3.5.9 地震活動の特徴に関する研究

 南海トラフ沿いで発生している深部低周波地震(LFE)の長期的な挙動に関する理解を深めるために,基盤的地震観測網で取得された11年間を超える連続地震波形データに対して,マッチドフィルター法を適用した(Kato and Nakagawa, 2020).その結果,合計で約510,000個のLFEを検出した(気象庁カタログの約23倍).新たな特徴として,既知の低速度且つ長距離の移動現象に加えて,高速度且つ短距離の移動現象においても拡散的な移動様式(拡散係数:約105 m2 /s)を示すことを発見した.また,主要なスロースリップイベント中に,LFEの急速な移動がストリークに沿って断続的に発生したことも捉えた.これらの結果から,スロースリップには,拡散現象が律速する時空間的にクラスター化した断層滑りイベントが多数含まれていることが示唆される.

 地震活動の空間的な特徴の違いを定量的に議論するために,地震活動を表す数理モデルの1つであるHIST-ETASモデルを2019年山形県沖地震と1964年新潟地震の震源域の地震活動に対して適用した(Ueda et al., 2021).背景地震活動度(μ)が高い場所は東西圧縮の歪み速度が大きな場所と一致しており,それらが高い領域で上記の2つの大地震が発生していたことが分かった.また,新潟地震の震源域と比べて山形県沖地震の震源域では,余震発生率(K)が高いとともに地震波速度も周囲よりも遅い性質を示しており,岩石変形のマクロな特徴が地震活動に影響を与えることが示唆される.