銅線電話網を用いた大地震の断層調査‐ニュージーランドでの共同研究‐

上嶋 誠

 地震予知研究センターの上嶋誠教授らのグループは、ニュージーランド地質調査所(GNS)と現地電話会社Chorusとの共同研究で、ニュージーランド北島Gisborne周辺域で銅線電話網を用いたネットワークMT観測を開始しました。ニュージーランド北島に東から沈み込むヒクランギ沈み込み帯では、巨大地震やスロースリップイヴェントが繰り返し発生しています。また北島中央部には世界でも有数の火山地帯が分布しています。
 今回の調査は、銅線を用いた電話網を用いて地中の電気伝導度を調べることで、沈み込み帯の構造を詳細に把握し、他の構造探査データと合わせて大地震やスロースリップイヴェント、火山噴火の発生可能性を探ることを目的としています。

 本共同研究の現地観測のようすは新聞に報道され、またGNS・Chorus・地震研究所によりYouTubeビデオが制作されました。こちらからご覧いただけます。

市村教授らの研究 科学技術賞を受賞

市村 強 教授、 堀 宗朗 氏(元:地震研究所教授・現:海洋研究開発機構 付加価値情報 創成部門部門長 )、藤田 航平 助教による『データ利活用を促進する地震 シミュレーションの計算科学研究』が、 令和2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞 を、受賞しました。

* 科学技術週間中に予定されておりました表彰式は、 コロナウイルス感染対策のため中止されております。

2000年有珠山噴火20年

洞爺湖側から見た有珠山 (撮影:小山悦郎)

北海道洞爺湖畔に位置する有珠山では、2000年3月31日にマグマ水蒸気噴火が発生しました。3月27日頃から地震が徐々に増加し、過去の噴火事例から噴火の切迫が予想されたため住民の避難が進められ、大きな人的被害は出ませんでした。マグマの貫入に伴う大規模な地殻変動が居住地近くで発生したため、小規模噴火にもかかわらずインフラが寸断され、850戸の家屋に被害が生じました(活火山総覧より)。また、噴火発生の事前予測は概ね成功したと言えますが、その後の噴火推移の予測は不十分であり、火山学的に多くの問題を提起した噴火でもありました。

( 火山噴火予知研究センター長 大湊 隆雄 教授 )

噴火に伴う地殻変動で寸断された道路(撮影:加藤尚之)

霧島山新燃岳の噴火と関連した深部低周波地震

栗原亮・小原一成・竹尾 明子・田中優作 東京大学地震研究所

Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 124, 12, https://doi.org/10.1029/2019JB018032

火山の地下深部(20–30 km)では、深部低周波地震と呼ばれる通常の地震に比べて低周波の地震波を放出する地震が発生していることが知られています。この深さは通常の火山性地震が発生する深さ(数km程度)と比べて深く、地下深部から地表までのマグマの供給に関係していると考えられています。日本では気象庁が通常の地震と合わせて深部低周波地震の観測を行い地震カタログに登録されています。しかし、深部低周波地震は一般的にマグニチュードが小さく、検出および震源決定が難しいため、霧島山では深部低周波地震と噴火を含む火山活動との関係は知られていませんでした。

                   我々は深部低周波地震と噴火の関係を調べるため、過去に観測された深部低周波地震の波形と似た波形を探すマッチドフィルタ法という手法を用いて、2004年4月から2018年12月までの期間で深部低周波地震の網羅的な検出を行うとともに、深部低周波地震の震源位置の再決定とグループ分けを行いました。

                   その結果、2011年1月の霧島山新燃岳での準プリニー式噴火の前後の期間に、深部低周波地震の数が増加していることがわかりました。その増加は2009年12月頃に開始し、2011年9月頃に終了しており、地殻変動の推移とよく対応していました(図)。グループ分けの結果、この期間内に増加した深部低周波地震は、別の期間に発生している深部低周波地震と比べて震源位置がやや深く、その波形はより低周波の成分が卓越していることがわかりました。さらに、深部低周波地震の震源位置が噴火の推移と対応して変化していることもわかりました。また、2017年から2018年の霧島山新燃岳および硫黄山で発生した噴火の際にも深部低周波地震が増加していることがわかりました。

                   これらの結果から、2011年の霧島山新燃岳の噴火の約1年前から地下深部よりマグマの供給が行われていたことがわかりました。本研究で明らかになった、噴火前後における深部低周波地震の震源位置は、地下深部からのマグマの供給ルートの解明の手がかりとなることが期待されます。

図(a) 国土地理院GEONETの2観測点間で計算された地殻変動 (b) 気象庁の地震カタログでの霧島山付近での深部低周波地震の累積個数 (c) 本研究で検出した深部低周波地震の累積個数。矢印は深部低周波地震が増加した期間を示す。

科学技術広報研究会による臨時休校対応特別企画に地震研も参加

新型コロナウイルスの流行により臨時休校になった子供達のために、全国の大学・研究機関の広報担当者有志(科学技術広報研究会)が、自身が所属する研究機関のデジタルコンテンツの中から子供たちにぜひ見て欲しいと思う作品を集めた特設サイト:「 休校中の子供たちにぜひ見て欲しい科学技術の面白デジタルコンテンツ – 各研究機関の広報担当者がセレクトしました- 」に、<地震研チャンネル>の『Messages from Volcanoes -火山噴火の解明を目指して-』も参加しております。

この機会にぜひ、研究の最先端にふれてください: https://sites.google.com/view/jacst-for-kids/

また、地震研究所技術開発室のページには、一般公開で開催された電気工作教室で作る簡易地震感知器の工作解説書などもあります。ご家庭で作れるものもありますので、ぜひご利用ください。 http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/gijyutsubu/kaihatsu/events/index_events.html

北海道・東北地方太平洋沖における、超低周波地震の網羅的検出

馬場慧1・竹尾明子1・小原一成1・松澤孝紀2・前田拓人3・ 1: 東京大学地震研究所、2: 防災科学技術研究所、3: 弘前大学理工学研究科

Journal of Geophysical Research, Solid Earth, https://doi.org/10.1029/2019JB017988

 巨大地震が発生するプレート境界面の固着域の周辺部では、通常の地震のほかに、スロー地震と呼ばれる、通常の地震よりも遅いすべり速度で断層破壊が起こる現象が発生しています。スロー地震は巨大地震と共通の低角逆断層のメカニズム解を持つことから、巨大地震の発生と関連している可能性が指摘されています。スロー地震の中には、低周波微動、スロースリップイベント、超低周波地震(Very Low Frequency Earthquake; VLFE)があり、本研究で解析を行ったVLFEは、0.02-0.05 Hzの周波数帯で観測されています。本研究では、VLFEを用いて北海道〜東北地方の太平洋沖におけるプレート境界面のすべりを明らかにすることを目的にVLEFの検出を行いました。解析では、3次元速度構造モデルを用いた理論波形をテンプレートとし、これとF-net波形データの相関係数を計算するマッチドフィルター法を用いました。この手法は、任意の位置にスロースリップの仮想震源を設定できるという利点があります。

 その結果、十勝沖、及び岩手県沖と茨城県沖では、それぞれ2003年9月26日の十勝沖地震(Mw 8.0)と2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(Mw 9.0;以下、東北地震)の後に、それらの地震のアフタースリップによると考えられるVLFEの発生数の急激な増加が見つかりました。一方、宮城県沖〜福島県沖では東北地震後にVLFEの活動の静穏化が見られました。これは、宮城県沖〜福島県沖が東北地震の断層面の大すべり域の縁にあたり、東北地震によって蓄積していた歪みが解消されたためと考えられます。また、十勝沖地震後の十勝沖〜青森県沖および東北地震前の宮城県沖では、数ヶ月〜1年程度の間隔でVLFEがバースト的に発生する活動が見られ、これはプレート境界面のわずかなすべりを反映している可能性があります。

図1 各グリッド毎の仮想震源(スロー地震)の検出個数の分布。色が濃いほどスロー地震が多数検出されたことを示す。 ○印は大地震、⭐︎印は先行研究で検出されていたVLFEの震源を表す 。
図2 本研究の結果を模式的にまとめた図。巨大地震の大滑り域の内部(図のオレンジ色の部分)では、数ヶ月間隔でバースト的なVLFEの活動が見られた一方、巨大地震発生後は静穏化した。一方、巨大地震の大すべり域の周辺(水色部分)では、巨大地震発生後にVLFEの活発化が見られた。

第2回サイエンスカフェ開催報告

「第2回 地震・火山噴火予測研究のサイエンスカフェ」 を、 地震・火山噴火予知研究協議会と広報アウトリーチ室の共同で、2月20日に開催いたしました。

今回は、「 大地震発生後の地震活動の推移予測の難しさ 」というテーマで開催し、話題提供者に 加藤愛太郎 教授 (東京大学地震研究所・地震学)を迎え、加藤尚之 教授の司会のもと、熊本地震を例にした地震評価について、ご参加いただいた方々と活発な質疑応答がされました。

【地震・火山噴火予測研究のサイエンスカフェ 】地震や火山噴火に関する研究の成果は、予測の基礎となることが期待されています。これまでの研究から、地震や火山噴火のメカニズムへの理解は深まってきました。また、今後発生する可能性のある地震や火山噴火を指摘することもある程度はできます。しかし、規模や発生時期についての精度の高い予測はまだ研究の途上です。このサイエンスカフェでは、地震・火山噴火の予測研究の現状について研究者と意見交換を行い、研究者・参加者双方の理解を深めることを目的とします。