第2回サイエンスカフェ開催報告

「第2回 地震・火山噴火予測研究のサイエンスカフェ」 を、 地震・火山噴火予知研究協議会と広報アウトリーチ室の共同で、2月20日に開催いたしました。

今回は、「 大地震発生後の地震活動の推移予測の難しさ 」というテーマで開催し、話題提供者に 加藤愛太郎 教授 (東京大学地震研究所・地震学)を迎え、加藤尚之 教授の司会のもと、熊本地震を例にした地震評価について、ご参加いただいた方々と活発な質疑応答がされました。

【地震・火山噴火予測研究のサイエンスカフェ 】地震や火山噴火に関する研究の成果は、予測の基礎となることが期待されています。これまでの研究から、地震や火山噴火のメカニズムへの理解は深まってきました。また、今後発生する可能性のある地震や火山噴火を指摘することもある程度はできます。しかし、規模や発生時期についての精度の高い予測はまだ研究の途上です。このサイエンスカフェでは、地震・火山噴火の予測研究の現状について研究者と意見交換を行い、研究者・参加者双方の理解を深めることを目的とします。

開催報告:懇談の場「日本海地震・津波調査プロジェクト」

地震研究所と参加者とのコミュニケーション促進の場である「懇談の場」が2020年1月17日に開催されました。

2013年から8年計画で行われている「日本海地震・津波調査プロジェクト」 について、 地震予知研究センター 佐藤 比呂志 教授 によるお話でした。

過去に開催された「懇談の場」
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次回日程は、また決まり次第告知させていただきますが、「ネパールでの地震観測プロジェクト」を話題とする予定でおります。お気軽にお越しください。

阪神・淡路大震災25年

1995年兵庫県南部地震のSMAC-B2型強震計記録(大阪神ビル)
提供:東京大学地震研究所強震観測データベース

1995年兵庫県南部地震では、被害をもたらした強震動記録が克明に捉えられました。近代的な観測機器のみならず、都市部の建物に設置されていた1950年代から開発されたSMAC型強震計もその役目を果たしました。

( 災害科学系研究部門 三宅 弘恵)

西田 究 准教授 井上学術賞を受賞

西田 究 准教授 が、第36回(2019年度)井上学術賞を受賞しました。

井上学術賞は、自然科学の基礎的研究で特に顕著な業績を挙げた50歳未満の研究者に対して贈られるものです。2020年1月4日に授賞式が開催され、(公社)井上科学振興財団理事長より第36回井上学術賞が贈呈されました。

対象研究:常時地球自由振動現象の研究
推薦者:日本地震学会

受賞理由:お寺の大きな鐘はゴーンと響き、軒先の小さな風鈴はチリンと鳴る。
けっしてその逆はない。当たり前のように思うが、不思議といえば不思議である。これは、物体にはそれぞれの大きさや材質できまる「固有の」振動数があり、叩かれるとその定まった振動数で振動するからだ。一個の物体としての地球も例外ではなく、大地震が起こると様々な音色、すなわち固有の振動数で、地球全体が振動する。これが地球自由振動と呼ばれる現象で、近代地震学史上最大の1960 年チリ地震(M9.5)の際、発見された。それ以降、地球自由振動の観測に基づく地球内部構造の研究が盛んになる一方で、地震以外の現象が自由振動を励起する可能性は顧みられなくなった。この常識を覆すきっかけを作ったのが西田究氏らの研究で、「地球の大気擾乱は、観測可能なレベルの自由振動を引起こしている筈」との理論的見積りに基づき、地震のない時でも地球が常時自由振動していることを発見した。西田氏はこの問題を発展させて、固体地球全体と大気・海洋系全体が相互作用を及ぼす1 つのシステムとしてみなせることを示してきた。海洋内の波が海底地形にぶつかると、常に微弱な固有振動を励起することを示し、さらに、固体地球の振動が大気音波と共鳴していることも明らかにした。これらの研究は、固体と大気・海洋との間には力学的な相互作用はないとする従来の見解からの、コペルニクス的転回をもたらした。さらにその応用として、地震波干渉法による地球内部構造推定を「グローバル・上部マントル」にまで拡大した功績は大きい。この手法によって、砂嵐の吹き荒れる火星や、表面気圧が地球の90 倍もある金星の内部構造解明が期待されるなど、将来への発展性も大いに評価できる。
以上述べたように、現象の詳細解明、励起源の探求、関連振動現象の発見、地球内部構造研究への応用など、大気・海洋・固体地球系地震学とも言うべき新たな分野を開拓した業績に対し、井上学術賞を授賞することとした。

2018年 M6.7北海道胆振東部地震前後の地震活動の特徴

熊澤貴雄・尾形良彦・鶴岡 弘

1 東京大学地震研究所,統計数理研究所

Earth, Planets and Space (2019) 71:130 https://doi.org/10.1186/s40623-019-1102-y

2018年6月に発生したM6.7北海道胆振東部地震の前震、余震活動の特性を統計モデルで詳細解析した。この地震の余震地域の地震活動は2003年M8.0十勝沖地震を境に統計的に有意に減少していたが、震源分布は余震地域の浅い方に移動しながら、M5.1地震を含む群発地震が胆振東部地震本震(M6.7)の約一年前にその深部で発生した。本震に続く余震活動は、本震の数日後から2019年2月の最大余震(M5.8)まで有意な静穏化を示した。これらの活動変化は十勝沖地震および胆振東部地震による応力変化で説明できる。前述のM5.1地震と本震後の群発地震の期間には地震活動の上昇傾向が検出され(図1)、これらの活動が通常の(ETAS地震活動モデルが想定する)、先行する地震からの誘発の連鎖とは異なる因果関係で発生したことが示唆される。余震活動全体のb値の変化は、余震期間全体を通して経過時間とともに増加傾向を示したが、これは余震が空間的に異なる特性を持つことを意味する。

プレート境界の応力集中域の周囲で発生する浅部超低周波地震

武村俊介1・野田朱美2・久保田達矢2・浅野陽一2・松澤孝紀2・汐見勝彦2

Geophysical Research Letters, 46 (21), 11830-11840, doi:10.1029/2019GL084666

1東京大学地震研究所, 2防災科学技術研究所

南海トラフのプレート境界において巨大地震が繰り返し発生しているが、それより浅部のプレート境界(トラフ軸周辺)では、通常の地震と比べてゆっくりとしたすべり現象(浅部スロー地震) が起きている。スロー地震は、プレート境界の構造的特徴や応力状態と関連があると考えられており、日本を含む世界中の沈み込み帯で精力的に調査が進められている。

本研究では、南海トラフのプレート境界浅部で発生する浅部超低周波地震(スロー地震の一種)について、防災科学技術研究所F-netの連続波形記録を用いたテンプレート解析に基づいて、小さな浅部超低周波地震を検知するとともに、震央位置を再決定することで、それらの活動の時空間変化を明らかにした。

Noda et al. (2018)が求めたプレート境界のすべり欠損速度の分布を利用して、プレート境界のせん断応力変化の空間変化を評価し、浅部超低周波地震の震央位置と比較した(図)。その結果、浅部超低周波地震は、プレート境界の応力集中域の周囲で頻繁に発生していることがわかった。また、せん断応力変化と浅部超低周波地震の発生数の関係(図b)から、浅部スロー地震活動はフィリピン海プレートの沈み込みによるせん断応力変化が大きく強度の強い固着域とせん断応力変化が小さい安定すべり域の間の遷移領域で活発に発生していることを明らかにした。

このような、フィリピン海プレート境界の摩擦強度の不均質性は、巨大地震の発生や破壊過程を考える上で重要である。 本研究で検知した浅部超低周波地震のカタログは、論文のウェブページ(https://doi.org/10.1029/2019GL084666)とスロー地震データベース(http://www-solid.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~sloweq/)にて公開されています。

図 (a)南海トラフ沿いで発生する浅部超低周波地震の震央分布とプレート境界のせん断応力変化率の比較、(b)プレート境界のせん断応力変化率と浅部超低周波地震の発生数の関係。せん断応力変化率はNoda et al. (2018)によるフィリピン海プレート上面のすべり欠損速度より計算した。薄い/濃い青○印は浅部超低周波地震の震央で、それぞれテンプレートイベントとの相関係数が0.45または0.60より大きいものを示す。