第1031回地震研究所談話会開催のお知らせ

下記のとおり地震研究所談話会を開催いたします。

ご登録いただいたアドレスへ、開催当日にZoom URLとパスワードをお送りいたします。
なお、お知らせするZoom URLの二次配布はご遠慮ください。また、著作権の問題が
ありますので、配信される映像・音声の録画、録音を固く禁じます。

               記

    
      日  時: 令和5年12月22日(金) 午後1時30分~

      場  所: 地震研究所1号館2階 セミナー室
            Zoom Webinarにて同時配信

1. 13:30-13:45

演題:南東北・北関東地域における電磁気・地震アレイ観測から得られた知見【所長裁量経費成果報告】

著者:○上嶋 誠・臼井嘉哉・小山崇夫・飯高 隆・酒井慎一・加藤愛太郎、市來雅啓(東北大)、坂中伸也(秋田大)、山谷祐介(産総研)、小川康雄(東工大)

2. 13:45-14:00

演題:Observations of the Aftershock Sequences of Intermediate-depth Earthquakes Beneath Japan

著者:○Linda WARREN・Toshihiro IGARASHI・Aitaro KATO

3. 14:00-14:15

演題:Multiphase turbulent flow explains lightning rings in volcanic plumes 【成果発表補助報告】

著者:○ICHIHARA Mie., Pablo D. MININNI (U. Buenos Aires), S.RAVICHANDRAN (IIT Bombay), Corrado CIMARELLI (LMU Munich), Chris VAGASKY (Vaisala Inc.)

要旨:2022年1月に発生したHTHH火山の大噴火において観測されたリング状に拡がる火山雷のメカニズムを提案し,噴火活動との関係を議論する.

○発表者
※時間は質問時間を含みます。
※既に継続参加をお申し出いただいている方は、当日zoom URLを自動送信いたします。
※談話会のお知らせが不要な方は下記までご連絡ください。

〒113-0032 東京都文京区弥生1-1-1 
東京大学地震研究所 共同利用担当
E-mail:k-kyodoriyo(at)eri.u-tokyo.ac.jp

※次回の談話会は令和6年1月19日(金) 午後1時30分~です。

南海トラフ浅部スロー地震の包括的理解へ向けた多面的レビュー

武村俊介1・濱田洋平2・奥田花也2・岡田悠太郎3・大久保蔵馬4・悪原岳1・野田朱美5・利根川貴志2
1東大地震研,2海洋研究開発機構、3京都大学、4防災科研、5気象研)

A review of shallow slow earthquakes along the Nankai Trough

Takemura, S.1, Hamada, Y.2, Okuda, H.2, Okada, Y.3, Okubo, K.4, Akuhara, T.1, Noda, A.5, Tonegawa, T.2 (2023) Earth, Planets and Space, 75, 164,
https://doi.org/10.1186/s40623-023-01920-6

(1. ERI, UTokyo, 2. JAMSTEC, 3. Kyoto Univ., 4. NIED, 5. MRI)

 
 2000年代前半にスロー地震が発見されてから、世界中の沈み込み帯でスロー地震に関する研究が盛んに進められてきました。私達は、南海トラフの深さ10 kmより浅い場所で発生する「浅部スロー地震」に注目し、その活動様式や発生場所の特徴について、地震学、測地学、地質学および室内実験のこれまで研究成果を多面的にまとめた英語論文(レビュー)を執筆しました。論文は https://doi.org/10.1186/s40623-023-01920-6 から読むことができます。

 南海トラフの浅部スロー地震は日向灘、室戸岬沖〜紀伊水道沖、紀伊半島南東沖の3つの地域で活発に活動します。これらの浅部スロー地震域は、フィリピン海プレートの固着域と安定すべり域の間の遷移領域に対応しています(解説記事:https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/research/10787/)。このことから、浅部スロー地震域の摩擦特性に何か特徴があるのではないかと考えられます。一方で、地質学的に見てみると、プレート境界に沿って沈み込む堆積物は火山灰や粘土鉱物で主に構成され、走向方向(東北東―西南西)に南海トラフの広い領域で共通して見られます。浅部スロー地震が発生する深さ(温度150ºC以下)で、火山灰や粘土鉱物を含む堆積物の摩擦係数のすべり速度依存性は、ほとんどの場合、正となります(解説記事:https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2023/20230921.html)。これは、浅部スロー地震域を含む深さ10 kmより浅い場所では自発的に地震のようなすべり現象を引き起こすことが難しいことを意味します。つまり、浅部スロー地震の発生には何か特別な後押しが必要だと言えます。

 浅部スロー地震発生域のプレート境界周辺は、地震波速度の低速度層がイメージングされており、周囲と比べて間隙流体圧が高いと考えられています(解説記事:https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/research/11785/)。さらに、浅部スロー地震活動中にプレート境界断層付近で地下構造の時間変化が確認されていて、浅部スロー地震活動中に流体がプレート境界断層付近を移動したと解釈されています。流体圧の過渡的な変化があることで、摩擦係数のすべり速度依存性が正であっても多様なすべり現象を発生させることが室内実験で確認されていることと併せて考えると、浅部スロー地震は流体移動現象と密接に関係していると解釈できます。つまり、浅部スロー地震が日向灘、室戸岬沖〜紀伊水道沖、紀伊半島南東沖の限られた地域で発生するのは、南海トラフの走向方向に不均質に分布した間隙流体とその流体圧の過渡的な変動が繰り返し起こることで発生していると結論づけることできるのではないかと考えています(図参照)。

 さて、日本海溝ではスロー地震発生域が東北地震の破壊のバリアとして機能した(Nishikawa et al., 2023 https://progearthplanetsci.org/highlights_j/511.html)と提案されていますが、南海トラフで発生する次の巨大地震ではどうでしょうか?南海トラフの海溝軸沿いのコアサンプルから高速(通常の地震)と低速破壊(スロー地震)の両方の痕跡が見つかっています(解説コラム:https://www.jamstec.go.jp/j/pr/topics/column-20220613/)。浅部スロー地震域が、将来発生する南海トラフの巨大地震ではどのような挙動を示すか、さらなる研究が必要となります。

 本研究は、学術変革領域研究(A)「Slow-to-Fast地震学」(領域のHP:https://slow-to-fast-eq.org/)などの助成により実施されました。

図:南海トラフ浅部スロー地震域とその特徴を描いた概観図。青色が濃い領域ではプレート境界断層周辺で流体圧が高いと考えられていて、浅部スロー地震の活動域とよく一致しています。図中の灰色の柱はコアサンプルが得られているボーリングの位置、右下の矢印はフィリピン海プレートの沈み込み方向を示しています。

2023 年度 東京⼤学地震研究所共同利⽤研究集会 「地震波形解剖学 3.0」‒ ⾼密度観測・⾼周波数地震動で視る地殻・マントル不均質構造 ‒

⽇時:2023 年 12 ⽉ 18 ⽇(⽉)13:30〜18:30
                                  19 ⽇(⽕)  9:00〜16:30


会場:東京⼤学地震研究所 1 号館
   セミナー室+オンライン(⼝頭発表)
    2 階ラウンジ(ポスター発表)


プログラム:
https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/people/furumura/prog/sanran_1202.pdf


参加申し込みフォーム:
https://forms.gle/Dx1MUFMoen4NXDm46
*申し込みいただいた方にZoom情報をお知らせします。

世話人:江本賢太郎(九州大学)・古村孝志・武村俊介

【プレスリリース】宇宙線測位の世界記録を大幅に更新

発表のポイント

◆GPSが使えない屋内等におけるセンチメートルナビゲーションに成功。
◆GPSが使えない屋内等における無線高精度時刻同期範囲を1桁以上向上。
◆宇宙線測位の実用化に向けて大きく前進。

第1030回地震研究所談話会開催のお知らせ

下記のとおり地震研究所談話会を開催いたします。

参加を希望される方は、事前に談話会申込フォームからお申し込みをお願いいたします。

なお、お知らせするZoomURLの二次配布はご遠慮ください。また、著作権の問題が

ありますので、配信される映像・音声の録画、録音を固く禁じます。

                記

    日  時: 令和5年11月17日(金) 午後1時30分~ 

    開催方法: 地震研究所1号館2階 セミナー室

          Zoom Webinarにて同時配信

1. 13:30-13:45

演題:地震波干渉法による伊豆大島の長期的な地震波速度構造の推定

著者:○行竹洋平、平 貴昭(カリフォルニア大学バークレー校地震研究所)、鬼澤真也(気象庁気象研究所)、森田裕一(防災科学技術研究所)

2. 13:45-14:00

演題:海陸統合探査による東北日本弧中部から日本海溝宮城沖前弧域にかけての地殻構造

著者:○蔵下英司・佐藤比呂志・岩﨑貴哉・飯高 隆・石山達也・篠原雅尚、石毛宏和 ((株) 地球科学総合研究所)、清水英彦((独) 石油天然ガス・金属鉱物資源機構)、川崎慎治((株) 地球科学総合研究所)、阿部進((株) 地球科学総合研究所)、平田 直

3. 14:00-14:15

演題:南東北・北関東地域における電磁気・地震アレイ観測から得られた知見【所長裁量経費成果報告】

著者:○上嶋 誠・臼井嘉哉・小山崇夫・飯高 隆・酒井慎一・加藤愛太郎、市來雅啓(東北大)、坂中伸也(秋田大)、山谷祐介(産総研)、小川康雄(東工大)

○発表者

※時間は質問時間を含みます。

※既に継続参加をお申し出いただいている方は、当日zoomURLを自動送信いたします。

※談話会のお知らせが不要な方は下記までご連絡ください。

〒113-0032 東京都文京区弥生1-1-1 

東京大学地震研究所 共同利用担当

E-mail:k-kyodoriyo(at)eri.u-tokyo.ac.jp

※次回の談話会は令和5年12月22日(金) 午後1時30分~です。

スロー地震(テクトニック微動)の発生場所および精度評価のための手法開発

悪原 岳 1 , 山下 裕亮 2 , 杉岡 裕子 3 , 篠原 雅尚 1

  1. 東京大学地震研究所 2. 京都大学防災研究所 3. 神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻

Locating tectonic tremors with uncertainty estimates: Time- and amplitude-difference optimization, wave propagation-based quality control, and Bayesian inversion
Geophysical Journal International
https://doi.org/10.1093/gji/ggad387

 プレート境界面上の巨大地震発生域の近くでは、ゆっくりとした断層すべり、すなわちスロー地震が発生します。スロー地震の一種であるテクトニック微動は、通常の地震とは異なる特徴的な震源(発生場所)の分布を示します。そのため、テクトニック微動の発生場所を詳細に調べることで、スロー地震がどのように起きるかという発生メカニズムの理解が深められると期待されています。しかし、スロー地震は非常に小さな動きなので地震波形データ上で観測される信号レベルが極端に小さく、P波・S波の到達時刻を波形から読み取って震源の位置を求めるという通常の方法は使えません。微動の震源を求めるために、様々な手法が開発されてきましたが、その決定精度を満足に評価できる手法はありませんでした。
 本研究では、この問題を解決するために、微動の震源決定とその精度の評価手法を提案しました。震源決定は3つのステップからなります。第一ステップでは、2つの観測点ペアで比較した地震波の到達時刻の差や波の大きさ(振幅)の違いを調べます。観測点がたくさんある場合、無数の組み合わせで観測点ペアを作ることができるので、ある観測点ペアで比較した到達時刻と振幅が、他の観測点ペアで得られた情報とどのくらい一致しているかを調べることができます。一致していれば、それだけ到達時刻・振幅データの情報が正確で、求められる震源の精度も高くなると予想されます(図1)。第一ステップでは、このような考えかたで相対的な到達時刻・振幅を調べ、観測点ペアごとの測定値の整合性で品質推定を行います。

図1. 観測点ペアごとに測定される地震波の到達時刻差。観測点ペアごとの測定値が整合する場合(TAC=TAB+TBC)、到達時刻差データの精度がよいと考えられる。

 次に、第二ステップとして第一ステップで得られたデータのスクリーニング検査を行います。第一ステップで得られた相対到達時刻が正しい場合、相対到達時刻は震源に近いほど早くなり、遠いほど遅くなります。また、相対振幅は震源に近いほど大きく、遠いほど小さくなります。この想定から大きく外れるデータを除去します。

 第三ステップでは、第二ステップで選別されたデータにベイズ統計の手法を適用することで、震源の位置を確率分布として求めます。確率分布の広がりが、震源の決定精度を表します。このとき、地下構造の情報(どれだけ早く地震波が伝わるか、どれだけ強く地震波が減衰するか)も確率分布として求めます。これにより、地下構造が分からないことによる誤差を抑えることができます。

 この新しい手法を用いて、熊野灘(紀伊半島南東沖)で2020年12月から2021年2月に発生したテクトニック微動の震源を求めました。得られた微動の発生確率の分布を図2に示します。震源が線状に沿って分布する様子(図2中e, f, gのオレンジ色の矢印)など、震源分布の細かな特徴が分かりました。今後、この手法を様々な沈み込み帯に適用し、震源分布の特徴や推移を詳細に把握することで、スロー地震の理解を深めていきたいと考えています。

図2.本研究で求められたテクトニック微動の発生確率分布。(a)解析対象期間(およそ3カ月間)の間に、その場所で少なくとも1回微動が発生した確率。(b-i)解析対象期間を8つのフェーズに分割して表示した確率分布。 (b)から(i)の順に、微動の発生場所が推移している。緑色の波線は海溝軸を表す。

【分析結果】伊豆鳥島・孀婦岩近海で採取された漂流軽石の全岩化学組成

概要: 東京大学地震研究所では、2023年10月27日に気象庁海洋気象観測船「啓風丸」にて鳥島・孀婦岩近海(図1)で採取された軽石の全岩化学組成の分析を行った。その結果、SiO2含有量70.5–72.0 wt.%、Na2O+K2O含有量6.3–6.5 wt.%のデイサイト〜流紋岩質の岩石であることがわかった。この化学組成は、本地域の活火山列を構成する火山の噴出物とは異なる一方、背弧リフト帯の珪長質噴出物(鳥島リフトやスミスリフト)の化学組成(文献値)とほぼ同様の特徴を有する(図2)。

試料: 気象庁海洋気象観測船「啓風丸」により、鳥島・孀婦岩近海で採取された漂流軽石。生物の付着がほとんど見られない新鮮な軽石である。

採取日時・場所: 2023年10月27日12時頃、北緯29°18’ 東経140°00’付近(図1)。

分析方法: 3つの軽石礫(写真1)を小片に分割し、塩抜きを行った後、乾燥、粉砕、ガラスビード作成を行い、地震研究所所有の蛍光X線分析装置(XRF)により分析した。

図1 気象庁による軽石採取地点、海上保安庁による浮遊物確認海域、周辺火山および10月初旬の地震イベント(Sandanbata et al. doi:10.22541/essoar.169878726.62136311/v1を参照)の位置関係。
写真1 全岩化学組成分析を行った2023年10月鳥島・孀婦岩近海漂流軽石。やや円摩されているものの、生物の付着がほとんどなく、新鮮である。

結果:  3つの軽石礫の分析値は、それぞれSiO2含有量72.0、70.5、70.6 wt.%、トータルアルカリ(Na2O + K2O)含有量 6.5、6.3、6.3 wt.%であった。フロント活火山列と背弧リフト側の噴出物では、珪長質マグマのアルカリ含有量が異なる(図 2)。今回の分析値は、最近活動的な近隣火山(西之島、硫黄島、福徳岡ノ場、海徳海山、明神礁)の化学組成とは異なり、背弧リフト側のややアルカリに富む噴出物の特徴を示す。このことから、漂流軽石は、この地域の背弧リフト帯における流紋岩質マグマによる最近の活動で噴出した可能性が高い。

図2 鳥島・孀婦岩近海漂流軽石(赤星印)および周辺海域の火山岩の全岩化学組成。岩石分類は,Le Bas et al. (1986) による。

参考文献: Ikeda and Yuasa (1989) Contrib. Mineral. Petrol., 101, 377-393; Fryer et al. (1990) Earth Planet. Sci. Let., 100, 161-178; Hochstaedter et al. (1990) Earth Planet. Sci. Let., 100, 179-194; 小坂ほか (1990) 水路部研究報告, 26, 61-85; Yuasa and Nohara (1992) Bull. Geol. Surv. Jap., 43, 421-456; Taylor and Nesbitt (1998) Earth Planet. Sci. Lett., 164, 79-98; Shukuno et al. (2006) J. Volcanol. Geotherm. Res., 156, 187-216; Tani et al. (2008) Bull. Volcanol., 70, 547-562; Hirai et al. (2018) Geology, 46, 371-374; Maeno et al. (2021) Front. Earth Sci., 9, 73819; Maeno et al. (2022) Comm. Earth Env., 3, 260; 杉本・他 (2005) 火山,50, 87-101.

Friday Seminar (**Wednesday 6 December 2023**) Dmitry Storchak (International Seismological Centre) **at 5:00-6:00 pm**

Title:
The ISC Products and Services for Seismologists in Japan and worldwide

Abstract:
The mission of the International Seismological Centre (ISC) is to produce the most long-term and complete Bulletin of instrumentally recorded seismicity on a global scale in collaboration with ~150 seismic networks in ~100 countries. This includes parametric measurements from both permanent and temporary seismic station deployments.

The ISC is also obtaining some useful event source parameters by using station waveforms freely available on-line from a number of dedicated data centres.

In addition, we produce several specially designed data products that stem from the ISC Bulletin and allow ISC to assist several different areas of seismological research. These include the ISC-EHB dataset (1964-2020), ISC-GEM catalogue (1904-2019), IASPEI Reference Event List (GT, 1959-2020), ISC Event Bibliography (1904-2023). We also maintain the supplementary datasets: the Electronic Archive of Printed Station/Network bulletins, the ISC Dataset Repository and the International Seismological Contacts.

In this presentation we shall give examples of ISC services that researchers in Japan could find useful. We shall also suggest examples of research datasets that could be contributed to the ISC to give these datasets an additional use and prominence in the international research community.

2023年2月トルコ・シリア地震による小津波の起源

胡桂1,2, 佐竹健治2, 李琳琳1,3, 杜朋1

1中山大学 地球科学与工程学院 2東京大学 地震研究所 3南方海洋科学与工程 広東省実験室

Hu, G., Satake, K., Li, L., & Du, P. (2023). Origins of the tsunami following the 2023 Turkey–Syria earthquake. Geophysical Research Letters, 50, e2023GL103997. https://doi.org/10.1029/2023GL103997

 

 2023年2月6日、トルコの東アナトリア断層付近でMw7.7と7.6の内陸横ずれ断層タイプの地震が発生し、トルコ南部とシリア北部を約9時間間隔で襲った(図1a)。最初の地震の後、地中海南東部で局所的な津波が記録された(図1b)。この地域で津波が記録されたのは、1953年のキプロス地震(M L 6.2)以来であった。
 海中での観測記録がないことから、この津波の発生メカニズムは謎のままである。発生メカニズムを理解するために、我々は近隣の4つの検潮所で記録された津波波形のスペクトルエネルギー(図1c)と波形(図1d)を解析し、津波の波線追跡の逆解析(図1e)を用いて発生源を特定した。次に、想定される津波源のパラメータ範囲についてフォワード数値モデリングを行った。その結果、イスケンデルン湾の内側と外側に、おそらく2つの津波源(図1f)が存在することがわかった。これらの津波源は、最初の本震時の強い揺れと、厚い沿岸堆積物に関連している可能性がある。湾の内側にある長さ7kmの沈降域は、引き波初動と10~30分の卓越的な周期を生じ、地すべりによって発生した可能性がある。湾の外側にある長さ6kmの隆起域は、押し波初動と2~10分の卓越的な周期をもたらし、液状化に関連している可能性がある。両方の波源を合わせると、観測された津波波形をよく説明できる(図1g)。

 図1 (a)2023年トルコ・シリア津波のテクトニックな背景。(b)震源近傍の観測点で検出された津波波形(c)とウェーブレット解析(d)。(e)本震後の津波源を特定するための逆波線追跡。 (f)イスケンデルン湾の内外で観測された最大地盤加速度(PGA)の分布。(g) 2つの津波源から計算した波形(赤色)と観測された津波波形(黒色)。図(d)(e)の観測波形は、10-30分のバンドパスフィルターをかけたもの。