JST日本・アジア青少年サイエンス交流事業(さくらサイエンスプラン)により、2015年7月5日-25日の期間、10名の参加者が来所しました。 10名の所属は、中国の北京大学 3名、中国科学院大学 1名、台湾の国立中央大学 2名、国立成功大学 1名、韓国の延世大学 1名、漢陽大学 1名、インドのインド工科大学カンプール校 1名です。
写真は仙台・三陸への巡検で、陸前高田「奇跡の一本松」を訪問した際の集合写真
JST: Sakura Science Plan,held from 5-25th July. 10 students from China(USTC/PKU), Taiwan(NCU), Korea(Yonsei.U/Hanyang.U) and India(IIT Kanpur)visited ERI.
Field trip to Tohoku: Picture taken in front of the “miracle pine tree” in Rikuzentakada.
科学研究費補助金(特別研究促進費)「2015年ネパール地震と地震災害に関する総合調査」(代表 愛媛大学大学院・教授 矢田部龍一)の一環として、余震観測の実施に当たり、東京大学地震研究所はネパール科学技術院(Nepal Academy of Science and Tecnology)と国際交流協定(MOU)を締結いたしました。
J. Geophys. Res. Solid Earth, 120, doi:10.1002/2014JB011522.
レシーバ関数解析による富士山の地下構造について
富士山は、日本の代表的な活火山であり、2つの大きな特徴をもっています。まず、マグマの噴出量が1000年で約5立方キロメートルで、日本の他の火山と比較すると数倍~数十倍大きくなっています。さらに、最近10万年間は主に玄武岩質のマグマを噴出しつづけています。
富士山がこのような性質を持つ理由のひとつとして、富士山が複雑な場所に位置していることが考えられます。富士山の下には、南からフィリピン海プレートが沈み込み、その下約100kmの深さでは、東から太平洋プレートが沈み込んでいます。そして、富士山下で沈み込んでいるフィリピン海プレートは普通の海洋プレートではなく、それ自体が太平洋プレートの沈み込みによってできた島弧で地殻が厚くなっています。この島弧は伊豆半島からマリアナ諸島まで続く火山列島で、伊豆-ボニン-マリアナ島弧(IBM弧)と呼ばれており、伊豆半島で本州と衝突し、地下深部へと沈み込んでいます。富士山のマグマは太平洋プレートが沈み込むことで生成されて上昇し、その途中でIBM島弧を通り抜けています。このような火山は非常に珍しく、地下深い部分から浅い部分へとマグマが供給される方法が他の火山と異なる可能性があります。従って、富士山のマグマの供給経路がどのようになっているのかを解明することにより、富士山の持つ2つの特異な点を説明することができるかもしれません。この研究は、富士山のマグマ供給系を解明するために、遠地地震波を使用するレシーバ関数解析によって、富士山下に沈み込むIBM島弧の構造を含めた地下構造を明らかにすることを目標にしています。
まず、2002-2005年に発生した遠地地震の中からSN比の良い221イベントを選び、富士山周辺の159個の地震観測点で観測された遠地P波の波形を使用して、レシーバ関数を計算しました。その後得られたレシーバ関数の振幅を様々な断面に投影し、速度の境界面の深さを見積もりました。図1は富士山を通る南北断面におけるレシーバ関数の振幅です。この図から、富士山下約40-60kmの深さに南北に沈み込む強い正の速度境界面があり、富士山直下でその境界面は不連続になっていることがわかります(図1の白線と白矢印)。また、富士山下で低周波地震が発生する領域の下、およそ25kmの深さに顕著な速度境界面があることもわかりました(図1の白線)。
沈み込む前のIBM弧の地下構造を調べた研究によると、IBM弧の下部地殻の下には地殻の成長に伴なって生成された苦鉄質な岩石の層が存在し、その層と最上部マントルの境界面は玄武岩質の火山島下で約35-40kmの深さにあります(例えばKodaira et al. 2007など)。そのため、図1で見つかった40-60kmにある速度境界面は最上部マントルの上面をあらわしていると考えることができます。また、この境界面が富士山直下で不連続になる場所を通過する場所(図1の白矢印)のレシーバ関数をスタックすると、約50kmの深さに負の振幅がみられたことから、この不連続の領域では上部マントルとの正の速度境界面が局所的に弱くなっていると考えられ、太平洋プレートから上昇してくるマグマが、この部分を通過して上昇している可能性があります。
次に富士山近傍の観測点で得られたレシーバ関数に対してグリッドサーチで地震波速度構造を求めたところ、富士山下13kmから26km付近に低速度層が必要であることがわかりました(図2)。先行研究の結果などと比較することにより、この低速度領域は富士山のマグマ溜まりをあらわしていると解釈しました。レシーバ関数の断面図で見つかった富士山下約25kmの正の速度境界面は、マグマ溜まりの底面をあらわしていると考えることができます。以上の結果をまとめて、富士山の地下は図3のようになっていると解釈しました。今後、レシーバ関数のインバージョン解析などをすることによって、さらに詳細な地下構造がわかるようになると、考えています。
図1: 南北断面におけるレシーバ関数の振幅値 図の赤色と青色がそれぞれレシーバ関数の正と負の振幅に対応します。白い点線がNakajima et al. [2009]によるフィリピン海プレートの上面位置、黒い実線は本研究で見つかった正の速度境界面の位置、白い矢印は本文で説明した速度境界の不連続領域を表しています。黒点、白点は気象庁が決定した通常の地震と低周波地震の震源位置を、また、紫の点はNakamichi et al. [2007]で求められた低周波地震の震源位置を示しています。図2:富士山近傍の観測点におけるグリッドサーチの解 富士山の南西部にあるFUJという観測点で得られたレシーバ関数を説明するため、S波速度構造をグリッドサーチによって決定しました。これにより、富士山の下約13-26kmに顕著なS波低速度領域が存在することがわかりました。図3:富士山の地下構造の解釈図 富士山の下には地殻が分厚いIBM弧が衝突し、沈み込んでいます。富士山の地下約10-15kmの深さでは火山性の低周波地震が発生しており、その下にあるマグマ溜まりの下面は約25-30kmにあると考えることができます。また、IBM弧の上部マントルの上面は富士山下で約50kmの深さにあり、富士山直下では速度の境界があいまいになっていることがわかりました。深部で発生したマグマはこの領域を通過して、浅い部分に上昇している可能性があります。
参考文献
Kodaira, S., T. Sato, N. Takahashi, A. Ito, Y. Tamura, Y. Tatsumi, and Y. Kaneda (2007), Seismological evidence for variable growth of crust along the Izu intraoceanic arc, J. Geophys. Res., 112, B05104, doi:10.1029/2006JB004593.
Nakajima, J., F. Hirose, and A. Hasegawa (2009), Seismotectonics beneath the Tokyo metropolitan area, Japan: Effect of slab-slab contact and overlap on seismicity, J. Geophys. Res., 114, B08309, doi:10.1029/2008JB006101.
Nakamichi, H., H. Watanabe, and T. Ohminato (2007), Three-dimensional velocity structures of Mount Fuji and the South Fossa Magna, central Japan, J. Geophys. Res., 112, B03310, doi:10.1029/2005JB004161.
【空振波形】 浅間山頂火口の東西観測点で捉えた,空振波形の先頭部.火口に近い方のKAW 観測点における波の立ち上がりは,8時50分47秒.同じ場所に設置されている熱赤外カメラの1分間隔の画像データで,最初に噴出が見られたのは,8時 51分であったことから,これが噴火開始時の空振であると考えられる.空振波形の見やすい、1~7 Hz でバンドパスフィルターをかけている. 火口の縁で 3 Pa 程度というのは,噴火に伴う空振としては非常に弱い.例えば,現在,東京の南の西之島火山が活動を続けているが,この活動による空振が,130 km 離れた父島でも 1 Pa 以上の振幅で計測されることがある.