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3.8 Center for High Energy Geophysics Research (CHEER)

光電子増倍管検査室.一度に100本の光電子増倍管の検査を行うことができる.

(a)電磁成分検出用の宇宙線検出器の模式図.(b)室内での水タンクを用いた較正試験の様子.(c)有村観測坑道における電磁成分強度(大気効果補正後)の時系列と48時間雨量の比較.(d)線形回帰分析の結果.

図3.8.6

a)クレーター上空、b)東の空、c)南西の空から見た、伊豆大室山スコリア丘の3次元密度分布。赤く透明度が低いこころほど高い密度を意味する。オレンジ色の点は観測器の位置を表す。緑色の数字1は溶結した主火道、2A, 2B, 2Cは噴火終盤に主火道から山体に貫入したマグマが冷えて固まったもので、このうち西に伸びた2Aは小さな溶岩流を作り、南南東に伸びた2Bは山腹の小火口を形成した。3は岩室山溶岩ドームである。この図はhttps://www.eri.u-tokyo.ac.jp/CHEER/data/omuro3ds/ で公開されている。

図3.8.5

桜島火口近傍において得られたミュオグラフィ密度(黒丸)、SAR変位(実線)、噴火頻度(棒グラフ)の比較。南岳火口(a)、昭和火口(b)、それ以外の場所(c)が比較されている。

図3.8.4

(左) 25 m から 30 mの石堂断層ドリリングサンプル.29.8 m から29.9 mの間に亀裂があり,その上下で岩相の変化が見られる.(中)新型ボアホール用ミュオン検出器.荷電粒子を光信号に変換する.検出器の直径は76mmであり,この検出器を外径86mmの耐圧容器に挿入する.(右)光検出器及び電子回路のアナログフロントエンド.検出器からの光信号を電気信号に変換する.

解析によって得られた断層形状.黒線はボアホール(直径10mに拡大),灰色は地表面の地形,赤の面は低密度領域の上端・下端を表す.低密度領域の幅は140mという値が得られた.

TS-HKMSDDがとらえた気象津波。オレンジ線、緑線はそれぞれ先行研究で得られている東京湾並びにレマン湖における減衰曲線を示している(上)。今回設置したTS-HKMSDDの位置。 Muと示された部分がTS-HKMSDDが設置された場所を示す(下)。

 

3.8.1 素粒子検出デバイスの開発研究

(a)ミュオグラフィ検出器 - 並列ミュオグラフィの強化

2006年に地震研究所が火山内部を世界に先駆けて描き出して以来,ミュオグラフィは急速に世界に広まりつつある.ミュオグラフィとは,宇宙線に含まれる高エネルギー素粒子・ミュオンの強い透過力を利用して,キロメートルを超えるサイズの巨大物体内部を透視し,その内部の密度構造を可視化する技術である.これまで第2世代システムのノイズ低減能力を強化することで2013年に薩摩硫黄島で発生した噴火において,マグマの昇降をとらえることに成功しているが,薩摩硫黄島は小規模火山として位置付けられるため,ミュオグラフィを桜島のような中規模火山に適用しようとすると,より厚い岩盤を通り抜けることができる極めて低強度のミュオンを一定時間内にできるだけ多く記録する必要がある.そのために2014年に設置された桜島ミュオグラフィ観測所(SMO)を観測装置の並列化により継続的に強化してきた.

2015年から2017年にかけて学術交流協定,知的財産協定など種々の協定を締結してきたハンガリー科学アカデミーウィグナー物理学研究センターとの協働により,2017年には軽量高解像度ミュオグラフィ観測システム(Multi-wire-proportional-chamber-based Muography Observation System; MMOS)を開発した.これは軽量でありながらも第2世代システム以上の高いノイズ低減能力と従来技術を一桁以上凌駕する解像力を実現した.ただ,有感面積が不十分であったため,2018~2019年にかけて口径を順次拡大し,現在では5.9㎡となっている.2019年度はこれをさらに拡大し,2020年に入るまでに総有感面積は9㎡に到達した.また,2019年度には並列化に起因する故障率を低減する目的で複数台の観測装置すべての通信系統を無線化することで通信故障率が軽減されたが,2020年度は電気系統においても,安定運用を妨げる要因があることが明らかとなり,その対策を講じている.

一方,並列化の段階で得られたデータについても解析・解釈が進んだ.2017年終わりから2018年初めにかけて桜島における噴火が昭和火口から南岳火口へと推移したが,それに合わせて観測された昭和火口底直下における直径200m程度の密度上昇現象について考察を行い,それがプラグ様の物体であることが分かった.2020年度も引き続き口径を拡大することで時間分解能を上げ、 時系列画像を取得していった結果、南岳火口下にプラグ形成を示唆する高密度構造物の成長が見られた。このプラグは南岳火口の活発化に伴って形成されつつあるものであることが想定されるが,今後更に時間分解能を上げた解析によって,切迫性評価にどう活用できるか引き続き火山学の各分野の研究者とさらに連携して検討していく.

2022年度までに大口径化(約10平米)を達成した多線比例係数管方式の高解像度軽量ミュオグラフィ観測装置を用いることで桜島において低雑音の連続観測を行うことができるようになったため、桜島において火口近傍の密度構造の時系列変化をミュオグラフィを用いて高精度に視覚化が可能となった(図3.8.1)。

(b)ミュオグラフィの海への展開

東京大学国際ミュオグラフィ連携研究機構(主管部局地震研究所)は、同大学生産技術研究所、大学院新領域創成科学研究科、および九州大学、関西大学、シェフィールド大学、英国科学技術施設会議ボルビー地下実験施設、ウィグナー物理学研究センター、日本電気株式会社と共同で、世界初となる海底ミュオグラフィセンサーアレイの一部を東京湾アクアライン海底トンネル内部に設置した。

東京湾の海水を貫通し、海底下の東京湾アクアライン海底トンネルにまで到達した素粒子ミュオンは、センサーモジュールにて検知され、TS-HKMSDDの中央に位置するデータ収集センターにて記録される。この記録されるミュオン数の時間変化を測定することにより、TS-HKMSDD上部に位置する海水の動きや海底岩盤内部の変化をイメージングすることが可能となる。

このTS-HKMSDDを用いて2021年台風16号通過に伴う、気象津波のミュオグラフィ観測に世界で初めて成功した(図3.8.2)。気象津波のメカニズムは完全には解明されていないが、従来研究により、津波の伝搬速度と大気擾乱に伴うパルスの移動速度が一致するときに大気のエネルギーが効果的に海水に与えられ、振動を励起されることが示唆されている。

台風16号通過に伴う気圧の低下が南西から北東に向けて移動していることが確認され、その平均速度は伊豆半島南端の石廊崎から横浜までは時速40 km、横浜から水戸までは時速60 kmであることがわかった。一方、東京湾の深さが15〜20mであることを考慮すると、津波の伝搬速度を理論的に計算することが可能であり、その速度は時速44〜50 kmである。すなわち、台風16号の通過に伴う気圧パルスの移動速度と津波の伝搬速度はほぼ等しかったことがわかる。従って、上述した従来研究による示唆から東京湾で気象津波が励起された可能性が高い。図2には、TS-HKMSDDがとらえた振動を示す。周期約3時間の減衰振動であることが測定された。東京湾は浅く、深度がより大きな湖沼、例えばレマン湖などと比べて早く振動が減衰することが先行研究で報告されている。本研究で得られた振動の時系列変化を見てもレマン湖(緑線)と比べて東京湾(オレンジ線)の振動は、早く減衰することを確認した。

Fig.6

図3.8.6 月面に衝突した一次宇宙線が生成する,上向き電子陽電子の,月面上空100kmにおけるエネルギースペクトル.太線・細線は,月面の組成をケイ素・氷とした場合である.密度は2g/ccとしてある.組成の違いによって,月面から上方に放射される二次宇宙線のスペクトルが変化することがわかる.