CGOI」カテゴリーアーカイブ

3.11 Center for Geophysical Observation and Instrumentation

3.11.9 テレメータ室の活動

(1)テレメータシステムの運用管理

観測開発基盤センターの地震・火山観測網で,地震波形データをはじめとする,各種リアルタイム観測データの伝送および連続収録を行うテレメータシステムの運用管理を継続している.研究者が目的に応じて接続するセンサーの連続データを,途切れなく伝送し収集・提供するとともに,一部イベント収録処理も行う.伝送手段としては衛星通信(VSAT)や,ISDN・ADSL・光回線・無線LAN・モバイル通信等,最新の通信技術を取り入れた各種IP通信回線を利用している.管轄する観測点は地震・火山合わせて約200観測点である.特に衛星通信については,全国の大学の共同利用設備として,VSATシステムのハブ局を東京と長野の2か所で運用し,140局のVSATの維持管理を行い,地上回線の利用が困難な山間僻地や離島での機動的な観測研究に貢献している.観測点からフレッツ系およびモバイル系回線でデータをSINET5のデータセンタ(長野,松江)へ直接収集して直ちにJDXnetに乗せる,耐災害性の高いデータ伝送システムを運用継続し,2020年度末には,地震予知振興会等の観測点を含め合計240点に対応した。

(2)全国の大学を含む各機関とのデータ交換システムの運用管理

リアルタイム観測データの全国的な流通のため,各大学や地震火山情報センターと協力して,高速広域網新JGNとSINET5のそれぞれ L2VLANサービスや,フレッツ系回線等を利用し,全国の大学等を結ぶJDXnet(Japan Data eXchange network)を構築・運用管理している.また,地震観測に関係する全国の大学を代表して,東京大手町に防災科研が設置したTDX(Tokyo Data eXchange)を介した,気象庁・防災科研等他観測機関とのリアルタイムデータ交換の窓口の役割を果たしている.そのために,TDX,衛星通信ハブ局 等の拠点間を接続する延長約300kmの光ファイバー通信網を構築・運用管理している.これらの高速広域ネットワークにより,全国の研究者が様々な機関 の約2000観測点ものリアルタイム観測データを研究利用することが可能になっている。

(3)収集データの利用支援

テレメータシステムやデータ交換システムによって収集されたデータは,所内ネットワークやインターネットを通じて所内外の研究者に提供される.それ には収録済みデータのオンライン利用やオフライン利用(テープの再生等)とともに,インターネットやJDXnetを介したリアルタイム配信サービスも含まれる.これら所内外の共同利用ユーザーに対する技術的および手続き面での支援を行っている.また,これまでに蓄積されたすべての地震データをオンライン提供するため,地震予知研究センター・地震火山情報センターと協力して,記憶容量1.3 ペタバイトの長期間地震波形データ等解析システムを導入し,システム開発を継続した.地震波形データについては,地震研究所の保有する1989年からのデータ470TBが本システムに格納された

(4) 観測機材の全国共同利用への対応

地震観測用VSATシステムおよび地上テレメータ装置,データロガー等を地震研共同利用の手続きに従って,全国の大学の研究者に提供(貸し出し)しており,2020年1月24日現在の貸し出し数は741件である.

3.11.8 首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト:サブプロジェクト(b)「官民連携による超高密度地震動観測データの収集・整備」

2017年から「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」が開始された.このプロジェクトは,3つのサブプロジェクトからなり,その中のサブプロジェクト(b) 「官民連携による超高密度地震動観測データの収集・整備」の一部を地震研究所で担当している.これまでに解明を進めてきた首都圏の地震像の精緻化や都市の詳細な地震被害評価に資するものにするため,政府関係機関が保有する,首都圏に整備された稠密かつ高精度な地震観測網(MeSO-net)と全国規模の地震観測網(K-NET,Hi-net等)により得られるリアルタイムの観測データ,民間が保有する地震観測データを統合した超高密度地震動観測データを収集・整備することを目標としている.

具体的には,MeSO-net等で収集された高密度な地震観測データを利用して,首都圏の地震ハザード評価に資する首都圏中心部や伊豆地域における詳細な地下構造の提案,首都圏における過去~現在の地震像の解明,将来の大地震による揺れの予測手法の開発,統合された地震観測データを用いてノイズレベルの高い首都圏でも適用可能な自動震源決定手法の高度化,歴史地震による揺れの分布の再現,3 次元階層化地震活動予測モデルを開発等の研究を行っている.

 今年度は,これまでに得られた地震記録による読み取り値を用いて地震波速度異方性構造を推定し,首都圏下に沈み込むフィリピン海プレートの構造を明らかにした.等方性の地震波速度だけではなく,速度異方性の情報を加えたことで,プレート境界のみならず,沈み込むプレート内に関する詳細な特徴を得ることができた.その結果は,現在の地震活動と比較することができ,プレートの生成,変形,運動等の解明に大きな影響を与える.それは,今後発生すると考えられている首都圏の大地震の地震像を想定する際に,重要な要素の一つになる.

 大地震が発生した際の地震波による地表面の揺れは,必ずしも均質ではなく,地域によって異なっている.揺れは,地震波減衰構造や地盤特性等に大きく影響されるためであり,細かな地点ごとの情報があれば,そこから算出することが可能である.しかし,詳細な被害分布を推定するには,まだ地下構造の情報が足りない.そこで,これまでに観測された地震動を用いて,相対的な地点ごと揺れの特徴を求めた.その情報をもとにして,面震源(断層)を仮定した際の震度分布推定アルゴリズムのプロトタイプを開発した.

 大地震の発生は大きな被害をもたらすが,その頻度は高くなく,その情報は限られている.そのため,大地震の地震像やその被害状況を知るためには,過去に遡って古文書等から読み解く必要があり,これまでに多くの文献が収集されてきた.被害の記述から被害の程度を判定し,その分布から震源の位置や地震の規模等を知ることができた.ただ,その震度は,震源から同心円状に分布するわけではなく,地域による不均質がみられる.地下構造や地盤特性の影響と考えられるが,それを現在の地震の震度分布と比較するために,震度のデータベースを作成している.具体的には,古文書に書かれている被害地点を古地図の中から探し出し,位置を特定する.そして,その地点に地震計を設置し,現在の地震による揺れを観測する.古文書に記述されていない地点でも同時に観測することで,相対的な震度を推定することができ,震度分布の密度を高めることが可能になり,歴史地震の地震像を推定する際の重要な情報の一つとすることが期待される.

近年に発生した大地震の本震発生前後の地震活動を統計モデルで解析し,余震活動の収束性や本震に至る地震活動の特徴の解析を継続して行い,統計モデルの高度化をはかっている(例えば岐阜・長野県境の地震).

図3.11.2

fig3_11_2

四国西部における深部超低周波地震累積個数の経年変化.G1は豊後水道域,G2は愛媛県西部,G3は愛媛県中部に対応する.黒い矢印は豊後水道の長期的SSEの発生時期を表し,赤い直線は2004年4月–2009年12月および2014年7月–2017年3月の回帰直線を示す.回帰直線の傾きを比較すると,G1とG2で2014年後半以降超低周波地震の活動が静穏化していることがわかる(Baba et al. 2018).

図3.11.1

fig_3_11_1_a

fig_3_11_1_b

fig_3_11_1_c

 

1997年7月11日から2017年12月31日までの鋸山観測所における歪, 傾斜, 気圧, 雨量のデータ.2011年の東北地方太平洋沖地震の影響によるデータ欠測期間を破線で示した.

上段:歪三成分 (NS, EW, NE,いずれも伸びが正)と大気圧.

中段:傾斜二成分 (NS:N-down正,EW:E-down正).

下段:24時間降水量.

 

2012年4月11日に発生したスマトラ地震によって誘発された深部低周波微動.色付きの大きな丸が今回検出された誘発微動で,白抜きの小さな丸は以前の研究で検出されている誘発微動である.各波形はそれぞれの地域における表面波トランスバース成分記録及び水平動成分の2-8 Hzのバンドパスフィルター記録で,時刻ゼロがスマトラ地震の発震時を示す.小さい黄色の丸印は2003年から2012年までの西南日本に発生した深部低周波微動,橙色の星印は浅部超低周波地震である.

2012年4月11日に発生したスマトラ地震によって誘発された深部低周波微動.色付きの大きな丸が今回検出された誘発微動で,白抜きの小さな丸は以前の研究で検出されている誘発微動である.各波形はそれぞれの地域における表面波トランスバース成分記録及び水平動成分の2-8 Hzのバンドパスフィルター記録で,時刻ゼロがスマトラ地震の発震時を示す.小さい黄色の丸印は2003年から2012年までの西南日本に発生した深部低周波微動,橙色の星印は浅部超低周波地震である.

3.11.7 スロー地震学プロジェクト

 スロー地震とは,普通の地震に比べてゆっくりした断層すべり現象の総称であり, 2000年前後に日本全国に展開された地震・GNSS観測網によって発見され,その後,環太平洋の各沈み込み帯でも次々と見つかってきた.スロー地震は巨大地震震源域を取り囲むように分布し,両者間には何らかの相互作用の存在が期待されるため,スロー地震に対する理解を深めることは非常に重要である.そこで,スロー地震による低速変形と普通の地震つまり高速すべりとの関係性を含め,これらの地震現象を統一的に理解することを目指す目的で,科学研究費新学術領域研究「スロー地震学」プロジェクトが2016年より5年計画で開始した.このプロジェクトでは地震学・測地学だけではなく,地質学,物理学などのアプローチを結合し,スロー地震の発生様式,発生環境,発生原理の解明に向けて,6つの計画研究,A01「海陸機動的観測に基づくスロー地震発生様式の解明」,A02「測地観測によるスロー地震の物理像の解明」,B01「スロー地震発生領域周辺の地震学的・電磁気学的構造の解明」,B02「スロー地震の地質学的描像と摩擦・水理特性の解明」,C01「低速変形から高速すべりまでの地球科学的モデル構築」,C02「非平衡物理学に基づくスロー地震と通常の地震の統一的理解」において研究を進め,さらに,総括班と国際活動支援班を置いて,プロジェクト全体のマネジメントと国際的な研究推進活動を行なっている.地震研究所では,観測開発基盤センターの他,地震予知研究センター,地震火山情報センターなど複数の部署において横断的にプロジェクトを推進するとともに,東大大学院理学系研究科,神戸大学,筑波大学などを含む全国の多くの研究機関と共同で研究を実施している.

 観測開発基盤センターでは,超低周波地震の検出精度を向上させるため,四国西部・九州東部において既に設置されている広帯域地震計の観測継続を行ったとともに,紀伊半島や東海地方における広帯域地震計の設置等を進め,観測体制の強化を図っている.また,深部低周波微動の高速移動現象の新たなモード検出を目指し,4つの稠密な地震計アレイを四国西部の深部低周波微動発生域の直上に設置し,連続波形記録の取得を2019年から2020年にかけて実施した.各地震計アレイの口径は約1~2 ㎞で,60~100点の3成分短周期地震計から構成される.さらに,南海トラフ近傍で発生する浅部スロー地震を様々な帯域で捉えるため,日向灘において海底圧力計・地震計の観測を継続的に行なった.一方,四国西部域のGNSSデータを深部低周波微動活動を基準にして重合することで,短期的スロースリップイベントが発生している最中に固着域の下端部においても,わずかなすべりが起きていたことを見出した.固着域の中でスロースリップが確認されたという点が大変特徴的であり,短期的スロースリップイベントが起きる度に,固着域下端部でわずかにすべりが進行することで,固着域に対して応力が間欠的に載荷されていると考えられる.

3.11.6 強震動観測研究

(1)定常的な強震観測網の運用

伊豆・駿河湾地域や足柄平野などにおける高密度の強震観測網を中心とした観測研究を,強震計観測センターの時代から継続して行っており,近年リアルタイム化を進めている.伊豆駿河湾の観測網は東海地方での大規模地震発生を想定して,地域を代表する露岩上に設置されている.一方,足柄平野の観測網は表層地質による強震動への影響を評価することを主目的として1987年度に設置され,国際的なテストサイトとしても位置づけられている.定常的な強震観測網では,地盤特性の把握を目的としたボアホール観測に加え,地盤と建物の同時観測も実施している.

(2)他機関との共同強震観測

強震動の生成過程や,建物の挙動の調査研究等を目的とした強震観測を,信州大学・福井大学などの他大学・他機関と共同で実施している.これらの共同強震観測は,長野盆地や諏訪盆地にも展開されており,2014年長野県北部の地震などの記録が得られ,公開された.

(3)臨時強震観測の実施

開発された機動観測用強震計は,微動観測にも対応可能な増幅器を併せ持ち,共同利用の枠組みなどを通して機器の貸し出しが可能な体制を取っている. 2016年熊本地震後に震源域周辺において臨時強震観測を他機関と共同で行った他,拠点間連携研究による小田原地域や東京湾岸地域の共同観測に参加した.

(4) 強震観測データベースの公開

2007年度より,観測された強震動記録のアーカイブと公開を行うデータベースシステムの開発を進め,そのシステムを用いて1980年以降のデータ公開を開始し,以後,引き続き公開を行っている(https://smsd.eri.u-tokyo.ac.jp/smad/ ).また,1964年新潟地震の川岸町においてSMAC型強震計で観測されたデジタイズ記録を公開した他,1956年から1995年兵庫県南部地震までのSMAC型強震計記録の画像データを公開した.

3.11.5 新たな観測手法の研究

 地震・火山現象を理解するためには地下深部の観測が不可欠であるが,機器を設置できるのは地球全体の規模からすると地表に近いごく一部の領域にすぎない.そのため観測機器の精度の向上や観測範囲の拡大を目指して,レーザー干渉計などの光計測を用いた新たな観測機器の開発に取り組んでいる.レーザー干渉計は高精度・低ドリフトの変位センサーであり,地震・地殻変動観測機器へ組み込むことにより観測装置の高精度化や装置の小型化ができる.また光を用いた計測手法は,半導体素子では観測が難しい地下深部・惑星探査など極限環境での高精度観測を可能にする.

 (1) 長基線レーザー伸縮計による広帯域ひずみ観測

 レーザー伸縮計は地殻変動から数十Hz の地震波まで広いタイムスケールの地動を観測できる.岐阜県の神岡鉱山(東大宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設)の地下1000 m のサイトにおいて,独自開発した波長安定化レーザーを組み込んだ100 mレーザー伸縮計を用いて,世界最高感度のひずみ観測を継続している.これまでに,地球潮汐を利用した観測ひずみとregionalひずみ場の関係の定式化,間隙水圧と関連した季節変動ひずみの検出,地球自由振動の観測,遠地地震に伴うひずみステップを用いた測地学的な地震モーメントの推定などを行った.近地~遠地にわたる多様な規模の地震に伴うひずみステップが飽和せず取得され,レーザー干渉計の広帯域・広レンジ計測が実証された.この技術に基づき,神岡で進められている重力波望遠鏡建設計画(KAGRA)と連携し,1桁以上スケールアップした長さ1500mのレーザー伸縮計をKAGRAトンネル内に建設し,2016年8月から観測を行っている.100mレーザー伸縮計よりも高い分解能で地球潮汐やひずみステップが観測されており,regionalひずみ場と整合する季節変動もみられている.また,愛知県犬山観測所(名古屋大学,30m),静岡県天竜船明観測点(気象庁気象研究所,400m)に設置されている同様のレーザー伸縮計と同時観測を行い,共通イベントの検出や地震学と測地学にまたがるタイムスケールの現象の解析などを継続している.

 (2) 光ファイバーリンク方式の観測装置の開発

 レーザー干渉計の光源とセンサーを光ファイバーでつなぐことによりセンサー部を無電源化し,地下深部や惑星探査など極限環境(高温・極低温・高放射線など)で使用可能な高精度観測装置を構成できる.その一つとして,小型広帯域地震計の開発を行っている.この地震計は小型長周期振り子の変位検出部としてレーザー干渉計を使用し,光ファイバーでレーザー光を導入することにより耐環境性を高めている.試作機を用いたこれまでの性能評価では,広帯域地震計(STS1型) と同等の検出性能が確認され,干渉計部分は-50℃~ 340℃の温度範囲で動作できる.この原理の地震計を複数光ファイバーで接続し地下深部の地震観測網を構築することを検討している.

(3) 小型絶対重力計の開発研究

 絶対重力計は地殻変動や物質移動(マグマ移動・地下水の変動など)を観測する有効な手段である.火山観測など野外で機動的に使用でき,また複数の装置を使った観測網を構築できるような小型絶対重力計を開発している.小型で必要な精度が得られるように高精度なレーザー干渉信号の取得法や地面振動ノイズの補正機構を導入し,従来の市販装置の約2/3 のサイズの実証機を開発した.霧島火山観測所(宮崎県),蔵王観測所(宮城県,東北大)などで試験観測を行い,設計精度10-8m/s2が得られることを確認した.また,観測網を構築するために長距離伝送できる通信波長帯光源(波長1.5μm帯)を用いた動作試験を東北大・電気通信研究所と共同で実施し,従来の光源(波長633nm)の測定結果と一致し,光ファイバーによる光源の長距離伝送による精度劣化などは生じないことがわかった.火山帯などで複数の絶対重力計を光ファイバーで接続し,通信波長帯光源を用いた観測網を構成する手法開発を進めている.また,国立天文台江刺地球潮汐観測施設(岩手県) においては,東北地方太平洋沖地震後の重力変化を継続的に観測している.

 (4) 重力偏差計の海底・月惑星・小天体探査への応用

 地下構造を探査する方法として,広い空間スケールの重力場(重力加速度)をとらえる重力計に加え,その空間微分を測定する重力偏差計を併用することにより狭い範囲に局在化した鉱床などの密度異常のマッピングができる.海底鉱床の探査手法として,無定位振り子と光センサーを組み合わせた加速度計2台によって構成される重力偏差計を製作し,自律型無人潜水機(AUV) に重力計とともに搭載し,海中移動体上で探査を行ってきた.一方,月惑星や小天体などの天体の内部構造はいまだ十分な探査が行われておらず,着陸機あるいは周回機による観測で重力偏差計を用いれば従来の重力加速度の観測よりも高い分解能が得られることがモデル計算によって示されている.国立天文台および宇宙科学研究所(JAXA)と共同で小天体や月惑星表面などの内部構造探査を目指した重力偏差計の開発を進めており,光センサーを用いた小型重力加速度計を試作し,初期の動作性能を確認した.

 

 

3.11.4 電磁気的観測研究

(1)八ヶ岳地球電磁気観測所における基準観測

八ヶ岳地球電磁気観測所では東海・伊豆地方における地球電磁気連続観測の参照となる基準連続観測を継続した.毎月の地磁気絶対観測により地磁気3成分測定値の基線値を同定するとともに,毎月約2週間の,絶対観測室磁気儀台上の全磁力の繰り返し連続計測を実施し,観測所全磁力連続観測測定値との全磁力差を同定した.加えて毎月,地磁気絶対観測の際に絶対観測室内の水平48点,鉛直5層の計240点における全磁力値を計測して同室内の全磁力勾配を評価し,全磁力差や基線値の季節変化・経年変化との関連を調査するための基礎資料を作成した(ただし2021年度は4月,5月,2021年1月を欠測とした).これらの参照資料とするための気温・地温連続測定を継続して実施した.記録計室内での気温・気圧・湿度計測のオンライン化,局舎敷地内のwebカメラによる画像での敷地内の状態の定時監視,庁舎のwebカメラによる気象条件の常時監視による,無人観測所の保守を継続した.

気象庁及び同地磁気観測所による,草津火山における火山活動監視を目的とした全磁力観測値の参照値として,前日分のデータを毎日自動で送付する仕組みの運用を継続した.

(2)東海・伊豆地方における地球電磁気連続観測

東海地方の10観測点(清川,河津,富士宮,奥山,俵峰,相良,舟ヶ久保,春野,相良,小浜)における地球電磁気連続観測,伊豆地方の13観測点(網代,大崎,湯川,浮橋,奥野,菅引,新井,玖須美元和田,岡,手石島,与望島,川奈,池)における全磁力観測を継続するとともに,機器の保守を実施した.

(3)その他の地殻活動域における連続観測

(3-1)デジタルコンパスデータを用いた偏角変化連続観測の試み

2014年6月に開始した,浅間山に設置された4台のボアホール型傾斜計に内蔵されたデジタルコンパスが計測する偏角データ(毎秒値,分解能0.01度)の収録を継続した.

(3-2)沖縄県石垣島・西表島における地磁気連続観測

2014年度に全磁力観測を,2015年度に地磁気変化3成分観測を開始した石垣島,西表島における地磁気連続観測を継続した.

3.11.3 活動的火山における多項目観測研究

地震研究所では,文部科学省科学技術・学術審議会が5年ごとに関係大臣に建議する研究計画に基づき,火山噴火予測に関連する観測研究を全国の大学・研究機関と協力し,その中核となって実施している.この研究計画は,その前身の火山噴火予知計画から47年間,その内容を学術の進歩に合わせて変更しながら継続してきた.火山噴火は発生すると大きな被害をもたらすが,発生頻度が低いため,長期の観測データの蓄積が不可欠であり,この47年間のうち,特に最初の約20年間は火山観測網の充実が図られ,さらに研究者及び観測を支える技術職員が増員され,日本の火山学の進展に大きく貢献してきた.最新の研究計画は2019年1月に建議され,2019年4月より5年間実施予定の「災害の軽減に貢献する地震火山観測研究計画(第2次)」である.この計画は前計画に引き続き火山災害の軽減を目指して,観測,実験,理論の各手法を用いて火山現象の解明とその成果に基づく火山噴火予測に関する研究行なうことになっている.特に,今回は,2014年9月に発生した御嶽山噴火で多くの犠牲者が出たことを重視し,観光地となっていて登山客や観光客が火口近傍まで訪れる火山については,小規模な噴火であっても大きな災害を引き起こす火山噴火であるとして「高リスク小規模火山噴火」と位置づけ,地球物理学観測だけでなく,地球化学,地質学,史料研究を含めて包括的な研究を実施することを打ち出した.

当センターにおいては,長年継続して整備されてきた火山観測網やそれを支えるシステムの充実と維持を担っており,火山噴火予知研究センター等と協力し,観測に基づく火山噴火予測研究を実施している.火山噴火予測においては,噴火発生時の諸現象を精度良く捉えて噴火現象に関する新たな知見を得ることも重要であるが,場合によっては10年以上の準備段階を経て噴火に至るまでの火山内部のわずかな変化を捉え,その原因を科学的に解明することも極めて重要であり,それを火山噴火予測に活かすことが,火山噴火予測研究の重要な目的である.火山噴火前のさまざまな火山現象の解明を進めることによって,これまでの噴火前に起こった現象を狙って,その発見に大きく依存する経験による現在の火山噴火予測を,より普遍的な科学的な火山噴火予測に発展させることを目指している.そのためには精度の高い各種観測データを長期に安定して蓄積することが重要である.

本研究所では,これまでの「火山噴火予知計画」で観測網が整備された浅間山,伊豆大島,富士山,霧島山,三宅島の5火山を中心に長期的・継続的な観測を行っている.これらの火山においては,地震・地殻変動・全磁力変化・空振観測・熱映像・可視画像等の多項目の観測を行い,噴火に伴う諸現象,噴火前に起こる前兆現象を捉え,その物理・化学過程を明らかにする研究を実施している.また,この他の火山においても,他大学・機関との協力し様々な観測を実施している.ここではそれぞれの火山における観測の現状と観測研究の目的や意義について述べる.具体的な研究成果については,ここでは火山噴火予知研究センター及び地震火山噴火予知研究推進センターの報告との重複を避けて記述した.

(1)浅間山

浅間山では,広帯域地震,短周期地震, GNSS,傾斜,全磁力,空振,熱映像,可視画像の観測を行い,浅間火山観測所と小諸火山観測所を拠点として観測網の維持管理を行っている.観測データは,山頂付近では自前の無線LANによる中継あるいは光ファイバーを経て浅間火山観測所に集約され,本研究所までインターネット高速回線を用いて伝送されている.また,観測点の通信状況などに応じて 衛星回線や有線回線,携帯データ通信を利用したデータ転送も行われている.

2019年8月7日に極めて規模の小さな噴火が発生した.この噴火は,近年の2004年の中規模噴火,2009年と2015年の規模の小さな噴火とは異なり,これまで知られていた噴火に先行して現れる前兆現象は見られなかったと思われていた.2004年以降の噴火では,噴火前に浅間山西方深部にあるマグマ溜まりの増圧を示す地盤変動がGNSS観測等で捉えられ,深部からのマグマの供給が確認されている.また,噴火前には火口からの火山ガスの放出量が増加すると共に,マグマ溜まりから火口へ通じる火山ガスの流路のうち,浅部の隘路でガスの流入により膨張した後にガスの放出により収縮する際に発生する長周期の地震動(VLP)が観測されていた.VLPの発生頻度と火山活動は,大局的には比例しているが,細かく見ると若干の差異が見られる等のことが明らかになっていた.これらの観測されている地盤変動,VLPの活動,火山ガスの放出量などの観測事象と,次に起こる噴火の規模の関連を明らかにして,噴火の規模の予測に結び付く研究を進めることが,浅間山における観測研究の意義のひとつであると考えてきた.

しかし,2019年8月の噴火では,噴火前に地盤変動が見られず,当初,山頂直下での地震活動も噴火直前の数日間は極めて低調であると認識され,この噴火の発生機構について多くの疑問が投げかけられた.しかし,当所が火口の西側に設置している赤外カメラの解析から,噴火の約10日前の7月27日から火口底の温度が急激に低下し,それが噴火発生まで継続していたことがわかった.また,その間,火口直下浅部を震源とするBL型地震の発生頻度も低下していることが明らかになった.一方,火口直下を震源とするBH型地震をMatched Filter法で検出すると,7月末ごろから明らかに活動度が上昇していることがわかった.これらのことは,今回の噴火がこれまでのように深部からのマグマの供給により発生するものではなく,深部から火口に通じていた火山ガスの通路が一時的に閉塞して噴気が火口から放出されなくなり,閉塞した火道に蓄積した火山ガスが高圧になり,やがて新たな放出経路を作るために岩塊を吹き飛ばした現象であると考えられる.このことは浅間山が長期的には火山活動が低下している傾向にあることと整合する.このような噴火は他の火山でも,火山活動の終息期に見られる現象であると考えられており,今後はこのような噴火の予測にも有用な知見が得られた.

(2)伊豆大島

伊豆大島では,1986-87年の前回の噴火から33年以上が経過し,明治以降の平均噴火間隔が36~38年であることから,次の噴火が近いと予想され,現在は噴火に至る諸現象が地下で進行していると考えられている.噴火前に地下で起こる諸現象を捉え,それを理解することにより,噴火発生予測や次の発生する噴火様式や規模を予測することが重要である.現在,伊豆大島には24点(うち4点は広帯域地震計を併設)からなる地震観測網と14点からなるGNSS観測網によって地震及び地盤変動観測を行っている.これらの観測網は,従来の地震及び地盤変動観測機器が老朽化したため,2003~2004年に一気に更新したものである.この更新以降,約16年の期間にわたり精度の高い地震及び地盤変動の観測データを蓄積してきたが,近年これらの機器の老朽化が再び目立つようになってきた.そのため,最新の観測機器に更新する作業を2018年度から実施している.また,電磁気的観測では,プロトン磁力計による全磁力の連続観測に加え,能動的な比抵抗構造探査手法の一つである ACTIVE観測や長基線の電位差を計測するネットワークMT観測を実施している.これらの各観測のデータは,色々な手段を用いて地震研究所に集約されている.通信会社による有線データ伝送サービスのある観測点では高速で信頼性の高い光回線網を,有線回線サービスのない観測点では4G携帯電話回線網を用い,双方が利用できない観測点では自前で無線LAN装置を設置してデータ伝送を行っている.有線回線網ほど安定的なデータ伝送が行われない携帯電話回線網を利用した観測点では,自動的に最適速度でのデータ送信や再送を行うACTプロトコル(当研究所で開発)を用いて,人手をかけず安定的なテータ収集を行っている.

科学的な記録が残っている伊豆大島のこれまでの噴火では,他の火山と異なり噴火初期(発生時)には,火山性微動は発生するが明瞭な地震活動の高まりが見られないとされている.これは,伊豆大島のマグマが低粘性の玄武岩に富むものであるため,マグマに含まれる火山性ガスが噴火前から効率的にマグマから放出され,噴火初期には比較的爆発性の低い噴火様式になると考えられる.実際,前回の噴火ではマグマに先行してそこに含まれる高温の火山ガス等の揮発性成分が地下浅部に上昇し,地中の温度上昇による熱消磁,地下の電気伝導度の変化が噴火に前に起こり,その後,火山性微動が発生してその振幅が大きくなったのち,マグマが火口に満たされる山頂噴火に至ったと考えられる.その間,顕著な地震活動の増加は見られなかった.そのため,伊豆大島では来るべき噴火活動に備えて,山頂火口周辺での広帯域地震観測網の増強,土壌火山ガス連続観測,空振観測網の整備も検討されている.このうち,土壌火山ガス連続観測装置は2018年9月に三原山の火口近傍に,理学研究科火山化学研究施設と共同で設置した.マグマに先行して上昇してくる揮発性成分(火山ガス)を捉える新たな観測装置を設置する目的で,カルデラ内にある三原西観測点の深度1000m井戸の再利用を試みたが,現存の老朽化して故障している観測機器を引き上げが困難を極め,今は作業を中断している.

次回の噴火の発生初期も前回と同様な経過をたどる可能性が高いと考えられるが,現時点では熱消磁や火山性微動の発生は観測されておらず,噴火が切迫している証拠は見つかっていない.しかし,約17年の精度の高い地震及び地盤変動の観測データを併せて解析することにより,上記のような現象が発現する前段階と考えられる以下の現象が発生していることを見出した.

伊豆大島では,1~3年周期で山体の膨張と収縮が繰り返しつつも,長期的にはマグマ蓄積に起因する山体膨張が進んでいる.また,山頂直下及び山体から少し離れた島の沿岸部周辺で多数の火山性地震が発生している.この火山性地震の活動度とマグマ蓄積による地盤変動にきわめて良い相関があることが分かった.特に,カルデラ直下の浅部で発生する火山性地震は,山体膨張の際に活動度が高まり,山体収縮時に低下する.この現象は,山体膨張によって地下浅部では張力場が卓越し,既存地震断層での法線応力が低下することにより,地震が発生しやすくなると考えられる.観測された地震活動度は,地震活動の研究で良く用いられるモデル(速度状態依存測)で非常によく説明できる.伊豆大島はフィリピン海プレートの北端近くに位置し,相模トラフにも近いことから,大きなテクトニック応力が作用しているため,地震活動度と地殻変動との相関が現れやすいと考えられる.2011年以降は地盤変動の大きさと比較して地震活動度が高い状態が続いている.更に,2013年以降は,カルデラ直下の浅部で発生する地震の活動度が潮汐と統計学的に有意に相関を持つことが明らかになってきた.具体的には,震源域で潮汐応力が伸張場になる時に地震が相対的に多く発生することが明らかになった.これらの原因として考えられる仮説として,震源域での間隙圧の上昇により地震活動度が上昇したことが挙げられる.マグマの上昇に先行して,マグマ溜まりから揮発性成分が上昇し,それが震源域に達することにより間隙圧が増加すれば,地震活動は全体として相対的に活発になる.同時に潮汐との相関が良くなる.更に,この時期に,地震の規模別頻度分布(G-R則のb値)も一時的に上昇したことが明らかになった.このような地震活動度の時間変化が,近い将来に全磁力観測による熱消磁や電気伝導度の変化としても現われ,最終的に噴火に至ることになれば,上記の仮説は証明できたことになる.つまり,火山噴火予測の重要な鍵であるにもかかわらず,これまでその検出方法がなかったマグマ中の揮発性成分の上昇が火山性地震の活動度の変化と地盤変動を統合解析することによって推定できる可能性があることを実証できる.これは,火山性地震と言う最も重要な噴火前兆現象の科学的な理解の発展をもたらし,より科学的な火山噴火予測に一歩近づけるツールのひとつになると期待できる.

(3)富士山

富士山では10点からなる常設の地震観測網を主体とした地震活動観測を行っている.この内5点は地表設置型広帯域地震計,3点はボアホール型広帯域地震計である.ボアホール観測点には3成分歪計,高感度温度計,傾斜計も設置されている.また全磁力観測も継続している.他の火山同様,富士山に於いても観測点の条件に応じて様々な伝送方式が用いられている.

富士山は,三宅島や伊豆大島に比べて噴火間隔が長く,1707年の宝永噴火以降,噴火していない.しかしながら,2000年10~12月及び2001年4~5月に深部低周波地震が多発し,火山活動の活発化が懸念された.深部低周波地震は,火山活動の活発化に先行して発生する例が多いが,その発生機構については未だ解明されていない.そのため,広帯域地震計を主体として,長周期振動を捉えることに重点を置いて観測を行っている.残念ながら,2001年以降,深部低周波地震の活発化は見られない.今後の発生と,その後の火山活動の変化を見据えて,観測を継続している.

(4)霧島山

2011年1月に霧島・新燃岳で爆発的な噴火が発生し,その活動の詳細を明らかにするため霧島山周辺の観測点が強化された.2017年10月には,再び新燃岳が噴火したのに続き,2018年4月には霧島・硫黄山で水蒸気噴火が発生した.このように霧島山では火山活動が活発な状態を維持して現在に至っている.地震研究所は新燃岳周辺を含む広域で地震観測,GNSS観測,全磁力観測,空振観測を行っている.これらの観測は,火山噴火予知研究センター・鹿児島大学などの他大学と協力して進めている.

GNSSによる観測から2011年1月の噴火に先立ち2009年12月頃から新燃岳南西数㎞,深さ約8㎞にあると推定されているマグマ溜まり(以下,深部マグマ溜まり)に徐々にマグマが蓄積したことが明らかになった.噴火時にマグマの噴出により一挙にマグマ溜まりが収縮し,その後は2011年10~11月頃までマグマの蓄積が続き,一旦停止した.これに呼応して,新燃岳の活動は一旦休止している.以下に述べるように,この深部マグマ溜まりの膨張は,霧島山全体の大局的な活動の重要な指標となっていることが明らかになってきた.

2013年8月から2014年10月まで,再度深部マグマが膨張し,その後,停止した.それに呼応するかのように,2014年8月以降えびの高原の硫黄山から韓国岳に掛けて地震活動が活発化し,火山性微動の発生とそれ同期する傾斜変動も観測された.これらは硫黄山付近での水蒸気噴火の発生する可能性を示すことから,震源決定精度向上のため,震源域のほぼ直上に当たる韓国岳山頂に広帯域地震観測点を新設して観測を開始した.その後,この地域の活動は一旦低下したが,2015年8月頃より,硫黄山周辺で傾斜変動を伴う火山性微動が度々発生するようになり,2016年1月には顕著な地表高温域の拡大,噴気の増大が見られるようになった.地元の山岳ガイドと協力し,噴気温度を測定する態勢を作り,測定を継続している.この活動は,2017年9月以降一旦は低下したが,2018年3月初旬に霧島山・新燃岳が3度爆発的な噴火を開始した直後から,活動的になり,2018年4月19日に硫黄山に隣接するえびの高原で水蒸気噴火が発生した.

2017年7月からは深部マグマ溜まりが3度膨張を始め,火山活動の活発化が懸念されていたところ,10月11日に新燃岳で小規模な噴火が発生した.噴火に先立ち傾斜変動を伴う低周波の微動が観測されたほか,噴火中にBanded Tremor, Gliding Tremor, Chugging Event等色々な火山性微動が火口近傍の複数の広帯域地震観測点で観測された.この活動は約1ヶ月程度継続し,一旦活動が低下した.2018年3月1日から3度目の噴火活動が再開し,3月8日には爆発的な噴火に移行し,1週間程度活動が継続した.これも現在は小康状態になっている.

霧島山では,深部マグマだまりの膨張が引き金になって,新燃岳のマグマ噴火,硫黄山の水蒸気噴火を引き起こしていることが,最近の10年余りの観測から明らかになってきた.新燃岳の噴火と硫黄山の熱水活動や水蒸気噴火は,いずれも同じマグマ溜まりにマグマが供給された後に発生しており,共通のマグマの供給システムで駆動されていると推定される.即ち,霧島山は多くの火口を有する山容が示すように複雑なマグマや高温の火山ガス供給システムが地下に存在すると考えられ,新燃岳の噴火及び硫黄山付近での熱水活動や水蒸気噴火は,一連の火山活動として捉えられる.霧島山の一連の活動は噴火現象の推移の複雑さを理解する上で大変興味深い事例と言える.今後も観測を継続し,噴火活動の推移の理解につながる研究を目指す必要がある.

(5)三宅島

三宅島では,2000年噴火後は2010年頃まで山体収縮が続いていたが,それ以降山体膨張に転じた.これは,次の噴火に向けて,マグマ溜まりでのマグマの蓄積が再開したことを示している.また,2000年以前はそれほど地震活動が活発でなかったが,噴火後,大きく崩落した火口南側直下浅部を震源とする地震が非常に多く発生している.しかも,その活動度は季節により大きく変動していることが明らかになった.

2000年噴火直後と最近の地下の比抵抗構造の時間変化を研究するために,中腹の周回道路内側全域にわたって2012年にMT観測を実施した.これは,地下の温度変化,地下水の回復過程に着目して,今後の火山活動を評価し,その推移を解明するための基礎となるデータである.同様のMT観測を2019年にも実施し,地下比抵抗構造の時間変化を見出す研究を進めている.また,無人ヘリコプターにより,中腹の周回道路内側全域と火口周辺において空中磁気測定を2014年5月と2016年11月に実施した.その差から,火口直下では帯磁傾向が続いており,地下浅部では前回2000年噴火から地温の低下が継続していると推定される.今後も,定期的にこのような観測を繰り返し,時間推移を捉えることが重要である.

三宅島では近年の噴火周期が20年程度であることから,次回の噴火が遠くないと思われる.このような火山における噴火前後で発生するマグマや地下水の移動とそれに起因する諸現象を捉えることが,火山噴火現象の解明と噴火予測に重要であることから,文部科学省委託事業「次世代火山研究推進事業」の課題B「先端的な火山観測技術の開発」サブテーマ4「火山内部構造・状態把握技術の開発」で,他機関の観測点が少ない火口近傍に広帯域地震観測点を3点,GNSS観測点を2点設置して観測能力の向上をはかった.また,この観測点の増設により火口直下の浅部で地震活動が活発であることが判ったので,2019年5月から雄山の火口縁に2点,雄山南方の中腹に1点,短周期地震計による現地収録方式の臨時観測点を設置して地震活動を調査した.その結果,三宅島の最近の火山性地震の活動は,火山浅部の現在の噴気口の直下の限られた領域でBL型地震とBH型地震が発生し,それらは海抜下約1㎞の深さでそれ以浅はBL型,BH型が,それ以深はA型が発生しており,震源の分布がシャープに分かれていることが明らかになった.さらに,この境界がMT探査から判った比抵抗構造の明瞭な境界とほぼ一致していること,A型地震は現在の火口域だけでなく2000年噴火発生時に見られたダイク貫入域につながるように活動が続いていることも分かった.更に,他機関が三宅島に展開するGNSS観測点のデータを再解析すると,三宅島では上述もように2010年頃より山体膨張を繰り返しているが,特に2016年前半に急激な山体膨張が発生すると同時に,これまで少量ながら火口から噴出していた火山ガス(SO)が検出限界以下まで急激に減少した.これはこれまでマグマ溜まりから漏れ出てきた火山ガスが,マグマ溜まりと火口を結ぶ流路が閉塞したため,火山ガスの流出が止まり,それによってマグマ溜まりが増圧したと考えると現象をうまく説明できる.この増圧源は火口縁の南西約2㎞の深さ約5㎞と推定され,2000年噴火のダイク貫入域や先ほど述べたA型地震の震源が火口から南西側に延びる分布とも整合することがわかった.これは2000年噴火の際に大きな役割を果たしたマグマ溜まりが,現在まで活動を続け,最近になって火口への流路が閉塞したことを示唆している.次回の噴火が同じマグマ溜まりが活動して発生するかは大変興味がある問題で,これらの知見の積み重ねを経て,次回の噴火の予測や噴火現象の理解の深化を目指している.