3.7.2 フロンティア解析による地球の内部構造と内部過程の解明

海域から陸域までの幅広い領域にわたる東北日本弧下のレシーバー関数イメージングを,海陸にわたるamphibiousなアレイデータを統合解析することで達成した.海底の低速度堆積層がレシーバー関数解析の障害となることは知られているが,その影響を詳細に分析し,補正する手続きを提案し,海陸にわたり連続的な速度不連続面(沈み込んだ海洋Mohoなど)をイメージすることに成功した.このような解析をより広域な東北日本弧下にたいして行うことにより,これまでレシーバー関数イメージングが行われてこなかった前弧下の沈み込みの過程が明らかになることが期待される.

 北西太平洋に展開された広帯域海底地震計のデータから北西太平洋下のP波速度構造を制約した結果をまとめ,国際学術雑誌で成果を発表した.既存のS波速度構造と比較した結果,リソスフェアではVp/Vsが深さとともに急激に増大することが検出された.またLAB近傍ではVp/Vsの値が大きくなっていることが検出された.これらの結果は,リソスフェア内には化学的成層構造があり,LAB近傍で粒界弱化現象が起こっていることにより解釈できることを提案した.

 海洋上部マントルの等方1次元電気伝導度構造の解釈法として,温度構造をプレート冷却モデルに従うと仮定し,ポテンシャル温度,熱境界層の厚さ,マントル中のH2O,CO2含有量,地殻の電気伝導度をモデルパラメータとして電磁気応答関数から直接制約する手法を開発した.従来のモデル正則化付インバージョン解析で得られる電気伝導度構造モデルには正則化の影響による虚像の可能性が必ず含まれていて,モデルの現実性を議論する必要があるが,本手法では解釈すべきコンセプトモデルのパラメータを直接決定するのでそのような議論からは解放される.また電気伝導度構造モデルをコンセプトモデルで解釈する際にはこれまで定性的な一致を議論するのにとどまっていたが,本手法ではコンセプトモデルから電磁気応答関数を復元して定量的にフィッティングを議論できる.本手法を「ふつうの海洋マントル計画」のA, B海域で得られたアレイ内平均の電磁気応答関数へ適用したところ,A海域とB海域の温度境界層の厚さに違い(A海域の方が薄いことが従来解析より示唆されていた)が定量的に有意であることを確認できた.またポテンシャル温度とマントル中のH2O,CO2含有量の間のトレードオフ関係を定量的に示す事ができた.