3.5.5 地殻変動

 沈み込み帯での巨大地震後に測地学的に観測される余効変動の主要なメカニズムとして,プレート境界における余効すべりとマントルにおける粘弾性応力緩和が挙げられる.しかし,余効変動に対するこれらのメカニズムの寄与を測地データから客観的に推定することは一般的には困難である.この問題を解決するために,余効すべりと粘弾性応力緩和を組み合わせた余効変動の物理モデルを構築し,このモデルのパラメータを推定する手法を開発した.このモデルでは,余効すべりは摩擦構成則,粘弾性緩和はBurgers rheologyに従い,これらのプロセスは地震時の応力変化により駆動され,力学的に相互作用すると仮定した.このモデルの未知パラメータは地震時のすべり分布,プレート境界の摩擦パラメータ,マントルの粘性率分布,地震前のすべり速度等である.これらの未知パラメータの最適値とその不確実性を測地データから逆問題として推定するための手法を開発した.このモデルと手法を2011年東北沖地震の地震時及び地震後7年間の地殻変動に適用した結果,観測された余効変動に対する余効すべりと粘弾性応力緩和の寄与の時空間変化を明らかにすることができた.また,推定されたパラメータは地震時及び地震後の地殻変動の時空間パターンを良く説明できた.

 マントルにおける粘弾性応力緩和が地震間の地殻変動に及ぼす影響を明らかにするために,沈み込み帯に対する粘弾性地震サイクルモデルの構築を行った.このモデルでは,巨大地震及びプレート境界の固着により生じる応力変化の粘弾性的な緩和を考慮して地震サイクル全体に亘る地殻変動の時間変化を計算する.このモデルを用いて,粘弾性構造や地震の繰り返し間隔等のパラメータが地震間の地殻変動やプレート境界の固着分布の推定に及ぼす影響を調査した.