J. Geophys. Res. Solid Earth, 120, doi:10.1002/2014JB011522.
レシーバ関数解析による富士山の地下構造について
富士山は、日本の代表的な活火山であり、2つの大きな特徴をもっています。まず、マグマの噴出量が1000年で約5立方キロメートルで、日本の他の火山と比較すると数倍~数十倍大きくなっています。さらに、最近10万年間は主に玄武岩質のマグマを噴出しつづけています。
富士山がこのような性質を持つ理由のひとつとして、富士山が複雑な場所に位置していることが考えられます。富士山の下には、南からフィリピン海プレートが沈み込み、その下約100kmの深さでは、東から太平洋プレートが沈み込んでいます。そして、富士山下で沈み込んでいるフィリピン海プレートは普通の海洋プレートではなく、それ自体が太平洋プレートの沈み込みによってできた島弧で地殻が厚くなっています。この島弧は伊豆半島からマリアナ諸島まで続く火山列島で、伊豆-ボニン-マリアナ島弧(IBM弧)と呼ばれており、伊豆半島で本州と衝突し、地下深部へと沈み込んでいます。富士山のマグマは太平洋プレートが沈み込むことで生成されて上昇し、その途中でIBM島弧を通り抜けています。このような火山は非常に珍しく、地下深い部分から浅い部分へとマグマが供給される方法が他の火山と異なる可能性があります。従って、富士山のマグマの供給経路がどのようになっているのかを解明することにより、富士山の持つ2つの特異な点を説明することができるかもしれません。この研究は、富士山のマグマ供給系を解明するために、遠地地震波を使用するレシーバ関数解析によって、富士山下に沈み込むIBM島弧の構造を含めた地下構造を明らかにすることを目標にしています。
まず、2002-2005年に発生した遠地地震の中からSN比の良い221イベントを選び、富士山周辺の159個の地震観測点で観測された遠地P波の波形を使用して、レシーバ関数を計算しました。その後得られたレシーバ関数の振幅を様々な断面に投影し、速度の境界面の深さを見積もりました。図1は富士山を通る南北断面におけるレシーバ関数の振幅です。この図から、富士山下約40-60kmの深さに南北に沈み込む強い正の速度境界面があり、富士山直下でその境界面は不連続になっていることがわかります(図1の白線と白矢印)。また、富士山下で低周波地震が発生する領域の下、およそ25kmの深さに顕著な速度境界面があることもわかりました(図1の白線)。
沈み込む前のIBM弧の地下構造を調べた研究によると、IBM弧の下部地殻の下には地殻の成長に伴なって生成された苦鉄質な岩石の層が存在し、その層と最上部マントルの境界面は玄武岩質の火山島下で約35-40kmの深さにあります(例えばKodaira et al. 2007など)。そのため、図1で見つかった40-60kmにある速度境界面は最上部マントルの上面をあらわしていると考えることができます。また、この境界面が富士山直下で不連続になる場所を通過する場所(図1の白矢印)のレシーバ関数をスタックすると、約50kmの深さに負の振幅がみられたことから、この不連続の領域では上部マントルとの正の速度境界面が局所的に弱くなっていると考えられ、太平洋プレートから上昇してくるマグマが、この部分を通過して上昇している可能性があります。
次に富士山近傍の観測点で得られたレシーバ関数に対してグリッドサーチで地震波速度構造を求めたところ、富士山下13kmから26km付近に低速度層が必要であることがわかりました(図2)。先行研究の結果などと比較することにより、この低速度領域は富士山のマグマ溜まりをあらわしていると解釈しました。レシーバ関数の断面図で見つかった富士山下約25kmの正の速度境界面は、マグマ溜まりの底面をあらわしていると考えることができます。以上の結果をまとめて、富士山の地下は図3のようになっていると解釈しました。今後、レシーバ関数のインバージョン解析などをすることによって、さらに詳細な地下構造がわかるようになると、考えています。
図1: 南北断面におけるレシーバ関数の振幅値 図の赤色と青色がそれぞれレシーバ関数の正と負の振幅に対応します。白い点線がNakajima et al. [2009]によるフィリピン海プレートの上面位置、黒い実線は本研究で見つかった正の速度境界面の位置、白い矢印は本文で説明した速度境界の不連続領域を表しています。黒点、白点は気象庁が決定した通常の地震と低周波地震の震源位置を、また、紫の点はNakamichi et al. [2007]で求められた低周波地震の震源位置を示しています。図2:富士山近傍の観測点におけるグリッドサーチの解 富士山の南西部にあるFUJという観測点で得られたレシーバ関数を説明するため、S波速度構造をグリッドサーチによって決定しました。これにより、富士山の下約13-26kmに顕著なS波低速度領域が存在することがわかりました。図3:富士山の地下構造の解釈図 富士山の下には地殻が分厚いIBM弧が衝突し、沈み込んでいます。富士山の地下約10-15kmの深さでは火山性の低周波地震が発生しており、その下にあるマグマ溜まりの下面は約25-30kmにあると考えることができます。また、IBM弧の上部マントルの上面は富士山下で約50kmの深さにあり、富士山直下では速度の境界があいまいになっていることがわかりました。深部で発生したマグマはこの領域を通過して、浅い部分に上昇している可能性があります。
参考文献
Kodaira, S., T. Sato, N. Takahashi, A. Ito, Y. Tamura, Y. Tatsumi, and Y. Kaneda (2007), Seismological evidence for variable growth of crust along the Izu intraoceanic arc, J. Geophys. Res., 112, B05104, doi:10.1029/2006JB004593.
Nakajima, J., F. Hirose, and A. Hasegawa (2009), Seismotectonics beneath the Tokyo metropolitan area, Japan: Effect of slab-slab contact and overlap on seismicity, J. Geophys. Res., 114, B08309, doi:10.1029/2008JB006101.
Nakamichi, H., H. Watanabe, and T. Ohminato (2007), Three-dimensional velocity structures of Mount Fuji and the South Fossa Magna, central Japan, J. Geophys. Res., 112, B03310, doi:10.1029/2005JB004161.
【空振波形】 浅間山頂火口の東西観測点で捉えた,空振波形の先頭部.火口に近い方のKAW 観測点における波の立ち上がりは,8時50分47秒.同じ場所に設置されている熱赤外カメラの1分間隔の画像データで,最初に噴出が見られたのは,8時 51分であったことから,これが噴火開始時の空振であると考えられる.空振波形の見やすい、1~7 Hz でバンドパスフィルターをかけている. 火口の縁で 3 Pa 程度というのは,噴火に伴う空振としては非常に弱い.例えば,現在,東京の南の西之島火山が活動を続けているが,この活動による空振が,130 km 離れた父島でも 1 Pa 以上の振幅で計測されることがある.
“Monitoring physical properties associated with tectonic processes”
The Earthquake Research Institute of the University of Tokyo (ERI) and the Southern California Earthquake Center (SCEC) organize an international summer school on Earthquake Science in September 4-8, 2015 at Lake Yamanakako, Japan. We encourage graduate students and postdocs in the field of the international community to participate.
Information
Date: September 4-8, 2015 Venue: Laforet Yamanakako, Yamanashi, Japan Scope: International summer school on Earthquake Science Top-level scientists for key-note lectures Encourage graduate students’ and postdocs’ presentations Full week poster sessions for discussion Participants: graduate students and postdocs (about 40 persons) Registration: Registration application will open from June 15, 2015 to June 28, 2015.
図1.海底地震観測網(黄色の四角:数字は観測点番号)によって捉えられた浅部低周波微動の震央分布(丸印:色は発生日時を示す).オレンジの丸は小繰り返し地震(プレート境界で繰り返し発生するM2~4程度の地震:Yamashita et al., 2012),緑の太線は大陸プレート下に沈み込んでいる九州パラオ海嶺の外縁(Yamamoto et al., 2013),赤い矢印はフィリピン海プレートが大陸プレート下に沈み込む方向(Miyazaki and Heki,, 2001)を示している.グレーの領域は,それぞれ1968年日向灘地震,1996年10月・12月日向灘の地震で地震時に大きくすべった領域を示す(八木・他, 1998; Yagi et al., 1999).
成果 約3ヶ月の観測期間中,通常の地震とは異なるシグナルが2013年5月下旬から約1ヶ月間に渡り海底地震計で記録されました.波形の特徴や震源決定の結果(図2)から,このシグナルはプレート境界浅部で発生する低周波微動(浅部低周波微動)であり,日向灘では今回の海底地震観測によって初めて検出されました.浅部低周波微動は,これまでに紀伊半島沖で観測されたことがありますが(Obana and Kodaira, 2009),本共同研究グループは,浅部低周波微動活動の詳細や,他のスロー地震との関係など,いくつかの重要な特徴が明らかにし,プレート境界浅部すべりについての新たな知見を得ました.
海底地震計により詳細に求められた浅部低周波微動の移動経路と,通常の地震が発生する深さ10~30kmにおけるプレート境界の固着の程度を比較したところ,浅部低周波微動の活動域はプレート境界の固着が弱い領域の浅部側に限定されており,固着が強い領域を避けて移動していることが分かりました.すなわち,浅部低周波微動はプレート境界の固着の程度をよく反映した現象であると考えられ,固着が弱い領域の浅部側ではスロー地震活動が広範囲にわたり活発で,移動現象も明瞭に見られると考えられます(図5).また,本共同研究グループは,本研究領域に南東から沈み込んできている九州パラオ海嶺についても新たな知見を得ました.九州パラオ海嶺はフィリピン海プレート上の海底山脈で,その東西で地殻構造が大きく異なっていることから,地震時の高速滑りを止める「セグメント境界」の役割を果たすと考えられています(Yamamoto et al., 2013).しかし,本研究で検出された浅部低周波微動は,九州パラオ海嶺を乗り越えて移動していることが明らかになりました.このことは,スロー地震のようなゆっくりとしたすべりに対しては,九州パラオ海嶺がセグメント境界の役割を果たさないことを示しています.
図2.海底地震観測網(黄色の四角:数字は観測点番号)によって捉えられた浅部低周波微動の震央分布(丸印:色は発生日時を示す).オレンジの丸は小繰り返し地震(プレート境界で繰り返し発生するM2~4程度の地震:Yamashita et al., 2012),緑の太線は大陸プレート下に沈み込んでいる九州パラオ海嶺の外縁(Yamamoto et al., 2013),赤い矢印はフィリピン海プレートが大陸プレート下に沈み込む方向(Miyazaki and Heki,, 2001)を示している.グレーの領域は,それぞれ1968年日向灘地震,1996年10月・12月日向灘の地震で地震時に大きくすべった領域を示す(八木・他, 1998; Yagi et al., 1999).
今回の地震の震央(破壊開始点)と6時間以内の余震を図2にプロットし,それらに基づいて165 x 105 kmの震源断層を推定した. これまで,ネパール地域の巨大地震は,浅い衝突部を中心に発生すると考えられていたが(たとえば図3),今回の地震の震源断層はその北側のやや深い部分(図1の沈み込み部分)にあり,従来の想定や研究結果(Sapkota et al., 2013など)とは異なっている.
遠地実体波をデータとしてKikuchi and Kanamoriの方法により震源インバージョンを行った.その結果,Mw(モーメントマグニチュード)7.9の震源過程モデルが得られた.このモデルによるすべり分布(最大すべり4.3 m)を,余震分布等に重ね描いたものが図4である.大きなすべりの領域が余震の発生が少ない領域と重なるのは,過去の地震の経験則と調和的である.また,カトマンズが大すべり域にかかってしまっていることは当地の大きな被害に関連があると考えられる.