南海トラフ西方プレート境界浅部すべりについての新たな知見 ~九州東方・日向灘で発生する浅部低周波微動の発見と移動特性の解明~

山下裕亮(1)†,八木原寛(2),浅野陽一(3),清水洋(1),内田和也(1),平野舟一郎(2),馬越孝道(4),宮町宏樹(2),中元真美(1),福井海世(1),神薗めぐみ(1),兼原壽生(5),山田知朗(6),篠原雅尚(6),小原一成(6)

(1)九州大学地震火山観測研究センター,(2)鹿児島大学南西島弧地震火山観測所,(3)防災科学技術研究所,(4)長崎大学大学院水産・環境総合研究科,(5)長崎大学水産学部,(6)東京大学地震研究所, †現所属:東京大学地震研究所

Science, vol. 348 (6235), 676-679, doi:10.1126/science.aaa4242

南海トラフ西方プレート境界浅部すべりについての新たな知見

~九州東方・日向灘で発生する浅部低周波微動の発見と移動特性の解明~

 プレート境界において海溝型巨大地震がたびたび発生する南海トラフ域では,スロー地震(注1)と呼ばれる,通常の地震とは異なる特徴を有する断層すべり現象が発生していることが,ここ10数年の間に明らかにされてきました(参考文献【1】).特に,プレート境界固着域の深部隣接側では,低周波微動(注2)・超低周波地震(注3)・スロースリップ(注4)という,3種類の異なるスロー地震が時空間的に同期して観測されています.トラフ軸近傍のプレート境界浅部領域についても同様の現象が起こっていると考えられてきましたが,震源域が陸から遠い場所であり,その詳細はほとんどわかっていませんでした.本研究では,南海トラフ巨大地震震源域の西方に位置する日向灘において,スロー地震を含むプレート境界浅部すべり現象を明らかにするため,海底地震計(注5)を用いた直上観測を行いました(海底地震観測は,九州大学,鹿児島大学,長崎大学・東京大学の共同研究).その結果,スロー地震の1つである「浅部低周波微動」を観測することに成功し,その詳細な活動特性を初めて明らかにしました.

本研究の重要な成果の1つは,浅部低周波微動と浅部超低周波地震の異なる2つのスロー地震について,活動の一致性を初めて明らかにしたことです.また,浅部低周波微動が明瞭な「震源移動」を示すこと,深部低周波微動とよく似た2種類の移動特性(参考文献【1】など)を有することも明らかになりました.以上のように,プレート境界の深部と浅部で発生するスロー地震の活動様式が共通していることが初めて明らかされました.これまでの観測・シミュレーション研究によると,深部の低周波微動や超低周波地震は,数日間継続するスロースリップによって引き起こされると考えられるため,本研究で明らかとなった観測結果は,プレート境界浅部におけるスロースリップの存在を証明したものと考えられます.

このほか,南海トラフ沿いのセグメント境界と考えられている九州パラオ海嶺が,スロー地震のようなゆっくりとしたすべりに対してはセグメント境界の役割を果たさないことも明らかにしました.さらに,浅部低周波微動の活動域がプレート境界の固着が弱い領域の浅部側に限定されていることから,浅部低周波微動の活動はプレート境界の固着の程度をよく反映した現象である,という新たな解釈を提示しました.この解釈が正しければ,浅部低周波微動活動の時空間変化をモニタリングすることで,プレート間固着の変化を把握することが可能となり,将来的に巨大地震発生の切迫度評価への応用ができる可能性があります.

本研究により新たに発見された浅部低周波微動の移動現象は,それそのものが間接的にプレート境界浅部すべりを表していると考えられるため,スロー地震の発生メカニズム解明に寄与するだけでなく,巨大津波発生の可能性を有するプレート境界浅部すべりを理解や,将来発生が危惧される南海トラフ沿い巨大地震の発生モデル高度化への寄与など,学術上・防災上重要な成果であると位置づけられます.

一方で,陸から遠く離れたプレート境界浅部で起こっている現象を詳細に把握するためには,海底における地震動と地殻変動の同時かつ長期にわたる観測を行うことが必要不可欠です.国内外の様々な場所でより多くの観測事例を重ね,異なる浅部スロー地震間の相互関係や活動の普遍性・地域性などを明らかにし,プレート境界浅部すべりについての理解をより一層深めていく予定です.

 

謝辞:海底地震観測においては,長崎大学水産学部練習船・長崎丸の共同利用枠を利用し,乗組員の皆さまに多大なるご協力を賜りました.また,宮崎県・鹿児島県の漁業関係者の皆さまには,観測実施に際しご理解・ご協力をいただきました.本研究は,「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画」の一環として行われました.

 

図1.海底地震観測網(黄色の四角:数字は観測点番号)によって捉えられた浅部低周波微動の震央分布(丸印:色は発生日時を示す).オレンジの丸は小繰り返し地震(プレート境界で繰り返し発生するM2~4程度の地震:Yamashita et al., 2012),緑の太線は大陸プレート下に沈み込んでいる九州パラオ海嶺の外縁(Yamamoto et al., 2013),赤い矢印はフィリピン海プレートが大陸プレート下に沈み込む方向(Miyazaki and Heki,, 2001)を示している.グレーの領域は,それぞれ1968年日向灘地震,1996年10月・12月日向灘の地震で地震時に大きくすべった領域を示す(八木・他, 1998; Yagi et al., 1999).
図1.海底地震観測網(黄色の四角:数字は観測点番号)によって捉えられた浅部低周波微動の震央分布(丸印:色は発生日時を示す).オレンジの丸は小繰り返し地震(プレート境界で繰り返し発生するM2~4程度の地震:Yamashita et al., 2012),緑の太線は大陸プレート下に沈み込んでいる九州パラオ海嶺の外縁(Yamamoto et al., 2013),赤い矢印はフィリピン海プレートが大陸プレート下に沈み込む方向(Miyazaki and Heki,, 2001)を示している.グレーの領域は,それぞれ1968年日向灘地震,1996年10月・12月日向灘の地震で地震時に大きくすべった領域を示す(八木・他, 1998; Yagi et al., 1999).

 

図2.図2のN-S測線に沿った距離で投影した浅部低周波微動の時空間プロット。横軸は時間(日付)を表している。グレーのエリアは海底地震観測網の外側(南側)に位置するため、震源決定精度が悪い領域。全体として、南から北へ移動しており、1回目と2回目の移動の平均的な速度は1日あたり30~60 km。6月12日~14日にかけての逆方向(北から南)の高速移動はRTR(Rapid tremor reversal: 参考文献【7】)と呼ばれる移動現象。
図2.図2のN-S測線に沿った距離で投影した浅部低周波微動の時空間プロット。横軸は時間(日付)を表している。グレーのエリアは海底地震観測網の外側(南側)に位置するため、震源決定精度が悪い領域。全体として、南から北へ移動しており、1回目と2回目の移動の平均的な速度は1日あたり30~60 km。6月12日~14日にかけての逆方向(北から南)の高速移動はRTR(Rapid tremor reversal: 参考文献【7】)と呼ばれる移動現象。

 

図4.浅部スロー地震の移動と、通常の地震発生域(深さ10~30 km)のプレート間固着との関係についての解釈図。プレート間固着が弱い場所の浅部側では広範囲に渡って浅部スロー地震活動が活発で、明瞭な移動現象が見られる。一方、固着が強い場所の浅部側では活動が限定的で不活発である。
図3.浅部スロー地震の移動と、通常の地震発生域(深さ10~30 km)のプレート間固着との関係についての解釈図。プレート間固着が弱い場所の浅部側では広範囲に渡って浅部スロー地震活動が活発で、明瞭な移動現象が見られる。一方、固着が強い場所の浅部側では活動が限定的で不活発である。

 

用語解説

(注1)スロー地震(Slow earthquake)
スロー地震は,通常の地震よりも断層面がゆっくりとした速度でずれ動く現象の総称で,低周波微動や超低周波地震,スロースリップなどがあります.

(注2)低周波微動(Low-frequency tremor)
通常の地震と異なり,P波(初期微動)・S波(主要動)の到達が不明瞭なイベントで,火山活動に伴って発生する火山性微動と,本研究で観測された非火山性の微動があります.非火山性の微動は,周期0.5秒(周波数2 Hz)程度に卓越する(通常の地震に比べ)低周波で微小な震動であり,数分から数時間継続します.

(注3)超低周波地震(Very low-frequency earthquake: VLFE)
10~20秒程度の非常に長い周期の波が卓越する特異な地震で,主に広帯域地震計によって捉えることができます.

(注4)スロースリップ(Slow slip)
地震波を出すことなく,数日間~数年程度の時間をかけてゆっくりと断層面がすべる現象で,GNSS(GPSなどの衛星測位システムの総称)や傾斜計など地殻変動観測によって検知されます.数ヶ月以上継続する長期的スロースリップと,長くて数週間程度の短期的スロースリップがあります.

(注5)海底地震計(Ocean bottom seismometer: OBS)
海底地震計には大きく分けて自己浮上式とケーブル式に分けられます.本研究で用いた自己浮上式海底地震計は,設置時は船上からの自由落下,回収時には船上からの音響通信による命令によって強制電蝕により錘を切り離した後,自身の浮力を利用して海面に浮上させる仕組みです.地震計(今回は,固有周波数4.5Hzもしくは1Hz),記録装置,精密時計,電池を直径17インチの耐圧ガラス球内に封入して海底に設置します.ガラス球の容量と浮力の関係から内部に入れることができる電池容量が限られ,標準で3ヶ月間程度観測が可能です.ガラス球の他に,地震研究所で開発された500mm もしくは 650mmの耐圧チタン球を用いた1年以上の長期観測が可能なタイプもあります.水深約6000mまで設置可能ですが,日本海溝など6000mを越える超深海でも観測可能な耐圧球を用いた海底地震計も近年開発されています.

 

参考文献

【1】    Obara, Journal of Geodynamics 52, 229-248 (2011).
【2】    Yamashita et al., Geophysical Research Letters 39, L08304 (2012).
【3】    Yamamoto et al., Tectonophysics 589, 90–102 (2013).
【4】    Miyazaki and Heki, Journal of Geophysical Research 106, 4305–4326 (2001).
【5】    八木・他, 地震 2, 139–148 (1998).
【6】    Yagi et al., Geophysical Research Letters 26, 3161–3164 (1999).
【7】    Houston et al., Nature Geoscience 4, 404–409 (2011).


 

*Science誌に掲載された研究成果です山下裕亮特任研究員らの論文がScienceに掲載

*UTokyo Researchで紹介されました:「移動する「低周波微動」をプレート境界浅部で初観測 プレート境界が時々ゆっくりとした速度でずれ動いている可能性

 

【プレスリリース】山下裕亮特任研究員らの論文がScienceに掲載

南海トラフ西方プレート境界浅部すべりについての新たな知見
~九州東方・日向灘で発生する浅部低周波微動の発見と移動特性の解明~

 

論文:Migrating tremor off southern Kyushu as evidence for slow slip of a shallow subduction interface (Abstract/Full text)

著者:Yusuke Yamashita, Hiroshi Yakiwara, Youichi Asano, Hiroshi Shimizu, Kazunari Uchida, Shuichiro Hirano, Kodo Umakoshi, Hiroki Miyamachi, Manami Nakamoto, Miyo Fukui, Megumi Kamizono, Hisao Kanehara, Tomoaki Yamada, Masanao Shinohara, Kazushige Obara

雑誌:Science  5月8日(金)(米国東部時間)掲載(doi: 10.1126/science.aaa4242)

 

 

概要
 東京大学地震研究所の山下 裕亮特任研究員, 山田 知朗助教, 篠原 雅尚教授, 小原 一成教授 と九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センターの清水洋教授らは,鹿児島大学・長崎大学・東京大学地震研究所・防災科学技術研究所との共同研究により, 九州東方・日向灘で実施された海底地震観測によって南海トラフ近傍のプレート境界浅部で発生する「低周波微動」の発見に成功し,その詳細な活動特性を初めて明らかにしました.その結果,プレート境界深部で発生する「低周波微動」と同様の移動現象を有することから,プレート境界浅部でも「スロースリップ」が発生している可能性があります.東北地方太平洋沖地震の発生以降,根本的な見直しが求められているプレート境界浅部すべりに関する理解を深める上で,非常に重要な新たな知見あり,海溝型巨大地震とそれに伴う津波の発生モデルの高度化に役立てられると期待されます.

本研究成果は, 5月8日(金)(米国東部時間)に米国科学雑誌「Science」に掲載されました.

 

背景
 プレート境界において海溝型巨大地震がたびたび発生する南海トラフ域では,スロー地震(注1)と呼ばれる,通常の地震とは異なる特徴を有する断層すべり現象が発生していることが,ここ10数年の間に明らかにされてきました(例えば,Obara, 2011).特に,プレート境界固着域の深部隣接側では,低周波微動(注2)・超低周波地震(注3)・スロースリップ(注4)という,3種類の異なるスロー地震が時空間的に同期して観測されており,プレート境界で数日間継続するゆっくりとしたすべり(スロースリップ)に伴って,数Hz(低周波微動)および数10秒(超低周波地震)に卓越する振動が生じたものと考えられています.フィリピン海プレートが沈み込みを開始する南海トラフ近傍でも,超低周波地震の存在が明らかにされてきましたが,震源域は陸域観測網から遠く離れているため,それ以外のスロー地震についてはほとんどわかっていませんでした.

九州東方の日向灘は南海トラフ巨大地震震源域の西方に位置し,M7級のプレート境界地震が数十年間隔で発生するなど,地震活動が活発な領域です.また,スロー地震の1つである浅部超低周波地震の活発な活動域としても知られています.東北地方太平洋沖地震以降,プレート境界浅部すべりに関する見直しが図られる中,日向灘ではプレート境界浅部すべりに関する知見は十分ではありませんでした.九州大学は,鹿児島大学・長崎大学・東京大学地震研究所と共同で,日向灘におけるスロー地震を含むプレート境界浅部すべり現象を明らかにすることを目的として,2013年4月~7月にかけて海底地震計(注5)12台を用いた観測を実施しました.海底地震計の設置・回収は,長崎大学水産学部練習船・長崎丸(842 t)第369次・374次航海にて行われました.(図1)

 

成果
 約3ヶ月の観測期間中,通常の地震とは異なるシグナルが2013年5月下旬から約1ヶ月間に渡り海底地震計で記録されました.波形の特徴や震源決定の結果(図2)から,このシグナルはプレート境界浅部で発生する低周波微動(浅部低周波微動)であり,日向灘では今回の海底地震観測によって初めて検出されました.浅部低周波微動は,これまでに紀伊半島沖で観測されたことがありますが(Obana and Kodaira, 2009),本共同研究グループは,浅部低周波微動活動の詳細や,他のスロー地震との関係など,いくつかの重要な特徴が明らかにし,プレート境界浅部すべりについての新たな知見を得ました.

本共同研究の重要な成果のひとつは,浅部低周波微動と浅部超低周波地震の活動の一致性を初めて明らかにしたことです.長周期の波動を生成する超低周波地震は,防災科学技術研究所による研究によって陸域観測網でも検知されていましたが,今回の海底地震計による直上観測により,浅部低周波微動の発生源を高精度決定することが可能となり,これら2種類のスロー地震がほぼ同様の活動パターンを示すことが確認できました(図3).このことは深部で観測されているスロー地震と共通しています.さらに,高精度決定された浅部低周波微動が明瞭な「震源移動」を示すことが分かりました.特に,1日数10kmの速度で移動する主要な活動と,その数倍ものスピードで逆方向に高速移動する2つのモード(図4)を有することが,深部低周波微動(例えば,Obara, 2011)と非常によく似ています.以上のように,本共同研究グループは,プレート境界の深部と浅部で発生するスロー地震の活動様式が共通していることが初めて明らかにしました.これまでの観測・シミュレーション研究によると,深部の低周波微動や超低周波地震は,数日間継続するスロースリップによって引き起こされると考えられるため,本共同研究で明らかとなった観測結果は,プレート境界浅部におけるスロースリップの存在を証明したものと考えられます.

海底地震計により詳細に求められた浅部低周波微動の移動経路と,通常の地震が発生する深さ10~30kmにおけるプレート境界の固着の程度を比較したところ,浅部低周波微動の活動域はプレート境界の固着が弱い領域の浅部側に限定されており,固着が強い領域を避けて移動していることが分かりました.すなわち,浅部低周波微動はプレート境界の固着の程度をよく反映した現象であると考えられ,固着が弱い領域の浅部側ではスロー地震活動が広範囲にわたり活発で,移動現象も明瞭に見られると考えられます(図5).また,本共同研究グループは,本研究領域に南東から沈み込んできている九州パラオ海嶺についても新たな知見を得ました.九州パラオ海嶺はフィリピン海プレート上の海底山脈で,その東西で地殻構造が大きく異なっていることから,地震時の高速滑りを止める「セグメント境界」の役割を果たすと考えられています(Yamamoto et al., 2013).しかし,本研究で検出された浅部低周波微動は,九州パラオ海嶺を乗り越えて移動していることが明らかになりました.このことは,スロー地震のようなゆっくりとしたすべりに対しては,九州パラオ海嶺がセグメント境界の役割を果たさないことを示しています.

 

本研究の意義と今後の展開
 本研究により新たに発見された浅部低周波微動の移動現象は,移動現象そのものが間接的にプレート境界浅部すべりを表していると考えられるため,スロー地震の発生メカニズム解明に寄与するだけでなく,巨大津波発生の可能性を有するプレート境界浅部すべりの理解や,将来発生が危惧される南海トラフ沿い巨大地震の発生モデル高度化への寄与など,学術上・防災上重要な成果です.また,浅部低周波微動の活動がプレート境界の固着の程度を反映した現象であるとする本研究グループの予測が正しければ,活動の時空間変化をモニタリングすることで,プレート間固着の変化を把握することが可能となり,将来的に巨大地震発生の切迫度評価への応用ができる可能性があります.

一方で,陸から遠く離れたプレート境界浅部で起こっている現象を詳細に把握するためには,海底における地震動と地殻変動の同時かつ長期にわたる観測を行うことが必要不可欠です.国内外の様々な場所でより多くの観測事例を重ね,異なる浅部スロー地震間の相互関係や活動の普遍性・地域性などを明らかにし,プレート境界浅部すべりについての理解をより一層深めていくことが期待されます.

 

謝 辞
海底地震観測においては,長崎大学水産学部練習船・長崎丸の共同利用枠を利用し,乗組員の皆さまに多大なるご協力を賜りました.また,宮崎県・鹿児島県の漁業関係者の皆さまには,観測実施に際しご理解・ご協力をいただきました.本研究は,「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画」の一環として行われました.

 

20150507fig1a

20150507fig1b

図1. (上)海底地震観測の概要.(左下)海底地震計の設置・回収を行った長崎大学水産学部練習船・長崎丸(842 t).(右下)投入直前の海底地震計.オレンジ色のハードハット内に観測機器を封入した耐圧ガラス球が入っている

 

図2.海底地震観測網(黄色の四角:数字は観測点番号)によって捉えられた浅部低周波微動の震央分布(丸印:色は発生日時を示す).オレンジの丸は小繰り返し地震(プレート境界で繰り返し発生するM2~4程度の地震:Yamashita et al., 2012),緑の太線は大陸プレート下に沈み込んでいる九州パラオ海嶺の外縁(Yamamoto et al., 2013),赤い矢印はフィリピン海プレートが大陸プレート下に沈み込む方向(Miyazaki and Heki,, 2001)を示している.グレーの領域は,それぞれ1968年日向灘地震,1996年10月・12月日向灘の地震で地震時に大きくすべった領域を示す(八木・他, 1998; Yagi et al., 1999).
図2.海底地震観測網(黄色の四角:数字は観測点番号)によって捉えられた浅部低周波微動の震央分布(丸印:色は発生日時を示す).オレンジの丸は小繰り返し地震(プレート境界で繰り返し発生するM2~4程度の地震:Yamashita et al., 2012),緑の太線は大陸プレート下に沈み込んでいる九州パラオ海嶺の外縁(Yamamoto et al., 2013),赤い矢印はフィリピン海プレートが大陸プレート下に沈み込む方向(Miyazaki and Heki,, 2001)を示している.グレーの領域は,それぞれ1968年日向灘地震,1996年10月・12月日向灘の地震で地震時に大きくすべった領域を示す(八木・他, 1998; Yagi et al., 1999).

 

図3.(A)海底地震計で記録された浅部低周波微動のエンベロープ波形例.2013年6月10日08時15分~09時15分の1時間分で,それぞれのトレースから立ち上がっている波群が浅部低周波微動である.一番上のKUSMは,陸上にある鹿児島大学の串間観測点(宮崎県の南端付近)の波形で,20倍に拡大している.(B)防災科学技術研究所F-netの広帯域地震計で記録された,(A)と同時刻における浅部超低周波地震の波形.周期10秒~50秒の波を通すフィルターをかけている.下から上に向かって南西諸島,九州,四国,近畿地方に位置する観測点の順で並んでいる.TKOFは宮崎県の高岡観測点,TASFは鹿児島県の田代観測点,KYKFは鹿児島県屋久島の永田観測点.(C)浅部低周波微動と超低周波地震の空間分布図(左)と1日あたりのイベントカウント数のグラフ(右).赤が浅部低周波微動,グレーが超低周波地震を示す.(A),(B)より浅部低周波微動と超低周波地震の発生タイミングはほぼ同じであり,(C)より震央位置はおおよそ等しく,1ヶ月間の活動度もよく一致していることから,浅部低周波微動と浅部超低周波地震が時空間的に同期して発生していることがわかる.
図3.(A)海底地震計で記録された浅部低周波微動のエンベロープ波形例.2013年6月10日08時15分~09時15分の1時間分で,それぞれのトレースから立ち上がっている波群が浅部低周波微動である.一番上のKUSMは,陸上にある鹿児島大学の串間観測点(宮崎県の南端付近)の波形で,20倍に拡大している.(B)防災科学技術研究所F-netの広帯域地震計で記録された,(A)と同時刻における浅部超低周波地震の波形.周期10秒~50秒の波を通すフィルターをかけている.下から上に向かって南西諸島,九州,四国,近畿地方に位置する観測点の順で並んでいる.TKOFは宮崎県の高岡観測点,TASFは鹿児島県の田代観測点,KYKFは鹿児島県屋久島の永田観測点.(C)浅部低周波微動と超低周波地震の空間分布図(左)と1日あたりのイベントカウント数のグラフ(右).赤が浅部低周波微動,グレーが超低周波地震を示す.(A),(B)より浅部低周波微動と超低周波地震の発生タイミングはほぼ同じであり,(C)より震央位置はおおよそ等しく,1ヶ月間の活動度もよく一致していることから,浅部低周波微動と浅部超低周波地震が時空間的に同期して発生していることがわかる.

 

図4.図2のN-S測線に沿った距離で投影した浅部低周波微動の時空間プロット.横軸は時間(日付)を表している.グレーのエリアは海底地震観測網の外側(南側)に位置するため,震源決定精度が悪い領域.全体として,南から北へ移動しており,1回目と2回目の移動の平均的な速度は1日あたり30~60 km.6月12日~14日にかけての逆方向(北から南)の高速移動はRTR(Rapid tremor reversal: Houston et al., 2011)と呼ばれる移動現象.
図4.図2のN-S測線に沿った距離で投影した浅部低周波微動の時空間プロット.横軸は時間(日付)を表している.グレーのエリアは海底地震観測網の外側(南側)に位置するため,震源決定精度が悪い領域.全体として,南から北へ移動しており,1回目と2回目の移動の平均的な速度は1日あたり30~60 km.6月12日~14日にかけての逆方向(北から南)の高速移動はRTR(Rapid tremor reversal: Houston et al., 2011)と呼ばれる移動現象.

 

図5.浅部スロー地震の移動と,通常の地震発生域(深さ10~30 km)のプレート間固着との関係についての解釈図.プレート間固着が弱い場所の浅部側では広範囲に渡って浅部スロー地震活動が活発で,明瞭な移動現象が見られる.一方,固着が強い場所の浅部側では活動が限定的で不活発である.
図5.浅部スロー地震の移動と,通常の地震発生域(深さ10~30 km)のプレート間固着との関係についての解釈図.プレート間固着が弱い場所の浅部側では広範囲に渡って浅部スロー地震活動が活発で,明瞭な移動現象が見られる.一方,固着が強い場所の浅部側では活動が限定的で不活発である.

 

用語解説

(注1)スロー地震(Slow earthquake)
 スロー地震は,通常の地震よりも断層面がゆっくりとした速度でずれ動く現象の総称で,低周波微動や超低周波地震,スロースリップなどがあります.

(注2)低周波微動(Low-frequency tremor)
 通常の地震と異なり,P波(初期微動)・S波(主要動)の到達が不明瞭で,火山活動に伴って発生する火山性微動と,本研究で観測された非火山性の微動があります.非火山性の微動は,周期0.5秒(周波数2 Hz)程度に卓越する(通常の地震に比べ)低周波で微小な震動であり,数分から数時間継続します.プレート境界の固着域の深部隣接域で発生する深部低周波微動は,日本で初めて発見され,その後世界各地の沈み込み帯でも発見されています.

(注3)超低周波地震(Very low-frequency earthquake: VLFE)
 10~20秒程度の非常に長い周期の波が卓越する特異な地震(通常の地震は1秒より短い周期の波が卓越する)で,主に広帯域地震計によって捉えることができます.日向灘は十勝沖と並んで活発な活動域の1つであり,日本近海以外の他の沈み込み帯でも近年発見されています.本研究で用いた海底地震計は短周期地震計(固有周波数4.5Hzもしくは1Hz)なので,浅部低周波微動と同期して発生した浅部超低周波地震は直接捉えることはできませんが,防災科学技術研究所の高感度地震観測網(Hi-net)に併設されている傾斜計による解析と,広帯域地震観測網(F-net)で記録された波形を海底地震観測データと比較することにより,両者の活動の一致性を確認することができました.

(注4)スロースリップ(Slow slip)
 地震波を出すことなく,数日間~数年程度の時間をかけてゆっくりと断層面がすべる現象で,GNSS(GPSなどの衛星測位システムの総称)や傾斜計など地殻変動観測によって検知されます.数ヶ月以上継続する長期的スロースリップと,長くて数週間程度の短期的スロースリップがあります.長期的スロースリップは主にプレート境界深部で発生しており,日向灘でも発生していて,規模は通常の地震に換算するとMw 7相当に達することもあります.プレート境界浅部の海溝軸付近におけるスロースリップは,陸から離れていて陸上観測点での地殻変動量が小さいため検知が難しく,観測例がほとんどありません.海底観測では,圧力観測によって上下方向の地殻変動を観測することで,スロースリップを検知することができます.

(注5)海底地震計(Ocean bottom seismometer: OBS)
 海底地震計には大きく分けて自己浮上式とケーブル式に分けられます.本研究で用いた自己浮上式海底地震計は,設置時は船上からの自由落下,回収時には船上からの音響通信による命令によって強制電蝕により錘を切り離した後,自身の浮力を利用して海面に浮上させる仕組みです.地震計(今回は,固有周波数4.5Hzもしくは1Hz),記録装置,精密時計,電池を直径17インチの耐圧ガラス球内に封入して海底に設置します.ガラス球の容量と浮力の関係から内部に入れることができる電池容量が限られ,標準で3ヶ月間程度観測が可能です.ガラス球の他に,500mm もしくは 650mmの耐圧チタン球を用いた1年以上の長期観測が可能なタイプもあります.水深約6000mまで設置可能ですが,日本海溝など6000mを越える超深海でも観測可能な耐圧球を用いた海底地震計も近年開発されています.

 

参考文献

  • Houston et al., Nature Geoscience 4, 404–409 (2011).
  • Miyazaki and Heki, Journal of Geophysical Research 106, 4305–4326 (2001).
  • Obana and Kodaira, Earth Planet Sci. Lett. 287, 168-174 (2009).
  • Obara, Journal of Geodynamics 52, 229-248 (2011).
  • 八木・他, 地震 2, 139–148 (1998).
  • Yagi et al., Geophysical Research Letters 26, 3161–3164 (1999).
  • Yamamoto et al., Tectonophysics 589, 90–102 (2013).
  • Yamashita et al., Geophysical Research Letters 39, L08304 (2012).

 

著者情報(和名)
山下 裕亮         九州大学大学院理学研究院 附属地震火山観測研究センター JSPS特別研究員PD
                         (現所属:東京大学地震研究所 附属観測開発基盤センター 特任研究員)
八木原 寛         鹿児島大学大学院理工学研究科 附属南西島弧地震火山観測所 助教
浅野 陽一         防災科学技術研究所 観測・予測研究領域 地震・火山防災研究ユニット 主任研究員
清水  洋         九州大学大学院理学研究院 附属地震火山観測研究センター センター長/教授
内田 和也         九州大学大学院理学研究院 附属地震火山観測研究センター 技術専門職員
平野 舟一郎     鹿児島大学大学院理工学研究科 附属南西島弧地震火山観測所 技術専門職員
馬越 孝道         長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科 准教授
宮町 宏樹         鹿児島大学大学院理工学研究科 附属南西島弧地震火山観測所 教授
中元 真美         九州大学大学院理学研究院 附属地震火山観測研究センター 大学院生
福井 海世         九州大学大学院理学研究院 附属地震火山観測研究センター 大学院生
神薗 めぐみ     九州大学大学院理学研究院 附属地震火山観測研究センター 大学院生
兼原 壽生         長崎大学水産学部 教授/練習船長崎丸 船長
山田 知朗         東京大学地震研究所 附属地震予知研究センター 助教
篠原 雅尚         東京大学地震研究所 附属観測開発基盤センター 教授
小原 一成         東京大学地震研究所 附属観測開発基盤センター 教授

 

*研究内容についての問い合わせ先
東京大学地震研究所
特任研究員 山下 裕亮
電話:03-5841-3832
E-mail:yamac@eri.u-tokyo.ac.jp


 

*UTokyo Researchでも紹介されました:『移動する「低周波微動」をプレート境界浅部で初観測 プレート境界が時々ゆっくりとした速度でずれ動いている可能性


 

2015年ネパールの地震

ウェブサイト立ち上げ:2015年4月27日

最終更新日:2015年4月30日

4月25日、ネパール中部でM7.8の地震が起きました。

 


(海半球観測研究センター: Wang Dun )

震源逆投影解析(back projection)の結果

Figure 1 Station map for the European regional array (left), China array (middle), and Hi-net (right). The Focal mechanism is determined by the GCMT. Solid and dashed lines show the epicenter distances and strikes of the nodal planes, respectively.
図1.観測点を示した地図。左からヨーロッパの観測網、中国の観測網、そしてHi-net。震源メカニズムはGCMTによる。実線・破線はそれぞれ、震央までの距離と節面の走行を示す。
Figure 2 Colorful squares indicate the timings and amplitudes of the stack with the maximum amplitude ate each time step (2s) derived from data recorded at three arrays in Europe, China, and Japan (Hi-net) filtered between 0.05 and 0.5 Hz. The gray and black circles show the previous seismicity and aftershocks (one day after the origin time). Gray dashed lines show the plate boundary between Indian plate and Eurasian plate. The red triangle indicates the location of capital city Kathmandu.
図2. 色のついた四角は、3つのアレイ観測網(ヨーロッパ、中国と日本(Hi-net))で記録されたデータに0.05 から0.5 Hzの間でフィルターをかけた波形データから得られた震源逆投影イメージの時間と振幅を2秒ごとに示したものである。灰色と黒の丸は地震前の地震活動と今回の地震の余震を表す(震源時の1日後)。灰色の破線はインドプレートとユーラシアプレートの境界を示す。赤い三角形は首都カトマンズ。

 


(災害科学系研究部門:纐纈一起・小林広明・三宅弘惠)

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応用地震学研究室のHPでも随時情報を更新しています。

最新情報はこちらへ:応用地震学研究室: 2015年ネパールの地震

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背景にあるテクトニクス

インドプレートは年間5~6 cmという速度で北上し,現在はユーラシアプレートに衝突している(図1).このプレートの相互作用が今回の地震を発生させただけでなく, ヒマラヤ山脈やカトマンズ盆地などの山岳地形を形成している.

collision1

collision2

collision3

図1.5千万年前(上)から現在(下)までのインドプレートの北上とユーラ シアプレートとの衝突(Courtesy: Dahal, R. K., 2002).

衝突の前面であるネパール・インド国境付近ではまさに衝突の状態にあるが(図1中・右),そこより北側のヒマラヤ山脈直下では過去に存在したテチス海(図1左)の海洋性プレートが沈み込んでいる.今回の地震はこの沈み込み部分で発生した.


 

今回の地震の震源断層

今回の地震の震央(破壊開始点)と6時間以内の余震を図2にプロットし,それらに基づいて165 x 105 kmの震源断層を推定した. これまで,ネパール地域の巨大地震は,浅い衝突部を中心に発生すると考えられていたが(たとえば図3),今回の地震の震源断層はその北側のやや深い部分(図1の沈み込み部分)にあり,従来の想定や研究結果(Sapkota et al., 2013など)とは異なっている.

図2.本震破壊開始点(橙色)・余震(黄色)の分布とそれらから推定された震源断層面(黒四角).
図2.本震破壊開始点(橙色)・余震(黄色)の分布とそれらから推定された震源断層面(黒四角).
図3.Avuac (2007)による過去の巨大地震の震源域.赤印はカトマンズを示す.
図3.Avuac (2007)による過去の巨大地震の震源域.赤印はカトマンズを示す.

 

震源インバージョンの結果

遠地実体波をデータとしてKikuchi and Kanamoriの方法により震源インバージョンを行った.その結果,Mw(モーメントマグニチュード)7.9の震源過程モデルが得られた.このモデルによるすべり分布(最大すべり4.3 m)を,余震分布等に重ね描いたものが図4である.大きなすべりの領域が余震の発生が少ない領域と重なるのは,過去の地震の経験則と調和的である.また,カトマンズが大すべり域にかかってしまっていることは当地の大きな被害に関連があると考えられる.

 

図4.震源インバージョンによる断層面上のすべり分布(矢印とグレイスケール).破壊開始点・余震は図2に同じ.白印はカトマンズを表す.
図4.震源インバージョンによる断層面上のすべり分布(矢印とグレイスケール).破壊開始点・余震は図2に同じ.白印はカトマンズを表す.


 (地震火山情報センター:鶴岡 弘)

W-phase ソースインバージョンによって決定されたモーメントテンソル解

世界中で観測された、この地震による地震波の記録からWフェーズを取り出し、Kanamori and Rivera (2008)の方法で解析した モーメントテンソルインバージョンによるメカニズム解です.

グローバルな観測点の地震波形を用いた処理結果

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自動アラインメント制御を用いた100m絶対長レーザー干渉計によるひずみ観測

高森昭光・新谷昌人(東大地震研)・森井亙(京大防災研)・寺田聡一(産総研)・

内山隆・大橋正健(東大宇宙線研)

Technologies 2014, 2(3), 129-142; doi:10.3390/technologies2030129

自動アラインメント制御を用いた100m絶対長レーザー干渉計によるひずみ観測

 

地震に伴う地殻の伸び縮みや、スロースリップ現象などによるゆっくりとした地殻変動を観測することによって、震源周辺の地殻の特性や地球内部の構造を知る手がかりを得ることができます。

地震研究所ではレーザー干渉計を応用したひずみ計を2種類開発して、岐阜県の神岡鉱山の地下約1000mに設置、観測を行っています(図1)。マイケルソン干渉計型の装置と、この研究テーマであるファブリ・ペロー型光共振器を用いた絶対長レーザー干渉計です。これらのレーザー干渉計では量子基準を用いて非常に安定で精度の高い観測を行うことができるのが特徴です(関連文献参照)。特にマイケルソン型干渉計では最高レベルの分解能での観測を行うことができます。ただし、測定できるのはひずみの変化量のみなので、長期の観測中のトラブルや、急激に大きなひずみ変化が生じた場合などには観測が不連続になってしまう可能性があります。一方、絶対長レーザー干渉計は、その名の示す通り、地下トンネル内の2点間の距離(約100 m)を、20~200 nm(1nmは10億分の1メートル)という精度で正確に測定することが可能です。これはマイケルソン干渉計よりもやや劣りますが、距離の絶対値をいつでも観測できるため、マイケルソン型の苦手とする長期間、急激な大ひずみの観測に適しています。

絶対長レーザー干渉計では、100 m離した2地点に向かい合わせに鏡を設置してファブリ・ペロー型光共振器を作り、そこにレーザー光と、このレーザーから少し周波数をずらした光(サイドバンド)を同時に共振させ、常にその状態を保つようにレーザー波長とサイドバンド周波数を制御します。すると、逆にサイドバンド周波数から共振器の長さの絶対値を求めることができます。サイドバンド周波数を測る基準としてルビジウム原子時計を用いることによって、長期にわたって安定で精度の高い観測を行うことが可能になっています。

この研究の特色は、鏡の傾き制御(自動アラインメント制御)を行ったことです。自動アラインメント制御を行うことによって、共振器の状態を一定に保ち、長期にわたる安定、連続した観測を実現するねらいがあります。制御システムを設計するために、鏡の傾きに対する透過光の強度変化を予測するモデルをつくり、透過光が極大となる傾きについて、前後の鏡の間の相関を定量的に明らかにしました(図2)。透過光量が最大となる最適点は1点のみ存在するので、常にその状態にとどまるように鏡の傾き制御を行いました。制御システムの実装にあたって独自の手法として機械変調法を採用し、前後2枚の鏡の縦・横方向への傾き4自由度を分離して検出することに成功しました(図3)。

絶対長レーザー干渉計によって観測された現象には、2007年の日本海地震(図4a)や能登地震(図4b)があります。このうち、能登地震では急激に大きなひずみ変化が生じたためマイケルソン型では観測が中断してしまいましたが、絶対長レーザー干渉計では地震前後の距離の絶対値を測ることによって、ひずみ量を正確に知ることができました。このように、マイケルソン型と絶対長レーザー干渉計を組み合わせることによって、お互いの強みを生かしたひずみ観測システムを構築することに成功しています。

図1:神岡鉱山内のレーザーひずみ計 地下1000m、長さ100mのトンネル内に設置されており、真空パイプ内に干渉計が組み込まれている。
図1:神岡鉱山内のレーザーひずみ計
地下1000m、長さ100mのトンネル内に設置されており、真空パイプ内に干渉計が組み込まれている。
図2:鏡の傾きに対する透過光強度の変化 縦軸、横軸はそれぞれ奥、手前の鏡の左右への傾きの大きさ。太い等高線は実測された強度変化、細い線は理論モデルの予測値を表す。
図2:鏡の傾きに対する透過光強度の変化
縦軸、横軸はそれぞれ奥、手前の鏡の左右への傾きの大きさ。太い等高線は実測された強度変化、細い線は理論モデルの予測値を表す。

 

図3:自動アラインメント制御システムの模式図(1自由度) 機械変調によって4自由度各鏡の傾きを分離、検出する。
図3:自動アラインメント制御システムの模式図(1自由度)
機械変調によって4自由度各鏡の傾きを分離、検出する。

 

fig4a

 

図4:2007年に観測された2つのイベント。日本海地震(a)は絶対長干渉計(青い点)とマイケルソン型干渉計(赤い線)の両方で一致するひずみ変化を観測できた。能登地震(b)では、マイケルソン型では観測が中断したが、絶対長干渉計では大きなひずみ変化の観測に成功した。
図4:2007年に観測された2つのイベント。日本海地震(a)は絶対長干渉計(青い点)とマイケルソン型干渉計(赤い線)の両方で一致するひずみ変化を観測できた。能登地震(b)では、マイケルソン型では観測が中断したが、絶対長干渉計では大きなひずみ変化の観測に成功した。

 

関連文献

Araya, A.; Takamori, A.; Morii, W.; Hayakawa, H.; Uchiyama, T.; Ohashi, M.; Telada, S.; Takemoto, S. Analyses of far-field coseismic crustal deformation observed by a new laser distance measurement system. Geophys. J. Int. 2010, 181, 127–140.

2015年2月17日08時06分三陸沖の地震

ウェブサイト立ち上げ:2015年2月17日

2015年2月17日08時06分頃三陸沖でM6.9の地震が発生し、気象庁より津波注意報が発表されました。


 

図1:2015年2月17日8時6分ごろ(日本時間)、三陸沖で地震(M6.9)が発生しました。 釜石市沖海底ケーブル式地震津波観測システムでは、この地震によると考えられる海面変動を観測しています。 津波計は、海溝側のTM1が陸から約76 kmの水深約1,600 mに、 陸側のTM2は約47 kmの水深約1,000 mの海底に設置されています。 図には、2011年3月11日に発生したM9の地震の破壊開始点の位置とその後に発生したM7.4の地震の震源を示しました。
図1:2015年2月17日8時6分ごろ(日本時間)、三陸沖で地震(M6.9)が発生しました。釜石市沖海底ケーブル式地震津波観測システムでは、この地震によると考えられる海面変動を観測しています。津波計は、海溝側のTM1が陸から約76 kmの水深約1,600 mに、陸側のTM2は約47 kmの水深約1,000 mの海底に設置されています。図には、2011年3月11日に発生したM9の地震の破壊開始点の位置とその後に発生したM7.4の地震の震源を示しました。
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図2 午前8時から30分間の津波計の観測記録です。8時6分過ぎに地震の振動がふたつの津波計に観測された後、8時11分ごろに沖合のTM1(青)に、約4分後に陸寄りのTM2(赤)に、約1cmの海面変動が記録されています。

 

 

 

 

 

(観測開発基盤センター)