部門・センターの研究活動」カテゴリーアーカイブ

3.12.9 地域社会における災害対応・防災教育促進の取組み

災害科学に関する知見の社会還元を目指し,学校現場で防災に関する出張授業を行った.受講対象者は,生徒ならびに教職員で,その土地で発生した直近の自然災害を教材として取り扱い,災害発生のしくみや,発災時の学校の在り方等について議論し,地域社会での災害安全上の課題発見を促した.受講者に対し事後アンケートを実施し,次年度以降の効果的取組みに繋げる.

3.3.8 沈み込み帯温度構造のモデル化

沈み込み帯における多様な地震・火山活動を理解する上で最も基本的な情報の1つが温度であり,その詳細を明らかにするため物理法則に基づくモデリングを行っている.温度構造を予測する際の重要なパラメータの1つとして熱伝導率があり,近年熱伝導率の変化を考慮した海洋プレート冷却モデルが精力的に発表されてきた.しかしそれらのモデルが沈み込み帯の温度構造にどのように影響するのかまではあまり調べられてこなかった.そこで特に熱伝導率に着目しつつ,海洋プレート冷却モデルが東北地方下の温度構造に与える影響に焦点を当てた研究を行った.

熱伝導率として一定,温度のみに依存,温度と物質に依存,の3種類を考慮した.まずそのそれぞれに対して、観測された海洋底深さと地殻熱流量の海洋プレート年代に伴う変化を説明するような海洋プレートの厚さとマントルポテンシャル温度を不確かさまで含め推定した.得られた不確かさはおよそ±5 kmと±50℃であった.次に,得られた3種類の海洋プレート冷却モデルを海溝における温度境界条件として用い,東北地方沈み込み帯における温度構造を予測した.そして得られた温度分布と岩石の相図を組み合わせることで,やや深発地震の発生に関連しているとされる海洋地殻内の青色片岩とスラブマントル内の蛇紋岩が脱水反応を起こす相変化境界の推定を行った.その結果,仮定する熱伝導率によって相変化境界の位置が10 km程度変化することが明らかになった.脱水と地震発生との関連を議論する上で10 kmの差は大きいと考えられる.

西之島における近年の噴出物の全岩化学組成(SiO2およびMgO含有量)の時間変化.白抜きシンボルは降下火砕物,それ以外は溶岩.

3.11.9 テレメータ室の活動

(1)テレメータシステムの運用管理

観測開発基盤センターの地震・火山観測網で,地震波形データをはじめとする,各種リアルタイム観測データの伝送および連続収録を行うテレメータシステムの運用管理を継続している.研究者が目的に応じて接続するセンサーの連続データを,途切れなく伝送し収集・提供するとともに,一部イベント収録処理も行う.伝送手段としては衛星通信(VSAT)や,ISDN・ADSL・光回線・無線LAN・モバイル通信等,最新の通信技術を取り入れた各種IP通信回線を利用している.管轄する観測点は地震・火山合わせて約200観測点である.特に衛星通信については,全国の大学の共同利用設備として,VSATシステムのハブ局を東京と長野の2か所で運用し,140局のVSATの維持管理を行い,地上回線の利用が困難な山間僻地や離島での機動的な観測研究に貢献している.観測点からフレッツ系およびモバイル系回線でデータをSINET5のデータセンタ(長野,松江)へ直接収集して直ちにJDXnetに乗せる,耐災害性の高いデータ伝送システムを運用継続し,2020年度末には,地震予知振興会等の観測点を含め合計240点に対応した。

(2)全国の大学を含む各機関とのデータ交換システムの運用管理

リアルタイム観測データの全国的な流通のため,各大学や地震火山情報センターと協力して,高速広域網新JGNとSINET5のそれぞれ L2VLANサービスや,フレッツ系回線等を利用し,全国の大学等を結ぶJDXnet(Japan Data eXchange network)を構築・運用管理している.また,地震観測に関係する全国の大学を代表して,東京大手町に防災科研が設置したTDX(Tokyo Data eXchange)を介した,気象庁・防災科研等他観測機関とのリアルタイムデータ交換の窓口の役割を果たしている.そのために,TDX,衛星通信ハブ局 等の拠点間を接続する延長約300kmの光ファイバー通信網を構築・運用管理している.これらの高速広域ネットワークにより,全国の研究者が様々な機関 の約2000観測点ものリアルタイム観測データを研究利用することが可能になっている。

(3)収集データの利用支援

テレメータシステムやデータ交換システムによって収集されたデータは,所内ネットワークやインターネットを通じて所内外の研究者に提供される.それ には収録済みデータのオンライン利用やオフライン利用(テープの再生等)とともに,インターネットやJDXnetを介したリアルタイム配信サービスも含まれる.これら所内外の共同利用ユーザーに対する技術的および手続き面での支援を行っている.また,これまでに蓄積されたすべての地震データをオンライン提供するため,地震予知研究センター・地震火山情報センターと協力して,記憶容量1.3 ペタバイトの長期間地震波形データ等解析システムを導入し,システム開発を継続した.地震波形データについては,地震研究所の保有する1989年からのデータ470TBが本システムに格納された

(4) 観測機材の全国共同利用への対応

地震観測用VSATシステムおよび地上テレメータ装置,データロガー等を地震研共同利用の手続きに従って,全国の大学の研究者に提供(貸し出し)しており,2020年1月24日現在の貸し出し数は741件である.

3.3.7 高温マグマプロセス解明に向けた物質科学的研究

プレート収斂域での火成活動において,部分溶融によるメルトの発生からメルトの上昇・冷却・定置といった一連の過程がどのような時間スケールで進行するのかを明らかにすることは,大陸地殻-マントル間での物質的・化学的分化の過程を理解する上で重要である.こうしたマグマ活動の中でも,特に高温(>600℃)でのプロセスに時間軸を設定する上で鍵となる手法が高い閉鎖温度(約900℃)を持つジルコン鉱物のウラン・トリウム系列年代測定法である.物質科学系研究部門・坂田研究室ではジルコン鉱物から得られる時間情報の高精度化を進めると共に,従来法では得ることのできなかったメルトの発生から鉱物晶出までの期間を定量化する新たな年代測定法の開発を進めている.さらに,マグマ溜まり中での温度や化学組成の変化を追跡する目的で鉱物中の微小領域(15-30μm)からチタンや希土類元素を精確に定量する技術を確立した.こうした年代・元素分析を国内の第四紀火山噴出物(三瓶火山,戸賀火山,霧ヶ峰等)や深成岩体(黒部川,大崩山,遠野等)の試料に適用し,数千年-1万年程度の時間分解能でマグマ中の温度変化や化学組成変化を復元することに成功した.

また,現存する物質的記録が極めて少ないとされる地球誕生から最初の5億年間(冥王代)の地殻の化学進化を解明する研究も進めている.西部オーストラリアより採取した礫岩より500粒子以上の冥王代ジルコンを発見し,高精度のU-Pb年代測定や化学組成の分析を進めている.特にこれまで冥王代ジルコンでも報告数の少なかった42-44億年前のジルコンも数十粒子集積しており,報告されている最古の地球ジルコン(約44億年前)と同等の年代を持つものも発見した.現在冥王代ジルコンの年代、化学組成を用いて独立成分解析を行うことで44-40億年前の地球最初期の表層・地殻の環境を変化させる機構についての推察を行っている.

3.4.5 構造物の総合観測ネットワークの構築と損傷度評価

巨大地震が発生した場合,早急に損傷を受けた建物の損傷度を評価し,建物の継続利用の可否を評価する必要がある.そこで本研究では,比較的安価の加速度計を設置し,建物の地震時応答を計測して,等価線形化法を用いた損傷度評価システムの開発を進めている.等価線形化法とは,建物に作用している力と変形の関係を等価一自由度に縮約してその耐震性能を評価する方法である.このシステムの有効性を実証するため,既存構造物に実際に設置して,計測を続けている.観測建物は,中層事務所ビル,学校建物,低層木造歴史建造物,低層戸建て住宅,60m級通信用鉄塔などである.東北地方太平洋沖地震の際に観測された,8階建てSRC学校建物の性能曲線を見ると,剛性低下が見受けられるが,詳細な被害調査の結果,連層耐震壁脚部に軽微なひび割れが確認された.また,地震研究所1号館の観測記録から,東北地方太平洋沖地震の際に免震装置が有効に作用したことを確認した.

更に,非構造材を含めた建物の継続利用性を判断するシステムの構築を目指し,「首都圏を中心としたレジリエンス 総合力向上プロジェクト サブプロジェクトC:非構造部材を含む構造物の崩壊余裕度に関するデータ収集・整備 課題②災害拠点建物の安全度即時評価および継続使用性即時判定」の一環として,天井や窓,外装タイル仕上げなどを有する実物に近い実大建物(鉄筋コンクリート造3階建て)を建設し,E-Defenseを用いて振動破壊実験を実施した。その結果を従来の目視に拠る「被災度区分判定」および地震保険の損害率算定の結果と比較し,構造被害自動判定結果の妥当性を検証した。 [図3.4.5]。

3.6.8 実験・理論,シミュレーション,地質学的手法に基づく火山の基礎研究

(1)噴火のダイナミクスの解明を目指した実験と理論研究

 マグマ破砕過程を「粘弾性流体の破壊現象」と位置づけ,定量的モデル化に向けた粘弾性構成方程式の構築と数値計算手法の開発を進めた.そのためのモデル物質として,ポリウレタンフォームを用いて伸長実験を行い,カルデラ噴火の際に噴出する発泡マグマに特有な構造として知られている,一様に伸長した気泡構造を再現することに成功した.この実験データを用いて,これまで開発してきた気泡変形計算プログラムの検証を行った.計算は単一気泡の変形理論を用いているが,発泡度が60%を超えるような試料に対しても,多数の気泡の平均的な変形度の歪みや歪み速度依存性は再現できることを示した.その結果,噴火の火道流モデルから得られる歪み速度プロファイルと,噴出物の気泡変形度を定量的に関係づけることが可能となり,最も新しいカルデラ噴火であるタウポ火山の1800年前の噴火に対して応用した.また,単純なマクスウェル型の粘弾性を示す光弾性物質を用いた変形・破壊実験に着手した.加速を伴う3次元の変形場の中で,流動から破壊へと遷移する様子を,光弾性を利用した弾性歪の可視化を含めて観察した.本研究から,流体の破壊を支配する要因が明らかになると期待している.

(2)火山噴煙ダイナミクスのシミュレーション研究

 爆発的火山噴火で見られる噴煙柱・火砕流の噴煙ダイナミクスと,火山灰輸送・堆積プロセスの解明を目指し,数値モデルの開発とそれを用いた大規模シミュレーション研究を進めている.火山灰は噴煙によって上空へと運ばれ,噴煙から離脱すると大気風によって広範囲に移流・拡散する.どのサイズの火山灰が噴煙のどの位置から離脱するかが,火山灰輸送の問題で鍵となる.この問題に取り組むため,60μm〜64mmという現実的な粒径のトレーサー粒子を導入した噴煙ダイナミクスシミュレーションを行った.海洋研究開発機構の地球シミュレータをはじめとする複数のスーパーコンピュータを利用し,空間分割:数十億グリッド・トレーサー粒子:数百万個の大規模3次元シミュレーションを実施した.富士山宝永噴火とSt. Helens 1980年噴火に相当する2種類の噴火規模を火口条件とし,大気の風速を変えたパラメータスタディを行った.その結果,噴煙内での火山灰粒子挙動を再現することに成功し,詳細な解析へとつながる大容量データを蓄積した.大気中の火山灰は航空路障害に,地表への降灰は健康被害や様々なインフラ障害につながるため,このような数値シミュレーション結果はハザードマップ作成の基礎データとなり得る.

(3)大規模噴火に関する研究

 南九州鬼界カルデラで7.3 kaに発生した超巨大噴火(鬼界アカホヤ噴火)は,完新世における地球上最大規模の噴火である.鬼界火山の活動履歴やアカホヤ噴火の推移については近年理解が進みつつあるが,未解決の問題も残されている.その中の一つに長浜溶岩(流紋岩質溶岩)の年代問題がある.薩摩硫黄島西部の基盤を構成する長浜溶岩が,カルデラ形成期以前,数十万年前の溶岩であるとする説と,上位の堆積物との層序関係から鬼界アカホヤ噴火の前駆的活動で生じたものとする説があり,年代学的な検討が十分に行われていないことが長年問題となっていた.そこで,長浜溶岩の実態を明らかにするために,長浜溶岩上の海抜約60 m地点でボーリング掘削を実施した.この掘削は北海道大学と共同で2018年1〜12月に行われ,306.6 mの掘削試料を得ることに成功した.このコアの解析の結果,長浜溶岩は深度11-190 m(水深130 mに相当)に存在し,その直下の深度190-230 mには貝殻を含む粗粒砂質層を主体とした海成の地層が存在することがわかった.さらに下位(230m以深)には斜長石斑晶に富む複数枚の安山岩質溶岩が存在する.長浜溶岩直下の砂層に含まれる複数の貝殻の 14C年代測定を行ったところ,7000〜8300 calBPの年代値が得られた.これにより,長浜溶岩の活動が鬼界アカホヤ噴火に先行する活動であったことがはじめて地質学的・年代学的に明らかになった.長浜溶岩とアカホヤ噴火の岩石学的関係,大規模噴火に先行する溶岩流活動の役割など,巨大噴火を起こしたマグマシステムとその進化について研究を進めている.

3.6.7 新たな観測手法の開発

(1)火山の空振モニタリング手法の開発

 火山噴火に伴う空振の波形や振幅を正確に計測するため,新しい空振計を開発している企業や工学系の研究者らと協力し,小型・低消費電力マイクロフォンやMEMSセンサー,高精度気圧計の比較試験および火山地域における長期評価試験を行い,必要な改良を進めた.また,より効率のよい空振アレイ観測の方法として,従来のアレイ観測よりも一桁空間スケールの小さい,10メートルサイズの3要素アレイの開発を行い,さらに,地上2~4m程度の高さに1要素加えることによって,方位角だけでなく仰角の分解能が向上させられることを示した.山体の大きな火山の効率的な空振モニタリングのため,複数の観測点において,それぞれ2台のセンサーを数m離して設置する手法を試みた.ネバドデルルイス火山(コロンビア)では,山頂火口から数km離れた3つの観測点で得られた2年間のデータを解析し,微噴火に伴う微弱な空振の検出効率を調べた.また,冬季の富士山でも3つの観測点で運用をし,雪崩によるものと思われる空振を検出した.いずれにおいても,単独のセンサーを分散させた観測よりも,検出効率が飛躍的に向上することを示した.

(2)無人ヘリやドローンを活用した火口近傍観測システムの開発と応用

 活動的な火山において,観測者を危険にさらすことなく火口周辺での様々な観測を実施することを目的として,2008年から無人ヘリを用いた火口近傍観測システムの開発を進めている.汎用の無線ラジコンヘリを火山観測に利用するため,様々な火山での飛行実績を積むとともに,観測に必要な様々な周辺機器,静止画・動画撮影用の機器を搭載するための専用雲台,地震計やGPS観測装置をヘリから降下設置するウインチ,無人ヘリ設置用の地震計モジュール,GPSモジュールなどの開発を進めてきた.口之永良部島では2015年4月に火口近傍の4箇所に地震計を設置した.この地震計は2015年5月の噴火で失われたが2015年9月に再度5点を設置した.観測データから2015年5月29日の噴火に先行して火口近傍で地震が急増していたこと,単色地震も増加していたことがわかった.また,可視画像・熱映像・電磁気・ガス等の多項目データから,活動の大きな変化も捉えられた.火口に接近して得られたガスの分析により脱ガス時の見かけ平衡温度も推定された.2016年6月には,火口から1.5km内が警戒範囲となっている西之島において,気象庁と共同で無人ヘリ(船上より離発着および制御)により活動・噴出物の観察および岩石試料の採取を行った.また,2009年から2017年にかけて,桜島山頂付近に地震計およびGPS受信機を設置した.桜島山頂の地震計は2021年2月末時点も稼働を続けている.

 無人ヘリコプターによる空中磁気測量も精力的に行っている.2011年霧島新燃岳噴火後の山体の帯磁状態の変化を把握するため,2011年5月,11月,2013年11月,2014年10月,2015年11月,2017年11月,2018年11月の計7回,新燃岳およびその西側,およそ3㎞四方の領域において,繰り返し空中磁気測量を実施した.測線間隔および対地高度はおおよそ100mで一定として測定フライトを実施した.プログラムした航路に沿って正確に測定飛行できることは繰り返し測量にとって大きな利点である.解析の結果,新燃岳火口内の溶岩は平均として4.0 A/m帯磁したと想定すると観測された全磁力データをよく説明することが判り,火口に蓄積された溶岩が熱拡散過程で順調に冷却している様子を明確にとらえることに成功した.また,三宅島においては,今後の火山活動を把握するための基礎資料とするために無人ヘリを用いた詳細な空中磁気測量を2014年5月と2016年11月に実施し,2017年度に解析を進めた結果,山体北側で負,南側で正の変化を検出した.その後,2019年6月にも実施している.2018年1月 に噴火した草津白根山・本白根山においても無人ヘリによる空中磁気測量を実施し,過去有人機により得られたデータとの比較解析を進めている.

 電動モーターを動力源とするいわゆる「ドローン」の性能が近年大幅に向上し,火山観測において活用できるレベルに達しつつある.火山センターではドローンを活用した火山観測も進めている.新燃岳においては,ドローンによる火口内への接近撮影を実施し,西之島においては船上から飛ばしたドローンによる画像撮影と試料採取を実施した.霧島山・硫黄山ではドローンによる繰り返し空中磁気測量の活用実験を開始し,2019年に複数回の測定を実施した.その結果,無人ヘリよりも低廉かつ機動的に観測を実施できることが確認できた.これを受けて,三宅島においてもドローンによる空中磁気測量を試みている.無人ヘリは広域をカバーする測量に適しているが,経費や機動性にやや問題がある.一方,電動ドローンの飛行性能は年々向上しており,観測対象によっては無人ヘリに置き換える観測手段となり得る.今後は,観測対象に応じて両者を使い分けることになろう.

(3)衛星技術を活用した火山活動の把握

 ひまわり8号とJAXAのしきさい(GCOM-C/SGLI)の赤外画像を用いてアジア太平洋域の主要活火山のリアルタイム観測を行うと共に,これを基盤データとし各種高分解能画像・現地観測データ等を組合せ,噴火推移・噴火プロセス解明に関する研究を進めている.この一環として,高頻度観測が可能なひまわり8号の熱異常データを用いた噴出率推定方法の開発を行った.ひまわり8号の1.6-㎛画像での熱異常と噴出率の関係を検討し,両者の間に高い相関関係があり,この回帰式が,Y = 0.47 X(Y:噴出率 106 m3 day-1 ,X:輝度値 106 W m-2 sr-1 m-1 )と求められることを示した.この式を用いて,西之島2019-2020年噴火初期の噴出率を推定し,この時の噴出率は2013-2015年西之島噴火における平均噴出率より2-3倍高かったことを明らかにした.一方,しきさいのSGLI画像は分解能が250 mと比較的高く,溶岩流の拡大や火砕流の発生等,噴火状況の変化を高頻度で捉えることができる.このSGLI画像により,カムチャッカ半島に位置するシベルチ火山の2019年噴火の観測を行い,溶岩ドームの成長率が低い状態から急上昇する時,火砕流が発生していることを見出した.また,ジャワ島東端部にあるイジェン火山の火口湖の観測を行い,2019年5月中旬から6月にかけて湖水温が最高38℃まで上昇し,火山下のマグマあるいは熱水活動が活発化した可能性を示した.

3.6.1 火山噴火予知研究センターの活動の概要

 火山センターでは,火山やその深部で進行する現象の素過程や基本原理を解き明かし火山噴火予知の基礎を築くことを目指して,火山や噴火に関連した諸現象の研究を行っている.その基本的な研究方針は地震研究所の2009年サイエンスプランで掲げられた「火山活動の統合的解明と噴火予測」および科学技術学術審議会による2019年1月に出された「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)の推進について(建議)」に基づいている.

 本センターは2004年度に「火山観測の将来構想」を作成し,その中で主たる観測対象とする火山を3つに分類し,a)観測網を強化し研究成果を上げるべき火山として,浅間山,伊豆大島の2火山を,b)研究成果が短期的には大きく望めないが,将来のために観測を継続・改良すべき火山として,三宅島・富士山・霧島山の3火山を,c)他機関が既に観測網を整備している等の理由で基本的には撤退する火山として草津白根山を挙げた.全国の火山噴火予知研究コミュニティーで了解を得つつ,この構想に基づいて順次更新・整備を進めてきた結果,浅間山・伊豆大島では多項目観測網の強化が進み,霧島山では広帯域地震観測網を火山体に集中することができた.富士山の観測は着実に継続しており,三宅島については次の噴火に備えた観測網の強化が進む.また草津白根山については撤退を完了した.2010年度以降は,観測所等の施設は観測開発基盤センターに移管されたが,同センターの火山担当教員との協力・共同の元に研究方針に沿った整備を進めている.
 観測網の強化・整備は一段落したと言えるが,観測を担うことのできる人材が急速に減少しつつあり,現状の観測網をこれまでどおりに維持することは相当な困難を伴う.これは地震研に限らず全国的な傾向であり,国内の火山観測における大学の役割を見直す時期が来ていると考えられる.伊豆大島や三宅島等次の噴火が切迫する火山を念頭に置きつつ,新たな火山観測研究の将来構想を早急にまとめる必要がある.

 本センターの観測研究の対象となっている主たる火山の近年の活動は以下のとおりである.浅間山では2004年の活発な活動以降に大きな活動は無く,2008年,2009年,2015年,2019年に弱い噴火が発生したのみである.しかしながら,2019年8月に発生した小噴火は活動度が極めて低い状態で発生したものであり,気象庁の噴火警戒レベルは1であった.この不意打ちともいえる噴火は観測を継続する上で安全管理の問題に影響を及ぼしている.伊豆大島は顕著な活動は無いものの,マグマ蓄積を示す基線長の伸びは継続している.富士山では目立った活動は無い.霧島山・新燃岳では2011年1月26日に約300年ぶりの本格的な準プリニー式噴火が発生し,それ以降は活発な活動が継続している.新燃岳は2017年10月に再噴火し,翌2018年3月には山頂火口から溶岩が北西に流れ下った.爆発的な噴火活動 は2018年6月まで続き,山頂火口を埋めた溶岩や西斜面の噴気孔からは今も噴気が立ち上る.霧島山・硫黄山では2018年4月に小規模な水蒸気噴火が発生し,噴気活動は消長を繰り返しつつ2020年中も続いている.口永良部島では2015年5月に全島避難となる噴火が発生し,その後2017年,2018年,2019年にも爆発的噴火が散発的に発生している.草津白根山・本白根山では2018年1月に小規模な水蒸気噴火が発生した.伊豆・小笠原諸島の西之島で2013年11月から始まった噴火は,周辺の浅海を溶岩で埋め立て新しい火山島を作り出し,約2年の活動後一旦終息したが,2017年4月と2018年8月に再度活発化し流出した溶岩により西方と南方への拡大が進んだ.2019年12月には再度溶岩流出が始まり,2020年8月まで続いた活動により旧島部分は完全に埋まり,面積が大幅に増加した.

 本センターでは主たる観測対象火山以外についても様々な観測研究を行っており,新たな火山活動があれば国内外を問わず観測あるいは調査研究を実施している.また,実験・理論,シミュレーション,地質学,物質科学的手法等に基づく火山の基礎研究も実施している.以下,火山毎および研究手法毎に,最近の主たる研究成果を紹介する.