3.2.1 地球波動現象としての地震・津波の研究

(a)火山性津波の研究

  2018年12月アナク・クラカトア火山の山体崩壊による土砂の海中突入により,スンダ海峡周辺に津波が発生した.地滑りによる津波発生モデルと地震動を伴わない巨大地滑りが引き起こす津波の早期警報手法について,論文にまとめた.

  2015年5月に発生した鳥島近海地震はM5.7と小さいが,東南海地域で広範囲に津波が観測された.津波波形・地震波形の同時インバージョンから,地震発生時にはカルデラ底がその下部で水平に広がるマグマの増圧により傾斜運動を起し,カルデラ壁に沿って跳ね上げ運動を起こしていることが判明した.スミスカルデラ付近で繰返し発生するCLVD型の火山性津波地震は,カルデラ浅部の複合断層運動により地震波発生効率が低下していると推定される.

(b)津波を利用した巨大地震の研究

  2005年3月にスマトラ島のインド洋沖合で発生したニアス地震(M8.6)は,2004年12月に発生したスマトラ・アンダマン地震(M9.1)の最大余震であった.拡張・更新されたアフリカ・南極沿岸を含むインド洋全域の衛星海面高度計データと検潮記録に対し,最新の津波波動理論を用いて断層運動分布を求め,波源域が震源から1400キロ伸びていることを明らかにし,論文にまとめた.

(c)津波伝播の研究

  水深分布を与え,任意の位置に津波の波源と観測点を置いたときに津波波線を計算する手法を新たに提唱した.これまでの手法では計算コストと波線収束の問題が存在していたが,新手法では任意の波源と観測点に対して一度の計算で波線が描けることを示した.1960年チリ地震津波では波源域北部で発生した津波は北海道東方から,また南部で発生した津波は本州南方から日本に到達していることを示した.北米西岸まで到達した2004年スマトラ地震津波では,第1波は波源域源から東方へオーストラリア南岸と太平洋を経由しており,第2波は西方へアフリカ喜望峰沖から南米南端のドレーク海峡さらに太平洋を経由していることが判明した.