自律式無人ヘリコプターを利用した繰り返し空中磁気測量 ―2011年霧島山新燃岳噴火後の事例―

Takao Koyama1, Takayuki Kaneko1, Takao Ohminato1, Takatoshi Yanagisawa2, Atsushi Watanabe1, and Minoru Takeo1

1Earthquake Research Institute, University of Tokyo/2IFREE, Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology

Earth Planets Space, 65, 657–666, 2013

自律式無人ヘリコプターを利用した繰り返し空中磁気測量

―2011年霧島山新燃岳噴火後の事例―

2011年新燃岳噴火後の5月と11月の2度、無人ヘリコプターを用いて空中磁気測量を実施しました。本観測の主目的は、1)新燃岳および周辺の磁化構造を推定すること。2)噴火後の磁化の変化を抽出すること。の2点です。 2011年5月の観測において、新燃岳の西側の領域、東西2km×南北3kmの範囲を100mの測線間隔で対地高度およそ100m一定のフライトで磁気測定をおこないました。その結果、全磁力値46500~47500nTという1000nTにおよび大きな全磁力異常が検出されました。その測定データを元に磁化構造を推定したところ、平均磁化はおよそ1.5A/mという値が得られました。玄武岩質の伊豆大島などが10A/mを超える平均磁化を持つのに比べると、非常に小さな値であると言えます。磁化鉱物をあまり含まないアンデサイトであったこと、ランダムに降り積もった火山灰による見かけ上の磁化の減少、鉱物変質による磁化の弱化などがその要因として上がられます。 およそ半年後2011年11月に再び同じ領域で空中磁気測量を実施しました。5月の測定との差に着目しますと、最大で±100nTという大きな全磁力の時間変化が見られました。特徴としては、新燃岳の火口で顕著であり、火口の南側が正、北側が負というパターンであり、このことは、火口においてなにかが帯磁したことを示唆しています。 今回の新燃岳の噴火に際して火口での現象に着目しますと、以前あった火口湖が消失し、溶岩によって火口が満たされました。上述の帯磁したものとはこの火口内にあらわれた溶岩が冷却し帯磁したものであると考えられます。 この火口内の溶岩が帯磁したと仮定して周囲に及ぼす全磁力異常を計算したところ、測定データと非常によい一致が見られ、この仮定はおおよそ正しいものであったことがわかりました。 本研究のように、危険が伴い人が近づけない場所においても無人ヘリを使った磁気探査を行えば、接触することなく地下の温度の状況を把握できるという点で火山の内部の様子を調査する非常に有効な手段であることが実証できたと言えます。 左図は5月と11月の全磁力測定データの差、右図は火口内溶岩が帯磁したとして計算された全磁力異常。両パターンが非常によく一致していることがわかります。

2011年霧島山新燃岳噴火のマグマ湧出, 準プリニー式およびブルカノ式噴火に伴う地殻変動サイクル

Minoru Takeo1, Yuki Maehara2, Mie Ichihara1, Takao Ohminato1, Rintaro Kamata1, and Jun Oikawa1

1 Earthquake Research Institute, University of Tokyo / 2 Schlumberger K.K., Nagaoka, Japan

Journal of Geophysical Research, 118, doi:10.1002/jgrb.50278, 2013

2011年霧島山新燃岳噴火のマグマ湧出, 準プリニー式およびブルカノ式噴火に伴う地殻変動サイクル

2011年1月26日に約300年ぶりの本格的なマグマ噴火を開始した霧島山新燃岳は,1月26日〜27日の間に3回の準プリニー式噴火を,1月28日〜31日の間に山頂火口内にマグマを湧出する活動を,2月1日以降はブルカノ式噴火を繰り返すという,異なる様式の噴火活動を行った.この噴火活動の初期(1月26日〜2月7日)に,火口から1.5km以内の火口近傍で,広帯域地震計(地震研究所)と傾斜計(気象庁)の観測データがとられ,異なる噴火様式に伴いそれぞれに特徴的な地殻変動サイクルが検出された.この論文では,これらの地殻変動サイクルの特徴を整理すると同時に,繰り返し発生したブルカノ式噴火に伴う地殻変動サイクルの時間変化に注目して,ブルカノ式噴火に先行して火道内部がどの様な状態にあったのかを推測した.  1月26日午後3時半に発生した最初の準プリニー式噴火の約1時間半前から,火口近傍に設置された広帯域地震計と傾斜計には,山側(火口方向)が膨らむ傾斜変動が記録され始めた.この傾斜変動は徐々に大きくなりながら午後2時45分頃まで続き,その後いったん傾斜の増加は停止する.午後2時52分に小規模な水蒸気爆発が発生し,その後火口方向が収縮し始め,午後3時までに,火口側の膨らみの2/3ほどが戻っている.その後,傾斜変動はほとんど変化せず,30分後の午後3時半から,準プリニー式噴火が開始した(図1上を参照).準プリニー式噴火の間(午後3時半〜午後6時半)は,火口近傍の傾斜計は目立った変化を示さず,噴火停止後,再び火口側が膨らむ傾斜変動が記録されている.これは,噴火の勢いが弱くなり噴出物が火道内部を塞ぐことにより火道内部の圧力が増加したことを示唆している(図1下を参照).1月28日から31日にかけてのマグマ湧出期には,約1時間周期で火口が膨らんだり縮んだりする傾斜変動が記録され,30日,31日の変動が大きな時期には,この傾斜変動と同期して長周期地震が多発したり,火山性微動が発生している.

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図1

 

2月1日から大きな噴石を何キロも飛ばす ブルカノ式噴火(爆発的噴火)が頻発するようになり,2月7日までの一週間の間に22回のブルカノ式噴火を観測した.これらのブルカノ式噴火の全てで,噴火に先行して火口側が膨らむ傾斜変動が観測された.また,この先行する傾斜変動の継続時間は時間の推移とともに,きわめて規則的に長くなる特徴が見いだされた.一方,先行する傾斜変動の変化の仕方は,徐々に複雑な様相を呈するようになっていった.また,2カ所の観測点で記録された傾斜の比を調べると,ブルカノ式噴火の発生に近づくにつれて系統的に変化していることが明らかになった.この変化は,傾斜変動を作り出す変動源の中心が,噴火が近づくにつれて深くなっているということで説明することができる.このような観測事実を総合して,ブルカノ式噴火に先行して火道内部でどのような現象が起こっているかを推定したのが図2である.先行する傾斜変動の継続時間の規則的な変化は,火道深部からの火山ガスの供給が指数関数的に減少していくことで説明することができ,ブルカノ式噴火は火道内部の最も強度の強いマグマ組織が,その中に蓄積された火山ガスの圧力により破壊されることにより発生している.

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図2

 

津波波形からみた2011年東北地方太平洋沖地震のすべりの時空間分布

佐竹健治(東大地震研)・藤井雄士郎(建築研)・原田智也(東大地震研)・

行谷佑一(産総研)

Bulletin of Seismological Society of America,103,No2B 1473-1492(2013)

津波波形からみた2011年東北地方太平洋沖地震のすべりの時空間分布

東日本大震災を引き起こした2011年東北地方太平沖地震については,地震波・GPS・津波などのデータを使って断層面上のすべり分布のモデルが提案されてきました.これらに共通するのは,宮城県沖の震央付近で数十m以上という大きなすべりが発生したことですが,いくつか未解決の問題もありました.なかでも,津波の高さが震央から約100 kmも北の岩手県宮古市付近で最大となったことは,これまでのモデルでは説明されていませんでした.

2011年の津波波形は,東大地震研究所のケーブル式海底水圧計やGPS波浪計によって,波源域周辺の沖合や深海で記録されました.従来に比べて高品質・高分解能の津波波形が得られたことから,津波の源となったすべり分布の空間分布に加えて,時間変化も推定することができました.

その結果,地震(破壊)発生後約2.5分後にプレート境界のやや深部で25 m以上の大きなすべりが,さらに地震発生から約3分後に海溝軸付近で巨大なすべり(最大69 m)が発生したことがわかりました.この巨大なすべりは,地震発生から約4分後以降に北へ広がり,海溝沿いで20 m以上のすべりが発生しました.海溝軸付近ですべりが遅れて発生したことが,震央付近の宮城県でなく,岩手県沿岸で津波の高さが最大になった原因でした.

海溝軸付近の大きなすべりは,1896年明治三陸津波地震のモデルとよく似ていますが, 2011年の方がすべり量や断層長さはずっと大きいものでした.しかし,仙台平野への津波の浸水は,このような海溝軸付近のすべりでは再現できず,プレート境界深部のすべりが主な原因であることが確認されました.これは 869年貞観地震のモデルとしてすでに提出されていたものと同様に,プレート境界深部がすべることにより長波長の地殻変動を生じ,沿岸での津波が長周期となって浸水しやすくなったためです.

図1 小断層上におけるすべり量の時空間分布(時間間隔は30秒毎です).白星印は震源(破壊の開始点)を示します.

 

図2 2011年東北地方太平洋沖地震震源域の断面図.下は断層面を,上は鉛直改訂変位分布を示します.2011年東北地方太平洋沖地震は,プレート境界深部で発生した869年貞観地震タイプ(緑色)と,海溝軸付近で発生した1896年三陸津波地震タイプ(青色)の同時発生でした.

 

常時地球自由振動の相互相関解析によって明らかとなった、 全球的に伝わる実体波

K. Nishida

Geophys. Res. Lett., 2013, DOI: 10.1002/grl.50269

常時地球自由振動の相互相関解析によって明らかとなった、

全球的に伝わる実体波

地球内部の状態を知る上で、地震学的な手法は重要な役割を果たしてきました。”地震”が引き起す地震波は、固い場所を通ってくる場合には観測点に早く到達し、柔らかい場所を通ってくる場合には遅く到達します。1980年代以降、この“到着時間のずれ”をCTスキャンに似た方法で調べ、地球の3次元的な内部構造が明らかにされてきました(地震波トモグラフィー)。 “地震”が起きていない時期には、地球は振動してないのでしょうか? 実は、地球は常に海の波によって揺すられている事が知られています。脈動と呼ばれる周期5秒から20秒程度の地面の振動です。近年、大気や海の波が常時地球自由振動と呼ばれる周期数100秒のゆっくりとした振動を引き起こしていることも明らかになってきました。しかし脈動や常時地球自由振動は地震観測をする上での“ノイズ”であると長い間考えられてきました。脈動や常時地球自由振動は常に色々な方向から到来しているため、“地震”が引き起こした地震波を隠してしまうためです。本当に、” 脈動や常時地球自由振動を使って、地球の内部構造を調べる事はできないのでしょうか? 2004年にShapiro達は、脈動と呼ばれる周期10秒程度の海洋波浪起源の地震波(脈動)を使い、カリフォルニアの地殻構造を推定する事に成功しました。地震波が色々な方向から常に到来しているという事実を逆手に取り、脈動の伝わり方から地球の内部構造を調べたのです。地震波干渉法と呼ばれる方法です。その後、同種の研究が盛んに行われるようになりました。最近では長周期の地震波(常時地球自由振動)を使い、局所的な構造だけではなく全球的な構造も求められるようになってきました。 しかし、これら地震波干渉法の研究では、地震波の中でも主に表面波(Rayleigh波 、Love波)によって内部構造が調べられてきました。表面波を使う場合には、どうしても上部マントルより深い領域の構造を調べることは困難です。深い領域を調べるには実体波(図1中P波PKP波など)を使うことが非常に有効ですが、信号の大きさが小さいために技術的な困難がともないます。日本列島やヨーロッパ・スケールでは地震波干渉法により実体波を検出したという報告例はあります。しかし、全球的に伝播する実体波を検出したという報告例はまだありませんでした。 図1 本研究では、初めて地震波干渉法を使い、全球的に伝播する実体波の検出する事に成功しました。図2に結果を示します。PKP波(図1,図2参照)など、核を通る地震波波の検出にも成功しました。近年、全世界的に多くの地震計ネットワークが展開されています。その高品位、長期間(~10年間)かつ多量(~1000点)のデータが検出を可能にしました。 “地震”は非常に限られた領域で起きます。そのため、”地震”を使って地球の内部を調べる場合、詳細を調べることが出来る領域は限られてしまいます。地震波干渉法では地震計を設置さえ出来れば、そのような偏りを避けることが出来ます。将来、地震波干渉法は今まで診ることの出来なかった領域にも光を当て、新たな知見を与えてくれることでしょう。 図2

霧島山新燃岳2011年噴火における深部マグマ供給と浅部マグマ再移動 ―斑晶メルト包有物と相平衡実験からの制約―

著者:鈴木由希・安田敦・外西奈津美・金子隆之・中田節也・藤井敏嗣

Journal of Volcanology and Geothermal Research, 257, 184-204, doi:10.1016/j.jvolgeores.2013.03.017, 2013

霧島山新燃岳2011年噴火における深部マグマ供給と浅部マグマ再移動

―斑晶メルト包有物と相平衡実験からの制約―

“火山岩”は,地下のマグマが地表に噴出し急激に冷やされて出来たものです.その組織や組成には,形成に関わったマグマの種類,そして種類毎の地下での貯蔵•移動条件が記録されています.この研究では,新燃岳2011年噴火の火山岩の岩石学的研究を行うことで,新燃岳地下のマグマ溜まりの状態や,2011年噴火の誘発過程を探りました.このような情報は,次の噴火の兆候を地球物理学的観測により捉える上でも,重要です. 2011年噴火で出来た火山岩のほとんど,すなわち,1月末の爆発的噴火で放出された灰色や茶色の軽石,そして直後に火口に蓄積した溶岩は,組成差の有る2種のマグマが噴火直前に混合し出来たものです.2種のマグマは,噴火直前まで別々の深度に存在しました.深部にあった相対的に高温のマグマ(1030 °C,SiO2量55 wt.%)は, 10kmあるいは,さらに深いところから,5kmの深さの浅部マグマ(870 °C,SiO2量62-63 wt.%)に向けて上昇してきました.2種のマグマは大凡1対1の比率で混合しました(混合物は960–980 °C,SiO2量57–58 wt.%).低温マグマの極一部は,高温マグマと混合せずに,白色の軽石を生み出しました. 高温マグマの上昇していた深さは,上昇時に成長していた斑晶に取り込まれたマグマのメルト部分,”メルト包有物”,を分析することで決定することが出来ました.包有物は元のメルトの揮発性成分量を保持しています.ある深度でメルトに溶解することの出来る揮発性成分の量が分かっており,かつ,メルトが揮発性成分に飽和していたとみなせるならば,揮発性成分量から取り込みの深度が推定できるということです.加えて高温マグマの上昇が比較的短時間で起きたことは,高温マグマで晶出していた斑晶(カンラン石+斜長石)が,空隙の多い骸晶状であることから示唆されました.一方,低温マグマの貯蔵深度は,地下でのマグマ溜まりの状態を人工的に再現する”高温高圧実験”を実施し決定しました.白色軽石の粉砕物に噴火時に抜けてしまった水を加え,温度は既知の値(870 °C)に固定し,圧力のみを変化させた複数の実験を行いました.軽石の斑晶組み合わせ(複輝石+斜長石+Fe-Ti酸化物)や量を再現できる条件が,マグマ溜まりの実際の状態とみなされました. 測地学的研究によれば,噴火前のマグマ蓄積に伴う膨張・噴火時のマグマ噴出による収縮の圧力変動源は,共に新燃岳の北西7-8kmの地下に求められています.岩石学的に推定されたマグマ溜まりも,この北西地下にあると考えられます.複数の研究グループの成果によると,圧力変動源深度は6-10kmにあります.この深さが,低温マグマ溜まりよりも深いということは,噴火前には10〜5kmで高温マグマの蓄積が進み,また,噴火時に高温マグマが急激に浅所へ移動•噴出したことを意味することになるのでしょう. 混合する直前のマグマの斑晶量は,高温マグマの9vol.%に対し,低温マグマでは43vol.%でした.後者のような斑晶に富むマッシュ状(お粥状)マグマは,10の6乗Pa•sという高い粘性であったと見積もられ,これは固体に近い状態といえます.したがってマッシュ状マグマの噴出には,高温マグマとの混合により粘性が低下し,再流動化することが不可欠であったとみられます.再流動化に至るまで,段階的に高温マグマの注入が繰り返された可能性があり,これについては今後の研究が待たれます.磁鉄鉱斑晶に主眼を置いた本論文の予察的解析によれば,噴火直前の高温マグマ注入が最も大規模であり,それは地表への噴出の0.7–15.2 時間前に起きていたと定量化されました. 噴出物の岩石学的解析と,地殻変動の圧力変動源の位置から推定された,新燃岳2011年噴火のマグマ供給系.Ref. 1~3の矢印は,異なる研究グループ各々が推定した,噴火前並びに噴火時の圧力変動源の深度範囲.斑晶鉱物略称は,次のとうり.cpx, 単斜輝石;opx, 斜方輝石;pl, 斜長石;mt, 磁鉄鉱;ilm, イルメナイト;ol, カンラン石;low-An and high-An, 斜長石のAn成分に乏しい&富む.*は混合直前の値(高温マグマ).高温マグマについては,浅所に移動していく際の,カンラン石と斜長石の晶出順序にも制約を置きました.

修正された速度・状態摩擦則(修正RSF)を用いた地震サイクルシミュレーション

亀 伸樹・藤田 哲史・中谷正生・日下部哲也

Tectonophysics (2012), http://dx.doi.org/10.1016/j.tecto.2012.11.029

修正された速度・状態摩擦則(修正RSF)を用いた地震サイクルシミュレーション

地震は断層の滑り現象ですから、岩石摩擦を理解することは地震研究の根本です。実際、地震の多種多様な局面は、岩石摩擦の性質から説明できるようになりました。岩石実験から見いだされた摩擦のすべり速度と摩擦状態への依存性は、速度・状態依存摩擦則(略称RSF)として方程式の形にまとめられました。RSFは地震発生サイクルシミュレーションに適用され、地震に先行するプレスリップ・地震発生後のアフタースリップ・サイクル中に生じる断層面の強度回復と弱化の見積もりなど、地震発生に関する多くの知見が得られてきました。 しかし、RSFの従来の式は、実験を必ずしも完全に再現できない欠点がありました。本研究は、欠点が全て解決されたNagata et al. (2012)の「修正されたRSF」を用いて地震サイクルシミュレーションを見直しました。バネ・ブロックモデルを用いて周期100年、応力降下量20MPa、すべり量4.5mの地震サイクルを模擬し、従来の欠点のある摩擦則との結果と比較したところ、以下の相違が見つかりました。 ・地震発生に2〜3年先行する強度低下量は従来の摩擦則による予想より大きくなる(図1)。 ・この間のプレスリップ量は二つの摩擦則による違いはなく、ほぼ同じ大きさになる。 ・100年の長期地震サイクルにおける断層強度の回復から低下への転換点は、従来の摩擦則では地震発生数年前であるのに対して、修正摩擦則では地震サイクル前半で早くも生じる。 また、この強度低下量を地震先行現象として観測可能かどうか検討したところ、1〜100Hzの周波数帯域で強度変化に比例する透過波の振幅が期待できることがわかりました。

図1地震サイクルシミュレーションの結果の比較。地震発生時刻をt=0として、前後の計3年間の滑り速度・応力・強度の変化を示す。滑り速度(黒線)と応力(緑線)は、ほぼ同じであるのに対して、強度低下量は76MPaと非常に大きくなる。

余震発生モデルにおける修正された速度・状態摩擦則(修正RSF)の効果

Tectonophysics (2012), http://dx.doi.org/10.1016/j.tecto.2012.11.028

亀 伸樹・藤田 哲史・中谷正生・日下部哲也

余震発生モデルにおける修正された速度・状態摩擦則(修正RSF)の効果

 地震は断層の滑り現象であり岩石摩擦の性質からその多種多様な局面を説明できます。これまで、岩石実験により摩擦のすべり速度と摩擦状態への依存性が調べられ、速度・状態依存摩擦則(略称RSF)として方程式の形にまとめられました。 RSFを用いて余震発生をシミュレーションすると、本震発生による余震発生率の増加とその後に生じる大森則に従う時間減衰が説明できますが、岩石実験からの発生率の予測値は地震観測データより非常に低くなります。実は、従来の摩擦則は実験データを完全には再現できない欠点がありました。我々は、この欠点が予測値が合わない原因ではないかと考え、欠点が全て解決されたNagata et al. (2012)の修正された摩擦則を用いて余震発生モデルを見直しました。 本震が発生して応力が突然上昇した場合の、個々の余震断層における地震発生をバネブロックモデルを用いて調べました。従来の摩擦則では、地震発生時刻は全ての余震断層において早められ、これにより余震発生率が高まります。一方、修正された摩擦則では、私たちの感覚とは全く反対に、一部の余震断層で地震発生時刻が遅くなることがわかりました(図1)。これは、普段は地震を起こしていた断層が、応力の急上昇が有った場合に、ゆっくり滑りを起こしてしまうからです。 このゆっくり滑りが本当に起きるのか、本研究の理論的な予測の有効範囲を、実験で確かめる必要があります。もし、実際に起きるとすれば、ゆっくり滑りの発生により、修正された摩擦則では余震活動の時間減衰が従来のように一定でなく急に減った後に元に戻るがことが予測されます(図2)。これが実際の地震でも起きているのか地震観測データで確かめる必要があります。また、当初の研究の動機であった余震発生率が低く見積もられる問題点は、修正された摩擦則を用いても根源的には解決されないことがわかりました。 図1 応力の上昇に対して生じる2つの対照的なすべりの反応。本震が起きなかった場合(黒)を基準にとり、従来の摩擦則では地震発生が早まる場合(赤)しか起きませんでしたが、修正摩擦則では地震発生が遅れる場合(緑)も起きることみつかりました。

 

 

 

 

図2:5つの異なる本震による応力上昇値に対する余震発生率の時間変化のシミュレーション結果。(a) 従来の摩擦則の場合、(b) 修正摩擦則の場合。

2014年02月01日インドネシア、シナブン山の噴火【2月4日更新】

ウェブサイト立ち上げ:2013年2月4日

インドネシア・スマトラ島北部に位置するシナブン山が、2月1日の午前に噴火。


火山噴火予知研究センターのHPでも情報を更新しています。

火山噴火予知研究センター:2013-2014 年シナブン火山(インドネシア)の噴火について【最終更新日2014年2月4日】


シナブン山の2013 年〜2014 年の噴火活動

インドネシア,北スマトラに位置するシナブン火山は,2010 年8 月,9 月に有史 以来初めての水蒸気爆発を起した。その後,2013 年9 月に入って再びマグマ水蒸気 爆発が開始し,同年11 月にかけて,噴煙高度が5kmに達する激しい噴火活動続けた。 11 月中旬からは火山灰中にマグマ物質の混入が認められ,11 月23 日のブルカノ式 噴火では北東部に軽石が放出された。また,この噴火では噴煙が崩壊して小規模な火 砕流が発生した。その後,噴火活動は見かけ上は停滞したものの,山頂部の膨張・崩 壊が続き,12 月下旬から山頂火口に溶岩が出現し始めた。

Fig. 1. Easterly view of erupting Sinabung volcano on 25 January 2014 (S. Nakada). Fig. 1. Easterly view of erupting Sinabung volcano on 25 January 2014 (S. Nakada). Fig. 2. Andesite lava flow extending on the SE slope of Sinabung volcano. Taken on the early morning of 25 January (S. Nakada). Fig. 2. Andesite lava flow extending on the SE slope of Sinabung volcano. Taken on the early morning of 25 January (S. Nakada).

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Fig. 3. Relatively small pyroclastic flows on the SE slope of Sinabung volcano. Taken on 25 January 2014 (S. Nakada) Fig. 3. Relatively small pyroclastic flows on the SE slope of Sinabung volcano. Taken on 25 January 2014 (S. Nakada)

山頂火口の溶岩はドーム状に成長し,12 月30 日から南東斜面へ崩落し始め,火砕流となって南東斜面を流れ下った。溶岩ドームは崩落を繰り返しながらも成長し南東斜面の上を伸び,1月下旬には水平距離1km を超す溶岩流となった(Figs. 1 and 2)。溶岩の崩落は一日数十回程度の発生を続けており(Fig. 3),比較的規模の大きな崩壊は1 月7 日,11 日,21 日,2 月1日などに起こった。2 月1 日の崩壊で発生した火砕流の流走距離は4.5km で,山頂から5km 以内の警戒区域に入域していた地域住民16 名が犠牲となった。

現在,発生している噴火活動は,9〜10 世紀の火山活動と,場所や規模も含めて,酷似した噴火である(Fig. 4)。また,雲仙普賢岳やカリブ海モンセラート島のスフリエールヒルズ火山とも酷似した噴火であり,溶岩流の形成と崩壊による火砕流発生が,比較的長期にわたって継続するものと考えられる。

Fig. 4. Comparison of distribution of pyroclastic-flow deposits in January 2011 with that of the 9 to 10th Century eruption. Approximate location of lava flow in late January 2014 is also shown. Fig. 4. Comparison of distribution of pyroclastic-flow deposits in January 2011 with that of the 9 to 10th Century eruption. Approximate location of lava flow in late January 2014 is also shown.

マグマの化学組成2013 年から噴火を繰り返しているマグマの組成は,11 月23 日噴火の軽石や1月11日に回収された火山灰中の溶岩片の分析結果によると,9〜10 世紀の噴火と似た角閃石安山岩であり,後者に比べてやや珪酸分に乏しい。今回の噴火だけでも組成にばらつきが認められる。

Table 1. Chemical composition of juvenile pebbles of the 11 January 2014 pyroclastic-flow event, pumice of the 23 November 2013 vulcanian event, and the 10th Century lava.

SiO2 TiO2 Al2O3 FeO* MnO MgO CaO Na2O K2O P2O5 11 Jan. 2014 58.1 0.71 18.3 7.09 0.16 2.92 8.05 2.95 1.70 0.12 23 Nov. 2013 58.9 0.71 17.9 6.78 0.15 2.84 7.73 2.97 1.86 0.13 AD 800-1000 59.7 0.71 17.6 6.58 0.15 2.86 7.37 2.99 1.93 0.13

* Total iron as FeO.

 東京大学地震研究所では,京都大学防災研究所,同理学研究科や北海道大学理学研究院,および,インドネシア火山地質災害軽減センターと共同して,噴出物や地形の現地調査,火山灰を含む噴出物の分析を,2010 年12 月から実施している。地質調査に基づき,将来の噴火予測に関する噴火シナリオを作成するとともに,噴出物に含まれるマグマ物質の連続観察を続けている。また,京都大学防災研究所と理学研究科では,2010 年の噴火以来,地震とGPS の連続観測をインドネシア火山地質災害防災局と共同して押し進めている。

2014 年2 月3 日(中田節也・吉本充宏)


シナブン火山の発達史

我々はシナブン火山の地質調査を2010 年噴火の直後に開始し,現在も噴火活動調査を継続中である。ここではその調査成果に基づきシナブン火山の発達史を簡単にまとめた。

約7 万4 千年前のトバ湖を作った超巨大噴火の後に成長したと考えられ る成層火山である(Fig. 2)。山頂は標高2,460m でトバ火砕流が作る台地( 標高約1,200m ) からの比高は1300m。有史の噴火記録はないが,2010 年以前のマグマ噴火は9~10 世紀の火砕流噴火であり,火山の南〜南東に噴出物が分布する(Iguchi et al.,2012)。2014 年の火砕流噴火は9〜10世紀の噴火とほぼ同じ推移をたどっている。

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Fig. 1. Index map of Sinabung volcano, Northern Sumatra, Indonesia. Fig. 1. Index map of Sinabung volcano, Northern Sumatra, Indonesia.

シナブン火山は,北西中腹まで基盤岩が露出する以外は,西側に分布する古期火山岩類と,中央部から東側に分布する新期火山岩類からなる(Fig. 3)(Iguchi et al., 2012)。山体を構成する噴出物には,プリニー式噴火によって生じる降下軽石堆積物が認められず,主に,溶岩流・ドームと火砕流堆積物,山体崩壊堆積物,および土石流堆積物からなる。特に,山頂部は厚い溶岩流(ないしドーム)か溶岩尖塔からなる。地形的に明瞭な溶岩流が複数山腹まで流れ下っている。火砕流堆積物は溶岩崩落型の火砕流で,山腹や山腹に広く分布する。小規模の山体崩壊堆積物が北東側山麓に分布している。9〜10 世紀の火砕流堆積物は,山頂から南東側に約1.5km 流れ下った先から分布しており,山麓の河川まで約4.5km の流走距離を持つ。 岩石は玄武岩質安山岩〜安山岩で,安山岩質のものは角閃石斑晶を含む。古期の火山岩類は新期の火山岩に比べてややK2O 量で飛んでいる(Fig. 2)(Iguchi et al., 2012)。 地質調査結果に基づき画いた,将来起こりうる噴火シナリオがFig.4(Yoshimoto et al., 2013)であり,2013 年9 月から始まった噴火はこのうち最も確度の高い推移のシナリオをたどっている。

Fig. 2. Geologic map of Sinabung volcano (Iguchi et al., 2012). Fig. 2. Geologic map of Sinabung volcano (Iguchi et al., 2012).

シナブン山の地質図。南東に扇状に広がる赤色部分が,一つ前の噴火(9~10 世紀)の火砕流堆積物。山頂付近には溶岩流(暗赤色)が分布している。

Fig. 3. SiO2-K2O variation diagram for Sinabung volcano (Iguchi et al., 2012). Latest pyroclastic flow deposits = 9~10th Century eruption. Summit dome and latest spine are strongly altered hydrothermally, such that they potted away from the main chemical trend. Fig. 3. SiO2-K2O variation diagram for Sinabung volcano (Iguchi et al., 2012). Latest pyroclastic flow deposits = 9~10th Century eruption. Summit dome and latest spine are strongly altered hydrothermally, such that they potted away from the main chemical trend. Fig. 4. Event tree of Sinabung volcano prepared in July 2013. The 2013 and 2014 eruption follows the high probability scenario in this diagram. From Yoshimoto et al. (2013). Fig. 4. Event tree of Sinabung volcano prepared in July 2013. The 2013 and 2014 eruption follows the high probability scenario in this diagram. From Yoshimoto et al. (2013).

今回の噴火前に作成したイベントツリー。確度の高い噴火シナリオ通りに推移している。

本研究は,地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)研究「インドネシア における地震火山の総合防災策」(2008〜2011 年)の一部として開始した。調査は, 京都大学,北海道大学,インドネシア火山地質災害軽減センターと共同で進められて いる。

文献

Iguchi, M., Surono, Nishimura, T., Hendrasto, M., Rosadi, U., Ohkura, T., Triastuty, H., Basuki, A., Loeqman, A., Maryant, S., Ishinara, K., Yoshimoto, M., Nakada, S., Hokanishi, N. (2012) Methods for eruption prediction and hazard evaluation at

Indonesian volcanoes. Journal of Disaster Research, 7, 26-36.Yoshimoto, M., Nakada, S., Hokanishi, N., Iguchi, M., Ohkura, T., Hendrasto, M., Zaennudin, A., Budianto, A., Prambada, O. (2013) Eruption history and future scenario of Sinabung Volcano, North Sumatra Indonesia, Abstract of IAVCEI Scientific Assembly in July 2013 (Kagoshima, Japan), Poster 4W_4D-P14.

2014年2月3日(中田節也・吉本充宏)