金曜日セミナー(2024年10月4日)林元 直樹 (地震火山研究連携センター)

題目:緊急地震速報の近年の技術改善

 

要旨:
2024年5月に、気象庁から地震研究所地震火山研究連携センターへ着任しました。気象庁在籍時は、2011年以降では「緊急地震速報」を担当しており、2011年4月からは気象研究所で緊急地震速報に海底地震観測網のデータを活用するための研究に、2016年4月からは気象庁で緊急地震速報のシステム開発とその運用に、それぞれ携わってきました。本発表では、この緊急地震速報に関して、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震で直面した課題に対する技術改善を中心に、情報発表を支える技術について紹介したいと思います。また、発表の末尾では、現在担う「官学連携コーディネーター」という立場での取り組みについても触れる予定です。

【研究速報】2024年9月24日鳥島近海地震と津波(2024/09/27更新)

ウェブサイト立ち上げ:2024年9月25日
最終更新日:2024年9月27日

9月24日鳥島近海で地震があり、それに伴い伊豆諸島や小笠原諸島に気象庁より津波注意報が出されました。
解析結果についてこちらで更新してまいります。


*報道関係の皆さまへ:図・動画等を使用される際は、「東京大学地震研究所」と、クレジットを表示した上でご使用ください。また、問い合わせフォームより使用した旨ご連絡ください。


2024年9月24日鳥島近海地震と津波(続報1)
2024年9月27日
地球計測系研究部門 三反畑 修 助教

続報1のまとめ

  • 2024年地震と2015年地震について「震源メカニズム解」と「広帯域地震波計 F-netに記録された長周期地震波形」を比較し,両地震の極めて高い類似性を示した.
  • この結果は,第一報で報告した「今回の地震・津波が,過去にスミスカルデラで発生した地震・津波と同じメカニズムで発生した」という仮説を強く支持するものである.

震源メカニズム解の比較: 2024年地震vs 2015年地震

複数の地震カタログで 震源メカニズム解は圧縮軸を鉛直方向に持つCLVD型で,今回の地震と2015年地震は規模・メカニズムともに類似.

1:地震波放射パターンを示す震源メカニズム解について, 2024年地震と2015年地震の比較.(a) 防災科学技術研究所, (b) Global CMT Catalog, (c) 米国地質調査所より画像を引用.

長周期地震波形の比較:2024年地震 vs 2015地震

両者の長周期地震波の波形・規模は酷似していた

  • 下記のデータ・手法で二つの地震による長周期地震波波形の類似性を解析.
    • 広帯域地震観測網(F-net)の速度波形に0.02–0.05 Hzのバンドパスフィルターをかけた
    • 2015年地震の波形を切り出し,2024年9月24日の連続波形記録に対してテンプレートマッチング手法を適用した
  • 平均の相互相関係数は 0.97 と非常に高い値をとり,平均の最大振幅比から算出したマグニチュード差も0.04であった(2024年が0.04大きい).
図2:防災科学技術研究所の広帯域地震観測網F-netの記録で,2015年地震(赤線)と2024年地震(黒線)の地震波波形を比較した図.左から上下成分、東西成分、南北成分における波形を示す.CC: 各観測点・成分における相互相関係数,SN: シグナル/ノイズ比.振幅はそれぞれの波形の最大振幅で規格化してある.

参考情報

参考にした情報

使用したデータ

使用したソフトウェア


2024年9月24日鳥島近海地震と津波(第一報)
2024年9月25日
地球計測系研究部門 三反畑 修 助教
(資料作成協力:日本列島モニタリング研究センター 武村 俊介 助教)

まとめ

  • 日本時間 2024年9月24日8時14分ごろ、鳥島近海において地震マグニチュード5.8の地震が発生し,その後,伊豆諸島を中心に津波が観測された.
  • 地震の震源として推定されているスミスカルデラでは,地震マグニチュード5程度の地震で最大で数十cmの津波を八丈島などに引き起こす,特異な地震・津波が約10年間隔で発生してきた.
  • 今回2024年9月24日の地震は,下記の4点において過去の地震活動とよく似ている.
    • 地震の発生場所・深さ
    • 震源メカニズム解(地震波の放射パターン)
    • 潮位計で記録された津波の波形・規模
    • 高周波地震波の規模・波形
  • 過去の現象との類似性から,今回発生した地震および津波は,過去の地震に対して提案されてきた「トラップドア断層破壊に伴うカルデラ火山の隆起現象」が発生したことが原因であったと考えられる.
  • 過去のスミスカルデラの事例を踏まえると,活動は静穏化する可能性が高い.一方で,別の火山ではトラップドア断層破壊が噴火開始の引き金になった事例もあることから,今回の地震発生によりスミスカルデラの火山活動が噴火などの別のフェーズへ移行する可能性もあるため,今後も活動には注視が必要である.

2024年9月24日 鳥島近海地震および津波の概要

  • 発生場所:鳥島近海(海底火山・スミスカルデラ近傍)(図1)
  • 地震発生日時・規模:
    • 気象庁: 2024-09-24 08:14頃 (JST: +09UTC) MJ 5.8
    • USGS: 2024-09-23 23:14:19 (UTC) Mw 5.6
  • 特徴
    • 今回の地震で震度1以上を観測した地点はなかったが,伊豆諸島などで津波が観測された.
    • 8時20分 津波注意報発令、11時00分  津波注意報解除
    • 観測された最大波高は八丈島八重根での0.5 m .
  • 主な津波観測状況 (気象庁報道資料より:図2)
    • 八丈島八重根 0.5 m
    • 神津島神津島港 0.2 m
    • 伊豆大島岡田 0.1 m
    • 三宅島坪田 0.1 m
    • 三宅島阿古 0.1 m
図1. 今回の地震の震源および鳥島の位置.(震源位置はUSGSの情報に基づく.Google Earthを用いて作成)
図2. 2024年9月24日地震後に観測された津波(気象庁報道資料P.6より)

地震発生場所と震源メカニズム解、および過去の地震との比較
スミスカルデラにおいて過去に発生した地震とよく似た特徴を持つ

  • 今回の地震は,海底火山・スミスカルデラのごく近傍の地下浅くで発生した.
  • 地震の放射パターンを示す震源メカニズム解は,鉛直方向に圧縮軸を持つCLVD成分に卓越.
  • 同火山で過去におおよそ10年おきに繰り返してきた地震と,震源位置・深さ,震源メカニズム解の特徴および地震規模がよく似ている.
図3. スミスカルデラ周辺で繰り返す地震活動.1984年・1996年・2006年・2015年・2018年についてはGlobal CMT catalogの情報に基づく.2024年の地震については,CMT解については防災科学技術研究所の解析結果,モーメントマグニチュードについてはUSGSのW-phaseの解析解に基づく.なお震源位置には数km〜10km程度の誤差が含まれることに留意が必要.


過去のスミスカルデラ地震による津波

過去の同火山での地震は地震規模に見合わない津波を引き起こしてきた

  • のいずれの地震でも津波が発生.伊豆・小笠原諸島と本州南西の海岸に設置された潮位計によって,最大数十cmの津波が観測された.
  • いずれの潮位計でも,異なる地震の直後に観測された津波の波形が互いによく似ている.
  • このことは,おおよそ10年間隔で繰り返す地震・津波現象が,同様のメカニズムで発生したことを示している.
図4. Sandanbata et al. (2022) より.a) 1984年,1996年,2006年,2015年,2018年地震の後に潮位計で記録された津波波形. b) 潮位計の設置位置(逆三角形)とスミスカルデラの位置(星印).


潮位計で記録された津波波形の比較:2024年 vs 2015年

地震の規模・特徴と同様,津波の規模・波形も過去の地震によるものとよく似ている

  • 震源時刻を合わせて,2024年地震と2015年地震の津波波形を比較するとほとんど波形が一致する.
  • 振幅については厳密に合わせていないが,ほぼ同規模である.
図5:今回2024年9月24日の津波波形(黒線:気象庁資料より)と2015年5月2日の津波波形(赤)を重ねた比較図.震源時刻に1分程度の誤差が含まれること,振幅や時刻の比較は厳密な比較ではないことに留意(後日更新予定).


地震波の高周波成分の波形: 2024年 vs 2015年

地震波の高周波成分はどうか?— やはり2015年のものと似ている

  • 地震波の高周波成分を見ても、今回の地震と2015年の地震の波形はよく似ている.
図6:DONETのKMB06点の海底地震計記録に,1–5Hzのバンドパスフィルターをかけた速度波形.(作成:日本列島モニタリング研究センター 武村俊介 助教).


今回の地震・津波の発生メカニズム

上記で示したような類似性を踏まえると,過去にスミスカルデラで発生した地震・津波のメカニズムとして提案されている,火山活動に起因する「トラップドア断層破壊」による火山隆起現象が,今回の地震・津波と原因であったと考えられる.

  • 「トラップドア断層破壊」とは?
    • カルデラ火山の地下にあるマグマ溜まり内に,長時間かけて蓄積したマグマの圧力を駆動力とする
    • 地震発生時,マグマの圧力を駆動力として,円形に伸びる断層構造が一気に破壊しながら,岩盤が大きく持ち上がり,海底の地盤が隆起する.それによって海水が持ち上がり,津波が発生する.
    • 地下数kmと極めて浅い地下で発生する現象であるため,地震規模の割に大きな津波が引き起こす.
    • ※同現象についてのより詳しい解説は 地震研「最近の研究」を参照のこと.
図7:トラップドア断層破壊の模式図(Sandanbata et al. (2022) の図を修正)


過去の事例を踏まえた今後の見通し

過去のスミスカルデラの事例では静穏化する可能性が高い.一方,別の火山ではトラップドア断層破壊が噴火開始の引き金になった.今後も火山活動に注視する必要がある

  • 過去のトラップドア断層破壊の観測事例から,今後の見通として2つのシナリオが考えられる
  • シナリオ1:活動の静穏化
    • 過去にスミスカルデラで発生したトラップドア断層破壊の後は,特に目立った地震・火山活動および津波は観測されておらず,活動が静穏化したと見られる.
    • この事例に基づくと,今回の地震・津波の後も活動が静穏化する可能性が高い.
  • シナリオ2:別の火山活動フェーズへの移行
    • 一方,トラップドア断層破壊が発生する陸上火山であるガラパゴス諸島・シエラネグラ火山では,2005年と2018年にトラップドア断層破壊発生後,いずれも数〜十時間以内に噴火活動が開始した.
    • この事例に基づくと,今回のスミスカルデラでのトラップドア断層破壊が,海底噴火などの別の火山活動フェーズに移行する可能性も考慮すべきである.


参考情報

参考にした情報

使用したデータ

第25回サイエンスカフェ(ハイブリッド)開催報告

サイエンスカフェを地震・火山噴火予知研究協議会と広報アウトリーチ室の共同で、2024年9月18日にハイブリッドで開催いたしました。


25回目となる今回は、「高リスク小規模火山噴火(2)」というテーマで開催し、 金子隆之 准教授(東京大学地震研究所)・寺田暁彦 准教授(東京工業大学)を迎え、加藤尚之 教授の司会のもと、金子准教授からは2014年9月の御嶽山噴火についてヘリコプターからの観察でわかったことを,寺田准教授からは多項目観測から解明された2018年1月の本白根山の噴火過程を紹介してもらいました。


<地震・火山噴火予測研究のサイエンスカフェ >
地震や火山噴火に関する研究の成果は、予測の基礎となることが期待されています。これまでの研究から、地震や火山噴火のメカニズムへの理解は深まってきました。また、今後発生する可能性のある地震や火山噴火を指摘することもある程度はできます。しかし、規模や発生時期についての精度の高い予測はまだ研究の途上です。このサイエンスカフェでは、地震・火山噴火の予測研究の現状について研究者と意見交換を行い、研究者・参加者双方の理解を深めることを目的とします。

第1039回地震研究所談話会開催のお知らせ

下記のとおり地震研究所談話会を開催いたします。

対面での開催を再開しておりますので、地震研究所へお越しいただければ幸いです。

ご登録いただいたアドレスへ、開催前日にZoom URLとパスワードをお送りいたします。
なお、お知らせするZoom URLの二次配布はご遠慮ください。また、著作権の問題が
ありますので、配信される映像・音声の録画、録音を固く禁じます。

               記

    
      日  時: 令和6年9月20日(金) 午後1時30分~

       場  所: 地震研究所1号館2階 セミナー室
              Zoom Webinarにて同時配信

1. 13:30-13:45

演題:対話型生成AIを用いた歴史地震の震度判定の試み

著者:○大邑潤三、北本朝展(国立情報学研究所)、加納靖之、橋本雄太(国立歴史民俗博物館)

2. 13:45-14:00

演題:最大地動加速度とコーナー周波数から計算した応力降下量のばらつきの不整合問題の解決

著者:○新本翔太・三宅弘恵

3. 14:00-14:15

演題:地球内部超塑性(拡散クリープ)仮説-天然カンラン岩中の結晶軸選択配向からの検証-

著者:○平賀岳彦・キムナヒョン

○発表者

※時間は質問時間を含みます。

※既に継続参加をお申し出いただいている方は、当日zoom URLを自動送信いたします。

※談話会のお知らせが不要な方は下記までご連絡ください。

〒113-0032 東京都文京区弥生1-1-1 

東京大学地震研究所 共同利用担当

E-mail:k-kyodoriyo(at)eri.u-tokyo.ac.jp

※次回の談話会は令和6年11月1日(金) 午後1時30分~です。

【東京大学ホームカミングデイ】講演会、同窓会の開催について

 令和6年10月19日(土)は本学のホームカミングデイです。今年は対面開催で様々なイベントが開催されます。
 地震研究所では、以下のイベントを開催いたしますので、参加を希望される方は、申込方法の欄をご確認のうえ、お申し込みをお願いいたします。


【講演会】
「日本列島下のマグマ・流体と変動現象 / 教授 岩森 光」
日本列島には、111の活火山や多数の温泉・湧水が分布し、その地下にはマグマや水溶液といった流体が広く分布していると考えられます。また、3年以上継続する能登半島の地震活動や隆起運動にも流体の関与が示唆されるなど、地下深部の流体が変動現象と関わっていることも分かってきました。本講演では、最近の研究から推定されるマグマ・流体の分布・起源、日本列島の地下の状態、およびそれらの変動現象とのかかわりについて紹介します。

日  時:令和6年10月19日(土) 13時~14時
場  所:地震研究所1号館2階セミナー室 
対  象:一般(定員75名:申し込み順) ※要事前申込
申込方法:申込フォームよりお申込みください。
※受付期間:令和6年9月19日(木)9時~令和6年10月17日(木)17時ま

  ※受付時間は、平日9時~17時までとなります。
   受付時間外のお申込みについては、下記お問い合わせ先までご連絡ください。

注意事項
・定員に達した場合、申込受付期間に関わらず締め切る場合があります。
・本講演会は、オンライン中継、動画配信の予定はありません。
・申込フォームへ入力いただいた個人情報につきましては、本講演会実施の目的のみに使
用いたします。法令などにより開示を求められた場合を除き、個人情報をご本人の同意を
得ることなく業務に関与する者以外の第三者に開示することはありません。
 
本件に関するお問い合わせ先
地震研究所庶務チーム(庶務担当) shomu[at]eri.u-tokyo.ac.jp ※[at]は@に置き換えて
ください。

【地震研同窓会総会・懇親会】
 地震研究所に在籍された学生・教職員の旧交を温めるための会合です。総会を開催した
後に懇親会を行います。在籍者の参加も歓迎します。
日  時 :令和6年10月19日(土) 14時15分~16時(予定)
場  所 :地震研究所1号館2階ラウンジ
開催形式 :ハイブリッド(現地開催+Zoom)
現地参加費:5,000円
対  象 :地震研究所OB・OG(学生・教職員)及び在籍者

申込方法 :同窓会にまだ加入していないけれども参加を希望される方は、同窓会Webにある「同窓会メンバー申し込みフォーム」より同窓会に加入申し込みのうえ、「その他」欄にて参加希望の旨ご入力ください。在籍者も同窓会に加入できます。同窓会に会費はありません。
同窓会に加入済みの方には、メールや葉書でご案内の連絡をしていますが、もし何も連絡が来ていない場合は、お手数ですが、世話人メールアドレス宛にその旨お知らせいただくか、同窓会メンバー申込ページより情報をご入力く
ださい。

同窓会Web:https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/dosokai/
本件に関するお問い合わせ先
 地震研同窓会世話人 dosokai-sewanin[at]eri.u-tokyo.ac.jp ※[at]は@に置き換えてください。

Friday Seminar (20 September 2024) Kelin WANG (PGC, Gelogical Survey of Canada & University of Victoria)

Title: The strength of subduction megathrusts and implications to earthquake processes

 

Abstract:
The strength of subduction megathrusts and how it varies during slip are important to earthquake physics. Actual megathrusts feature multi-scale heterogeneity, but fundamental understanding can be gained by focusing on the big picture and representative end members. This seminar provides a big-picture sketch of what has been learned over the past three decades. An ideal creeping fault has only one strength, but an ideal stick-slip fault has three strengths: the true strength, apparent strength, and dynamic strength. At a regional scale, there are only two useful methods to determine megathrust strength: the study of force balance in which gravity provides a reference and the study of thermal fields in which frictional heat dissipation reflects fault strength. Global applications of these methods yield effective friction coefficients of megathrusts in the range 0.03 – 0.13, much lower than the value of about 0.4 predicted by Byerlee’s law with hydrostatic fluid pressure. Despite this remarkable weakness, stress drop in megathrust earthquakes generally is only 10 – 30% of the absolute fault strength. Seismogenesis depends not on the absolute strength but how the fault weakens or strengthens during slip. Thirty years ago, updip and downdip limits of the megathrust seismogenic zone were proposed on the basis of thermal controls on weakening or strengthening behaviour. Today, new understanding of fault mechanics and fault gouge petrology and rheology requires the development of a new conceptual framework. I will explain why and how the previously proposed limits should be changed to “soft barriers” to seismic slip.

【観測所紹介】白木微小地震観測所

地震研究所は全国で13の観測所(2023年4月時点)を展開しております。

 白木微小地震観測所は1965年に、地震予知研究計画に基づき、中国地方に遠地地震の観測も兼ねた微小地震観測所を設けることを計画し設置されました。広島県高田郡白木町の鷹山国有林内に用地を有償で借り受け、現在も林野庁から有償で土地を借りています。
 1966年1月から世界標準地震計観測網(WWSSN: World-Wide Standardized Seismograph Network)の一観測点としての役割を担っていたというユニークな観測所です。
 世界標準地震計観測網は、米国沿岸測地局(USCGS)が、地下核爆発探知の目的で世界125か所に設置したもので、日本では松代にある気象庁地震観測所と、広島にあるこの白木微小地震観測所の2点に設置されました。
 設置当初はアメリカから技師が二名松代観測所に来ており、地震研究所からは白木観測所に勤務し標準地震計の設置をする予定になっていた茅野一郎氏が見学のため松代に出張しています。

 1979年に開始した第4次地震予知計画において、有線PCMテレメータ方式による南海地震観測網が整備されることになりましたが、山間部に位置するこの場所において新規観測網の構築・維持が困難であったため、観測所機能を移転させることが出来る新観測庁舎と付帯する無線局設備を、ここから南西に位置する広島市内に建てました。それが現在の広島地震観測所です。

【米国沿岸測地局より配布された機材】
・長周期地震計:プレスユーイング型(固有周期100秒)。
・短周期地震計:ベニオフ型(固有周期1秒)。
・光学式記録方式で、記録媒体は大判ブロマイド紙。そのため暗室があることが必須であった。
・電子コンソールはタイミング システム、コントロール、および電源を含む。

世界標準地震計観測網(WWSSN: World-Wide Standardized Seismograph Network)

 米国沿岸測地局(USCGS)が、1966年頃から世界125か所に同一の地震計を配布した観測網。

 世界中で同じ地震計を用いて観測をするWWSSNは、地震学における技術的なマイルストーンでもあったと言え、研究のための高品質なデータを豊富に生み出しました。参加国は設置施設の提供、機器の操作が出来、かつ、録れた地震記録のコピーを米国沿岸測地測量局(C&GS)に送ることとなっていました。
 アメリカ地質調査所(USGS)が公式に終結させた1996年頃までには、多くの観測所は閉じているか、デジタルの観測への切り替えがされていました。(Jon Peterson and Charles R. Hutt, 2014. p1-3)


 白木微小地震観測所で実際にこの業務に従事していた、当時を知る三浦 勝美 技術職員による『国際標準地震観測の思い出』の「あとがき」を下記に引用します:

国際標準地震観測網 (WWSSN)の記録装置の維持と記録の処理は、現在では考えられない手間のかかる作業であった。この観測で得られた記録は世界中の多くの研究者に利用されてきた。記録はよく知っているが、観測の現場は知らないという方も多いのではないかと思う。また適切な処理を行えば、今でも地球内部の研究や震源過程の現代的な研究に使える貴重な記録である。記録処理の苦労の一端を少しでも理解いただければ幸いである。

(三浦 勝美「国際標準地震観測の思い出」『東京大学地震研究所技術報告』, No. 3, 1998年)

【沿革】

1963年設置に向けた現地調査開始。
1965年鷹山国有林内に設置完了。8月にはHES1-0.2電磁地震計による微小地震観測開始(1973年まで)。
1966年1月からは世界標準地震計観測網(WWSSN: World-Wide Standardized Seismograph Network)の一観測点として、国際標準地震計であったプレスユーイング型とベニオフ型地震計による観測開始。
1979年第4次地震予知計画開始。テレメータ方式による南海地震観測網の整備が決定。
1983年3月に新庁舎および無線局設備が、広島市安佐北区落合に建設・観測機能の移転。
1990年5月に白木観測点(現在の白木微小地震観測所)においてSTS-1型地震計(3成分)が設置され広帯域地震観測が開始。
1995年地震研究所改組によって「広島地震観測所」と名称が改められる。
2012年技術職員の常駐が終了。
2013-2014年老朽化対策のため施設整理および過去記録(紙およびフィルム)の広島地震観測所への移設がされる。

【文献】

・Jon Peterson and Charles R. Hutt. “World-Wide Standardized Seismograph Network: A Data Users Guide”. USGS. Open-File Report. 2014–1218. https://pubs.usgs.gov/of/2014/1218/pdf/ofr2014-1218.pdf , (参照 2024-09-03)

・三浦 勝美「国際標準地震観測の思い出」『東京大学地震研究所技術報告』, No. 3, 1998年

・三浦 勝美「広島地震観測所の変遷と震源データ」『技術研究報告( 東京大学地震研究所) No. 1』, 50-58, 1996 年

・森 健彦, 藤田親亮, 渡邉篤志, 外西奈津美, 田中伸一, 西本太郎 「広島地震観測所及び白木地震観測所における施設整理」『東京大学地震研究所技術研究報告』,No. 21,25-31 頁,2015 年

・萩原 尊禮「松代群発地震」『理科年表読本 地震予知と災害』,p129, 1997年, 丸善株式会社 



【関連するリンク】

USGS. “World-Wide Standardized Seismograph Network: A Data Users Guide”. p.1-10. https://pubs.usgs.gov/of/2014/1218/pdf/ofr2014-1218.pdf

“東京大学地震研究所地震計博物館”「プレス・ユーイング長周期地震計」p10 https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/wp-content/uploads/2024/03/eri_seismometers_museum.pdf 

「「波形手ぬぐい」の解説動画」地震研チャンネル. 2023-01. https://youtu.be/AfNjhwNsU2w?feature=shared

地震研究所技術部総合観測室 https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/gijyutsubu/kansoku/

国立歴史民俗博物館・東京大学地震研究所・京都大学古地震研究会/みんなで翻刻 が デジタルアーカイブジャパン・アワード2024 を受賞

加納 靖之 准教授・大邑 潤三 助教らによる「みんなで翻刻」を主催する国立歴史民俗博物館・東京大学地震研究所・京都大学古地震研究会が、デジタルアーカイブジャパン・アワード2024 を受賞しました。


受賞名:デジタルアーカイブジャパン・アワード2024
授与機関:内閣府知的財戦略推進事務局 デジタルアーカイブ推進に関する検討会
受賞日:2024年8月26日
受賞機関:国立歴史民俗博物館・東京大学地震研究所・京都大学古地震研究会/みんなで翻刻