3.11.3 活動的火山における多項目観測研究

地震研究所では,文部科学省科学技術・学術審議会が5年ごとに関係大臣に建議する研究計画に基づき,火山噴火予測に関連する観測研究を全国の大学・研究機関と協力し,その中核となって実施している.この研究計画は,その前身の火山噴火予知計画から47年間,その内容を学術の進歩に合わせて変更しながら継続してきた.火山噴火は発生すると大きな被害をもたらすが,発生頻度が低いため,長期の観測データの蓄積が不可欠であり,この47年間のうち,特に最初の約20年間は火山観測網の充実が図られ,さらに研究者及び観測を支える技術職員が増員され,日本の火山学の進展に大きく貢献してきた.最新の研究計画は2019年1月に建議され,2019年4月より5年間実施予定の「災害の軽減に貢献する地震火山観測研究計画(第2次)」である.この計画は前計画に引き続き火山災害の軽減を目指して,観測,実験,理論の各手法を用いて火山現象の解明とその成果に基づく火山噴火予測に関する研究行なうことになっている.特に,今回は,2014年9月に発生した御嶽山噴火で多くの犠牲者が出たことを重視し,観光地となっていて登山客や観光客が火口近傍まで訪れる火山については,小規模な噴火であっても大きな災害を引き起こす火山噴火であるとして「高リスク小規模火山噴火」と位置づけ,地球物理学観測だけでなく,地球化学,地質学,史料研究を含めて包括的な研究を実施することを打ち出した.

当センターにおいては,長年継続して整備されてきた火山観測網やそれを支えるシステムの充実と維持を担っており,火山噴火予知研究センター等と協力し,観測に基づく火山噴火予測研究を実施している.火山噴火予測においては,噴火発生時の諸現象を精度良く捉えて噴火現象に関する新たな知見を得ることも重要であるが,場合によっては10年以上の準備段階を経て噴火に至るまでの火山内部のわずかな変化を捉え,その原因を科学的に解明することも極めて重要であり,それを火山噴火予測に活かすことが,火山噴火予測研究の重要な目的である.火山噴火前のさまざまな火山現象の解明を進めることによって,これまでの噴火前に起こった現象を狙って,その発見に大きく依存する経験による現在の火山噴火予測を,より普遍的な科学的な火山噴火予測に発展させることを目指している.そのためには精度の高い各種観測データを長期に安定して蓄積することが重要である.

本研究所では,これまでの「火山噴火予知計画」で観測網が整備された浅間山,伊豆大島,富士山,霧島山,三宅島の5火山を中心に長期的・継続的な観測を行っている.これらの火山においては,地震・地殻変動・全磁力変化・空振観測・熱映像・可視画像等の多項目の観測を行い,噴火に伴う諸現象,噴火前に起こる前兆現象を捉え,その物理・化学過程を明らかにする研究を実施している.また,この他の火山においても,他大学・機関との協力し様々な観測を実施している.ここではそれぞれの火山における観測の現状と観測研究の目的や意義について述べる.具体的な研究成果については,ここでは火山噴火予知研究センター及び地震火山噴火予知研究推進センターの報告との重複を避けて記述した.

(1)浅間山

浅間山では,広帯域地震,短周期地震, GNSS,傾斜,全磁力,空振,熱映像,可視画像の観測を行い,浅間火山観測所と小諸火山観測所を拠点として観測網の維持管理を行っている.観測データは,山頂付近では自前の無線LANによる中継あるいは光ファイバーを経て浅間火山観測所に集約され,本研究所までインターネット高速回線を用いて伝送されている.また,観測点の通信状況などに応じて 衛星回線や有線回線,携帯データ通信を利用したデータ転送も行われている.

2019年8月7日に極めて規模の小さな噴火が発生した.この噴火は,近年の2004年の中規模噴火,2009年と2015年の規模の小さな噴火とは異なり,これまで知られていた噴火に先行して現れる前兆現象は見られなかったと思われていた.2004年以降の噴火では,噴火前に浅間山西方深部にあるマグマ溜まりの増圧を示す地盤変動がGNSS観測等で捉えられ,深部からのマグマの供給が確認されている.また,噴火前には火口からの火山ガスの放出量が増加すると共に,マグマ溜まりから火口へ通じる火山ガスの流路のうち,浅部の隘路でガスの流入により膨張した後にガスの放出により収縮する際に発生する長周期の地震動(VLP)が観測されていた.VLPの発生頻度と火山活動は,大局的には比例しているが,細かく見ると若干の差異が見られる等のことが明らかになっていた.これらの観測されている地盤変動,VLPの活動,火山ガスの放出量などの観測事象と,次に起こる噴火の規模の関連を明らかにして,噴火の規模の予測に結び付く研究を進めることが,浅間山における観測研究の意義のひとつであると考えてきた.

しかし,2019年8月の噴火では,噴火前に地盤変動が見られず,当初,山頂直下での地震活動も噴火直前の数日間は極めて低調であると認識され,この噴火の発生機構について多くの疑問が投げかけられた.しかし,当所が火口の西側に設置している赤外カメラの解析から,噴火の約10日前の7月27日から火口底の温度が急激に低下し,それが噴火発生まで継続していたことがわかった.また,その間,火口直下浅部を震源とするBL型地震の発生頻度も低下していることが明らかになった.一方,火口直下を震源とするBH型地震をMatched Filter法で検出すると,7月末ごろから明らかに活動度が上昇していることがわかった.これらのことは,今回の噴火がこれまでのように深部からのマグマの供給により発生するものではなく,深部から火口に通じていた火山ガスの通路が一時的に閉塞して噴気が火口から放出されなくなり,閉塞した火道に蓄積した火山ガスが高圧になり,やがて新たな放出経路を作るために岩塊を吹き飛ばした現象であると考えられる.このことは浅間山が長期的には火山活動が低下している傾向にあることと整合する.このような噴火は他の火山でも,火山活動の終息期に見られる現象であると考えられており,今後はこのような噴火の予測にも有用な知見が得られた.

(2)伊豆大島

伊豆大島では,1986-87年の前回の噴火から33年以上が経過し,明治以降の平均噴火間隔が36~38年であることから,次の噴火が近いと予想され,現在は噴火に至る諸現象が地下で進行していると考えられている.噴火前に地下で起こる諸現象を捉え,それを理解することにより,噴火発生予測や次の発生する噴火様式や規模を予測することが重要である.現在,伊豆大島には24点(うち4点は広帯域地震計を併設)からなる地震観測網と14点からなるGNSS観測網によって地震及び地盤変動観測を行っている.これらの観測網は,従来の地震及び地盤変動観測機器が老朽化したため,2003~2004年に一気に更新したものである.この更新以降,約16年の期間にわたり精度の高い地震及び地盤変動の観測データを蓄積してきたが,近年これらの機器の老朽化が再び目立つようになってきた.そのため,最新の観測機器に更新する作業を2018年度から実施している.また,電磁気的観測では,プロトン磁力計による全磁力の連続観測に加え,能動的な比抵抗構造探査手法の一つである ACTIVE観測や長基線の電位差を計測するネットワークMT観測を実施している.これらの各観測のデータは,色々な手段を用いて地震研究所に集約されている.通信会社による有線データ伝送サービスのある観測点では高速で信頼性の高い光回線網を,有線回線サービスのない観測点では4G携帯電話回線網を用い,双方が利用できない観測点では自前で無線LAN装置を設置してデータ伝送を行っている.有線回線網ほど安定的なデータ伝送が行われない携帯電話回線網を利用した観測点では,自動的に最適速度でのデータ送信や再送を行うACTプロトコル(当研究所で開発)を用いて,人手をかけず安定的なテータ収集を行っている.

科学的な記録が残っている伊豆大島のこれまでの噴火では,他の火山と異なり噴火初期(発生時)には,火山性微動は発生するが明瞭な地震活動の高まりが見られないとされている.これは,伊豆大島のマグマが低粘性の玄武岩に富むものであるため,マグマに含まれる火山性ガスが噴火前から効率的にマグマから放出され,噴火初期には比較的爆発性の低い噴火様式になると考えられる.実際,前回の噴火ではマグマに先行してそこに含まれる高温の火山ガス等の揮発性成分が地下浅部に上昇し,地中の温度上昇による熱消磁,地下の電気伝導度の変化が噴火に前に起こり,その後,火山性微動が発生してその振幅が大きくなったのち,マグマが火口に満たされる山頂噴火に至ったと考えられる.その間,顕著な地震活動の増加は見られなかった.そのため,伊豆大島では来るべき噴火活動に備えて,山頂火口周辺での広帯域地震観測網の増強,土壌火山ガス連続観測,空振観測網の整備も検討されている.このうち,土壌火山ガス連続観測装置は2018年9月に三原山の火口近傍に,理学研究科火山化学研究施設と共同で設置した.マグマに先行して上昇してくる揮発性成分(火山ガス)を捉える新たな観測装置を設置する目的で,カルデラ内にある三原西観測点の深度1000m井戸の再利用を試みたが,現存の老朽化して故障している観測機器を引き上げが困難を極め,今は作業を中断している.

次回の噴火の発生初期も前回と同様な経過をたどる可能性が高いと考えられるが,現時点では熱消磁や火山性微動の発生は観測されておらず,噴火が切迫している証拠は見つかっていない.しかし,約17年の精度の高い地震及び地盤変動の観測データを併せて解析することにより,上記のような現象が発現する前段階と考えられる以下の現象が発生していることを見出した.

伊豆大島では,1~3年周期で山体の膨張と収縮が繰り返しつつも,長期的にはマグマ蓄積に起因する山体膨張が進んでいる.また,山頂直下及び山体から少し離れた島の沿岸部周辺で多数の火山性地震が発生している.この火山性地震の活動度とマグマ蓄積による地盤変動にきわめて良い相関があることが分かった.特に,カルデラ直下の浅部で発生する火山性地震は,山体膨張の際に活動度が高まり,山体収縮時に低下する.この現象は,山体膨張によって地下浅部では張力場が卓越し,既存地震断層での法線応力が低下することにより,地震が発生しやすくなると考えられる.観測された地震活動度は,地震活動の研究で良く用いられるモデル(速度状態依存測)で非常によく説明できる.伊豆大島はフィリピン海プレートの北端近くに位置し,相模トラフにも近いことから,大きなテクトニック応力が作用しているため,地震活動度と地殻変動との相関が現れやすいと考えられる.2011年以降は地盤変動の大きさと比較して地震活動度が高い状態が続いている.更に,2013年以降は,カルデラ直下の浅部で発生する地震の活動度が潮汐と統計学的に有意に相関を持つことが明らかになってきた.具体的には,震源域で潮汐応力が伸張場になる時に地震が相対的に多く発生することが明らかになった.これらの原因として考えられる仮説として,震源域での間隙圧の上昇により地震活動度が上昇したことが挙げられる.マグマの上昇に先行して,マグマ溜まりから揮発性成分が上昇し,それが震源域に達することにより間隙圧が増加すれば,地震活動は全体として相対的に活発になる.同時に潮汐との相関が良くなる.更に,この時期に,地震の規模別頻度分布(G-R則のb値)も一時的に上昇したことが明らかになった.このような地震活動度の時間変化が,近い将来に全磁力観測による熱消磁や電気伝導度の変化としても現われ,最終的に噴火に至ることになれば,上記の仮説は証明できたことになる.つまり,火山噴火予測の重要な鍵であるにもかかわらず,これまでその検出方法がなかったマグマ中の揮発性成分の上昇が火山性地震の活動度の変化と地盤変動を統合解析することによって推定できる可能性があることを実証できる.これは,火山性地震と言う最も重要な噴火前兆現象の科学的な理解の発展をもたらし,より科学的な火山噴火予測に一歩近づけるツールのひとつになると期待できる.

(3)富士山

富士山では10点からなる常設の地震観測網を主体とした地震活動観測を行っている.この内5点は地表設置型広帯域地震計,3点はボアホール型広帯域地震計である.ボアホール観測点には3成分歪計,高感度温度計,傾斜計も設置されている.また全磁力観測も継続している.他の火山同様,富士山に於いても観測点の条件に応じて様々な伝送方式が用いられている.

富士山は,三宅島や伊豆大島に比べて噴火間隔が長く,1707年の宝永噴火以降,噴火していない.しかしながら,2000年10~12月及び2001年4~5月に深部低周波地震が多発し,火山活動の活発化が懸念された.深部低周波地震は,火山活動の活発化に先行して発生する例が多いが,その発生機構については未だ解明されていない.そのため,広帯域地震計を主体として,長周期振動を捉えることに重点を置いて観測を行っている.残念ながら,2001年以降,深部低周波地震の活発化は見られない.今後の発生と,その後の火山活動の変化を見据えて,観測を継続している.

(4)霧島山

2011年1月に霧島・新燃岳で爆発的な噴火が発生し,その活動の詳細を明らかにするため霧島山周辺の観測点が強化された.2017年10月には,再び新燃岳が噴火したのに続き,2018年4月には霧島・硫黄山で水蒸気噴火が発生した.このように霧島山では火山活動が活発な状態を維持して現在に至っている.地震研究所は新燃岳周辺を含む広域で地震観測,GNSS観測,全磁力観測,空振観測を行っている.これらの観測は,火山噴火予知研究センター・鹿児島大学などの他大学と協力して進めている.

GNSSによる観測から2011年1月の噴火に先立ち2009年12月頃から新燃岳南西数㎞,深さ約8㎞にあると推定されているマグマ溜まり(以下,深部マグマ溜まり)に徐々にマグマが蓄積したことが明らかになった.噴火時にマグマの噴出により一挙にマグマ溜まりが収縮し,その後は2011年10~11月頃までマグマの蓄積が続き,一旦停止した.これに呼応して,新燃岳の活動は一旦休止している.以下に述べるように,この深部マグマ溜まりの膨張は,霧島山全体の大局的な活動の重要な指標となっていることが明らかになってきた.

2013年8月から2014年10月まで,再度深部マグマが膨張し,その後,停止した.それに呼応するかのように,2014年8月以降えびの高原の硫黄山から韓国岳に掛けて地震活動が活発化し,火山性微動の発生とそれ同期する傾斜変動も観測された.これらは硫黄山付近での水蒸気噴火の発生する可能性を示すことから,震源決定精度向上のため,震源域のほぼ直上に当たる韓国岳山頂に広帯域地震観測点を新設して観測を開始した.その後,この地域の活動は一旦低下したが,2015年8月頃より,硫黄山周辺で傾斜変動を伴う火山性微動が度々発生するようになり,2016年1月には顕著な地表高温域の拡大,噴気の増大が見られるようになった.地元の山岳ガイドと協力し,噴気温度を測定する態勢を作り,測定を継続している.この活動は,2017年9月以降一旦は低下したが,2018年3月初旬に霧島山・新燃岳が3度爆発的な噴火を開始した直後から,活動的になり,2018年4月19日に硫黄山に隣接するえびの高原で水蒸気噴火が発生した.

2017年7月からは深部マグマ溜まりが3度膨張を始め,火山活動の活発化が懸念されていたところ,10月11日に新燃岳で小規模な噴火が発生した.噴火に先立ち傾斜変動を伴う低周波の微動が観測されたほか,噴火中にBanded Tremor, Gliding Tremor, Chugging Event等色々な火山性微動が火口近傍の複数の広帯域地震観測点で観測された.この活動は約1ヶ月程度継続し,一旦活動が低下した.2018年3月1日から3度目の噴火活動が再開し,3月8日には爆発的な噴火に移行し,1週間程度活動が継続した.これも現在は小康状態になっている.

霧島山では,深部マグマだまりの膨張が引き金になって,新燃岳のマグマ噴火,硫黄山の水蒸気噴火を引き起こしていることが,最近の10年余りの観測から明らかになってきた.新燃岳の噴火と硫黄山の熱水活動や水蒸気噴火は,いずれも同じマグマ溜まりにマグマが供給された後に発生しており,共通のマグマの供給システムで駆動されていると推定される.即ち,霧島山は多くの火口を有する山容が示すように複雑なマグマや高温の火山ガス供給システムが地下に存在すると考えられ,新燃岳の噴火及び硫黄山付近での熱水活動や水蒸気噴火は,一連の火山活動として捉えられる.霧島山の一連の活動は噴火現象の推移の複雑さを理解する上で大変興味深い事例と言える.今後も観測を継続し,噴火活動の推移の理解につながる研究を目指す必要がある.

(5)三宅島

三宅島では,2000年噴火後は2010年頃まで山体収縮が続いていたが,それ以降山体膨張に転じた.これは,次の噴火に向けて,マグマ溜まりでのマグマの蓄積が再開したことを示している.また,2000年以前はそれほど地震活動が活発でなかったが,噴火後,大きく崩落した火口南側直下浅部を震源とする地震が非常に多く発生している.しかも,その活動度は季節により大きく変動していることが明らかになった.

2000年噴火直後と最近の地下の比抵抗構造の時間変化を研究するために,中腹の周回道路内側全域にわたって2012年にMT観測を実施した.これは,地下の温度変化,地下水の回復過程に着目して,今後の火山活動を評価し,その推移を解明するための基礎となるデータである.同様のMT観測を2019年にも実施し,地下比抵抗構造の時間変化を見出す研究を進めている.また,無人ヘリコプターにより,中腹の周回道路内側全域と火口周辺において空中磁気測定を2014年5月と2016年11月に実施した.その差から,火口直下では帯磁傾向が続いており,地下浅部では前回2000年噴火から地温の低下が継続していると推定される.今後も,定期的にこのような観測を繰り返し,時間推移を捉えることが重要である.

三宅島では近年の噴火周期が20年程度であることから,次回の噴火が遠くないと思われる.このような火山における噴火前後で発生するマグマや地下水の移動とそれに起因する諸現象を捉えることが,火山噴火現象の解明と噴火予測に重要であることから,文部科学省委託事業「次世代火山研究推進事業」の課題B「先端的な火山観測技術の開発」サブテーマ4「火山内部構造・状態把握技術の開発」で,他機関の観測点が少ない火口近傍に広帯域地震観測点を3点,GNSS観測点を2点設置して観測能力の向上をはかった.また,この観測点の増設により火口直下の浅部で地震活動が活発であることが判ったので,2019年5月から雄山の火口縁に2点,雄山南方の中腹に1点,短周期地震計による現地収録方式の臨時観測点を設置して地震活動を調査した.その結果,三宅島の最近の火山性地震の活動は,火山浅部の現在の噴気口の直下の限られた領域でBL型地震とBH型地震が発生し,それらは海抜下約1㎞の深さでそれ以浅はBL型,BH型が,それ以深はA型が発生しており,震源の分布がシャープに分かれていることが明らかになった.さらに,この境界がMT探査から判った比抵抗構造の明瞭な境界とほぼ一致していること,A型地震は現在の火口域だけでなく2000年噴火発生時に見られたダイク貫入域につながるように活動が続いていることも分かった.更に,他機関が三宅島に展開するGNSS観測点のデータを再解析すると,三宅島では上述もように2010年頃より山体膨張を繰り返しているが,特に2016年前半に急激な山体膨張が発生すると同時に,これまで少量ながら火口から噴出していた火山ガス(SO)が検出限界以下まで急激に減少した.これはこれまでマグマ溜まりから漏れ出てきた火山ガスが,マグマ溜まりと火口を結ぶ流路が閉塞したため,火山ガスの流出が止まり,それによってマグマ溜まりが増圧したと考えると現象をうまく説明できる.この増圧源は火口縁の南西約2㎞の深さ約5㎞と推定され,2000年噴火のダイク貫入域や先ほど述べたA型地震の震源が火口から南西側に延びる分布とも整合することがわかった.これは2000年噴火の際に大きな役割を果たしたマグマ溜まりが,現在まで活動を続け,最近になって火口への流路が閉塞したことを示唆している.次回の噴火が同じマグマ溜まりが活動して発生するかは大変興味がある問題で,これらの知見の積み重ねを経て,次回の噴火の予測や噴火現象の理解の深化を目指している.