3.2.5 高度な観測機器を開発するための研究

(a)長基線レーザー伸縮計の開発(観測開発基盤センターと兼務)

  地震研では高精度のひずみ観測を可能にするレーザー伸縮計のネットワークを展開している.

  神岡地下の重力波検出器KAGRAに併設して建設した全長1.5 kmの基線をもつレーザー伸縮計の研究開発を継続している.また,以前より神岡鉱山内で観測を行ってきた100 mのレーザー伸縮計のデータ収録,自動制御系の更新を行った.これにより観測ネットワークを構成するひずみ計のデータ収録および制御系は共通のソフトウェア(National Instruments社製 LabVIEW)をベースとしたものに統一化された.長期安定な観測への寄与が期待される.

  他に,気象研との共同研究として静岡県浜松市船明トンネルに設置された400 mレーザー伸縮計に導入した周波数安定化レーザーを用いた観測も継続している(COVID-19の影響で当初計画より期間が延びた).これらの伸縮計を用いて実際に地震イベントなどの観測を行うとともに,昨年度に続き光源の周波数安定度の評価のため,レーザーの詳細なノイズ解析を行うとともに船明の観測サイトで周波数安定度の評価試験および安定度の向上に取り組んでいる.引き続き神岡の1.5 kmひずみ計でも同様の評価と改良を行う計画である.

(b)反磁性を利用した小型傾斜計の開発

  反磁性体と組み合わせることによって,受動的に浮上させた永久磁石を基準とした傾斜計の研究開発を行っている.これは以前行った重力計の研究を発展させたものである.傾斜計では浮上体(参照振り子)にはたらく水平面内での復元力を小さくすることによって傾斜に対する感度を高めることができる.これまでの研究で,磁石と浮上体の形状や配置を工夫することによってこのような状態は容易に実現可能であることがわかった.昨年度より新たに科研費を取得して研究を継続している.山梨県立産業技術短期大の研究者と連携して浮上体の理論モデルの精度を高め,実際に10秒程度の周期をもつ浮上振り子を製作した.今後はこれを元にして高感度傾斜計を実現するための位置センサーや制御系の研究開発を継続する.

(c)精密機械工作技術を用いた小型傾斜計の開発

  海底ボアホールや陸域の深部ボアホール,あるいは海底面など,観測例の乏しい「観測フロンティア」での傾斜観測を目的とした小型傾斜計の研究開発を行っている.開発した小型・長周期の折りたたみ振り子を核とした傾斜計を製作し,実際に坑内ボアホールでの観測を継続している.これまでに得られたデータを分析することにより,長期ドリフト特性について良好な結果を得ている.