【9月21日】第78回 知の拠点セミナー開催

第78回 知の拠点セミナー が9月21日(金)に地震研究所で開催されます。

知の拠点セミナーは、学問の最先端の様子を一般の方々や学生の方々にお届けするために、国立大学共同利用・共同研究拠点協議会が毎月開催しているセミナーです。6月から地震研究所で開催することになりました。
セミナーの内容や参加申し込み等の詳細は、下記のウェブサイトをご覧ください。
http://www.kyoten.org/seminar/H30/78/

JST日本・アジア青少年サイエンス交流事業2018/JST Sakura Science Plan 2018

JST日本・アジア青少年サイエンス交流事業(さくらサイエンスプラン)が、2018年7月に今年も開催されました。中国、台湾、インド、タイ、シンガポール、インドネシアから13名の参加者が来所しました。

写真は巡検で訪れた大観山。背景は芦ノ湖と富士山。

JST: Sakura Science Plan held July, 2018. 13 students from China, Taiwan, Singapore, Indonesia, Thailand and India visited ERI.

Picture taken at Daikanzan. Lake Ashinoko and Mt.Fuji on background.

 

水を含んだプレートの沈み込みシミュレーション

中尾篤史(1)・岩森光(1,2,3)・中久喜伴益(4)・鈴木雄治郎(1)・中村仁美(2,3,5,6)

(1)東大地震研 (2)海洋研究開発機構 (3)東工大理 (4)広島大理 (5)産総研 (6)千葉工業大

Geophysical Research Letters, 45 , 5336-5343 (2018)

https://doi.org/10.1029/2017GL076953

地球表面は、プレートと呼ばれる、水平運動をする数十枚の岩盤で覆われています。日本列島のようにプレート同士が重なりあう地域では、一方が地球深部へと沈み込み、もう片方はそれに乗り上げます。プレートの沈み込みは、火山・地震活動や地殻変動などの様々な地学現象の要因であるため、その挙動を理解することが重要です。特に、水を含んだプレートが沈み込むことで、どのような経路で地球深部に水が運ばれ、岩石の強度・密度を下げるのか、その結果、どのようなプレートの動きや周囲のマントルの流れが生まれるのかを解明する必要があります。そこで本研究では、2次元流体力学シミュレーションによって、水を含んだプレートによる地球内部への水の運搬・プレート運動・マントルの流れを同時に計算し、沈み込みにおける水の影響を調べました。

沈み込むプレートの上面に水を含む領域を仮定し、その厚さを変えたシミュレーションを行いました。図1のカラーコンターは輸送される水の量を示しており、水がプレートとともに地球内部に運ばれ、その一部が脱水反応にともなって周囲のマントルや乗り上げるプレートに移動していることが分かります。含水領域の厚さが27.5 kmの場合には(図1a)、プレートは急勾配で沈み込み、下部マントル(660 km以深)まで到達します。一方、含水領域の厚さが15 kmの場合には(図1b)、前者に比べプレート中に含まれる水が少ない(軽い領域が小さい)ため、プレートの平均密度が大きくなり、沈み込み速度が増大します。この場合、プレートの自重によって、乗り上げるプレートの加水(弱化)領域(水色コンター部分)が強く引き伸ばされます。その結果、沈み込み地点(図1bの矢印)が後方(図の左側)に移動することで沈み込み角度が緩くなり、上部/下部マントル境界付近 (地下660 km) にプレートが滞留します。地震波・GPS等の観測データに基づくと、東北日本の沈み込みがこれに当たると考えられます。

以上のように、本研究によって、プレートに含まれる水の量が沈み込んだ後のプレート形状やマントルの流れを支配する要因のひとつであることを初めて明らかにしました。水の影響を考慮することにより、東北日本を含む様々な沈み込み様式の違いを説明できる可能性があります。

図1. 2次元数値シミュレーションの結果。マントルの温度分布(白線)、マントルの流れ(黄色・水色の破線)、輸送される水の量(カラーコンター)を同時に計算しました。沈み込むプレート中の含水領域の厚さが (a) 27.5 kmの場合と、(b) 15 kmの場合とで、沈み込んだプレートの形状や発生するマントルの流れが大きく変化することがわかります。

1993年北海道南西沖地震から25年

1993年7月12日、北海道南西沖でM7.8の地震が発生し、北海道の奥尻島などで津 波等により死者・行方不明者230名にのぼるなど大きな被害をもたらしました (理科年表より)。奥尻島は震源域から非常に近く、地震発生から津波到達まで の時間が短かったことも、津波による被害が大きくなった原因となりました。

写真は、津波による奥尻島の被害の様子(撮影:阿部勝征東京大学名誉教授(故 人))。

70 years since 1948 Fukui earthqauke

28th June, 1948 M7.1 earthquake occurred in Fukui prefecture with death toll of 3769.  The rate of building destruction was extremely high in the Fukui plane, which lead JMA (Japan Meteorological Society) to establish seismic intensity  7 on the intensity scale, where there used to be only up to 6.

Picture is the record of Fukui earthquake taken on the seismograph located inside the university of Tokyo in Hongo. (provided by: ERI paleo earthqauke and tsunami record committee and Dr. Satoko Murotani in national Science Museum)

写真は、東京大学構内の本郷観測点に設置された地震計で記録された福井地震の記録です(提供:地震研究所古地震・古津波記録委員会および室谷智子氏(国立科学博物館))。

小原所長 日本地震学会賞を受賞

小原 一成所長が、2017年度日本地震学会賞を受賞しました。

授賞対象業績名:スロー地震学の創成
受賞理由:受賞者は、西南日本に沈み込むフィリピン海プレートの上部境界付近の深さ30~40kmで、同規模の通常地震と比較して低周波成分に卓越する「深部低周波微動」が発生していることを世界で初めて発見し、この微動の震央が南海トラフ巨大地震発生域の下限に沿って約600kmの長さにわたって帯状に分布することを明らかにした。さらに受賞者は、共同研究者とともに、低周波微動に同期して発生する短期的なスロースリップ(SSE)や深部超低周波地震(VLF)、さらには巨大地震発生域の浅部の付加体近傍で発生する浅部VLFや低周波微動などの諸現象を次々と発見するとともに、これらの現象が示す移動性などの諸性質や、現象間の相互作用などについて探究を進め、それらの画期的な成果は「スロー地震学」という全く新しい研究分野を切り開くこととなった。

受賞者によるスロー地震の発見は、プレートテクトニクス理論以降提唱されてきた単純なプレート間の固着・すべりモデルを発展させ、より複雑な固着・すべり現象が起きていることを世界に先駆けて提示したものであり、地震学の研究分野に新たな潮流を生み出した。スロー地震に関する研究が世界中の様々な場所を対象として活発に進められるようになり、その結果、多くの沈み込み帯でスロー地震の発見が相次ぎ、国内だけでなく世界中の地球物理学界に対して大きなインパクトを与えた。また、その影響は地震学や測地学コミュニティにとどまらず、その周辺の地質学や物質科学の研究分野にも広がっており、たとえば、沈み込み帯のプレート境界近傍における変形機構や流体の循環過程を理解する上で、スロー地震の知見は貴重な要素として位置付けられている。

また受賞者は、スロー地震と巨大地震との関連性についての研究にも尽力しており、スロー地震が1)巨大地震の発生様式を理解する上でのヒントを与えてくれる可能性、2)巨大地震震源域の応力状態を反映するインジケーターとなる可能性、3)隣接した巨大地震震源域における断層破壊を促進する可能性の3点を追求している。将来発生が想定されている南海トラフ巨大地震の発生機構の解明にとって、スロー地震はもっとも有効な知見の一つとして認識されており、今後の研究の進展が期待される。

「スロー地震学」を核として、受賞者は多くの地震学会会員と共同研究を進めるとともに、若手研究者の指導育成や後進の研究推進に努め、地震学コミュニティの研究活性化に大きく貢献してきた。また、国際共同研究を積極的に進めることにより、世界における日本のスロー地震学のプレゼンスを高めてきた。

以上のように、受賞者は「スロー地震学」の創成を通して、地震学の発展に著しく貢献しており、2017年度日本地震学会賞を授賞する。

(「2017年度日本地震学会賞」ホームページより抜粋)

 

 

スロー地震データベースの構築

加納将行(1、2)、麻生尚文(3、4)、松澤孝紀(5)、井出哲(3)、案浦理(6)、新井隆太(7)、馬場慧(1)、Michael Bostock(8)、Kevin Chao(9)、日置幸介(10)、板場智史(11)、伊藤喜宏(12)、鎌谷紀子(6)、前田拓人(1、13)、Julie Maury(14)、中村衛(15)、西村卓也(12)、尾鼻浩一郎(7)、太田和晃(12)、Natalia Poiata(16、17)、Baptiste Rousset(18)、杉岡裕子(19)、高木涼太(20)、高橋努(7)、竹尾明子(1)、Yoko Tu(10)、内田直希(20)、山下裕亮(12)、小原一成(1)

(1)東大地震研 (2)現、東北大理 (3)東大理 (4)現、東工大理 (5)防災科研 (6)気象庁 (7)海洋研究開発機構 (8)University of British Columbia、 Canada (9)Northwestern University、 USA (10)北大理 (11)産総研 (12)京大防災研 (13)現、弘前大理工 (14)BRGM (15)琉球大理 (16)National Institute for Earth Physics、 Romania (17)IPGP、 France、(18)University of California、 Berkeley、 USA、(19)神戸大理、(20)東北大予知センター

Seismological Research Letters, 89 (4), 1566-1575, https://doi.org/10.1785/0220180021.

近年の地震・測地観測網の発展により、世界各地の沈み込み帯を中心に、同規模の通常の地震に比べて断層がゆっくりと滑るスロー地震が発見されています(例えばObara and Kato, 2016)。スロー地震の発生領域が、高速破壊(通常の地震)を引き起こす領域に隣接していることから、スロー地震の発生は巨大地震の準備過程に関連している可能性があります。そのため、スロー地震の発生様式・発生原理・発生環境を解明することは、低速すべりから高速破壊までを含めた沈み込み帯の断層すべり現象の統一的な理解に向けて重要です。

スロー地震は、低周波微動・低周波地震・超低周波地震・スロースリップイベントといった数Hzから数年にわたる幅広い時定数を有する複数種類の現象から構成され、これまで多数の研究機関や研究者が様々な手法を用いて検出してきました。検出されたスロー地震の情報は、個々の研究機関・研究者が論文やウェブサイト(Interactive Tremor Map, Wech, 2010; World Tremor Database, Idehara et al., 2014)などを通して、独自のフォーマットを用いて公開されています。しかしながら、これらのスロー地震の活動を調べたり、他の結果と比較したりする際に、様々な場所に存在するスロー地震の情報を収集し、様々なフォーマットを揃えるといった作業には労力を要します。こうした標準化されていない情報利用の煩雑さを軽減し、多岐にわたるスロー地震カタログを扱いやすくすることを目的に、“Slow Earthquake Database”(http://www-solid.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~sloweq/)を構築し2017年12月に公開しました。本論文はSlow Earthquake Databaseの概要とコンテンツ、今後の課題についてまとめたものです。

Slow Earthquake Databaseは主に二つの機能を有します。第一に、それぞれ独自に作成されてきた多数のスロー地震カタログを収集し、同一のGoogleマップ上で複数のスロー地震情報の可視化を行います(図1)。ある期間に発生した種々のスロー地震を同時に地図上に表示することで、スロー地震間の空間的な関係や、地域間でのスロー地震活動の比較、カタログ間の比較が可能となります。第二に、収集したスロー地震カタログを共通のフォーマットに変換し、単一のウェブサイトから複数のカタログを同一のフォーマットで取得できます。加えて、原著論文や解析期間などの個々のカタログに関する情報に統合的にアクセスすることができます。

Slow Earthquake Databaseでは、2017年12月の公開当初29種類のスロー地震カタログを公開しましたが、2018年6月現在43種類にまで増加しました。今後も多くの国内外の研究者の協力の下、更なるスロー地震カタログの追加を予定しており、本データベースがスロー地震カタログの国際的な標準化について主導的な役割を担うことが期待されます。また、スロー地震に関する標準化された情報を提供することで、これまで蓄積された成果が利用しやすくなるだけでなく、多分野の研究者のスロー地震研究への参画を容易にし、分野間の連携研究を通して、スロー地震を含む沈み込み帯のダイナミクスの更なる解明に貢献することが期待されます。