JPGU2018に出展

今年も日本地球惑星科学連合大会にて、地震研究所ブースを出展しました。 地震波発生装置のミニチュア版:Mini-Seisの展示や、一般公開の告知、ニュースレターPLUS最新号の配布などもされました。

【6月15日】第75回 知の拠点セミナー開催

第75回 知の拠点セミナー が6月15日(金)に地震研究所で開催されます。

知の拠点セミナーは、学問の最先端の様子を一般の方々や学生の方々にお届けするために、国立大学共同利用・共同研究拠点協議会が毎月開催しているセミナーです。6月から地震研究所で開催することになりました。
セミナーの内容や参加申し込み等の詳細は、下記のウェブサイトをご覧ください。
http://www.kyoten.org/seminar/H30/75/

入力波動場に基づく2つの鉄筋コンクリートビルと1つの木造建築の地震応答

Masahiro Iida, Masanori Iiba, Koichi Kusunoki, Yuji Miyamoto, and Hiroshi Isoda

International Journal of Geomechanics, American Society of Civil Engineers, 15(6), Paper No. 04014093 (2015).

DOI: 10.1061/(ASCE)GM.1943-5622.0000444.

既存の方法で構造物の応答解析を実施すると、説明できないことがたくさんあります。その最大の原因は、構造物の応答解析法において、地震波動を適切に考慮できていないことです。そこで、図に示すように、深い地下構造内に適切な波動状態を実現して、地盤と建物の相互作用解析を実施する方法を開発しています。

現在の研究は、上記の方法を開発するための2番目の研究で、方法の有効性を再確認するものです。最初の研究は、メキシコ市のかつて湖であった地盤区域で実施しましたが、今度は東京湾の埋立区域で実施しました。標準的な従来の応答解析法で得られる建物の応答と、比較しました。提案した解析法で得られる建物の応答は、特に矛盾点がなく、方法がすぐれていることを示しました。

従来の応答解析法との違いは、大きく見て2つあります。1つは、相互作用系の各部分では単純なモデルを使用していますが、地震波動、地盤、建物の下部構造(地下部分)、建物の上部構造(地上部分)、をバランスよく考慮していることです。もう1つは、地震波動を適切に考慮していることです。後者については、地震動を構成する波動を、予め別の研究において評価しています。

2つの鉄筋コンクリートビルと1つの木造建築に対して使用された、3次元の上部構造ー基礎ー杭ー地盤系の平面図と側面図。波動状態を評価するための深い地下構造も表示されている。

工学的応用のためのメキシコ市における短周期地震動の解析的評価

Masahiro Iida

Bulletin of Seismological Society of America, 106(6), 2831-2842 (2016).

DOI: 10.1785/0120150305

地震動は、深い構造に比較して、相対的に柔らかい表層地盤において増幅します。表層地盤が軟弱地盤であると、地震動の増幅がきわめて大きくなり、地震被害が発生します。表層地盤における増幅は、重要なテーマです。強い(振幅が大きい)地震動を強震動と呼びますが、強震動はS波だとみなされてきました。けれども、軟弱地盤においては、強震動をS波だと仮定すると、実際に観測される大きな増幅を説明できません。

そこで、表面波、特にラブ波の基本モード(表面波には複数の振動モード(様式)があります)を考える必要があることを示してきました。強震動の主な波動は、S波と基本モードのラブ波だと思いますが、波動の割合は、観測地点毎にかなり異なり、同じ観測点でも地震によって異なります。

メキシコ市のかつて湖であった地盤区域において、表層地盤において観測される地震動の大きな増幅を調べてきました。図は、各周期において、増幅が時間ともに激しく変化することを示す1例です。現在の研究では、1つは、これまで未解決だった、この時間とともに変化する増幅を説明しました。

もう1つは、表層地盤における地震動の増幅を体系的に理解するために、各種の地震波動の増幅、伝統的に使用されてきた慣性力による増幅を、地震動の増幅とともに、同じ条件下で表示しました。こうした表示は、これまでなされていないものです。

メキシコ市のRoma-C観測点における、地表と深さ102mの地震動の振幅比の時間変化。5秒毎にシフトされる、40秒間の地震動に対して評価されている。

 

入力波動場に基づく非線形地盤での3次元地盤ー建物相互作用解析法

Masahiro Iida

International Journal of Geomechanics, American Society of Civil Engineers, 17(3), Paper No. 04016081 (2017).

DOI: 10.1061/(ASCE)GM.1943-5622.0000780.

既存の方法で構造物の応答解析を実施すると、説明できないことがたくさんあります。その最大の原因は、構造物の応答解析法において、地震波動を適切に考慮できていないことです。そこで、図に示すように、深い地下構造内に適切な波動状態を実現して、地盤と建物の相互作用解析を実施する方法を開発しています。

地震被害は、建物の1階や構造物の地盤との接触部に集中します。阪神大震災の時には、建物の中間階で多くの被害が見られたので、逆に大きな話題になりました。しかしながら、既存の応答解析法では、1階の応答が大きくなるという結果が得られません。

現在の研究は、深い地下構造内に適切な波動状態を実現して、非線形地盤での地盤と建物の相互作用解析法を開発したものです。東京湾の埋立区域において、中層の鉄筋コンクリートビルと2階建の木造建築に解析法を適用しました。

開発した解析法によって、中層の鉄筋コンクリートビルの1階に集中する被害を、初めて説明することができました。他方、2階建の木造建築の同様の被害は、説明できませんでした。このことは、2つの建物の応答の性質が大きく異なり、木造建築では別の原因がある、ことを示唆しています。

中層の鉄筋コンクリートビルと木造建築に対して使用された、3次元の上部構造ー基礎ー杭ー地盤系の平面図と側面図。波動状態を評価するための深い地下構造も表示されている。

入力波動場に基づく様々な建物の相対地震危険度評価

Masahiro Iida, Masanori Iiba, Koichi Kusunoki, Yuji Miyamoto, and Hiroshi Isoda

International Journal of Geomechanics, American Society of Civil Engineers, 17(9), Paper No. 04017068 (2017).

DOI: 10.1061/(ASCE)GM.1943-5622.0000967.

<解説> 既存の方法で構造物の応答解析を実施すると、説明できないことがたくさんあります。その最大の原因は、構造物の応答解析法において、地震波動を適切に考慮できていないことです。そこで、図に示すように、深い地下構造内に適切な波動状態を実現して、地盤と建物の相互作用解析を実施する方法を開発しています。

現在の研究では、適切に評価した波動状態における地盤と建物の線形の相互作用解析法を使用して、東京湾の埋立区域において、低層から高層の鉄筋コンクリートビル、低層から高層の鉄骨ビル、(低層の)木造建築、の応答を比較しました。進んだ応答解析法を使用して、こうした比較が実施されたことはこれまでありません。その理由は、個々の専門家は、1つの構造物の上部構造(地表部分)もしくは下部構造(地下部分)のみを扱うからです。

得られた応答の性質から、これらの建物を4つのグループに分類しました。それらは、(1)低層の鉄筋コンクリートビルと鉄骨ビル、(2)地盤と共振する中層の鉄筋コンクリートビルと鉄骨ビル、(3)高層の鉄筋コンクリートビルと鉄骨ビル、(4)木造建築です。得られた応答結果は、他の軟弱地盤においても十分参考になると思います。

越中島観測点において使用された、3次元の上部構造ー基礎ー杭ー地盤系の2例の平面図と側面図。左側は、杭のない2階建の鉄筋コンクリート、鉄骨ビルに対する系、右側は、杭を持つ8階建の鉄筋コンクリート、鉄骨ビルに対する系である。波動状態を評価するための深い地下構造も表示されている。

入力波動場に基づく、水辺における地盤ー建物相互作用解析

Masahiro Iida

International Journal of Geomechanics, American Society of Civil Engineers, 18(6), Paper No. 04018053 (2018).

DOI: 10.1061/(ASCE)GM.1943-5622.0001168.

既存の方法で構造物の応答解析を実施すると、説明できないことがたくさんあります。その最大の原因は、構造物の応答解析法において、地震波動を適切に考慮できていないことです。そこで、図に示すように、深い地下構造内に適切な波動状態を実現して、地盤と建物の相互作用解析を実施する方法を開発しています。

地盤や建物の地震被害が、沖積平野の川沿いや海辺に集中することは、よく知られています。けれども、こうした地震被害を合理的に説明した研究が、これまではありませんでした。多方面にわたる要因を扱うとともに、水中を伝播する波動としない波動の考慮が必要な、困難なテーマだからです。

現在の研究は、適切に評価した波動状態における地盤と建物の相互作用解析法を、水の効果を考慮できるように拡張したものです。東京湾の埋立区域(水辺)において、中層の鉄筋コンクリートビルに解析法を適用して、水辺では地盤や建物の応答(地震被害)が大きくなることを説明しました。

水中を伝播する波動としない波動があるので、陸上と水中の境界部分においては、さまざまなギャップが生まれます。そのため、境界部分に近い地盤では、歪や応力が大きくなり、建物の応答(地震被害)が大きくなるのです。

3つの想定ケースに対して使用された、3次元の上部構造ー基礎ー杭ー地盤系の平面図と側面図。波動状態を評価するための深い地下構造も表示されている。

関連論文

3成分入力波動場に基づく3次元非線形地盤応答解析法

Masahiro Iida

International Journal of Geomechanics, American Society of Civil Engineers, 16(1), Paper No. 04015026 (2016).

DOI: 10.1061/(ASCE)GM.1943-5622.0000482.

既存の地盤応答解析法は、地震波動を適切に考慮できていません。そのため、地震波動が複雑な軟弱地盤においては、さまざまな矛盾が生じてきます。そこで、深い地下構造内に適切な波動状態を実現した、非線形地盤応答解析法を開発しています。

すでに以前にそうした非線形地盤応答解析法を提案しましたが、現在の研究では、その解析法を改良しました。地震動は、水平2成分から3成分へと拡張しました。東京の様々な地盤に適用することで、解析法が適切に機能することを確認しました。図に示すように、液状化した地盤においても、解析法は適切に機能しています。使用された単純な地盤非線形モデルは、より高度なモデルに変更することが可能で、解析法は完成域に到達しました。

さらに、地盤に建物を組み入れれば、深い地下構造内に適切な波動状態を実現した、地盤と建物の相互作用解析を実施することができます。別の研究において、そうした相互作用解析を実施する方法を開発しています。現在の研究は、この視点においても、きわめて大きな意義があります。

関東地震において越中島観測点において液状化した場合の、有限要素法により評価された地盤のさまざまな深さでのせん断応力と歪の履歴曲線。

遠地地震によって誘発された深部低周波微動のマイグレーション

Ryo Kurihara, Kazushige Obara, Akiko Takeo, Takuto Maeda

Geophysical research letters, 45 , 3413-3419 (2018)

https://doi.org/10.1002/2017GL076779

西南日本のプレート沈み込み帯ではスロー地震と呼ばれる人の感じない地震が発生しています。スロー地震にはゆっくりとしたプレートの動きであるスロースリップ、2−8Hz程度の地震波を放出する深部低周波微動などの種類があります。本研究ではこのうち深部低周波微動に注目しました。

この深部低周波微動はスロースリップと対応して発生することがよく知られています。例えば、四国西部では約6ヶ月周期で深部低周波微動がスロースリップを伴って発生し、微動活動が数日間継続します。さらに、数日間継続する活動の中で微動の発生位置が約1日10km程度の速さで動いていることが知られています。一方で、遠地で地震が発生した際に伝播してくる表面波によって誘発されて、この周期的な活動とは異なった深部低周波微動が起こることが知られていました。本論文では、紀伊北部と四国西部において、この遠地の地震によって誘発される深部低周波微動がどの程度の頻度で発生しているのか、またこのような誘発された深部低周波微動の活動では微動の発生位置に動きがあるのかということを調べました。

本論文では、マッチドフィルタ法と呼ばれる過去に観測された地震と同様の地震波を持つ現象を地震計での観測記録から探し出す方法を用いて、遠地地震の表面波が到来した時間に注目して深部低周波微動の検出を行いました。遠地地震は2004年から2016年に発生したマグニチュード7.5以上の四国から震源が1500km以上離れたすべての地震(71個)を対象としました。

その結果、紀伊半島北部では9回、四国西部では16回の誘発微動を確認しました。また、遠地地震によって誘発された微動についても同じ場所での活動が継続しているわけではなく、時間的に徐々に動いていることがあるということがわかりました。その速さは時速10-100 kmと、周期的な活動の中で見られる通常の微動発生位置の移動に比べ、かなり速く、周期的な活動中でも微動活動が活発化した後に見られる局所的な移動と同程度の速度であることがわかりました。通常、このような微動の発生位置の移動はスロースリップの発生している場所が徐々に移動することに対応していると考えられていることから、この結果は遠地地震に誘発された深部低周波微動が観測することのできない小さなスロースリップを伴って発生していること、つまり遠地地震によって深部低周波微動だけでなくスロースリップも誘発された可能性を示唆します。

図:四国西部における2007年1月13日の千島列島沖地震による誘発微動の時空間分布.(a) 上の波形は表面波の3方向の成分と誘発微動の波形を示す.下の図中の色付きの丸は時間の経過に伴う誘発微動の位置の変化を示し,縦軸25km付近で開始した微動が徐々に15km付近まで移動している.(b) 誘発微動の発生場所.Aは(a)で示した誘発微動と対応する.A内だけでなく,B内でも誘発微動が発生している.

開催報告:懇談の場「日記史料から有感地震データベースを構築」

地震研究所と参加者とのコミュニケーション促進の場である「懇談の場」が2018年5月11日に開催されました。

今回は、史料に基づく前近代の地震データベースの構築について、地震予知研究センターの西山 昭仁 助教にお話しいただきました。地震研究所と東京大学史料編纂所は2017年に地震火山史料連携研究機構を設置して、史料を用いた組織的な歴史地震研究を始めています。

次回日程は、また決まり次第告知させていただきますが、「耐震工学」をテーマにする予定でおります。お気軽にお越しください。

過去に開催された「懇談の場」
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プロジェクトについて:地震火山史料連携研究機構