部門・センターの研究活動」カテゴリーアーカイブ

3.11.3 活動的火山における多項目観測研究

地震研究所では,文部科学省科学技術・学術審議会が5年ごとに関係大臣に建議する研究計画に基づき,火山噴火予測に関連する観測研究を全国の大学・研究機関と協力し,その中核となって実施している.この研究計画は,その前身の火山噴火予知計画から約半世紀の間,その内容を学術の進歩に合わせて変更しながら継続してきた.火山噴火は発生すると大きな被害をもたらすが,発生頻度が低いため,長期の観測データの蓄積が不可欠であり,この50年弱のうち,特に最初の約20年間は火山観測網の充実が図られ,さらに研究者及び観測を支える技術職員が増員され,日本の火山学の進展に大きく貢献してきた.最新の研究計画は2019年1月に建議され,2019年4月から5年間に渡り実施中の「災害の軽減に貢献する地震火山観測研究計画(第2次)」である.この計画は前計画に引き続き火山災害の軽減を目指して,観測,実験,理論の各手法を用いて火山現象の解明とその成果に基づく火山噴火予測に関する研究行なうことになっている.現建議において火山の研究に関して特筆すべき点として2つ挙げることができる.一つは,火山噴火予測の精度向上を目指すために火山活動推移モデルの構築を重点的研究とした点である.もう一つは,2014年9月に発生した御嶽山噴火で多くの犠牲者が出たことを重視し,観光地となっていて登山客や観光客が火口近傍まで訪れる火山については,小規模な噴火であっても大きな災害を引き起こす火山噴火であるとして「高リスク小規模火山噴火」と位置づけ,地球物理学観測だけでなく,地球化学,地質学,史料研究を含めて包括的な研究を実施することを打ち出した点である.

当センターにおいては,長年継続して整備されてきた火山観測網やそれを支えるシステムの維持・強化を担っており,火山噴火予知研究センターをはじめとする他のセンター及び部門と協力し,観測に基づく火山噴火予測研究を実施している.火山噴火予測においては,噴火発生時の諸現象を精度良く捉えて噴火現象に関する新たな知見を得ることも重要であるが,火山噴火の準備段階は往々にして数十年を超える長期にわたることもあることから,長期にわたり観測を継続し,噴火に至るまでの火山内部のわずかな変化を捉え,その原因を科学的に解明することも極めて重要である.このようにして得られた火山活動に関する知見を火山噴火予測に活かすことが,火山噴火予測研究の重要な目的である.従来の火山噴火予測は,噴火に先行する現象に基づく経験則に大きく依存していた.火山噴火前のさまざまな火山現象を科学的に解明することによって,より普遍的かつ科学的な火山噴火予測に発展させることを目指すべきであり,そのためには精度の高い各種観測データを長期に安定して蓄積することが重要である.

本研究所では,これまでの「火山噴火予知計画」で観測網が整備された浅間山,伊豆大島,富士山,霧島山,三宅島の5火山を中心に長期的・継続的な観測を行っている.これらの火山においては,地震・地殻変動・全磁力変化・空振観測・熱映像・可視画像等の多項目の観測を行い,噴火に伴う諸現象,噴火前に起こる前兆現象を捉え,その物理・化学過程を明らかにする研究を実施している.また,この他の火山においても,他大学・機関との協力し様々な観測を実施している.ここでは主として,それぞれの火山における観測の現状と観測研究の目的や意義について述べる.

(1)浅間山

浅間山では,広帯域地震(17点),短周期地震(2点), GNSS(13点),傾斜(5点),全磁力(3点),空振(1点),熱映像(1点),可視画像(3点)の多項目観測を行い,浅間火山観測所と小諸火山観測所を拠点として観測網の維持管理を行っている.山頂付近のデータは無線LANによる中継あるいは光ファイバーを経て浅間火山観測所に集約され,本研究所までインターネット高速回線を用いて伝送されている.また,観測点の通信状況などに応じて 衛星回線や有線回線,携帯データ通信を利用したデータ転送も行われている.

浅間山の最近の活動としては,山頂付近の観測網が増強されつつある中で発生した2004年の中規模噴火,2009年と2015年の小規模噴火,2019年8月の極小規模噴火を挙げることができる.2004年噴火では,噴火前に浅間山西方深部にあるマグマ溜まりの増圧を示す地盤変動がGNSS観測等で捉えられた.また,噴火前に山頂付近で発生する長周期の地震動(VLP)の発生様式が変化するなどの現象が捉えられた.さらに,VLPの波形解析から推定される火道浅部の体積変化と火山ガス(SO2)放出量の相関の高さから,VLPは火山ガス放出の指標となると考えられている.一方,2019年8月に発生した小規模噴火では,2004年の中規模噴火や2009年と2015年の小規模噴火とは異なり,これまで知られていた噴火に先行して現れる明瞭な先行現象は見られなかった.しかし,火口付近のデータを精査すると,火口の西側に設置している赤外カメラの解析から,噴火の約10日前の7月27日から火口底の温度が急激に低下し,それが噴火発生まで継続していたことがわかった.また,その間,火口直下浅部を震源とするBL型地震の発生頻度が低下していること,火口直下を震源とするBH型地震については7月末ごろから明らかに活動度が上昇していたことがわかった.これらのことから,2019年8月噴火は他の噴火のように深部からのマグマの供給により発生するものではなく,深部から火口に通じていた火山ガスの通路が一時的に閉塞して噴気が火口から放出されなくなり閉塞した火道に蓄積した火山ガスが岩塊を吹き飛ばした現象であると推定された.この結果は,火口近傍での多項目観測の重要性を如実に示すものである.

(2) 伊豆大島

現在,伊豆大島には24点(うち4点は広帯域地震計を併設)からなる地震観測網と14点からなるGNSS観測網によって地震及び地盤変動観測を行っている.これらの観測網は,従来の地震及び地盤変動観測機器が老朽化したため,2003~2004年に一気に更新したものである.この更新以降期間にわたり精度の高い地震及び地盤変動の観測データを蓄積してきたが,近年これらの機器の老朽化が再び目立つようになってきた.そのため,最新の観測機器に更新する作業を2018年度から実施し,地震観測ロガーやGNSS受信機の更新を進めている.電磁気的観測については,プロトン磁力計による全磁力の連続観測に加え,能動的な比抵抗構造探査手法の一つである ACTIVE観測や長基線の電位差を計測するネットワークMT観測を実施している.

これらの各種観測データは,様々な手段を用いて地震研究所に集約されている.通信会社による有線回線サービスを利用することのできる観測点では高速で信頼性の高い光回線網を,有線回線サービスを利用することが難しいが携帯通信網が利用可能な観測点では4G携帯電話回線網を用い,そのいずれも利用できない観測点では無線LAN装置を設置してデータ伝送を行っている.有線回線網ほど安定的なデータ伝送が行われない携帯電話回線網を利用した観測点では,自動的に最適速度でのデータ送信や再送を行うACTプロトコル(当研究所で開発)を用いて,人手をかけず安定的なテータ収集を行っている.

伊豆大島では,1986-87年の前回の噴火から35年以上が経過している.明治以降の平均噴火間隔が36~38年であることから,次の噴火が近づいており,現在は噴火に至る諸現象が地下で進行していると考えられる.噴火前に地下で起こる諸現象を捉え,それを理解することにより,噴火の発生時,規模,噴火様式を予測することが重要である.

科学的な記録が残っている伊豆大島のこれまでの噴火では,他の火山と異なり噴火初期(発生時)には,火山性微動は発生するものの明瞭な地震活動の高まりが見られないとされている.これは,伊豆大島のマグマが低粘性の玄武岩に富むものであるため,マグマに含まれる火山性ガスが噴火前から効率的にマグマから放出され,噴火初期には比較的爆発性の低い噴火様式になると考えられる.実際,前回1986年の噴火ではマグマに先行してそこに含まれる高温の火山ガス等の揮発性成分が地下浅部に上昇し,地中の温度上昇による熱消磁,地下の電気伝導度の変化が噴火に前に起こり,その後,火山性微動が発生してその振幅が大きくなったのち,マグマが火口に満たされる山頂噴火に至ったと考えられている.その間,顕著な地震活動の増加は見られなかった.そのため,伊豆大島では来るべき噴火活動に備えて,山頂火口周辺での広帯域地震観測網の増強,土壌火山ガス連続観測,空振観測網の整備も検討されている.2018年9月には,三原山の火口近傍に,理学研究科火山化学研究施設と共同で土壌火山ガス連続観測装置を設置した.また,カルデラ内にある三原西観測点の深度1000m井戸については,マグマに先行して上昇してくる揮発性成分(火山ガス)を捉えるため,観測装置の設置を模索している.

また,カルデラ域において実施したドローン等による空中磁気探査データの解析を進めるとともに, 文部科学省委託事業「次世代火山研究推進事業」の課題B「先端的な火山観測技術の開発」サブテーマ4「火山内部構造・状態把握技術の開発」により,カルデラ内に地震観測点を5カ所新設し,観測能力の向上をはかっている.

次回の噴火の発生初期も前回と同様な経過をたどる可能性が高いと考えられるが,現時点では熱消磁や火山性微動の発生は観測されておらず,噴火が切迫している証拠は見つかっていない.今後も,これまでに蓄積された精度の高い地震及び地盤変動等の観測データを併せて解析することにより,噴火の準備段階として山体内部で進行する現象の理解を目指す.

(3) 富士山

富士山では9点からなる地震観測網を主体とした観測を行っている.この内4点は地表設置型広帯域地震計,3点はボアホール型広帯域地震計である.ボアホール観測点には3成分歪計,高感度温度計,傾斜計も設置されている.また全磁力観測も継続している.他の火山同様,富士山に於いても観測点の条件に応じて様々な伝送方式が用いられている.

富士山は,三宅島や伊豆大島に比べて噴火間隔が長く,1707年の宝永噴火以降,噴火していない.しかしながら,2000年10~12月及び2001年4~5月に深部低周波地震が多発し,火山活動の活発化が懸念された.深部低周波地震は火山活動の活発化に先行して発生する例が多いが,その発生機構については未だ解明されていない.そのため,広帯域地震計を主体として,長周期振動を捉えることに重点を置いて観測を行っている.2001年以降,深部低周波地震の活発化は見られない.今後の発生と,その後の火山活動の変化を見据えて,観測を継続している.

(4) 霧島山

地震研究所は新燃岳周辺を含む広域で地震観測(17点),GNSS観測(3点),全磁力観測(1点),空振観測(3点)を行っている.これらの観測は,火山噴火予知研究センター・鹿児島大学などと協力して進めている.

霧島山新燃岳では2011年1月に爆発的な噴火が発生した.この噴火に先立ち2009年12月頃から新燃岳南西数㎞,深さ約8㎞にあると推定されているマグマ溜まり(以下,深部マグマ溜まり)に徐々にマグマが蓄積したことが明らかになった.噴火時にマグマの噴出により一挙にマグマ溜まりが収縮し,その後は2011年10~11月頃までマグマの蓄積が続き,一旦停止した.これに呼応して,新燃岳の活動は一旦休止した.この深部マグマ溜まりの膨張は,霧島山全体の大局的な活動の重要な指標となっていることが徐々に明らかになっている.

2013年8月から2014年10月までは再度深部マグマが膨張し,その後膨張は停止した.それに呼応するかのように,2014年8月以降えびの高原の硫黄山から韓国岳に掛けて地震活動が活発化し,火山性微動の発生とそれ同期する傾斜変動も観測された.その後この地域の活動は一旦低下したが,2015年8月頃より硫黄山周辺で傾斜変動を伴う火山性微動が度々発生するようになり,2016年1月には顕著な地表高温域の拡大と噴気の増大が見られるようになった.

2017年7月からは深部マグマ溜まりが再度膨張を始め,10月11日に新燃岳で小規模な噴火が発生した.噴火に先立ち傾斜変動を伴う低周波の微動が観測されたほか,噴火中に様々な火山性微動が火口近傍の複数の広帯域地震観測点で観測された.この活動は約1ヶ月程度継続した後一旦活動が低下した.2018年3月1日から3度目の噴火活動が再開し,3月8日には爆発的な噴火に移行し,1週間程度活動が継続した.その後新燃岳の活動は小康状態になっている.

硫黄山の活動は2017年9月以降低下していたが,2018年3月初旬に新燃岳が3度の爆発的噴火を起こした直後から再度活発化し,2018年4月19日に硫黄山に隣接するえびの高原で水蒸気噴火が発生した.

一連の活動を通じ,霧島山では,深部マグマだまりの膨張が引き金になって,新燃岳のマグマ噴火,硫黄山の水蒸気噴火を引き起こしていることが明らかになってきた.新燃岳の噴火と硫黄山の熱水活動や水蒸気噴火は,いずれも同じマグマ溜まりにマグマが供給された後に発生しており,共通のマグマの供給システムで駆動されていると推定される.即ち,霧島山は多くの火口を有する山容が示すように複雑なマグマや高温の火山ガス供給システムが地下に存在すると考えられ,新燃岳の噴火及び硫黄山付近での熱水活動や水蒸気噴火は,一連の火山活動として捉えられる.霧島山の一連の活動は噴火現象の推移の複雑さを理解する上で大変興味深い事例と言える.今後も観測を継続し,噴火活動の推移の理解につながる研究を目指す必要がある.

(5) 三宅島

三宅島では,2000年噴火後は2010年頃まで山体収縮が続いていたが,それ以降山体膨張に転じた.これは,次の噴火に向けて,マグマ溜まりでのマグマの蓄積が再開したことを示している.また,2000年以前はそれほど地震活動が活発でなかったが,噴火後,大きく崩落した火口南側直下浅部を震源とする地震が非常に多く発生している.しかも,その活動度は季節により大きく変動していることが明らかになった.

2000年噴火直後と最近の地下の比抵抗構造の時間変化を研究するため,2012年と2019年にMT観測を実施した.これは,地下の温度変化,地下水の回復過程に着目して,今後の火山活動を評価し,その推移を解明するための基礎となるデータである.また,無人ヘリコプターにより,中腹の周回道路内側全域と火口周辺において空中磁気測定を2014年5月,2016年11月,2021年3月に実施した.磁化構造の変化から,火口直下では帯磁傾向が続いており,地下浅部では前回2000年噴火から地温の低下が継続していると推定されている.今後も,定期的にこのような観測を繰り返し,時間推移を捉えることが重要である.

三宅島では近年の噴火周期が20年程度であることから,次回の噴火が遠くないと思われる.このような火山における噴火前後で発生するマグマや地下水の移動とそれに起因する諸現象を捉えることが,火山噴火現象の解明と噴火予測に重要であることから,文部科学省委託事業「次世代火山研究推進事業」の課題B「先端的な火山観測技術の開発」サブテーマ4「火山内部構造・状態把握技術の開発」で,他機関の観測点が少ない火口近傍に広帯域地震観測点を3点,GNSS観測点を2点設置して観測能力の向上をはかった.次回の噴火が同じマグマ溜まりが活動して発生するかは大変興味がある問題で,これらの知見の積み重ねを経て,次回の噴火の予測や噴火現象の理解の深化を目指している.

3.11.2 海域における観測研究

(1) 災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)による海底観測

(1-1) 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震震源域の海底モニタリング観測

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(以下東北沖地震)の発生時には震源域の一部に海底地震計が設置されており,本震発生直後から海底地震計を追加設置し余震観測を実施した.その結果,本震時に大きな滑りが推定されている本震震源付近では本震直後から余震活動が低調であり,地震活動の様式が変化したことがわかった.その後2011年9月からは主に長期観測型海底地震計を用いて震源域における海底モニタリング観測を長期にわたって実施している.

地震時の滑りが大きかった東北沖地震震源域本震付近における長期の地震モニタリング観測はプレート間固着の変化などを把握するために重要である.そこで2013 年9 月に長期観測型海底地震計を宮城県・岩手県沖に展開し,モニタリング観測を2014年10月まで実施した.さらに,2015年5月には震源域最北部の青森県沖に長期観測型海底地震計を設置して海底地震観測を2016年5月まで実施した.また,2014年10月から2016年10月まで科学研究費助成事業と連携して広帯域海底地震計を含む小スパンアレイと長期観測型海底地震計による宮城県沖における海底モニタリング観測を実施した.2016年10月から2018年11月までは科学研究費助成事業と連携して小スパンアレイによる観測を福島県沖において実施した.2019年7月から2020年10月にかけては科学研究費助成事業と連携して北海道えりも岬沖において小型広帯域海底地震計と長期観測型海底地震計を用いた小スパンアレイ観測を実施した.2020年10月には科学研究費助成事業と連携して岩手県沖において広帯域海底地震計を含む小スパンアレイと長期観測型海底地震計による海底モニタリング観測を開始し,2022年1月まで観測を行った.さらに岩手県沖では2022年5月および11月に小型広帯域海底地震計と長期観測型海底地震計を設置してモニタリング観測を行っている.なお,これらの観測研究は,北海道大学,東北大学,京都大学,鹿児島大学,千葉大学との共同研究である.

(1-2) 南西諸島海溝北部における長期海底地震観測

南西諸島海溝域では島嶼が海溝軸から100~200 km 離れた島弧軸に沿って直線状に配列するのみであり,プレート境界付近の微小地震活動等の時間空間的変化の詳細な把握が難しい.本観測研究は海域に長期観測型海底地震計を設置してプレート境界3次元形状などを明らかにするとともに活発な活動が確認されている短期的スロースリップイベントや超低周波地震の詳細を明らかにする.2021年8月に長期観測型海底地震計をトカラ列島東方海域に海底観測網を構築して観測を開始した.2022年4月および5月にトカラ列島東方海域において長期観測型海底地震計を回収するとともに,予め準備した長期観測型海底地震計を用いて,同じくトカラ列島東方海域で位置をずらした観測網を構築して観測を実施している.なお,この観測研究は鹿児島大学,京都大学,長崎大学との共同研究である.

(1-3) ニュージーランド北島ヒクランギ沈み込み帯における海底観測

ニュージーランド北島ヒクランギ沈み込み帯北部では,平均しておよそ2年の周期でスロースリップが発生しており,このうち6年程度の周期で規模の大きなイベントが起こっている.2014年5月から2015年6月にかけて海底地震計と海底精密圧力計を用いて実施した観測では,比較的大規模なスロースリップイベント(SSE)を観測網直下で捉えることに成功し,そのプレート境界面上のすべりが部分的に海溝軸近傍まで達していることが,世界で初めて確認された.また,このSSEが終了する時期から,沈み込んだ海山周辺で3週間ほど連続して発生する微動活動を明らかにした.一方,沈み込む海洋性地殻内での地震活動における発震機構の時間変化とSSEとの対応関係から,通常は横ずれ型の地震が卓越しているのに対し,SSE発生直前には多様なメカニズムの地震が発生していることが明らかとなった.このことは,海洋性地殻内における脱水反応によって間隙水圧が上昇し,有効法線応力があるレベルまで減少したところでSSEが発生する可能性を示唆している.なお,この観測研究は,東北大学,京都大学, UCSC(米国),LDEO(米国),University of Colorado at Boulder(米国)との共同研究である.2018年には同海域に海底地震計を設置し,2019年3月に発生したSSEおよび微動活動を再び観測網直下で捉えることに成功した.2019年10月にはこれらの海底地震計を回収し,良好なデータが記録されていることを確認した.この微動活動の発生様式は2014年の活動に類似しており,SSEの終息時期から3週間ほど,沈み込んだ海山周辺域に限って連続して発生していることがわかった.一方,活動の規模は2014年のものよりも遥かに大きく,その発生メカニズム解明に向け,これらの微動活動の時空間分布の比較,および構造調査から得られた構造不均質との対比などについて,詳細に解析を進めている.2020年11月には,ヒクランギ沈み込み帯中部における,固着強度が大きく変化する固着強度遷移領域に,長期観測型海底地震計を設置して海域地震観測を開始し,2021年10月に回収した.本海域では2020年5月に大規模なSSEが発生し,これを観測網直下に捉えることに成功した.このSSEに伴う微動活動などについて,現在解析を進めている.また,2018-19年に設置した観測網と同海域に昨年度10月に設置した海底地震計9台を2022年9月に全台回収し,これを再整備した後に,2022年10月にほぼ同じ観測点において観測を開始した.2021年10月から2022年9月までの本海域では,陸上GNSS観測網で検出されるスロースリップは発生しておらず,定常状態における通常の地震・テクトニック微動活動の把握が可能と考えられる.現在,回収したデータの解析を進めている.

(1-4) 宮崎県沖日向灘における長期海底地震観測

宮崎県沖日向灘では活発な低周波微動活動が確認されている.その活動状況を正確に把握することは海洋プレート沈み込みを考える上で重要である.そこで2020年11月に宮崎県沖日向灘に長期観測型海底地震計の小スパンアレイを新規に設置して観測を開始した.2021年8月に観測を終了した長期観測型海底地震計を回収し,観測を継続するために長期観測型海底地震計を用いた小スパンアレイを再設置した.2022年8月には日向灘に設置した長期観測型海底地震計の小スパンアレイによる観測を終了すると共に,新たに整備した長期観測型海底地震計により広域観測網を構築して観測を継続している.なお,この観測研究は,京都大学との共同研究である.

(1-5) 東北日本弧横断構造探査実験

日本列島の形成や海溝型地震の影響を考える上で深部構造を精度よく求めることが必要である.特に,日本海溝外側から日本海までの領域についてリソスフェアとアセノスフェアの詳細な構造を求めることは日本海における地殻構造の不均質や日本海東縁の歪み集中帯の形成,2011年に発生した東北地方太平洋沖地震が長期に与える影響などを考える上で有益な情報である.そのために日本海から日本列島を横切り日本海溝に至る測線を設定し測線上に長期観測型海底地震計を設置して実体波トモグラフィー・レシーバー関数解析・表面波解析などから深部までの構造を求める.さらにこの測線上で大容量エアガンを用いて構造探査実験を行い,深部構造と上記の解析に必要な詳細な浅部構造の情報を得る.2022年11月にこの計画の一環として山形県沿岸から大和堆にいたる日本海において長大な測線を設定し,海洋研究開発機構学術調査船白鳳丸KH22-9研究航海により小型広帯域海底地震計を設置し長期観測を開始した.さらに設置した小型広帯域海底地震計に向けてエアガン発震を行った.同時にマルチチャンネルハイドロフォンストリーマを曳航して,反射法地震探査も実施した.

日本海盆で過去に取得された海底地震計記録を用いて,表面波及び実体波データのジョイントインバージョン解析を行い,1次元S波速度構造を推定した.その結果,リソスフェア内部に予期せぬ速度不連続面が見つかり,不連続面の浅部では異方性が強く,深部では弱いことが明らかとなった.浅部の異方性はマントル対流に沿った結晶方位の配向を反映する一方で,深部では日本海の拡大停止に伴うマントルの小規模対流が結晶方位の配向を乱したと考えられる.

 (1-6) 房総半島沖における長期海底地殻変動観測

房総沖スロースリップ領域において海底地殻変動を検出することを目的として長期観測型海底水圧計による観測を実施している.2021年8月に海底圧力計の回収・再設置を行い,観測を継続した.2022年9月には再度海底に設置されていた海底圧力計を回収,新たに準備した海底水圧計をほぼ同一箇所に再設置を行い観測を継続している.用いている海底水圧計は3年間程度の連続収録が可能である.これまでに回収した長期観測型海底水圧計のデータについて解析した結果,海底の上下変動が約1 cmの精度で観測できることが示された.2018年6月の房総沖スロースリップの活動期間を含むデータからスロースリップに伴う約1~2 cmの上下変動が検出された.なお,この観測研究は千葉大学との共同研究である.

(2) 文部科学省委託事業および共同研究による海底地震調査観測研究

(2-1) 防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト

南海トラフでは将来規模の大きな地震の発生が想定されている.そこで南海トラフ地震の活動を把握・予測し社会を守る仕組みを構築し,地域への情報発信による減災への貢献をめざす委託研究プロジェクトが2020年から5カ年の計画で実施されている.このプロジェクトの一環として,南海トラフ西部の日向灘において広帯域海底地震観測を実施している.2021年3月に小型広帯域海底地震計を含む長期観測型海底地震計を宮崎県沖日向灘に設置して観測を開始した.2022年1月および2022年8月に小型広帯域海底地震計を含む長期観測型海底地震計の回収・再設置を行い,観測を継続している.なお,この観測研究は京都大学と連携して行っている.

(2-2) 南海トラフにおける高密度海底地震計アレイ観測

西南日本沈み込み帯においては,室戸沖から熊野灘沖にかけて海底ケーブル地震観測網(DONET)が敷設されており,スロー地震の活動が長期にわたってモニタリングされている.しかしながら,スロー地震の震源断層の特定および発生メカニズム解明のためには,既存の観測網では震源決定精度が足りていない.スロー地震の高精度な震源決定,および詳細な3次元S波速度構造地下推定を目指し,当該海域において長期観測型海底地震計による自然地震観測を実施している.2022年度は,熊野灘のスロー地震発生域において,海底地震計の回収・設置を行った.また,これまでに回収した地震計のデータには,2020年12月に始まった大規模なスロー地震活動の記録が含まれている.本データを利用した,スロー地震の震源解析を進めている.本研究は京都大学,神戸大学,海洋開発研究機構との共同研究である.

(2-3) メキシコ太平洋沿岸部ゲレロギャップにおける長期海底地震・圧力観測

メキシコ太平洋沿岸部はココスプレートが北米プレートに沈み込んでおりプレート境界型巨大地震が発生する.しかし,ゲレロ州の沖合(ゲレロギャップ)は近年大きな地震の発生が見られない一方スロースリップが4年程度の間隔で繰り返して発生していることが知られている.プレート間歪みをスロースリップのみで解消しているわけではなく将来巨大地震発生の可能性があると考えられている.そこでゲレロギャップ下のプレート間固着を明らかにすることを目的として海底地震地殻変動観測網を構築した.2017年11月に長期観測型海底地震計および長期観測型海底圧力計をメキシコ国立自治大学(UNAM)所属研究船El Pumaを用いて設置した.観測領域は海溝沿いに約120 km,直交方向に約50 kmである.その後,同じく研究船El Pumaを用いて観測継続のため長期観測型海底地震計および長期観測型海底圧力計の回収再設置を繰り返し,2022年3月に観測を終了した.なお,本研究は,2016年度から開始された国際科学技術共同研究推進事業,地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「メキシコ沿岸部の巨大地震・津波災害の軽減に向けた総合的研究」の一環として,京都大学,東北大学,UNAM(メキシコ)との共同研究として行われた.

(3) 海底地震地殻変動観測システム開発およびデータ解析手法開発

(3-1) 三陸沖に設置した光ケーブル式海底地震・津波観測システムの運用

地震研究所が開発し1996年に三陸沖に設置した海底地震・津波観測システム(1996システム)は3台の地震計(加速度計)と2台の津波計(水圧計)を光海底ケーブルで結んだものであり,データ伝送には従来の光通信技術が使用されている.1996システムは2011年の東北沖地震の地震動及び津波を観測したが,陸上局舎が津波被害を受け観測が中断した.その後,陸上局舎の再建と陸上設備の再製作を行い2014年から観測を再開した.一方,従来の光ケーブル海底地震・津波観測システムは海底通信技術を用いた高信頼性システムであるが,コスト面や運用面に改善の余地がある.そのため,データ伝送とシステム制御にインターネットに代表される情報通信技術を用いたシステムを新たに開発した.このシステムはデータ通信の冗長性を備え,より低コストで観測装置を小型・軽量に製作できることが特長である.1996システムの更新も視野に入れて,開発に基づいたシステムを製作した.このシステムは地震計と津波計を装備した観測点を2点,地震計と拡張ポートを装備した観測点を1点装備し,海底ケーブル全長は約110 kmである.拡張ポートにはデジタル出力型高精度水圧計を接続して2015年9月に岩手県釜石市沖へ設置を行った(2015システム). 2015年以降は両システムによる観測を継続しながら効率的な運用技術構築の開発を行っている.2017年4月には2015システムにおいて波浪の影響を受けやすい汀線部から沖側約30 mまでの区間のケーブルの保護対策とアース電極の沖合への設置作業を実施した.その結果,給電電圧の変動はほぼ無くなり安定した運用ができるようになった.2018年9月には1996システムについてシステムの監視と観測データの冗長性向上を図るために陸上局舎内に既設システム監視用サーバを新規に追加した.2019年10月に台風19号の影響により停電が発生したが,発動発電機による自動給電が発動し観測は継続された.しかし,道路の被害や局舎付近への土砂流入などが発生し,この復旧作業は2021年3月まで行われた.また、2019年11月11日落雷により陸上局舎内の2015システム給電装置に不具合が発生し,同年12月2日に再起動可能となるまで欠測となった.その後は連続観測を行っている.2022年1月には1996システムのGPS受信器の交換を行った.また,2022年には2015システムの地震計と水圧計の記録をwebシステムを通じて公開するシステムの構築を行った.2023年1月には陸上光回線を釜石市の陸上局舎に導入しデータ通信の高速化を図っている.2018年からはこれまでのシステム構築と運用の知見と経験を生かして防災科学技術研究所が南海トラフ震源域西部に設置を進める南海トラフ海底地震津波観測網(N-net)整備事業に協力している.

(3-2) 光ファイバ計測技術による海底ケーブルを用いた海底高密度地震観測システムの開発

光ファイバセンシングの一つであり振動を計測する分散型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing,以下DAS)は近年様々な分野で応用され始めている.地震関係の分野では石油探査のために構造調査に利用が始まり,地震観測にも適用されている.この計測は光ファイバ末端からレーザー光のパルスを送出し,光ファイバ内の不均質からの散乱光を計測する.その散乱光の変化から振動を検出する方法である.光ファイバに沿って時空間的に密な観測を実施できることが特長である.地震研究所が1996年に設置した三陸沖光ケーブル式海底地震・津波観測システムは,伝送路である海底ケーブルに予備の光ファイバを持っている.この予備光ファイバにDAS計測を適用することによって空間的に高密度の海底地震観測を実施できる.2018年からDAS計測技術を三陸沖光ケーブル式海底地震・津波観測システムの予備光ファイバに適用する開発を開始し,2019年2月に最初の観測を行って以降2022年までに計9回の観測を行っている.生成されるデータ量が莫大であるために臨時観測の形態をとっており,1回の観測期間は2日から約1ヶ月である.測定長は70kmから100 kmとし,計測点間隔は2 mから5 mである.これらの観測により多数の地震が収録され,記録の解析から,DAS計測が地震観測として有益であることが確認された.加えて,空間的に高分解能なケーブル直下浅部のS波速度構造が求められた.2020年11月にはエアガンとDAS計測による構造調査を,海洋研究開発機構学術調査船白鳳丸KH20-11研究航海にて実施した.白鳳丸はエアガンを曳航しながら海底ケーブル敷設ルート上を航行し,この間陸上局においてDAS計測を行った.発震には大型エアガンアレイまたはGIガンアレイを用いた.DAS計測は測定全長100 kmまたは80 km,計測点間隔5 mとしてエアガン発震時間帯を含む約5日間の連続観測を行った.得られたデータに地震波反射法の手法を適用し,ケーブル直下浅部の詳細な地下構造が求められた.2022年には地震研究所にOptaSense社のDAS計測装置(QuantX)が導入され,観測の機会が増加した.2023年2月にトンガ王国において地震研究所所有のDAS計測器と現地に敷設されている通信用光ファイバ海底ケーブルを用いたDAS計測を実施した.また,新潟県粟島に敷設されている地震研究所が保有する海底ケーブル観測システムの光ファイバを用いた地震観測の準備を2023年3月から始めている.

(3-3) 新しい精密水圧計の試験・評価

海底における精密水圧観測に用いているセンサーの高度化を図るために新技術による水圧計センサーの試験評価を行った.このセンサーは,従来のセンサーと同じく,圧力により発振周波数が変化する.現在用いている収録装置を新型水圧計センサーに接続可能であることから2021年は現在運用している自由落下自己浮上式海底水圧計の水圧計センサーを新型水圧計センサーに変更し新しい自由落下自己浮上式海底水圧計を製作した.この水圧計を2021年8月に房総半島沖に設置し同年11月に回収した.また,観測を継続するために新たに整備した同タイプの海底水圧計を再設置し2022年3月に回収した.2回の観測の結果,計203日の海底圧力記録が得られた.また,新型水圧計センサー搭載海底水圧計と同一地点に設置されていた従来の海底水圧計を同年9月に回収し,記録の比較が可能となった.2022年1月に発生したトンガにおける大規模火山噴火による海面変動が観測されており,新型センサーと従来センサーで同一の波形を示した.

(3-4)小型広帯域海底地震計の開発

長期観測型海底地震計は実用化以降多数の実績を持っており,繰り返し観測の手法によりモニタリング観測が可能となった.この長期観測型海底地震計の地震計センサーは三成分高感度短周期速度計であり,その固有周波数は1 Hzである.通常の地震観測には十分な帯域であるが近年着目されている浅部低周波微動や超低周波地震を観測するにはやや帯域が不足である.近年小型で低消費電力である広帯域地震計が利用可能になってきた.そこでNanometrics社Trillium Compact Broadband Seismometerを長期観測型海底地震計に組み込むために専用レベリング装置の開発を実施し,2017年に小型広帯域海底地震計の最初の観測を行った. 2018年以降は主として固有周期120秒の地震計センサーを搭載した小型広帯域海底地震計の観測への利用を進めている.2021年はこのレベリング装置の機能強化を行いレベリング操作時の時刻を制御部の個体番号やセンサーの傾斜とともに記録できるようにした.2022年はひきつづき台数の確保を進め,30台以上を観測に用いることができるようになっている.

3.11.1 陸域における地震観測

(1)陸域地震観測

(1-1)広域的地震観測

関東・甲信越,紀伊半島,瀬戸内海内帯西部に展開している高感度地震計を用いた広域的地震観測網による観測,および伊東沖(故障中)と三陸沖に設置している光ケーブル式海底地震・津波観測システムを用いた海陸境界域の観測を継続し,地震活動と不均質構造との関係を明らかにする研究を進めてきた.

全国の国立大学や研究機関等によって観測されている地震波形データを収集し,本センターのデータと統合して処理している.これらのデータは,日本列島周辺で発生する地震に対して行った臨時観測データと合わせることによって高密度な観測網となり,より詳細な地震活動が明らかになった.

最近の技術の進展により,観測機器の小型化,省電力化が進み,大規模な観測局舎が必要なくなってきた.さらに伝送経路の光回線化等のため,各観測点の伝送装置の切り替えを進めている.その結果,全観測点に対して,不必要な大規模観測施設は撤去もしくは小型の機器収納ボックスに置き換える等の検討・作業を行っている.光化作業については、陸域の広域的観測網だけでなく火山等も含め工事が進捗し、モバイル化などで別対応を行った観測点もあり、残り2回線になった。

(1-2)臨時集中観測

日本列島周辺で発生した顕著な地震に対して,それらの地震活動を把握するため,全国の国立大学や研究機関等と共に,臨時地震観測を行ってきた.2011年東北地方太平洋沖地震の発生後には各地で地震活動度が高まり,千葉県,茨城県,栃木県,福島県,長野県に臨時観測点を作り,リアルタイムで連続的にデータを収集している.特に,千葉県,茨城県では,太平洋沖で発生するスロー地震等の検出を目指し,広帯域地震計を設置し,観測を継続している.

今年度は、石川県珠洲市で地震観測を行った。以前から地震活動のある地域であったが、2020年末から小さな地震が増え始め、2021年夏以降はM5級を含む活発な地震活動となっていた。震源が浅い(約10~15㎞)ため震度5の有感地震もあり、その後の活動の推移と被害の発生が懸念されるところであった。そこで、文部科学省科学研究費助成事業(特別研究推進費「能登半島北東部において継続する地震活動に関する総合調査」代表:金沢大平松良浩)の資金を得て、2022年7月から臨時の地震観測を開始した。この中では「陸域地震観測による群発地震発生メカニズムの解明」を担当し、臨時地震観測点を群発地震発生域直上や周辺に設置することとした。また、群発地震や地殻変動の原因として推定される流体だまりを把握するためにアレイ観測を実施することとした。

この地域では防災科研や気象庁が定常的な地震観測を進めているが、今回の活動は震源が浅いため、震源決定精度を高めるためには、それに応じた稠密な観測点分布が必要である。特に、活動域の移動や活動範囲の拡大等をモニタリングするためには、近傍の観測データが不可欠である。今回の活動域は、主に4つの地域に分かれているため、東北大学と共同でその4ヶ所にテレメータ観測点を設置した(地震研担当は飯田小学校とよしが浦温泉の2か所)。これらのデータは、地震活動の把握のために気象庁や全国の研究機関へリアルタイムで配信されて共有されている。

さらに、アレイ観測は、観測測線の位置を変えて2回実施した。 1回目は、珠洲市折戸町から正院町に至る地域で南北方向に測線長約8㎞の測線(南北測線)を設定し、2022年9月12日から10月18日まで実施した。測線上にオフライン観測点を約200m間隔で43カ所に設置し、各観測点では、固有周波数4.5Hz の地震計によって上下動及び水平動の3成分観測を実施した。2回目は、珠洲市若山町から正院町を経て三崎町に至る地域で東西方向に測線長約10㎞の測線(東西測線)を設定し、200m~600m間隔で40カ所に1回目のアレイ観測と同じ観測装置を東西測線上に設置した。観測は2022年12月6日から開始し、2023年3月8日に観測装置の撤収を完了した。1回目のアレイ観測で得られた連続記録から、気象庁一元化震源カタログに基づいてイベント毎へのデータ編集を実施した。得られた地震波形記録では、明瞭なP波初動のあとに、地下深部からの反射波と思われるフェイズを確認することができる。

(2)地殻変動観測

南関東・東海などにおいて歪・傾斜などの高精度センサーを用いた地殻変動連続観測を行うとともに,GEONET 等によるGNSS 観測結果と比較検討し,地震発生と地殻変動の関係に関する研究を行っている.1970 年頃より長期にわたって継続観測を実施している油壺,鋸山及び富士川の各地殻変動観測所における横坑式観測と,伊豆の群発地震発生地域や想定される南海トラフ地震発生地域などに設置されたボアホールあるいは横坑での観測が行われている.横坑においては水管式傾斜計と水晶管伸縮計を中心とした観測方式を採用しており,ボアホールにおいては地殻活動総合観測装置(歪3 成分,傾斜2 成分,温度,加速度3 成分,速度3 成分,ジャイロ方位計)を用いて観測を継続している.また,全国の地殻変動研究関係者が中心となってデータの公開を進めており,地震研からは鋸山と富士川の両観測所及び伊東,室戸のデータを提供した.なお,弥彦観測所は1967年より53年間にわたり観測を続けていたが,2020年度に閉所した.弥彦観測所の傾斜観測記録については地震研究所技術研究報告第26号(2021)に掲載されている.

(3)茨城県北部・福島県南東部の地震活動と応力場の研究

2011年東北沖地震以降の活動が継続している茨城県北部・福島県南東部における稠密地震観測網(約60点から構成)の維持・整備を実施するとともに,それらのデータと周辺域の定常観測点のデータとの統合処理を行った.取得された連続波形記録に対して自動処理を施すことで地震活動の解明を行っている(地震予知研究センターの章参照).

(4)スロー地震モニタリング

日向灘の浅部微動および浅部超低周波地震について,陸域定常観測網と臨時海底地震計観測の記録から,その活動度を物理的に評価し,沈み込む海山(九州・パラオ海嶺)との関連を明らかにした(Baba et al., 2022 preprint https://doi.org/10.31223/X5SK9T).また,同地域のスケールドエネルギーが他の地域に比べ,1〜3桁幅を持つことも明らかにした.日向灘域の不均質性の強さが他地域と比べ強いことを表していると考えられ,今後の探査研究へ向けた重要な成果となった.

定常観測網による浅部超低周波地震モニタリングより,室戸岬沖から紀伊半島南東沖にかけて,浅部超低周波地震の長期的な活動評価と震源物理特性の把握を実施した.紀伊半島南東沖については,古・銭洲海嶺の西端でモーメント解放が大きいといった沈み込む海山との関連が見いだせた(Takemura Obara et al., 2022)一方で,室戸岬沖では沈み込む海山との明確な関係が見いだせなかった.次に,浅部超低周波地震の群発活動に着目し,群発活動の積算モーメント,活動域,活動域の広がり速度のスケーリング関係を調べた.すると,積算モーメントと活動域のスケーリングは地域によらず一様であり,このことは浅部スロー地震による応力効果量が地域によらず一定であることを示唆する.一方で,活動域の広がる速度については,紀伊半島南東沖が典型的な深部スロー地震(10 km/day)と同じか少し遅い程度であるのに対し,室戸岬沖ではそれらより1桁程度遅いことがわかった.これは南海トラフ浅部スロー地震断層の流体圧または破壊エネルギーが走向方向に変化していることに対応すると考えている(Takemura, Baba et al., 2022).

「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の研究課題「プレート境界すべり現象モニタリングに基づくプレート間カップリングの解明」において,九州東部から四国西部に合計6点における広帯域地震計臨時観測を継続し,不具合の見られる地震計の交換などを行った.さらに,科研費新学術領域研究「スロー地震学」において四国西部,紀伊半島,東海に設置した広帯域地震観測点のうち,それぞれ3点,4点,4点を維持するため現地作業を行った.これらにより,南海トラフ近傍で発生する浅部超低周波地震と内陸下で発生する深部超低周波地震の観測体制を強化した.さらに,深部超低周波地震の完全自動検出手法を開発し,過去記録まで遡って上記の観測点や定常観測網に適用した結果,18年間で約7000イベントを検出した.特に観測体制強化後は年間約700-900イベントを検出することができた.

(5)プレート境界域における不均質構造と地震活動の解明

「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の研究課題「スロー地震モニタリングに基づく南海トラフ域の地震発生可能性評価手法に関する研究」において,2021年12月から開始した,四国東部地域におけるスロー地震の滑り特性を規定する地下構造異常の抽出を目的とした稠密地震観測を継続して実施した.本観測では,徳島県阿波市から海陽町に至る「南北測線」(測線長:約70 km)上の70か所(観測点間隔:約1 km),三好市から神山町に至る「東西測線」(測線長:約60 km)上の30カ所(観測点間隔:約2 km)にオフライン観測点を設置し,2022年6月までは,すべての観測点で固有周波数4.5Hzの地震計によって上下動及び水平動の3成分観測を実施した.6月以降は,深部低周波地震の活動域直上に設定した東西測線上の地震計を固有周波数1Hzの3成分地震計に変更し,2023年3月までデータ収録を行った.観測で得られた連続記録から,気象庁一元化震源カタログに基づいてイベント毎へのデータ編集を実施した.得られた地震波形記録には、P波初動のあとに,地下深部からの反射波と思われるフェイズを確認することができるイベントもあり,プレート境界域における不均質構造を把握する上で重要な観測データが取得できた.

(6)古文書に記載された地点における稠密地震観測

地震計が発明される以前に発生した地震を調査するため,古文書等の記述をもとにしてその地点の被害状況を知り,その分布から震源地や地震規模の推定を行ってきた.しかし,揺れの強さは,震源からの距離だけに依存したものであるとは言えず,建物の強度,地盤特性,地下構造の違いによって不均質になり,被害の程度に違いが出ることが考えられる.そこで,古文書に書かれている地点を特定し,その地点に地震計を設置し,地震時の揺れを実測することにした.発生した地震による揺れを観測することで,その地点における揺れの特徴を客観的に知ることができる.その分布から,古文書に書かれている記述との比較が可能になり,記述の信頼性を検証することができる.

今年度は,1855年安政江戸地震を対象として研究を進めた.地震研究所から近い,谷中・根津・千駄木の地域には,江戸時代から続く建物や施設があり,過去の地震被害の記述が多く残されている.そこで,それらの記述から被害地点を特定し,地震計を設置することにした.現在(2023年2月)は, 11か所で臨時観測を行ってきた.固有周期1秒の3成分一体型地震計を地表に設置し,単一乾電池32本で約2か月間稼働する収録装置でオフライン観測を行った.観測された地震波形は,観測点ごとに最大振幅や卓越周期に違いがみられ,振幅が2倍以上大きくなる地点もあった.この観測を行うことで,古文書等に記述のなかった地点での揺れも推定することが可能になると期待している.

(7)地殻活動モニタリングシステム構築

地震活動や地震波観測記録を基にした地殻活動の現況のモニタリング,新たな地震学的な現象の発見・研究テーマの創出等,所内研究活動の更なる活性化を目的とした計算機システムを新たに構築した.本システムはリアルタイムで流通する高感度地震連続記録を長期間一元的に整理蓄積し,所内研究者に広くデータ利用可能な環境を提供している.さらに,連続あるいはイベント波形データに様々な自動解析処理を施した結果を閲覧可能なwebシステムを構築し,観測点毎の連続波形画像,深部低周波微動モニタリング用エンベロープ画像,広帯域マルチトレース,近地地震・遠地地震波形画像等の作成・閲覧に関する運用,新たなモニタリング手法の開発,所内公開を継続的に実施している.

3.11 観測開発基盤センター

教授 新谷昌人,平賀岳彦(兼任),望月公廣(兼任),中井俊一(兼任),小原一成,大湊隆雄,酒井慎一(兼任),清水久芳(兼任),篠原雅尚,上嶋 誠(兼任)
准教授 蔵下英司,三宅弘恵(兼任),中川茂樹(兼任),鶴岡 弘(兼任)
助教 悪原岳,小河勉,高森昭光(兼任),武村俊介,竹尾明子,山田知朗(兼任)
客員教員 木戸元之,中道治久
特任研究員 艾 三喜
学術専門職員 渡邊倫子
技術補佐員 藤田園美,工藤佳菜子,二瓶陽子
外来研究員 勝間田明男, 大橋正健,高橋弘毅
大学院生 福島 駿(D2),根岸 幹(M1),胡 靚妤(D1)
SE 出川 昭子,大内 順子

観測開発基盤センターは,平成22年4月の地震研究所の改組に伴い,これまで地震予知研究センター,火山噴火予知研究センター,強震観測室,研究部門などに配置されていた教員の一部を観測,機器開発という視点で再編成して,研究所の持つ地震観測網,火山観測網,強震観測網,分析装置に大きく関連する研究分野や観測機器の開発を強化のために設置された.本センターは,全国にある本研究所の観測所等の観測拠点とテレメータ観測網を活用した観測研究を推進するとともに,その高度化に必要な観測機器,データ伝送・流通システムの研究開発を図り,地震・地殻変動・火山・電磁気現象に関する広範な観測研究を進めている.地震や火山など地球で起こる現象を解明する研究は,自然界で起こることに疑問を持ち,それを解明するために現象を正確に捉えることが出発点であり,戦略的な観測と新たな観測システムや解析手法の開発を通して,新たな視点から地球を捉える姿勢が不可欠である.このような観測研究と技術開発を併せて推進していることが本センターの大きな特徴である.

本センターでは地震・火山・強震・電磁気・地殻変動の観測網を維持・保守するとともに,地震・火山観測機器,強震観測機器,地球電磁気観測機器及び分析装置の維持・管理・活用等の研究支援,観測機器開発も行っている.そのため,本センターでは他の研究センターや研究部門と兼任し,両者の研究資源を併用して研究を進める教員が多い.ここでは,他のセンターの章での記載の重複を避け,このセンターが中心となり実施した内容を中心に記載した.

3.10.4 海域地震観測システムの開発

レイリー散乱光を用い,光ファイバーを振動センサーとして利用する分布型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing,以下DAS)は,近年地震学の分野において急速に利用されはじめている.DASは,片端にある計測器から光パルスを出力し,光ファイバー内からの後方散乱光を計測することで,光ファイバー内のケーブル方向のひずみを高空間密度で取得することができる.本方式の計測上の特徴の一つは,光ファイバーをセンサーとして利用するため,通常のセンサーに必要な電源供給が不要で,故障への耐性が高いことである.このため,アクセスが困難な海域における観測用途として,優れた方式と考えられる.

地震研究所は,海底に設置した地震計・圧力計との通信目的で,伊東半島東方沖,三陸沖,日本海粟島沖に海底光ファイバーケーブルを所有している.このうち,予備のため未使用で光信号が通っていない芯線のある三陸沖ケーブルシステムを利用し,2019年からDASをもちいたキャンペーン観測を都度実施している.2022年は三陸沖の観測と並行して,伊豆半島東方沖および日本海粟島沖におけるDAS実施の検討を行い,実効性の観点から,日本海粟島沖で試験観測を行うための調査をはじめることとした.

3.10.3 高層物理に由来する地磁気日変化モデルを利用したマントル電気伝導度分布推定

マントル遷移層物質であるWadsleyiteやRingwooditeは最大含水率が高いため,大量の水を含有している可能性が示唆されている.電気伝導度は含水率の多寡によってオーダーで変化する物性量であるため,電磁気探査はマントル含水率推定に有効な手段である.本研究では,全世界の71観測点の地磁気日変化データを解析し,マントル電気伝導度不均質構造を推定した.この周期帯は上部マントル下部~マントル遷移層上部にかけての電気伝導度構造を反映している.ただし,地磁気日変化は主に電離層電流を起源とし,その分布(Sq場)は複雑であり,MT法のような平面波分布の仮定が成り立たない.また,71観測点のデータでは複雑なSq磁場を描像するには不十分である.本研究では代わりに,大気圏―電離圏の高層物理を基にした数値モデルGAIAを電磁場変動ソースとして使用することにした.GAIAは気象再解析データを大気電離層結合モデルに同化しており,Sq場をよくモデル化していることが知られているが,一方で,固体地球の影響は考慮されていない.そこでGAIAを誘導電磁場とし,それにより固体地球内での電磁誘導により誘導された磁場との和であるトータルの磁場が,実際の観測磁場データとよく一致するように固体地球内の電気伝導度分布を求めた.具体的には,海洋と陸域の電気伝導度不均質のある表層とその下は1次元球殻成層モデルを仮定し,GAIAをソースとした電磁誘導方程式を複数のモデルに対して解くことで,各観測点に対して最も磁場データをよく説明する成層電気伝導度モデルを探索した.その結果,ヨーロッパでは,上部マントルで電気伝導度が0.1S/mを超える高電気伝導のモデルが,北西太平洋では,0.01S/m以下の低電気伝導モデルが有力であることがわかった.この違いは,沈み込むスラブによって輸送される水の量の差異であり,その原因はスラブの温度の違いを反映していると考えられる.年齢の浅い比較的温かいプレートは水を深部まで運ぶことができず上部マントル中で脱水してしまうのに対し,古い冷たいプレートは深部まで運ぶことができたため,先述の上部マントル含水量の差異がみられたと考えられる.

 

3.10.2 応力不均一によるエピソディック非地震生すべり

速度・状態依存摩擦則を利用して地震サイクルの数値シミュレーションを実施した.速度弱化域の長さWと不安定すべり発生に必要な臨界断層長h*の比W/h*が発生する地震サイクルの様式を支配することが知られている.W/h*が大きくなるにつれ,すべり様式は(1)安定すべり,(2)速度弱化域全域でのスロー地震の繰り返し,(3) 速度弱化域全域での通常地震とスロー地震の混在,(4) 速度弱化域全域での通常地震の繰り返し,(5) 速度弱化域全域での通常地震の繰り返しに加え速度弱化域の一部でのエピソディック非地震生すべりの発生,(6) 速度弱化域全域での通常地震の繰り返しに加え速度弱化域の一部を破壊する小地震の発生,のように変化することがわかった.(2)は,速度・状態依存摩擦則のうちaging lawで生じやすいことを確認した.(5)は本研究で新たに明らかになったものである.速度弱化域全域で地震が発生すると,この領域のせん断応力は低下する.深部での安定すべりにより速度弱化域最深部の応力は時間とともに増大するが,速度弱化域浅部での応力は低いままである.そのため,速度弱化域最深部において不安定すべりの発生に向けてすべり速度が加速し始めるが,すべり先端が浅部の低応力域に達したところで停止してしまい,結果としてエピソディックな非地震生すべりとなる.この発生機構は,浅部の低応力域において破壊が停止する点で(6)の速度弱化域の部分破壊と似ている.深部の安定すべりがさらに進行すると,速度弱化域内部のせん断応力も徐々に増大するため,最終的には速度弱化域全域を破壊する地震が発生する.その破壊核形成過程は,先行するエピソディック非地震生すべりの発生過程と途中までは良く似ており,見分けるのは困難である.

3.10.1 地震・火山噴火予知研究協議会企画部

全国の大学等が連携して実施している「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」を推進するために,地震研究所には地震・火山噴火予知研究協議会が設置されている.地震・火山噴火予知研究協議会の下には,推進室と戦略室からなる企画部が置かれ,研究計画の立案と実施で全国の中核的役割を担っている.企画部推進室は,流動的教員を含む地震火山噴火予知研究推進センターの専任教員,地震研究所の他センター・部門の教員から構成されている.流動的教員は,地震研究所以外の計画参加機関にも企画部の運営に参加してもらうために,東京大学以外の大学,関連機関から派遣されており,2年程度で交代する.戦略室には,効果的に研究計画を推進するために,東京大学地震研究所以外の多くの大学や関連機関の研究者も参加している.企画部では次のような活動を行っている.

  1. 協議会の円滑な運営のため常時活動し,大学等の予算要求をとりまとめる.
  2. 地震・火山噴火による突発災害発生時に調査研究を立ち上げるためのとりまとめを行なう.
  3. 大学の補正予算等の緊急予算を予算委員長と協議し,とりまとめる.
  4. 研究進捗状況を把握し,関連研究分野との連携研究を推進する.

2022年には,トンガ海底火山噴火とそれに伴う津波,および,能登半島の地震活動のための調査研究計画のとりまとめを行った.毎年3月に成果報告シンポジウムが開催され,大学だけでなく研究計画に参加するすべて機関の研究課題の成果が発表される.2022年はオンラインで実施された.科学技術・学術審議会測地学分科会が毎年作成している成果報告書では,各課題の成果報告に基づいて全体の成果の概要をとりまとめており,文科省のHPで公開されている.2024年からの新たな5年計画を検討するために,次期計画検討シンポジウムをオンラインで開催した.また,地震・火山噴火予測研究の現状を正確に社会に伝えることを目的として,主に報道関係者を対象とするサイエンスカフェを4回オンラインで開催した.それらの活動については,facebookを用いて随時情報提供している.

3.10 地震火山噴火予知研究推進センター

教授 加藤尚之(センター長),吉田真吾,加藤愛太郎(兼任),望月公廣(兼任),大湊隆雄(兼任),上嶋誠(兼任)
准教授 内田直希,石山達也(兼任)
助教 小山崇夫,山田知朗
学術専門職員 荒井道子

3.9.4 CREST次世代インテリジェント地震波動解析プロジェクト

日本には,国の機関等が整備した数千点の観測点で得られる高精度地震計測データのほか,建造物,電気・ガス等のライフライン,スマートフォンが持つ加速度計等のデータが存在しており,これらを活用する次世代の地震計測ビッグデータベースが構築されつつある.最先端ベイズ統計学に基づいて,これらの多種多様な地震計測データを包括的に解析するためのアルゴリズム群を開発し,地震防災・減災や地震現象の解明に役立てることを目的とするプロジェクトが,科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CRESTの研究領域「計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測解析手法の開発と応用」(略称:「情報計測」CREST)における研究課題「次世代地震計測と最先端ベイズ統計学との融合によるインテリジェント地震波動解析」(略称:iSeisBayes)として,2017年10月に発足した.本研究課題は,地震研究所の地震学の専門家と,東京大学大学院情報理工学系研究科の統計学の専門家との異分野交流プロジェクトであり,2023年3月までの5.5か年にわたって実施される.2020年度からは,東北大学大学院工学研究科の流体力学の専門家グループが新規加入し,同分野において用いられているスパースセンシングなどの新しい情報科学技術に基づく地震データ解析アルゴリズムの開発を行っている.2022年は,深層学習に基づく地震波自動検出アルゴリズムや新規統計量の導入に基づく深部低周波微動検出アルゴリズム等,本研究課題で開発した新しい地震データ解析技術の既存の解析システムへの実装を実施した.また,強震動予測等において重要な地震の応力降下量の推定法,地殻内の地震波速度不連続性に適合的な正則化による地震波トモグラフィ,首都圏周辺の地震観測網データに基づいて地表面における地震波の時空間発展をイメージングするための地震波動場再構築手法,情報科学的手法に基づく地震観測点選択アルゴリズムの開発をほぼ完成させ,多数の論文発表を行った.さらには,科学技術振興機構が主催する情報計測オンラインセミナーシリーズに協力し,研究成果を広く国民に周知することにも努めた.

本研究課題には,計算地球科学研究センターの他,地震予知研究センター,観測開発基盤センター,地震火山情報センターの教員と研究員が参加している.

[情報計測] 計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測・解析手法の開発と応用プログラム概要
https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/research_area/ongoing/bunyah28-3.html

H29年度採択課題:次世代地震計測と最先端ベイズ統計学との融合によるインテリジェント地震波動解析
https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/project/1111092/1111092_2017.html

iSeisBayesホームページ
http://www.eri.u-tokyo.ac.jo/project/iSeisBayes/