3.10.2 地震発生サイクルシミュレーション

 速度・状態依存摩擦則を利用して,沈み込み域のプレート境界での地震サイクルの数値シミュレーションを実施した.プレート境界の浅部では速度・状態依存摩擦則に従う摩擦がはたらき,深部ではプレート相対運動速度で安定すべりすると仮定した.サイクルの初めの段階から,深部の速度強化摩擦域での余効すべりにより浅部の固着域(速度弱化摩擦域)への応力集中が発生し,そのため,プレート運動速度の1/10程度のすべり速度の非地震性すべり(長期的先行すべり)が発生することがわかった.このときの応力降下量は地震時のそれに比べると非常に小さいが,伝播距離とともに徐々に大きくなっていく.また長期的先行すべりの発生時には,すべりの進行とともにせん断応力が低下するすべり弱化がみられるが,その際のすべり弱化距離は,摩擦パラメターである特徴的すべり量の2倍程度である.この低速のすべりは,ほぼ一定の伝播速度で浅部に向けて伝播する.伝播速度は,プレート運動速度に比例,法線応力に反比例,特徴的すべり量に依存しないことがわかった.平均的なすべり速度は,地震発生間隔の約80%までは,ほぼ一定であるが,最終的な破壊核形成過程に向けて加速し,すべり速度は地震発生までの時間の逆数に比例して大きくなっていくことがわかった.