令和元年度地震火山災害予防賞を受賞した、地震研究所 宮川幸治 技術専門職員 (左)。受賞式は地震研究所職員研修会の会期中に開催され、記念講演のタイトルは「 途上国における地震観測システムの構築と技術移転 」でした。
ニュースレターPLUS32号 刊行
ニュースレターPLUS32号特集:「日本海地震・津波調査プロジェクト」が、刊行されました。

開催報告:懇談の場「日本海地震・津波調査プロジェクト」
阪神・淡路大震災25年
1995年兵庫県南部地震のSMAC-B2型強震計記録(大阪神ビル)
提供:東京大学地震研究所強震観測データベース
1995年兵庫県南部地震では、被害をもたらした強震動記録が克明に捉えられました。近代的な観測機器のみならず、都市部の建物に設置されていた1950年代から開発されたSMAC型強震計もその役目を果たしました。
( 災害科学系研究部門 三宅 弘恵)
西田 究 准教授 井上学術賞を受賞
西田 究 准教授 が、第36回(2019年度)井上学術賞を受賞しました。
井上学術賞は、自然科学の基礎的研究で特に顕著な業績を挙げた50歳未満の研究者に対して贈られるものです。2020年1月4日に授賞式が開催され、(公社)井上科学振興財団理事長より第36回井上学術賞が贈呈されました。

受賞理由:お寺の大きな鐘はゴーンと響き、軒先の小さな風鈴はチリンと鳴る。
けっしてその逆はない。当たり前のように思うが、不思議といえば不思議である。これは、物体にはそれぞれの大きさや材質できまる「固有の」振動数があり、叩かれるとその定まった振動数で振動するからだ。一個の物体としての地球も例外ではなく、大地震が起こると様々な音色、すなわち固有の振動数で、地球全体が振動する。これが地球自由振動と呼ばれる現象で、近代地震学史上最大の1960 年チリ地震(M9.5)の際、発見された。それ以降、地球自由振動の観測に基づく地球内部構造の研究が盛んになる一方で、地震以外の現象が自由振動を励起する可能性は顧みられなくなった。この常識を覆すきっかけを作ったのが西田究氏らの研究で、「地球の大気擾乱は、観測可能なレベルの自由振動を引起こしている筈」との理論的見積りに基づき、地震のない時でも地球が常時自由振動していることを発見した。西田氏はこの問題を発展させて、固体地球全体と大気・海洋系全体が相互作用を及ぼす1 つのシステムとしてみなせることを示してきた。海洋内の波が海底地形にぶつかると、常に微弱な固有振動を励起することを示し、さらに、固体地球の振動が大気音波と共鳴していることも明らかにした。これらの研究は、固体と大気・海洋との間には力学的な相互作用はないとする従来の見解からの、コペルニクス的転回をもたらした。さらにその応用として、地震波干渉法による地球内部構造推定を「グローバル・上部マントル」にまで拡大した功績は大きい。この手法によって、砂嵐の吹き荒れる火星や、表面気圧が地球の90 倍もある金星の内部構造解明が期待されるなど、将来への発展性も大いに評価できる。
以上述べたように、現象の詳細解明、励起源の探求、関連振動現象の発見、地球内部構造研究への応用など、大気・海洋・固体地球系地震学とも言うべき新たな分野を開拓した業績に対し、井上学術賞を授賞することとした。

2018年 M6.7北海道胆振東部地震前後の地震活動の特徴
熊澤貴雄・尾形良彦・鶴岡 弘
1 東京大学地震研究所,2統計数理研究所
Earth, Planets and Space (2019) 71:130 https://doi.org/10.1186/s40623-019-1102-y
2018年6月に発生したM6.7北海道胆振東部地震の前震、余震活動の特性を統計モデルで詳細解析した。この地震の余震地域の地震活動は2003年M8.0十勝沖地震を境に統計的に有意に減少していたが、震源分布は余震地域の浅い方に移動しながら、M5.1地震を含む群発地震が胆振東部地震本震(M6.7)の約一年前にその深部で発生した。本震に続く余震活動は、本震の数日後から2019年2月の最大余震(M5.8)まで有意な静穏化を示した。これらの活動変化は十勝沖地震および胆振東部地震による応力変化で説明できる。前述のM5.1地震と本震後の群発地震の期間には地震活動の上昇傾向が検出され(図1)、これらの活動が通常の(ETAS地震活動モデルが想定する)、先行する地震からの誘発の連鎖とは異なる因果関係で発生したことが示唆される。余震活動全体のb値の変化は、余震期間全体を通して経過時間とともに増加傾向を示したが、これは余震が空間的に異なる特性を持つことを意味する。
プレート境界の応力集中域の周囲で発生する浅部超低周波地震
武村俊介1・野田朱美2・久保田達矢2・浅野陽一2・松澤孝紀2・汐見勝彦2
Geophysical Research Letters, 46 (21), 11830-11840, doi:10.1029/2019GL084666
1東京大学地震研究所, 2防災科学技術研究所
南海トラフのプレート境界において巨大地震が繰り返し発生しているが、それより浅部のプレート境界(トラフ軸周辺)では、通常の地震と比べてゆっくりとしたすべり現象(浅部スロー地震) が起きている。スロー地震は、プレート境界の構造的特徴や応力状態と関連があると考えられており、日本を含む世界中の沈み込み帯で精力的に調査が進められている。
本研究では、南海トラフのプレート境界浅部で発生する浅部超低周波地震(スロー地震の一種)について、防災科学技術研究所F-netの連続波形記録を用いたテンプレート解析に基づいて、小さな浅部超低周波地震を検知するとともに、震央位置を再決定することで、それらの活動の時空間変化を明らかにした。
Noda et al. (2018)が求めたプレート境界のすべり欠損速度の分布を利用して、プレート境界のせん断応力変化の空間変化を評価し、浅部超低周波地震の震央位置と比較した(図)。その結果、浅部超低周波地震は、プレート境界の応力集中域の周囲で頻繁に発生していることがわかった。また、せん断応力変化と浅部超低周波地震の発生数の関係(図b)から、浅部スロー地震活動はフィリピン海プレートの沈み込みによるせん断応力変化が大きく強度の強い固着域とせん断応力変化が小さい安定すべり域の間の遷移領域で活発に発生していることを明らかにした。
このような、フィリピン海プレート境界の摩擦強度の不均質性は、巨大地震の発生や破壊過程を考える上で重要である。 本研究で検知した浅部超低周波地震のカタログは、論文のウェブページ(https://doi.org/10.1029/2019GL084666)とスロー地震データベース(http://www-solid.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~sloweq/)にて公開されています。

【共同利用】令和2年度拠点間連携共同研究の公募開始
令和2年度(2020年度)拠点間連携共同研究の公募を開始いたしました。
No.32(2020年1月)特集:「日本海地震・津波調査プロジェクト」(pdf1.06MB)
【研究速報】ひまわり8号による西之島2019年12月活動の観測
ウェブ掲載日:2019年12月16日
西之島では2018年の小規模活動(第3期)に続いて,2019年12月4日,新たな活動が始まった.火山噴火予知研究センターでは,この活動についてひまわり8号,GCOM-C/SGLI(しきさい)等の衛星赤外画像により噴火経過の観測を行っている.
今回の観測によって,2019年12月の活動は2017年噴火(第2期)の最盛期を上回る高い噴出率をもつことがわかった.今後の経過が注目される(これまでの活動,予想される災害等については,“2013年11月21日西之島の噴火活動”*1,“西之島噴火に伴い発生する可能性がある津波について”*2等を参照).以下に,12月4日から13日までの経過を報告する.
12月4日-5日未明:
西之島では2019年12月4日夜から5日未明にかけて噴火と思われる熱異常が観測された.活動は,4日20時50分頃から徐々にレベルが上がり(a1), 21時30分頃~0時頃には高い状態(a2)となり,その後若干低下したものの比較的高い状態が5日0時~3時50分頃まで継続し(a3),4時頃にバックグラウンドレベルまで低下した(A: 前駆的活動期)(図1).この間,爆発的噴火や溶岩流の噴出等が起きたと考えられる.
12月5日午後:
先の活動は一旦収まったかに見えたが,5日15時前に活動が再開した.16時30分以降,高い熱異常が一定レベルで継続する(図1)ことから,この頃には溶岩流が定常的に噴出していたと考えられる(B: 溶岩流の噴出期).


12月5日夕方-10日夕方:
一部,雲の被覆により確認できない部分もあるが,10日夕方までほぼ一定レベルの熱異常が続くことから(図2), 5日夕方に始まった溶岩流の噴出は,この間ほぼ一定の噴出率で継続していたと考えられる(各バンドの黄色/オレンジの実線). 9日の「しきさい」熱赤外画像で,島中央部にある火砕丘の東側基底部付近から噴出したと思われる溶岩流(白色部)が,東南東に向かって 700~800 m 程流下しているのが認められる(海に達している) (図3).


12月10日夜-11日未明:
12月5日から一定レベルの溶岩噴出が続いて来たが,10日22時から11日6時頃にかけて熱異常レベルが上がる(赤太矢印間)ことから,この間,噴出率が上昇したと考えられる(図4).
12月11日-13日:
熱異常のレベルから,11日6時頃から続く高い噴出率は,現在(13日6時)も継続していると考えられる.
噴出率の推定:
ラウン2015年噴火及び西之島2017年噴火(Kaneko et al.,2019a,2019b)のデータから求めた“夜間ひまわり8号1.6μmバンド輝度値と噴出率の間の経験式(ER-model ver.1)”を基に,噴出率の推定を行った.噴火当初の噴出率は 0.29 x 106 m3/dayであったが,11日5時以降は 0.45 x 106 m3/day 程度まで高まっていると推定される.この値は,2017年噴火の最盛期の噴出率を上回っている. (2019 年12月13日 文責・金子)
リンク:
*1: ”2013年11月21日西之島の噴火活動“ http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/2017/04/21/2013%E5%B9%B411%E6%9C%8821%E6%97%A5%E8%A5%BF%E4%B9%8B%E5%B3%B6%E3%81%AE%E5%99%B4%E7%81%AB%E6%B4%BB%E5%8B%95/
2* ”西之島噴火に伴い発生する可能性がある津波について“ http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/VRC/nishinoshima/nishinoshima_tsunami/