3.10.4 日本島弧-アジア大陸間の地殻変動解析

日本海や東シナ海といった海域を結ぶ領域の地殻変動を把握するため,日本および中国東部の沿岸に近い陸域GNSS観測点の日座標時系列を解析している.北海道から沖縄まで,日本の西部にある観測点と対岸にある中国の観測点をおおよそ太平洋,フィリピン海プレートの沈み込み方向に結んで17本の基線を組み,2011年東北地方太平洋沖地震の前後で,それぞれの基線長変化を調べた.東北日本では,地震前には太平洋プレートの沈み込みに伴う短縮が見えていたが,地震後は震源域に近い領域で伸長が存在し,それが現在も継続していることが分かった.これは地震後の余効変動が日本の陸域のみならずアジア大陸側にも広がり,広域でその影響が続いていることを示す.西南日本から伸びる基線は,フィリピン海プレートの沈み込みの影響で短縮変形が発生しており,これは地震前後で大きな違いは見られない.また,太平洋側まで基線を伸ばして,その直線上にある観測点間の基線長変化を調べ,空間分布を見ると,海溝に近い太平洋側の基線ほど短縮速度が大きく,プレート間固着に伴うひずみの蓄積が発生していることが分かる.南西諸島では,沖縄トラフの拡大に伴う伸長とプレート収束による短縮が顕著にみられる.これらの基線長変化の特徴は,全体的にプレートやブロックの運動,プレート境界での海溝型地震前後の影響を反映しており,日本周辺のプレート境界の状態を把握するためには,日本のみならず,その影響が及ぶアジア大陸側の地殻変動も把握した上で考える必要があることを示す.