マクマード基地(US)は南極最大の基地で,Mac Townと呼ばれています.夏の間は1200人程が働いています.右奥の山はObservation Hillで,頂上には1912年に南極点到達の帰りに遭難したスコット隊を記念する十字架が立っています.手前の小屋は1902年にスコットが建てたものです.いずれも「南極史跡記念物」に指定されています.Obs. Hillの向こう側にはスコット基地(NZ)があります.
【受賞】西田究准教授が日本学術振興会賞・日本学士院学術奨励賞を受賞
西田究准教授が日本学術振興会賞・日本学士院学術奨励賞を受賞しました。
*日本学士院学術奨励賞は、日本学術振興会賞で選ばれた25名の中から、更に6名を選び表彰する賞です
受賞研究:「常時地球自由振動現象の研究」(Studies on Seismic Hum)
受賞理由:
西田氏の研究は、新たな事実を見出しただけでなく、発想のユニークさ、見出した事実の解釈のためのデータ解析の緻密さ、結果の検証の確実性などから、きわめて学問的価値・オリジナリティの高い研究ということができる。西田氏の今後の活躍が一層期待される。
ジェニー・ミルンさんの来所/ Jenny Milne’s visit to ERI
2015年の暮れ、ジョン・ミルンの子孫であるジェニー・ミルンさんが地震研究所を訪れました。 地震火山情報センターの横井佐代子特任研究員がジェニー・ミルンさんと知り合いで、今回、図書室の方で所蔵している、ジョン・ミルンの手紙を読みに来所する運びとなった。
図書室で手紙や当時の新聞、夫妻の写真などを見た後、地震計博物館に案内し、ジョン・ミルンがその発展に大きく貢献した煤書き式地震計なども見学した。(「ミルン水平振子地震計」は、国立科学博物館に所蔵されている)
長い年月を経て、ジョン・ミルンの手紙が、その子孫によって読まれることになろうとは、本人も思いもよらなかったであろう。
We had a visitor from England, Jenny Milne, who is the descendant of John Milne(1850-1913). Our researcher Sayoko Yokoi, who knew her via friend has invited her to visit our library, where we keep the letters written by John Milne. After decipherment of her ancestor’s hand-written letter in the library, we showed her around in the seismometer museum, where we display antique seismometers which John Milne had greatly contributed in developing.
【1月27-29日】平成27年度職員研修会
2012年スマトラ地震によって活断層などで誘発された微動
Kevin Chao(1,2), 小原一成(2)
(1)マサチューセッツ工科大学,(2)東京大学地震研究所
Journal of Geophysical Research, Solid Earth, 29 Dec. 2015, 10.1002/2015JB012566
2012年スマトラ地震によって活断層などで誘発された微動
2000年代初めに発見された深部低周波微動は,沈み込みプレート境界におけるスロースリップと同時に発生していることが西南日本とCascadiaで明らかにされたことで,スロースリップのプロキシと理解されるようになってきました.深部低周波微動とスロースリップとの同時発生現象は,通常数カ月から2年程度の間隔で自然発生的に生じますが,遠方で発生した大地震の表面波の位相に同期して微動が誘発される現象がしばしば観測されます.このような誘発微動が発生する場所では,自然発生的な微動,さらにはスロースリップが発生する可能性が示唆されます.われわれは,2012年4月に発生したスマトラ地震(マグニチュード8.6)の表面波が日本列島を通過した際に,西南日本のフィリピン海プレート境界以外を含めた全国的な調査を実施し,活断層等で発生した誘発微動を新たに発見しました.
調査には,全国に展開されている防災科学技術研究所の高感度地震観測網Hi-netの連続波形データを用い,スマトラ地震の表面波が通過する時間帯で,2~8 Hzの帯域の波形記録について表面波との相関関係を確認し,誘発微動の有無を調べました.その結果,北海道中央部,関東地方北西部,九州西部の八代海,九州東方沖の日向灘などで誘発微動が検出されました.北海道の微動は,2004年12月のスマトラ地震の際にも確認されており(Obara, 2012),火山活動に関係すると考えられます.また,日向灘のイベントは浅部超低周波地震の震源域に対応することから,それに伴う浅部微動が誘発したものと解釈されます.日向灘における浅部微動の存在は,最近になって海底地震計による観測でも明らかにされました(Yamashita et al., 2015).一方,関東及び八代海の微動は,それぞれ近傍に関東平野北西縁断層帯,布田川・日奈久断層系の八代海海底断層群が存在し,また微動の発生深度は約20 ㎞で下部地殻に相当することから,活断層の深部延長部におけるスロースリップと考えられ,定常的にもゆっくり滑っている可能性があります.このことは,これらの断層における地震発生ポテンシャルの評価に大きく貢献するものと考えられます.

2012年スマトラ地震によって日本で生じた地殻弾性擾乱の連鎖
Andrew A. Delorey(1), Kevin Chao(2), Kazushige Obara(3), Paul A. Johnson(1)
(1)ロスアラモス国立研究所 (2)マサチューセッツ工科大学 (3)東京大学地震研究所
Science Advances, 16 Oct 2015, Vol. 1, no. 9, e1500468, DOI: 10.1126/sciadv.1500468
2012年スマトラ地震によって日本で生じた地殻弾性擾乱の連鎖
地震は主としてプレート境界や地殻内で発生する断層破壊現象であり,周囲の状態と相互に影響し合っています.これらの相互作用を解明することができれば,地震発生に関する理解を深めることができます.我々は,東北日本太平洋沖から沿岸部にかけて生じた様々な現象の観測から,2012年4月に発生したスマトラ地震(マグニチュード8.6)によって誘発された地殻内の弾性擾乱が,広範囲にわたって連鎖的に諸現象を引き起こしたことを明らかにしました.
このスマトラ地震は,全世界的に中規模の地震を誘発したことが別の研究(Pollitz et al., 2012)から明らかにされています.そのうち,東北沖地震の余震域に発生したスマトラ地震による誘発地震は,若干の時間遅れと移動性を示します.気象庁のカタログに掲載されていない地震活動が存在する可能性があるため,防災科学技術研究所高感度地震観測網Hi-netの地震波形連続データを用いて解析を行った結果,福島県沖で北東から南西に1日約70㎞の速度で移動する地震活動が検出されました.これは,断層すべりフロントが移動し,その先端における応力変化によって地震活動が誘発されたものと考えられます.
また,これまで東北沖地震の地震時すべり及び余効すべりの影響で伸長ひずみが鈍化しながらも継続していたものが,その誘発地震活動域に最も近い沿岸部で体積ひずみが圧縮に転じました.その原因は,福島県沖で正断層型の誘発地震活動が活発化したたことで東西伸長のひずみが卓越し,その隣接域である沿岸部において地殻が圧縮されたものと考えられます.
さらにHi-net連続データに含まれる地震波雑微動を用いた解析により,地震波速度の変化の有無を検証したところ,沿岸部の広い範囲でスマトラ地震の4日後以降から速度増加が認められ,約10日後に速度増加が最大となり,3週間程度継続しました.このことは,福島県沖の誘発地震活動によって沿岸部で生じた地殻の圧縮により,それまで伸長の応力場の下で開いていたクラックが閉じ,空隙が少なくなって地震波速度が増加したものと考えられます.
これらの沖合における震源移動,ひずみ変化,地震波速度変化を含む,広範囲にわたってダイナミックに誘発された弾性擾乱の観測は,プレートテクトニクスや地震活動,地震ハザードの理解に必要な地球弾性システムの新たな理解として注目されます.

(A)2012年スマトラ地震と研究対象領域.
(B)研究対象領域の拡大図.
青三角と緑三角はいずれもHi-net観測点で地震波速度の計算に使用され,緑三角は地震波のコヒーレンス解析にも使用されている.赤い大きな丸は2011年の東北沖地震の本震位置で,そのほかの赤丸は本論文で解析に用いた地震である.黒三角はF-net観測点HROとひずみ観測点KTA.右下の挿入図に,本解析で使用した浅い地震の位置を赤丸で,地震波速度を計算した領域をハッチで示す.

(A)福島沖の地震活動の時空間プロット(31.32N, 134.10Eを原点).赤三角はP1(上)とP2(下),青三角はP0,図の全体に伸びる鉛直線がスマトラ地震の発震時である.
(B)観測点間コヒーレンスのスタック値.
(C)P0とP2(黒星)の地震活動(挿入図)の積算地震個数.P0の本震と北部の余震(青点)はP2の本震や余震(赤点),及びP0の南部の余震(赤点)に先行する.鉛直の破線はP0(左側の青線)とP2(赤線),及びP0の南部の活動(右側の青線)の地震活動開始時を示す.
(D)観測点間の走時差における変化のスタック値と標準偏差.赤のシェードは,走時減少の開始が含まれる時間範囲.
(E)KTAにおける体積ひずみ変化.

(A)東北地震後.プレート境界で余効すべりが継続し,応力がプレート境界から前弧浅部に転移する.
(B)スマトラ地震によって浅い正断層型メカニズムの地震が誘発され,地殻が伸長する.
(C)正断層型地震による伸長の動きが,内陸側に圧縮の応力を生じる.
平成28年度拠点間連携共同研究公募のお知らせ【締切】H28.2.5(金)
平成28年度拠点間連携共同研究公募のお知らせ
東京大学・地震研究所と京都大学・防災研究所では、全国の地震・火山や総合防災の関連分野の研究遂行に資するため、拠点間連携共同研究の公募を行なっています。
平成28年度の公募を開始いたしましたので、お知らせいたします。
【締切】平成28年2月5日(金)
【詳細】http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/sharing/
国際卓越大学院コース(GSGC)学生受け入れ(応募締切 2016年1月10日)
地震研究所は、国際卓越大学院コース(GSGC)の学生を受け入れます。 応募締切:2016年1月10日 詳細は下記URLをご覧ください: http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/en/?page_id=416
【受賞】小原一成教授・所長が米国地球物理学連合(AGU)のGutenberg Lectureで講義
米国地球物理学連合(AGU)Fall Meetingにおいて、小原一成地震研究所所長がGutenberg Lectureを行いました。
AGUのFall Meetingでは、分野ごとに 毎年named lectureを行い、そのlecturerを1名選出しま す。地震学分野のGutenberg Lectureにおいては、2015年のlecturerとして小原一成教授・所長が選出され、“Discovery of non-volcanictremor and contribution to earth science by NIED Hi-net”と題したlectureを行いました。このようなnamed lectureは、各分野におけ る優れた業績を挙げた研究者に与えられる名誉であり、AGU地震学分野のGutenberg Lectureにおいて過去に選 出された日本人としては、1996年の金森博雄教授以来、今回が2人目となります。
詳細:AGU website
西之島の空振活動を父島でモニタリング
西田究 市原美恵
Geophys. J. Int. (2016) 204, 748–752 doi: 10.1093/gji/ggv478
西之島の空振活動を父島でモニタリング
2013年11月20日に海上保安庁により新島の形成が報告されて以来、小笠原諸島・西之島では活発な噴火活動が続いています。一般にアクセス可能な小笠原村父島であっても東に130km離れており、連続的な観測情報は非常に限られています。しかし気象条件が良ければ、空振 (人には聴こえない低周波音波)は100km以上離れていても伝わることがあります。そのため、父島での観測から西之島火山の活動状況を把握できる可能性があります。そこで父島に、オンライン空振観測点(EV.CHI)1点とオフラインの空振計3点(OGW1,OGW2,OGW3)を設置し(図1)、西之島火山の空振モニタリングを開始しました。本研究では特に、オンラインの2点のみを使っても空振のモニタリングが可能であることを示しました。

図2に実際に観測された空振の観測例を示します。西から東向きに空振が伝播する様子を見て取れます。この図では空振計だけではなく、気象庁の短周期地震計記録(CHIJI3の東西成分)も示しています。このように、空振は地震計にもしばしば観測されます。これは、空振(大気の圧力変動)が地面を押し、その結果として引き起こされた地面の変動を地震計が捉えることがあるためです。

まずはオンライン2点の解析結果(相互相関解析)を見てみましょう。図3の上段のグラフは,地震計と気圧計の振幅を表しています.青が三日月山の地震計東西成分,緑が気象観測所の気圧計の振幅です.また,下段の図で,縦軸ゼロ付近の赤と青のパターンが,西之島火山の空振を検出していることを意味しています.そして,中段のグラフ(青線)が,マイクの信号の中にどのくらい空振が入っているかを示すものです.割合が小さくなる原因として,(1)風のノイズが大きくなる,(2)空振が小さくなるの2つが考えられます。これら2つの効果を考慮し空振の大きさを見積もったのが中段の赤点です。

この結果を検証するため、オフライン3点を含めた解析(アレー解析)を行いました(図4)。その結果、オンライン2点での観測結果と調和的な結果が得られました。これらの解析結果から、父島で観測される空振活動は、基本的には西之島と父島の間の気象条件(気温・風速)で決まることがわかってきました。下段の図赤の領域(気象条件を表す量である実効音速の速い領域)と、空振活動が対応していることがわかると思います。しかし、2015の1/1から2週間程の期間、気象条件は整っているにもかかわらず、空振活動が低調であることが分かってきました。つまり、西之島での噴火活動が低調だったと推測できます。この結果は、気象データと合わせて考えると、遠く離れた父島で観測された空振活動から西之島の噴火活動を把握できる可能性を示しています。

全観測点を用いた解析結果。空振の到来方向、伝播速度、振幅を示しています。振幅と一緒に気象条件(実効音速の高度分布)を示しています。実効音速とは、風の効果を含めた音速です。風下側に伝播する音速を考える場合は、風速の分だけ早く伝搬することを考慮しています(父島での気象庁によるラジオゾンデの観測結果から計算しました)。赤色の領域は実効音速が速い事を表しており、この領域が”フタ”となって、風下側に遠くまで伝えます。
火山の近くに地震計は設置されているが、空振計は設置されていないという状況は多く見受けられます。本研究結果は、地震観測点のそばに1点オンライン空振計を設置することにより、噴火活動をモニタリング出来る可能性があることを示唆しています。
謝辞:空振観測に当たっては,小笠原村役場,気象庁のご協力を得ています。記して感謝します。