の噴出量(速報).火山噴火予知連絡会資料,2017年10月14日.
2)       気象庁,霧島山(新燃岳)の火山活動解説資料.平成29年10月14日18時15分発表.
3)       東京大学地震研究所・早稲田大学,霧島新燃岳2017年10月12日,14日噴火の火山灰について.火山噴火予知連絡会拡大幹事会資料.2017年10月17日.
4)       Bonadonna, C. and Costa, A. (2012) Estimating the volume of tephra deposits: a new simple strategy. Geology, 40, 415-418.

(火山噴火予知研究センター:前野 深)


10月12日11時頃ドローンにより撮影

(火山噴火予知研究センター:前野 深)


霧島火山群新燃岳2017年10月11-12日噴火の降灰分布と噴出量(速報)

(2017年10月15日)

概要: 霧島火山群新燃岳における2017年10月11日-12日噴火の降灰分布と噴出量を,噴火直後に実施した現地調査の結果をもとに推定した。11日はほぼ東側に主軸をもち,比較的狭い範囲に降灰が集中した。一方12日はやや北寄りに分布主軸が移るとともに,南~南西側にも降灰が認められ,山体付近では11日よりも堆積の範囲は広い。降灰分布データ(単位面積当たり重量と面積との関係)をもとに噴出量を算出した結果,11日の噴出量は1~4万トン,12日の噴出量は6-22万トンと見積もられた。なお,火口近傍の堆積状況が不明なため噴出量には大きなエラーが含まれる。

[降灰分布] ・  10月11日昼頃から12日夕方にかけて,熊本大学,防災科学技術研究所,東京大学地震研究は11日,12日それぞれの降下火山灰の堆積状況を調査した(図1)。
・  11日(青色)はほぼ東側に分布主軸をもつ。12日(赤色)はやや北寄りに主軸が移るとともに,南~南西側山麓でも降灰が認められ,11日よりも堆積の範囲は広い。
・  12日は噴煙の勢いが強くなり噴煙高度が増し,風の影響も弱まったために,より広範囲に火山灰が拡散,堆積したと考えられる。

図1 新燃岳2017年10月11日および12日の火山灰等重量線図。えびの高原の降灰状況は電話による聞き取り調査による。熊本大学と防災科学技術研究所のデータについてはそれぞれ既に報告されている1, 2)。
[噴出量の推定] ・  等重量線図(図1)をもとにした単位面積当たり降灰重量(kg/m2)と面積との関係を,Weibull 関数によりフィッティングして積分し(図2),噴出量を推定した(Bonadonna and Costa 2012 による手法3))。
・  11日の噴出量は1-4万トン,12日の噴出量は6-22万トンと見積もられた。
・  なお,11日については10-500 g/m2のコンター(5点)を,12日については10-100 g/m2のコンター(3点)を用いた。また,噴火口を囲むようにコンターを仮定し,20-30%の分布面積のエラーを考慮した。
・  11日については,同日に行った上空からの観察4) をもとに,噴火口の近傍(0.1 km2)の単位面積あたり降灰重量を5-20 kg/m2 と仮定した。12日については火口付近の堆積状況が不明であるため,近傍の仮定はない。
・  11日,12日ともに,遠方についてはWeibullフィッティングの外挿のみで仮定はしてない。

図2 新燃岳2017年10月11日および12日の降灰面積と単位面積当たり重量との関係。Weibull関数によるフィッティングを行い,その積分値(総重量~噴出量)を算出した。異なる3種類のフィッティングは,降灰面積の仮定(11日および12日)と,噴火口周辺の降灰重量の仮定(11日)に由来するエラーを示す。

謝辞:
防災科学技術研究所の降灰データ2)を使用させていただいた。また,降灰調査は霧島ネイチャーガイドクラブ古園俊男さんに協力いただいた。
参考資料:
1)      熊本大学教育学部,霧島火山新燃岳2017年10月11日噴火に伴う降灰量(速報),火山噴火予知連絡会資料,2017年10月12日.
2)       防災科学技術研究所火山研究推進センター,新燃岳2017 年10 月11 日〜12 日噴火の降灰調査結果.http://www.bosai.go.jp/saigai/2017/pdf/20171013_02.pdf
3)      Bonadonna, C. and Costa, A. (2012) Estimatting the volume of tephra deposits: a new simple strategy. Geology, 40, 415-418.
4)      東京大学地震研究所,霧島火山群新燃岳2017年噴火の上空観察.火山噴火予知連絡会資料, 2017年10月13日.

(火山噴火予知研究センター:前野 深)


霧島山新燃岳2017年10月12日噴火の火山灰について

2017年10月13日

新燃岳で10月12日午前中に放出された火山灰の顕微鏡観察を行った。その結果、今回の火山灰は水蒸気噴火に特有の極細粒子からなり、マグマ物質(本質物質)の可能性のある軽石粒子が極少量(0.1%以下程度)認められた。これらの粒子が今回の噴火に直接関与したかどうかは今後の推移を見ないと判断できない。このことより、10月11日〜12日噴火は基本的には水蒸気噴火であったと考えられる。

【噴火の概要】
10月11日朝から始まった新燃岳の噴火は、12日午前中に噴煙高度が約2000mまで達するなどより活発になった。11日には東側に、12日午前中には北東及び南側に降灰が認められた。12日午前中に堆積したと考えられる火山灰を採取し、顕微鏡下で観察を実施した。

【火山灰試料】
採取日:2017年10月12日(木)午前11時頃。
採取場所:新湯〜高千穂河原の道路上(新燃岳の火口の南約 3 km地点)
採取者:地震研究所・防災科学技術研究所。
産状と採取法:道路の白線がほぼ見えなくなるほどの火山灰(120〜150g/m2)が堆積。刷毛を使って採取したものを用いた。

【火山灰の処理・観察方法】
約12gの火山灰を,純水中で超音波洗浄し上澄みを取り除いた。径数10 µm以上の残粒子約1.2gを篩により粒径分けし観察に用いた。径125 µm未満が最も豊富であったが、径125-250 µmを利用。この粒径の全体像を図1に示す。構成種とその割合を径125-250 µmの粒子について決定した。以下の割合は暫定的なものである。構成粒子の割合は粒子数に基づいた。各構成粒子の写真を図2に示す。

観察結果のまとめ
(1)スコリア (2.5%):気泡内部や表面に白色物質が付着し,表面の円磨された粒子のみである。今回のマグマ物質とは考えられない。
(2)軽石 (<0.1%):淡褐色で、新鮮な発泡ガラスを持つ。変質物質の付着もない。マグマ物質の可能性がある(図2 (2)、図3)。
(3)変質溶岩 (48.8%):珪化変質したと思われる白色溶岩片。黄鉄鉱の細粒粒子が付着しているものもある。
(4)弱変質溶岩 (37.5%):薄灰色〜薄褐色で弱変質の溶岩片。
(5)結晶 (11.3%): 斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石、鉄チタン酸化物の遊離結晶及びその破片。

図1:霧島山新燃岳10月12日噴火の火山灰粒子(径125-250µm;横幅約4.5 mm)。左の赤丸は軽石(マグマ物質)。右の青丸内の球状のガラスは人工物(道路の舗装の光沢材)。
図2:10月12日噴火の火山灰構成粒子(径125-250 µm。写真横幅は2 mm)(1)スコリア, (2)軽石, (3)変質溶岩, (4)弱変質溶岩
図3:軽石粒子の3次元画像。マグマ物質と考えられるが、その量は極めて少ないので、今回の噴火に直接関与したものと断定するのは難しい。

(東京大学地震研究所・早稲田大学)


霧島火山群新燃岳2017年噴火の上空観察

概要: 2017年10月11日早朝に始まった新燃岳の噴火を受けて,11日午後にセスナ機(南日本航空)による上空からの観察,12日午前にドローンによる新燃岳火口内及び火口周辺の観察を行った。主な噴煙は火口内東縁付近の火孔(群)から発生している。11日午後には白色主体の噴煙であったが,12日午前には濃い灰色の噴煙となり,噴出の勢い,噴煙高度が増した。12日にかけての活発化に伴う新燃岳火口内の変化はほとんどなく,同一の火孔(群)を使い噴火を継続したと考えられる。

[セスナ機による観察]
  • 10月11日15:00-15:45にセスナ機(南日本航空)により新燃岳火口内を観察した。
  • 火口内東縁付近に形成された火孔から白〜灰色の噴煙が勢い良く立ち上がっている。白色噴煙が主体であるが,時々濃い灰色の噴煙も混じる(図1)。
  • 火孔位置は2011年噴火前からある噴気域の一部に相当し,2011年噴火時にも小火孔が形成された場所である。
  • 近接する2つの火孔が存在し,噴煙の根元は分かれているが,火孔直上で一体となり上昇する噴煙は見かけ上は1つである(図2)。
  • 噴煙は強い西風を受けて大きく傾き,東側に主な降灰をもたらしている。
  • 東から北側にかけては火口壁や山体斜面に数−10cm程度(推定)の火山灰の被覆が確認できる。全体的に火口内東側では噴気活動が盛んで,とくに噴火孔の南西側の噴気域は活発である。
図1 火口内東縁の火孔から上昇する噴煙の様子。火孔周囲の噴気活動は活発で,所々に水溜りも存在する。(11日15:22撮影)
図2 火孔は2つ存在し,噴煙は一体となって上昇している。(11日15:32撮影)
[ドローンによる観察]
  •  10月12日午前に,新燃岳南西側の新湯温泉付近から,ドローンにより山頂火口内及び火口周囲の状況を観察した。なお,規制区域のドローン飛行に関しては,事前に鹿児島森林管理署と調整した上で実施した。
  • 風向きや降灰の状況を考慮して,9:30〜11:15の間に3回に分けて実施した。
  • 噴火孔(群)の位置や大きさは11日とほとんど同じであったが,噴煙は濃い灰色主体で,勢い良く噴出し,上昇している(図3)。
  • 弾道放出物は観察できないが,風下側では顕著な降灰が認められる。
  • 勢いの良い噴煙の他に,やや勢いの弱い噴煙が近接して存在する。火孔直上ですぐに一体となり,1つの噴煙を形成している(図4)。複数の火孔があると推定される。
  • 噴煙上昇の勢いは11日より明らかに強く,噴煙高度も増した。11日と比べて風の影響が弱まったことや,噴出率がやや上がったことが,噴煙高度が増した原因と考えられる。
  • 観察時間中,新燃岳西側斜面の噴気地帯では,噴気量が一時的に増大する様子が観察された。また,西側斜面の複数箇所から弱い噴気が一時的に立ち昇る様子を観察した。
図3 南側火口縁付近から見た噴煙。(12日10:55頃撮影)
図4 西側から撮影した噴煙。奥に勢いが強い噴煙があり,手前に弱い噴煙が存在するが,上空では一体となり一つの噴煙を形成している。(12日11:05頃 撮影)

( 火山噴火予知研究センター:前野 深)