CGOI」カテゴリーアーカイブ

3.11 Center for Geophysical Observation and Instrumentation

3.11.2 海域における観測研究

(1)災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画による海底観測

(1-1)平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震震源域の海底モニタリング観測

 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(以下東北沖地震)の発生時には,震源域の一部に,海底地震計が設置されており,本震発生直後から,海底地震計を追加設置し,余震観測を実施した.その結果,本震時に大きな滑りが推定されている本震震源付近では,本震直後から余震活動が低調であり,地震活動の様式が変化したことがわかった.その後2011年9月からは,主に長期観測型海底地震計を用いて,震源域における海底モニタリング観測を実施している.

 地震時の滑りが大きかった東北沖地震震源域本震付近における長期の地震モニタリング観測は,プレート間固着の変化などを把握するために重要である.そこで,2013 年9 月に,長期観測型海底地震計を宮城県・岩手県沖に展開し,モニタリング観測を2014年10月まで実施した.さらに,2015年5月には,震源域最北部の青森県沖に,長期観測型海底地震計を設置して,海底地震観測を2016年5月まで実施した.また,2014年10月から2016年10月まで,科学研究費助成事業「深海調査で迫るプレート境界浅部すべりの謎~その過去・現在」と連携して,広帯域海底地震計を含む小スパンアレイと長期観測型海底地震計による宮城県沖における海底モニタリング観測を実施した. 2016年10月からは,同科学研究費助成事業と連携して,小スパンアレイによる観測を福島県沖において開始した.福島県沖における観測では,新規開発した小型広帯域海底地震計を設置し,小スパンアレイと併せて,広域観測網も構築した.福島県沖の小スパンアレイと広域観測網は,2018年8月から11月までに複数の航海を用いて撤収した.2019年7月には科学研究費助成事業と連携して,北海道えりも岬沖に,小型広帯域地震計と長期観測型海底地震計を用いた小スパンアレイを設置して,地殻活動のモニタリングを開始し,2020年10月に観測を終了した.一方,長期観測型海底地震計による宮城県沖における海底モニタリング観測に関しては,長期にわたるモニタリングを目的として引き続き観測を実施しており,2020年10月には設置してある海底地震計の回収を行った.また,2020年10月は科学研究費助成事業とも連携して,岩手県沖において広帯域海底地震計を含む小スパンアレイと長期観測型海底地震計による海底モニタリング観測を開始した.なお,これらの観測研究は,北海道大学,東北大学,京都大学,鹿児島大学,千葉大学との共同研究である.

(1-2)南西諸島海溝北部における長期海底地震観測

 南西諸島海溝域では,島嶼が海溝軸から100~200 km 離れた島弧軸に沿って直線状に配列するのみであり,プレート境界付近の微小地震活動等の時間空間的変化の詳細な把握が難しい.本観測研究は,海域に長期観測型海底地震計を設置して,プレート境界3次元形状などを明らかにするとともに,活発な活動が確認されている短期的スロースリップイベントや超低周波地震の詳細を明らかにする.2020年7月に観測を行った長期観測型海底地震計を回収するとともに,予め準備した長期観測型海底地震計をトカラ列島東方海域に設置し観測網を構築して観測を実施している.なお,この観測研究は京都大学,鹿児島大学,長崎大学との共同研究である.

(1-3)ニュージーランド北島ヒクランギ沈み込み帯における海底観測

 ニュージーランド北島ヒクランギ沈み込み帯では,平均しておよそ2 年の周期でスロースリップが発生しており,このうち6 年程度の周期で規模の大きなイベントが起こっている.そこで,スロースリップおよびそれに付随する地震活動を把握することを目的に,2014年5月から2015年6月にかけて,海底地震計と海底精密圧力計を用いた観測を実施した.観測期間中に陸上の測地観測網から比較的大規模なスロースリップイベントが発生したことが確認されていたが,イベント発生時に海底に設置されていた海底精密圧力計の記録から,そのプレート境界面におけるすべりが部分的に海溝軸近傍まで達していることが,世界で初めて確認された.また,このスロースリップイベントが終了する時期から,決まった領域で微動の発生が始まり,さらに3週間ほど連続している可能性が示唆された.一方,通常の沈み込む海洋性地殻内での地震活動における発震機構の時間変化とスロースリップイベントとの対応関係から,平常時には横ずれ型の地震が発生しているが,スロースリップ発生直前には横ずれ型から逆断層型まで,多様な地震が発生していることを明らかにした.このことは,海洋性地殻内における間隙水圧の上昇が起こっていることが示唆され,スロースリップ発生直前のプレート境界面での有効法線応力の減少によってスロースリップが発生した可能性を明らかにした.なお,この観測研究は,東北大学,京都大学, UCSC(米国),LDEO(米国),University of Colorado at Boulder(米国)との共同研究である.2017年11月には,ヒクランギ沈み込み帯全域にわたる構造を調べるため,海底地震計を設置してエアガン発震を行い,良好な記録を得た.現在は取得されたデータの解析を行っており,地震波速度異方性も含めた地殻内構造の初期的結果を得た.なおこの調査研究は海洋研究開発機構,GNS Science(ニュージーランド),UTIG(米国),USC(米国),ICL(英国)との共同研究である.2019年10月には,1年前に設置した海底地震計を回収し,良好なデータが記録されていることを確認した.この観測期間には観測網直下で大規模なスロースリップ,またそれに伴う微動が発生した.この微動活動は2014年の活動に相似しており,スロースリップの終息時期から3週間ほど,沈み込んだ海山周辺域に限って連続して発生した.しかし活動の規模は2014年のものよりも遥かに大きく,その発生メカニズム解明に向け,活動の時空間分布について詳細に調査を進めている.2020年11月には,ヒクランギ沈み込み帯中部における,固着強度が大きく変化する遷移領域に,長期観測型海底地震計を設置して海域地震観測を開始した.

(1-4)宮崎県沖日向灘における長期海底地震地殻変動観測

 宮崎県沖日向灘では,活発な低周波微動活動が確認されている.深部スロースリップからの類推として,低周波微動の発生に併せて浅部スロースリップが発生していると予想されている.そこで,その存在が予想される浅部スロースリップイベントの海底観測による直接検出を目的として同海域において,広帯域海底地震計,長期観測型海底地震計および海底精密水圧計による観測を,科学研究費助成事業「スロー地震学」と連携して開始した.すべりの空間分布を推定するとともに,浅部微動や浅部超低周波地震の詳細な時空間発展や地球潮汐応答等の活動様式を明らかにし,これらの現象のスケーリングや相互関係性の評価を行うことなども目的である.2017年3月に広帯域海底地震水圧計,長期観測型海底水圧計,長期観測型海底地震計からなる観測網を日向灘に設置した.さらに,2018年3月に長期観測型海底地震計を用いて観測点間隔1 km程度の小スパンアレイを日向灘に設置した.2018年8月には日向灘における次期観測網の構築のために小型広帯域海底地震計,長期観測型水圧計,長期観測型海底地震計の設置を行った.長期観測型海底地震計小スパンアレイによる観測は2019年1月に終了した.また,2019年1月から2019年4月にかけて,複数の航海により,2017年3月に設置した広帯域海底地震水圧計,長期観測型海底水圧計,長期観測型海底地震計の回収および予め準備した小型広帯域海底地震計,長期観測型海底水圧計,長期観測型海底地震計の設置を行い,観測網の入れ替えを実施した.2020年9月に小型広帯域海底地震計,長期観測型海底水圧計,長期観測型海底地震計を回収した.また,2020年11月には,長期観測型海底地震の小スパンアレイを新規に設置して,観測を開始した.なお,この観測研究は,京都大学との共同研究である.

(1-5)東北日本弧横断構造探査実験

 日本列島の形成や海溝型地震の影響を考える上で,深部構造を精度よく求めることが必要であり,日本海溝外側から日本海までの領域について,リソスフェアとアセノスフェアの詳細な構造を求めることは重要である.日本海における地殻構造の不均質や日本海東縁の歪み集中帯の形成,2011年に発生した東北地方太平洋沖地震が長期に与える影響などを考える上で,有益な情報である.そのために,日本海から日本列島を横切り日本海溝に至る測線を設定し,測線上に長期観測型海底地震計を設置して,実体波トモグラフィー・レシーバー関数解析・表面波解析などから深部までの構造を求める.さらに,この測線上で大容量エアガンを用いて構造探査実験を行い,深部構造と上記の解析に必要な詳細な浅部構造の情報を得る.2019年8月に,この計画の一環として,宮城県沖に測線を設定し,長期観測型海底地震計を設置し長期観測を開始した.さらに,設置した長期観測型海底地震計,別計画で設置された日本列島上の高密度臨時地震観測点と日本海に設置された海底地震計に向けて,エアガン発震を行った.2020年は長期観測型海底地震計による地震観測を継続した.

(1-6)房総半島南部における長期海底地殻変動観測

房総沖スロースリップ領域において,海底における地殻変動を検出することを目的として,長期観測型海底水圧計による観測を実施している.2018年9月に,海底水圧計を設置して観測を行っているが,海底水圧計を2020年10月に追加で設置して観測を継続した.用いている海底水圧計は3年間以上の連続収録が可能である.また,設置されていた次世代広帯域地震傾斜計を2020年10月に回収した.これまでに回収した長期観測型海底水圧計のデータについて解析した結果,海底の上下変動が約1 cmの精度で観測できることが示された.2018年6月の房総沖スロースリップの活動期間を含むデータから,スロースリップに伴う約1~2 cmの上下変動が検出された.なお,この観測研究は,千葉大学との共同研究である.

(2)文部科学省委託事業による海底地震調査観測研究

(2-1)日本海地震・津波調査プロジェクト

 日本海沿岸地域において,津波・地震対策の基礎として,津波波高・強震動予測を実施する必要がある.そのため,2013年から開始された8ヶ年のプロジェクトにより構造調査などの調査観測が実施されている.その一環として,日本海下の深部構造を求めモデリングに貢献するために,広帯域海底地震計及び長期観測型海底地震計を用いた地震モニタリング観測を行っている.2020年は本プロジェクトによる海底地震観測を含めてこれまでの記録から大和海盆,大和碓,日本海盆のリソスフェア構造を求めるための解析を進めた.

(2-2)防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト

 南海トラフでは将来規模の大きな地震の発生が想定されている.そこで,南海トラフ地震の活動を把握・予測し社会を守る仕組みを構築し,地域への情報発信による減災への貢献をめざす委託研究プロジェクトが2020年から5カ年の計画で実施されている.このプロジェクトの一環として,南海トラフ西部の日向灘において,広帯域海底地震観測を計画している.2020年は年度内の観測開始をめざして小型広帯域海底地震計等の整備を実施した.なお,この観測研究は京都大学と連携して行っている.

(3)共同研究による海底観測研究

(3-1)南西諸島における広帯域地震計による低周波地震・微動モニタリング研究

 南西諸島域では島弧全体にわたって浅部プレート境界において低周波微動,超低周波地震,短期的スロースリップの活動が活発であることがわかってきた.これらの低周波イベントはプレートのカップリングと密接に関連していると考えられている.そこで,低周波イベント活動および微小地震を含む地震活動の正確な把握を目的として,南西諸島海溝域における海底地震観測を2015年から開始した.南西諸島域の大部分は海域となっており常設の地震観測点が少ないために,海底観測点を追加することにより効果的な地震観測網を構築できる.観測域には島嶼観測網から低周波イベントの発生が推定されている南西諸島海溝中部から北部とした.2015年1月から2016年8月まで広帯域海底地震計・長期観測型海底地震計を設置して南西諸島海溝中部において全体の活動を把握するための広域地震観測網を構築して観測を実施した.2016年8月から低周波イベント活動が活発な奄美大島東方海域に観測点間隔30 km程度の観測網を構築し観測を開始した.2017年8月には設置した海底地震計を回収し,北東に拡張した観測網を再度構築し,2019年4月に海底地震計を回収した.一方,2019年2月には観測を継続するために小型広帯域海底地震計による観測網を構築し,2020年1月まで観測を行った.これまでに回収されたデータには,低周波微動と超低周波地震が記録されており,解析を進めている.なお,本研究は,公益財団法人地震予知総合研究振興会,京都大学との共同研究である.

(3-2)メキシコ太平洋沿岸部ゲレロギャップにおける長期海底地震・圧力観測

 メキシコ太平洋沿岸部は,ココスプレートが北米プレートに沈み込んでおり,プレート境界型巨大地震が発生する.しかし,ゲレロ州の沖合(ゲレロギャップ)は,近年大きな地震の発生が見られない一方,スロースリップが4年程度の間隔で繰り返して発生していることが知られている.プレート間歪みをスロースリップのみで解消しているわけではなく,将来巨大地震発生の可能性があると考えられている.そこで,ゲレロギャップ下のプレート間固着を明らかにすることを目的として,同領域において海底地震地殻変動観測網を構築した.2017年11月に,長期観測型海底地震計および長期観測型海底圧力計を,メキシコ国立自治大学(UNAM)所属研究船El Pumaを用いて設置した.観測領域は,海溝沿いに約120 km,直行方向に約50 kmである.2018年は11月に同じく研究船El Pumaを用いて前年に設置した長期観測型海底地震計および長期観測型海底圧力計を回収し,新たに長期観測型海底地震計を設置して観測を継続した.2019年11月には同研究船により前年に設置した長期観測型海底地震計を回収し,新たに長期観測型海底地震計を設置して観測を継続した.2020年は海底観測を継続するとともに2019年に回収されたデータの解析を進めた.なお,本研究は,2016年度から開始された国際科学技術共同研究推進事業,地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「メキシコ沿岸部の巨大地震・津波災害の軽減に向けた総合的研究」の一環として,京都大学,東北大学,UNAM(メキシコ)との共同研究として行われた.

(3-3)沖縄トラフ北部における長期海底地震観測

 沖縄トラフと別府島原地溝帯の延長部が交わる男女海盆では2015年11月に発生した薩摩西方沖地震(M7.1)後に地震活動が活発化しているが,陸上の定常観測点データのみでは精度の高い震源分布を明らかにすることは難しい.そこで男女海盆において海底地震計を用いた観測を実施し,得られた観測データを用いた地震活動解析から詳細な地震活動を明らかにすることを目的として,長期海底地震観測を開始した.得られた地震活動データから日本列島周辺では余り存在していない伸長場でのテクトニクスを考察する.2019年8月に沖縄北部最北部である男女海盆に設置した長期観測型海底地震計を2020年7月に回収した.なお,この研究は科学研究費助成事業の一環として,東京海洋大学,京都大学,鹿児島大学と共同して実施している.

(3-4)南海トラフにおける高密度海底地震計アレイ観測

 西南日本沈み込み帯においては,室戸沖から熊野灘沖にかけて海底ケーブル地震観測網(DONET)が敷設されており,スロー地震の活動域と非活動域がトラフ軸に沿って明確に分かれていることが明らかとなっている.このスロー地震活動域/非活動域に対応する地下構造の要因を明らかにするため,ならびに,スロー地震の高精度な震源決定のため,当該海域において長期観測型海底地震計15台による自然地震観測を継続している.設置した海底地震計は,来年度に回収する計画である.また,DONETの地震記録を用いた,予察的な解析を進めている.本研究は京都大学,東北大学,神戸大学,海洋開発研究機構,九州大学との共同研究である.

(4)海底地震地殻変動観測システム開発およびデータ解析手法開発

(4-1)三陸沖に設置したICTを用いた光ケーブル式海底地震・津波観測システムの運用

 従来の光ケーブル海底地震・津波観測システムは,海底通信技術を用いた高信頼性システムであるが,コスト面や運用面に改善の余地がある.そのため,データ伝送とシステム制御にICTを用いたシステムを新たに開発し,その1号機を新潟県粟島近海に設置した.このシステムは,データ通信の冗長性を備え,より低コストで,小型・軽量であることが特徴である.2号機に関しては,既設の三陸沖光ケーブル海底地震・津波観測システムの更新システムとして開発・製作した.2号機は地震計と津波計を装備した観測点を2点,地震計と拡張ポートを装備した観測点を1点設置し全長は約110 kmである.拡張ポートはPoE I/Fを用いており,設置後無人探査機などにより,新たなセンサーを接続できる.観測装置は約30 kmまたは約40 kmの間隔であり,設置時には,拡張ポートにデジタル出力型高精度水圧計を接続した.2015年9月に岩手県釜石市沖へ2号機の設置を行った.システムの設置は通信用海底ケーブル設置に用いられている海底ケーブル敷設船を利用した.このシステムの設置により釜石市沖は三陸沖光ケーブル海底地震・津波観測既設システムと併せて,空間的に高密度なリアルタイム海底地震・津波観測網が構築された.2017年4月には,波浪の影響を受けやすい汀線部から沖側約30 mまでの区間のケーブルの保護対策とアース電極の沖合への設置作業を実施した.アースの強化としては沖合30 m程度にアース電極を設置しこれまでに利用していた汀線部アースと並列に接続した.その結果,給電電圧の変動はほぼ無くなり安定した運用ができるようになった.2018年9月には汀線部から沖合100 m程度までの状況の監視調査を行った.また,陸上部装置の保守を行った.沖合へのアース電極設置以降,給電電圧の変動はほぼ無く,安定した運用を行っている.

 2019年10月に台風19号の影響により釜石陸上局が停電となり発動発電機が起動し,給電が行われた.同日中に復電し,欠測とはならなかったが,局舎周辺に小規模な土砂災害が発生した.現在復旧に向けた作業を行っている.また,2019年11月落雷より陸上局舎内の給電装置に不具合が発生し観測不能となった.その後,給電装置の復旧により同年12月初めに観測を再開したが,設置以来の長期欠測となった.なお,再起動以降は連続観測を行っている.2020年9月には陸上局システムの整備としてサーバ機のメインテナンスなどを行い,また汀線部付近におけるケーブル敷設状況調査を実施した.

(4-2)小型広帯域海底地震計の開発

 長期観測型海底地震計は実用化以降多数の実績を持っており,繰り返し観測の手法によりモニタリング観測が可能となった.この長期観測型海底地震計の地震計センサーは,三成分高感度短周期速度計であり,その固有周波数は1 Hzである.通常の地震観測には十分な帯域であるが,近年着目されている浅部低周波微動や超低周波地震を観測するにはやや帯域が不足である.近年,小型で低消費電力である広帯域地震計が利用可能になってきた.そこで,Nanometrics社Trillium Compact Broadband Seismometerを長期観測型海底地震計に組み込むために,専用レベリング装置の開発を実施し,2017年に小型広帯域海底地震計の最初の観測を行った.小型広帯域海底地震計の開発は引き続き実施中であるが,2019年は主として固有周期120秒の地震計センサーを搭載した小型広帯域海底地震計の観測への利用を進めるともに台数の確保に努め,2020年には20台規模で観測に用いることができるようになった.海底での記録の蓄積から雑微動レベルについて上下動はセンサーの帯域において低いレベルであるが,水平動成分に関しては上下動成分よりも雑微動レベルが高いことが確認されつつある.雑微動レベルは地震観測としては低いレベルであり,超低周波地震,遠地地震,深発地震なども明瞭に記録されている.

(4-3)光ファイバー計測技術による海底ケーブルを用いた海底高密度地震観測システムの開発

 光ファイバセンシングの一つであり,振動を計測する分散型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing,以下DAS)は,近年様々な分野で応用され始めている.地震関係の分野では,石油探査のために構造調査に利用されており,地震観測にも適用され始めている.この計測は,光ファイバー末端からレーザー光のパルスを送出し,光ファイバー内の不均質から散乱光を計測し,その変化から,振動を検出する方法である.光ファイバーに沿って,時空間的に密な観測を実施できることが特長である.地震研究所が1996年に設置した三陸沖光ケーブル式海底地震・津波観測システムは,伝送路である海底ケーブルに予備の光ファイバーを持っている.この予備光ファイバーに,DAS計測を適用することによって,空間的に高密度の海底地震観測を実施できる可能性がある.2018年から,DAS計測技術を三陸沖光ケーブル式海底地震・津波観測システムの予備光ファイバーに適用する開発を開始し,2019年は2月,6月,11月の計3回計測を実施した.2月の計測では,測定長100 kmとして,チャンネル間隔5 mとして,合計約2日間実施した.その結果,計測装置を設置した陸上局から70 km程度まで,連続して地震波が記録されることを確認した.また,6月の計測では,空間的高密度計測として,測定長5 km,チャンネル間隔1 mとした.観測期間は約3日である.観測記録には多数の地震が記録されていた.11月の計測では,長期観測を念頭において,2週間弱の連続観測を行った.測定長は70 km,チャンネル間隔は5 mである.2020年11月にはエアガンとDAS計測による構造調査を実施した.エアガンの発震は海洋研究開発機構学術調査船白鳳丸KH20-11研究航海にて実施した.白鳳丸はエアガンを曳航しながら海底ケーブル敷設ルート上を航行し,この間陸上局においてDAS計測を行った.発震には大型エアガンアレイ,またはGIガンアレイを用いた.DAS計測は測定全長100 kmまたは80 km,チャンネル間隔5 mとして,エアガン発震時間帯を含む約5日間の連続観測を行った.現在データの解析中である.今後,定常観測に用いることをめざして,システム開発を引き続き実施する予定である.なお,本研究のデータ解析に関する研究の一部は株式会社富士通研究所との共同研究として行っている.

3.11.1 陸域における地震観測

(1)陸域地震観測

(1-1)広域的地震観測

関東・甲信越,紀伊半島,瀬戸内海内帯西部に展開している高感度地震計を用いた広域的地震観測網による観測,および伊東沖(故障中)と三陸沖に設置している光ケーブル式海底地震・津波観測システムを用いた海陸境界域の観測を継続し,地震活動と不均質構造との関係を明らかにする研究を進めてきた.

全国の国立大学や研究機関等によって観測されている地震波形データを収集し,本センターのデータと統合して処理している.これらのデータは,日本列島周辺で発生する地震に対して行った臨時観測データと合わせることによって高密度な観測網となり,より詳細な地震活動が明らかになった.

最近の技術の進展により,観測機器の小型化,省電力化が進み,大規模な観測局舎が必要なくなってきた.さらに伝送経路の光回線化等のため,各観測点の伝送装置の切り替えを進めている.その結果,全観測点に対して,不必要な大規模観測施設は撤去もしくは小型の機器収納ボックスに置き換える等の検討・作業を行っている.光化作業については、陸域の広域的観測網だけでなく火山等も含めると,対象回線数60のうち、2020年度までに40回線について工事完了あるいはモバイル化などで対応を行った.

(1-2)臨時集中観測

日本列島周辺で発生した顕著な地震に対して,それらの地震活動を把握するため,全国の国立大学や研究機関等と共に,臨時地震観測を行ってきた.2011年東北地方太平洋沖地震の発生後には各地で地震活動度が高まり,千葉県,茨城県,栃木県,福島県,長野県に臨時観測点を作り,リアルタイムで連続的にデータを収集している.特に,千葉県,茨城県では,太平洋沖で発生するスロー地震等の検出を目指し,広帯域地震計を設置し,観測を継続している.

(2)地殻変動観測

南関東・東海などにおいて歪・傾斜などの高精度センサーを用いた地殻変動連続観測を行うとともに,GEONET 等によるGNSS 観測結果と比較検討し,地震発生と地殻変動の関係に関する研究を行っている.観測は1970 年頃より長期にわたって継続観測を実施している油壺,鋸山,弥彦及び富士川の各地殻変動観測所における横坑式観測と,伊豆の群発地震発生地域や想定される南海トラフ地震発生地域などに設置された深い縦坑を用いたボアホールや横坑での観測によって実施されている.前者においては水管式傾斜計と水晶管伸縮計を中心とした観測方式を採用しており,後者においては,ボアホール地殻活動総合観測装置(歪3 成分,傾斜2 成分,温度,加速度3 成分,速度3 成分,ジャイロ方位計から構成されている)あるいは水管傾斜計を用いて観測を継続している.また,全国の地殻変動研究関係者が中心となってデータの公開を進めており,地震研からは鋸山と富士川の両観測所及び伊東,室戸のデータを提供した.なお,弥彦観測所は1967年より53年間にわたり観測を続けていたが,2020年度に閉所した.弥彦観測所の傾斜観測記録については地震研究所技術研究報告第26号(2021)に掲載される.

(3)茨城県北部・福島県南東部の地震活動と応力場の研究

2011年東北沖地震以降の活動が継続している茨城県北部・福島県南東部における稠密地震観測網(約60点から構成)の維持・整備を実施するとともに,それらのデータと周辺域の定常観測点のデータとの統合処理を行った.取得された連続波形記録に対して自動処理を施すことで地震活動の解明を行っている(地震予知研究センターの章参照).

(4)スロー地震モニタリング

西南日本等日本全国に発生するスロー地震のモニタリングを継続的に行っている.近年,ケーブル式海底地震観測システムの整備に伴って日本海溝付近や南海トラフ付近の低周波微動等のスロー地震活動が明らかになってきたが,陸域の広帯域地震観測網のデータを用い、北海道・東北地方太平洋沖、南海トラフ域浅部及び深部における超低周波地震活動の長期間にわたる時空間変化を捉えた.つまり,太平洋プレートやフィリピン海プレートの境界面の形状やプレート運動を仮定してプレート境界面の各グリッドにおいて計算された理論波形をテンプレートとして,防災科研F-netの連続波形データから超低周波地震を検出した.その結果,東北沖の浅部超低周波地震活動は2011年東北沖地震によって大きく影響を受け,東北沖地震の震源域では東北沖地震発生まで小規模な超低周波地震がエピソディックに起き,東北沖地震後は完全に静穏化したのに対して,震源域外側の余効すべり域では東北沖地震後に急激に活発化したことが明らかになった.これらの結果は,東北沖地震後のプレート間すべりの空間分布を反映していると考えられる(Baba et al., 2020a).一方,南海トラフ域の浅部と深部で検出された超低周波地震活動を比較すると,深部に比べて浅部の方が地震モーメント解放レートが大きく,またその空間的不均質性も大きい.また,浅部超低周波地震の活動度とプレート境界のカップリングの程度には負の相関があり,カップリングの弱い領域ほど活発に活動していることがわかった.さらに,流体が多く存在すると示唆される,地震波速度の遅い領域の周辺で超低周波地震活動が活発であることも明らかになった.流体が豊富な領域では,プレート境界の摩擦強度が低く,カップリングが弱いことが考えられる(Baba et al., 2020b).さらに、南海トラフにおける地震現象の正確なモニタリング実施にむけ、3次元地震波速度構造でのGreen関数データベースを構築し、それを利用したCMT解析手法を開発した。開発した手法を用いてF-net MTカタログを再解析したところ、海域の地震について深さやメカニズム解の推定を高精度化することに成功した。高精度に推定されたCMT解カタログとこれまでのスロー地震データベースのカタログ、プレート境界のすべり欠損速度を比較することで、南海トラフの通常の地震、スロー地震および固着域の棲み分けを明確に示した(Takemura et al., 2020a)。CMT解カタログは、オープンデータリポジトリであるZenodo(https://doi.org/10.5281/zenodo.3523582)で公開されており、740件以上ダウンロードされている。このような陸域観測網による長期的な解析が力を発揮する一方で、固着域の浅部側で発生する浅部微動をモニタリングするには海底地震観測網を用いる必要がある。しかし、DONETを含む海域観測網の観測波形は海洋堆積物(付加体)、海洋プレートや海底地形の影響を受け複雑化し、簡易的なモニタリング手法では限界がある。浅部微動の定量的モニタリングへ向け、紀伊半島南東沖に展開されたDONET1の観測記録と大規模地震波伝播シミュレーションを併用することで、観測波形に含まれる不均質構造の影響を調査した。プレート境界浅部で発生した微動から輻射された地震波は、直上の付加体による振幅の増幅と継続時間が増大し複雑化することを明らかにした(Takemura et al. 2020b)。

「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の研究課題「プレート境界すべり現象モニタリングに基づくプレート間カップリングの解明」において,九州東部から四国西部に合計6点における広帯域地震計臨時観測を継続し,不具合の見られる地震計の交換などを行った.さらに,科研費新学術領域研究「スロー地震学」において四国西部,紀伊半島,東海にそれぞれ6点,4点,4点の広帯域地震計を設置し,南海トラフ近傍で発生する浅部超低周波地震と内陸下で発生する深部超低周波地震の観測体制を強化した.さらに,深部超低周波地震の検出手法の改良を行い,検出限界マグニチュードを低下させ多数のイベント検出が可能となった.それに伴い,深部超低周波地震の活動様式が鮮明になりつつある.例えば,豊後水道では通常は約3か月間隔でエピソディックに発生する深部超低周波地震が,長期的スロースリップイベント継続期間中には1か月間隔,及びさらに短い間隔でバースト的活動が頻繁に発生することが分かった.

(5)古文書に記載された地点における稠密地震観測

地震計が発明される以前に発生した地震を調査するため,古文書等の記述をもとにしてその地点の被害状況を知り,その分布から震源地や地震規模の推定を行ってきた.しかし,揺れの強さは,震源からの距離だけに依存したものであるとは言えず,建物の強度,地盤特性,地下構造の違いによって不均質になり,被害の程度に違いが出ることが考えられる.そこで,古文書に書かれている地点を特定し,その地点に地震計を設置し,地震時の揺れを実測することにした.発生した地震による揺れを観測することで,その地点における揺れの特徴を客観的に知ることができる.その分布から,古文書に書かれている記述との比較が可能になり,記述の信頼性を検証することができる.

今年度は,1855年安政江戸地震を対象として研究を進めた.地震研究所から近い,谷中・根津・千駄木の地域には,江戸時代から続く建物や施設があり,過去の地震被害の記述が多く残されている.そこで,それらの記述から被害地点を特定し,地震計を設置することにした.2020年9月1日から現在(2021年3月)まで約半年間, 19か所で臨時観測を行っている.固有周期1秒の3成分一体型地震計を地表に設置し,単一乾電池32本で約2か月間稼働する収録装置でオフライン観測を行った.観測された地震波形は,観測点ごとに最大振幅や卓越周期に違いがみられ,振幅が2倍以上大きくなる地点もあった.この観測を行うことで,古文書等に記述のなかった地点での揺れも推定することが可能になると期待している.

(6)汎用的な利用が可能な稠密地震観測網の開発

場所ごとの不均質な揺れを知るために,多数の地震計を用いた地震観測システムの開発研究を行っている.その場所の揺れは,地盤構造や建築物等の違いによって異なり,被害に差が生じることが知られている.この差を考慮した耐震対策の優先順位や効果的な救援・復旧手段を講ずるためには,多くの地点で揺れを測って,あらかじめ揺れの特性を知っておく必要がある.そこで,小型軽量で設置が容易な安価な地震計を開発することを目的として,MEMSを利用した地震記録収録伝送装置を開発している.

昨年度は,近距離無線を利用して,データを伝送する仕組みを開発したが,今年度は,データを中継する機能を開発した.地震研究所だけでなく本郷キャンパス全体の21か所に観測範囲を広げた試験観測を行った.ここで利用している電波は,省電力を実現するため,微弱である(乾電池2個で1年間の連続稼働).そのため,地震研に設置した中央集約装置へ直接送ることはできない.そこで,となりの機器までデータを送り,そこからバケツリレー形式で,その隣の観測装置へ伝送する仕組みを構築し,最終的に中央集約装置へ届けられるようにした.実際に地震が発生し,それを検知すると,一定時間の記録を保存し,となりの観測機器へ送ることができた.今後は,もっと観測機器を増やしたときに自動的に最適なネットワークが組み上がり,迅速にデータの収集が可能なシステムを構築する予定である.

(7)地殻活動モニタリングシステム構築

地震活動や地震波観測記録を基にした地殻活動の現況のモニタリング,新たな地震学的な現象の発見・研究テーマの創出等,所内研究活動の更なる活性化を目的とした計算機システムを新たに構築した.本システムはリアルタイムで流通する高感度地震連続記録を長期間一元的に整理蓄積し,所内研究者に広くデータ利用可能な環境を提供している.さらに,連続あるいはイベント波形データに様々な自動解析処理を施した結果を閲覧可能なwebシステムを構築し,観測点毎の連続波形画像,深部低周波微動モニタリング用エンベロープ画像,広帯域マルチトレース,近地地震・遠地地震波形画像等の作成・閲覧に関する運用,新たなモニタリング手法の開発,所内公開を継続的に実施している.

3.11 観測開発基盤センター

教授新谷昌人,森田裕一,中井俊一(兼任),小原一成,酒井慎一(兼任),清水久芳(兼任),篠原雅尚
准教授平賀岳彦(兼任),三宅弘恵(兼任),望月公廣(兼任),中川茂樹(兼任),鶴岡 弘(兼任)
助教悪原 岳,蔵下英司(兼任),小河 勉,高森昭光(兼任),武村俊介,竹尾明子
特任研究員田中優作
学術支援専門職員渡邊倫子
技術補佐員安部恵子,藤田園美,五十嵐仁美,工藤佳菜子,二瓶陽子,長田志保
外来研究員野村麗子,大橋正健,高橋弘毅,山田知朗,吉開裕亮
大学院生馬場 慧(D2),前田拓也(M1),高野洋輝(M1)

観測開発基盤センターは,平成22年4月の地震研究所の改組に伴い,これまで地震予知研究センター,火山噴火予知研究センター,強震観測室,研究部門などに配置されていた教員の一部を観測,機器開発という視点で再編成して,研究所の持つ地震観測網,火山観測網,強震観測網,分析装置に大きく関連する研究分野や観測機器の開発を強化のために設置された.本センターは,全国にある本研究所の観測所等の観測拠点とテレメータ観測網を活用した観測研究を推進するとともに,その高度化に必要な観測機器,データ伝送・流通システムの研究開発を図り,地震・地殻変動・火山・電磁気現象に関する広範な観測研究を進めている.地震や火山など地球で起こる現象を解明する研究は,自然界で起こることに疑問を持ち,それを解明するために現象を正確に捉えることが出発点であり,戦略的な観測と新たな観測システムや解析手法の開発を通して,新たな視点から地球を捉える姿勢が不可欠である.このような観測研究と技術開発を併せて推進していることが本センターの大きな特徴である.

 本センターでは地震・火山・強震・電磁気・地殻変動の観測網を維持・保守するとともに,地震・火山観測機器,強震観測機器,地球電磁気観測機器及び分析装置の維持・管理・活用等の研究支援,観測機器開発をすることも行っている.そのため,本センターでは他の研究センターや研究部門と兼任して,両者の研究資源を用いて研究を進める教員が多い.ここでは,他のセンターの章での記載の重複を避け,このセンターが中心となり実施した内容を中心に記載した.