新しい地震波形解析手法の開発

Takeshi Akuhara1 , Michael G. Bostock2 , Alexandre P. Plourde2, and Masanao Shinohara1

1Earthquake Research Institute, The University of Tokyo, Tokyo, Japan, 2Earth, Ocean and Atmospheric Sciences, The
University of British Columbia, Vancouver, British Columbia, Canada

JGR: Solid Earth First published: 24 January 2019 https://doi.org/10.1029/2018JB016499

地震波を用いて地球内部の構造を調査する手法のひとつに、レシーバ関数解析と呼ばれる手法があります。簡単な計算で地震波形から地下構造の情報を引き出すことができるため、1970年代に開発されて以来、多くの研究で使われています。しかし、レシーバ関数の計算方法は不安定であり、高周波帯域の地震波形や、堆積層や海水内の反射波がノイズとして混入する海底地震計のデータでは、期待通りの結果にならないことがわかっています。

そこで、レシーバ関数解析の次世代型ともいえるような、新しい手法を開発しました。コンピュータの計算能力を活用した現代的な統計手法を用いて、先に述べた問題点の解決を図ります。コンピュータ上でシミュレーションを行ったところ、新しい手法は、従来の手法が通用しないような挑戦的なデータ――すなわち、海底で計測された高周波帯域の地震波形――に対しても、期待通りの結果を出せる可能性があることが分かりました(図1)。

実際に海底地震計で観測されたデータでも、新手法が機能するかどうかを調べるために、日本海に設置された海底地震計のデータに対して同手法を適用してみました。その結果、やはり新手法は従来の手法よりも明瞭に、地下構造のシグナルを抽出できることが確かめられました。また、得られた高周波かつ推定誤差の小さいレシーバ関数波形を利用することで、海底に降り積もった堆積物の詳細な成層構造を明らかにできることを示しました。より深い地殻内の構造についても、高解像度で調査できる可能性があります。今後、新手法を各地の観測データに適用することで、地球内部構造に関する様々な発見が期待されます。

※新手法を動かすためのコンピュータプログラムは、ウェブ上で公開されています(https://github.com/akuhara/MC3deconv:研究者向け、英語サイト)

図1:従来のレシーバ関数手法(上・中段)と新手法(下段)の比較。計算された波形(黒線)が正解の波形(赤線)に近いほど、優れた手法であるということが言えます。

2004年スマトラ地震(Mw9.2)と2012年インド洋地震(Mw8.6)が引き起こした長期的な重力やジオイド高の変化と海水面の高度変化

Yusaku Tanaka1, Yao Yu2, 3, and Benjamin Fong Chao3
1. Earthquake Research Institute, The University of Tokyo, Tokyo, Japan
2. School of Geodesy and Geomatics, Wuhan University, Wuhan, China
3. Institute of Earth Science, Academia Sinica, Taipei, Taiwan

Terrestrial, Atmospheric and Oceanic Sciences, Vol. 30, No. 2, 1-10

 地球の重力場は、地球上の質量の移動に伴い、わずかに変化します。地震も質量の移動を伴う自然現象ですから、地震に伴って重力が変化します。したがって重力の観測で地震による地殻変動量などを推定することができます。

地震に伴う重力変化の研究では、重力観測衛星GRACEのデータが大いに役立ちます。GRACEのデータを利用した超巨大地震に関する研究の成果は既に多くあり(参考:田中・日置『GRACE地震学—衛星重力観測による地震研究のこれまでとこれから—』, 地震・第2輯, 2017)、主に本震の断層運動に起因する地震時の重力変化や、地震後の「余効変動」に起因する重力変化について調査が進められています。なお、地震後の重力変化を引き起こす「余効変動」としては、本震の断層すべりの「すべり残り」が地震後に時間を掛けて解放される(ゆっくりすべる)「アフタースリップ」と、本震の断層すべりによって生じた地下の岩石に掛かっている負担が、岩石の変形や移動によってじわじわ緩和される「粘弾性緩和」という二つの現象が考えられています。地震時の重力変化は、本震時にどのくらいの大きさの断層が、どのように動いて、その結果として地面がどうなったのかを調査するのに役立ちますし、地震後の重力変化は余震の発生とも関連が疑われるアフタースリップや粘弾性緩和に起因するものだと考えられており、現在は統計学的な根拠に基づいて計算されている余震発生確率に、物理学的な根拠に基づいた推定を加えることで確度の高い余震発生予測に繋がる可能性を秘めています。また、地震時・地震後の重力変化は共に地震の全体像を解明するためにも重要です。しかしながら、それらのトータルの重力変化についての観測報告はこれまでありませんでした。その理由の一つは、2002年にGRACEが打ち上げられた後に発生した最初の超巨大地震である2004年スマトラ地震による重力変化が続いていたからです。(ちなみに、東北地方太平洋沖地震の重力変化は現在も進行中です)

本研究では、まず2004年スマトラ地震による地震後の重力変化は、2016年には大部分が終息したことを明らかにしました。そして2004年スマトラ地震に伴う地震時・地震後の重力変化と、その近傍で発生した2012年インド洋地震に伴う地震時・地震後の重力変化、さらに、それらのトータルの重力変化を調査し、その時空間分布を明らかにしました(図1)。

重力変化の空間分布と時系列(図1c, f, g, h)からは、海域で重力が「不可逆的に」変化して、地震前より強くなったり弱くなったりしていることも読み取れます。理論的には、これを反映した海水面の高度変化が存在するはずです。例えば、海域で重力が強まれば、そこに水が引き寄せられるので、この重力変化により海水面が上昇することが考えられます。本研究では、海面高度計のデータを利用して海水面の高度変化を検出できるかどうかも調べました。その結果、地震に伴う重力変化が引き起こす海水面の高度変化は、潮汐の補正を施してもエルニーニョ等による海水温変化による海水面の高度変化(熱膨張)に埋もれてしまい、検出が非常に困難だということが分かりました。これは一見「失敗」だと思われるかもしれません。しかし、見方を変えると、今回の研究とは逆に、熱膨張による海水の動態を調査する際には(現在の技術では)地震に伴う重力の変化はほとんど考慮する必要が無いということが分かったと言えます。

図1 (a)2004年スマトラ地震に伴う地震時の重力変化、(b) 2004年スマトラ地震に伴う地震後の重力変化(2016年7月まで)、(c) 2004年スマトラ地震に伴うトータルの重力変化、(d)2012年インド洋地震に伴う地震時の重力変化、(e) 2012年インド洋地震に伴う地震後の重力変化(2016年7月まで)、(f) 2012年インド洋地震に伴うトータルの重力変化、(g)二つの地震による重力変化の合算(実際の重力変化の観測値)、(h)地図中の赤い丸で示した地点の重力変化の時系列(季節変化は補正済み)。重力変化の空間分解能は数百km程度(球関数の次数と位数が80次まで)。等値線の間隔は、(a)-(c)が10μGal, (d)-(f)が2μGalである。地図中の黒い四角は断層の模式図。震源球は震央に置いた。尚、1 μGal = 10^(-8) m/s2である。

2014年阿蘇山マグマ噴火に伴う地下電気伝導度構造の時間変化

南拓人(1)、宇津木充(2)、歌田久司(1)、鍵山恒臣(3)、井上寛之(2)

(1) 東大地震研、(2)京大火山研究センター、(3)阿蘇火山博物館

Minami, T., Utsugi, M., Utada, H., Kagiyama, T., and Inoue, H. (2018).

Temporal variation in the resistivity structure of the first Nakadake crater, Aso volcano, Japan, during the magmatic eruptions from November 2014 to May 2015, as inferred by the ACTIVE electromagnetic monitoring system. Earth, Planets and Space, 70(1), 138. https://doi.org/10.1186/s40623-018-0909-2

(本論文は、EPS Highlighted Papers 2018に選出されました。)

 近年、噴火の危険性が高い火山では、火山防災の目的から様々な連続観測が行われていますが、地下の温度、圧力、地下水量など、噴火に関わる地下の状態を監視することは、依然として難しいのが現状です。そのような中で、電磁気学的な探査で得られる地下の電気伝導度の値は、火山ガスの溶け込んだ地下水や、マグマが存在する領域で高くなるため、噴火に直接関わる地下の状態を知ることができます。しかしながら、火山の地下電気伝導度の値が噴火の際にどのように変化するかについては、これまで研究例がほとんどありませんでした。

本研究では、 2014年11月25日から2015年5月の期間に発生した阿蘇山マグマ噴火の前後で、 人工電流を用いる電磁気学的な探査を複数回実施し、噴火に伴う電気伝導度の時間変化を推定しました。図では、2014年8月と2015年8月の間の電気伝導度の時間変化を示しており、青色の領域が電気伝導度の低下を、また、赤色領域が電気伝導度の上昇を表しています。地下電気伝導度の推定に関わる数値計算では、 地表面は三角形で、また、地下構造は異なる電気伝導度を持つ四面体の集合として表現しました。図のように、噴火に伴う顕著な変化として、地下約400mの深さで、水平に広く電気伝導度が低下したことが明らかになりました(図の青色領域)。さらに、本研究で得られた複数回の観測による電気伝導度の時間変化を細かく調べると、図に示した電気伝導度変化の大部分は、噴火開始日翌日の観測(2014年11月26日)以前に起きたことがわかりました。つまり、マグマ噴火開始前に、火口直下の広い範囲で電気伝導度変化が低下した可能性が高く、得られた結果は、噴火前にマグマが上昇して地下水の沸騰を進め、広い範囲で火山ガスの溶け込んだ地下水の量が減少したことを示唆しています。

噴火の際の地下電気伝導度の変化が三次元的に明らかにされた例は、本研究の成果が初めてです。今後、他の火山観測の結果と詳細に比較することで、より具体的な地下の物理量(地下水の温度・圧力・溶存火山ガスの成分など)の変化を特定できる可能性があります。さらに今回の結果は、マグマの上昇に伴う地下水量の変化(沸騰を通した水蒸気への変化)を捉えた可能性が 非常に高いものです。 そのため、同様の観測によって噴火前の水蒸気量の変化を捉えることで、現状予測が困難な水蒸気噴火についても、噴火の危険性を評価できる可能性があると考えています 。

第144回地球電磁気・地球惑星圏学会総会・講演会プレスリリース資料 (2018)より一部改変

余震活動解析に基づく2018年大阪府北部地震の震源断層モデル

加藤愛太郎・上田拓(東大地震研)
Source fault model of the 2018 Mw 5.6 northern Osaka earthquake, Japan, inferred from the aftershock sequence
Earth Planets Space, 77:11, https://doi.org/10.1186/s40623-019-0995-9, 2019.

2018年大阪府北部地震に伴う余震活動に関して,震源の再決定,余震の追加検出及び活動解析を実施した。その結果,大阪府北部地震に際して,北北西-南南東走向の東側傾斜(約45度)の逆断層が最初にずれ,約0.3秒後に東北東-西南西走向の高角傾斜の横ずれ断層に破壊が伝播し,その後は同時に断層運動が起きていたことが推察された。これらの断層面と上町断層帯の深部延長との詳細な関係は不明ではあるが,大阪府北部地震が上町断層帯などの東側傾斜の逆断層に与える応力変化を計算したところ,断層運動を促進する方向に約0.1MPaの応力変化を引き起こしたことがわかった。本研究により,水平圧縮応力場が卓越する近畿圏においては,逆断層と横ずれ断層が同時に活動することで1つの地震になる場合があることが明示された。逆断層と横ずれ断層の活断層が共存する近畿圏では,地震ハザード評価において両断層の連鎖的破壊も考慮することが今後必要である。また,震源域の北部延長では,地震活動が遅れて活発化しており,その領域の背景地震活動度は時間とともに徐々に増加する傾向を示した。このことは,本震によって震源域の北部延長(地殻内)で非地震的な変形が引き起こされた結果だと解釈できる。

紀伊半島沖南海トラフ地震発生断層の形状が,その断層面上に作用する応力とSlip Tendencyに及ぼす影響

Masataka Kinoshita, Kazuya Shiraishi, Evi Demetriou, Yoshitaka Hashimoto and Weiren Lin
Geometrical dependence on the stress and slip tendency acting on the subduction megathrust of the Nankai seismogenic zone off Kumano
Progress in Earth and Planetary Science, 6:7, 2019
https://doi.org/10.1186/s40645-018-0253-y

概要
海溝型巨大地震は,プレート境界断層面に働くせん断応力が,断層強度を超えるた時に発生する.すなわち地震が発生するかどうかは,「応力」と「強度」の両方を知ることが必要である.この両者を統一した,「Slip Tendency(Ts)」が断層の滑りやすさの尺度として利用されている.
本論文では,M8~M9の巨大地震を繰り返し起こしている南海トラフ地震発生帯の形状が3次元構造探査でよくわかっていること,また大深度掘削が進行中であることを利用して,断層の「形状」がその応力やTs分布にどの程度影響を与えるかどうか検討した.
断層形状として,今回はその傾斜角度と傾斜方位に注目した.構造探査の結果から,断層面の傾斜角度が10°程度から30°程度までばらつくことが分かった.それはTs値として2~3倍もの差となることが判明した.南海トラフ地震断層といっても,実際には断層形状により滑りやすさが大きく異なる可能性が示唆された.断層面上の摩擦強度が不明なので,実際に破壊発生条件は推定できないが,既往研究からの摩擦強度を適用すると,Ts値が低い場所であっても破壊発生条件に極めて近いことが示される.

紀伊半島沖南海トラフ地震発生帯周辺の地形図。★は1944年東南海地震および1946年南海地震の震源、コンターは1944年地震の破壊域。「ちきゅう」による掘削地点を○で示した。
上の図の黄色い四角の範囲内における,南海トラフ地震発生帯断層(図で「プレート境界」として示された面)上のSlip tendency(Ts,地震滑りを起こしやすいかどうかの尺度の一つ)の分布.背景の垂直断面は3次元地震探査で得られた速度構造.C0002は現在掘削中のIODP孔(星印がこれまでの掘削が終了した深度).図の左方向が北になる.

 

 

 

【3月22日(金)】定年退職教員 最終講義

地震研究所では今年度末に5名の教員が定年退職を迎えます.
「退職教員 最終講義」を下記のとおり開催いたしますので、ご案内申し上げます。
皆様のご来聴をお待ちしております。

日  時  平成31年3月22日(金)午前9時30分~
場  所  地震研究所 2号館5階第一会議室

1. 9:30-10:30
講演者: 岩崎 貴哉教授
演 題: 「北海道に始まり,北海道に終わる」

2. 10:40-11:40
講演者: 歌田 久司教授
演 題: 「どうして電磁気を」

3. 13:30-14:30
講演者: 大久保 修平教授
演 題: 「重力・測地学の観測と理論~野性と美を追い求めて」

4. 14:40-15:40
講演者: 壁谷澤 寿海教授
演 題: 「鉄筋コンクリ-ト造建築物の耐震性能の評価と検証」

5. 15:50-16:50
講演者: 武尾 実教授
演 題: 「地震の波を見続けて」

石本コレクションが東大HPで紹介されました

石本コレクションは,地震研究所の第2代所長である石本巳四雄(1893-1940)が収集した、主に災害の際に出版されたかわら版や錦絵、新聞付録などの資料群です。
総合図書館の所蔵資料「石本コレクション」をインターネット公開

関連リンク :
地震研究所図書室では,地震火山災害関連のコレクションを紹介しています.
http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/tosho/collection.html

地震研究所と史料編纂所による地震火山史料連携研究機構では,史料に基づき歴史時代の地震・火山の活動や災害について研究しています.
http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/project/eri-hi-cro/index.html