部門・センターの研究活動」カテゴリーアーカイブ

3.3.4 高温高圧実験装置を用いた地球内部の物質科学的研究

川井型マルチアンビル高温高圧発生装置やダイヤモンドアンビル高温高圧発生装置等を用いて,地球の進化や地球内部の物理化学的状態を明らかにするための研究を行っている.地球内部に水が多く存在する場合,温度圧力条件によってはマグマとともに水を主体とする流体とが共存しうる.高温高圧下ではマグマの中に大量の水が溶解し,同時に水を主体とする流体中にも大量のマグマ成分が溶解する.そして,ある臨界条件以上の高温高圧下では水を主体とする流体と含水マグマとは完全に混和して,1つの超臨界流体マグマとなる.我々は国内外の研究者と共同で,現在までにマントルや沈み込むプレート中に水がある場合のこの臨界温度圧力条件を実験的に決定し(図3.3.2),さらにはこの臨界条件近傍で共存する含水マグマと水を主体とする流体の両方の主成分元素化学組成を決めることに成功している.これらの結果から,これまで別々の条件で生成したと考えられてきた2種類のマグマが,実は同じ温度圧力下で同時に生成した可能性があることが明らかになりつつある.これらの研究に加え,高温高圧下での鉱物やマグマの弾性波速度測定実験や,電気伝導度測定実験なども行っている.

3.3.3 浅部マグマ活動に関する研究

浅部マグマ活動に関する研究では,マグマ活動の実体を明らかにすることを目標に,化学組成,含水量測定や組織観察を中心とした火山噴出物の解析を行なっている.マグマ中の含水量は火山噴火のポテンシャルとして重要であり,噴火に到る準備過程を理解する上でマグマ中の含水量変化を明らかにする意義は大きい.また,含水量を適切に評価することによって,斑晶鉱物やマグマの液組成を用いた熱力学的温度圧力計の精度向上も期待できる.斑晶の組成累帯構造や石基組織の観察からは,噴火に伴うマグマの運動についての情報が得られる.これらの情報を総合して,火山噴火の前駆現象の解明に取り組んでいる.

2020年度は火山噴火予知研究センター,山梨県富士山科学研究所,常葉大学,静岡大学,熊本大学,東北大学等との共同研究を実施し,西之島,諏訪之瀬島,伊豆大島,富士山,雲仙,阿蘇山,桜島など,いくつかの活動的火山について,噴火前のマグマの状態を調査した.また,受託研究「次世代火山研究推進プロジェクト」の一環として,火山噴出物の分析・解析プラットホームの構築を進めている.これは,膨大な量の火山噴出物を高精度かつ高効率に解析可能にするとともに,火山噴出物解析の自動化と分析結果のデータベース化によって,火山噴火の推移予測に資することを狙っている,このプラットホームを使って,富士山については,火山灰粒子の気泡形状,石基微斑晶の数や形状などの噴火を特徴付ける諸量を網羅的に収集して,マグマ供給系の時代変化についての検討を行なっている.最近4000年間の爆発的な噴火の噴出物の石基組織の解析からは,およそ2900年前の御殿場岩屑なだれの発生を境にして小規模ながら爆発的な噴火が続く時期が数百年にわたって継続したことが明らかになった.

3.3.2 融点近傍における多結晶体の非弾性の研究

地球内部の3次元地震波速度構造から地球内部の温度分布や流体分布を定量的に推定するためには,岩石の非弾性特性の解明が不可欠であるが,実験データが少なく未知の部分が多い.我々は,有機物多結晶体を岩石アナログ物質として用い,試料のヤング率Eと減衰Q-1を6桁の広周波数帯域(100-0.1 mHz) で精密に測定できる独自の非弾性測定装置を開発した(図3.3.1).この装置を用いて,多結晶体の弾性・非弾性・粘性を,融点直下から融点を超えて部分溶融に至るまでの温度範囲(T/Tm=0.89~1.01)でほぼ連続的に測定を行った.その結果,部分溶融が多結晶体の物性に与える影響は,これまで知られてきたような,メルトが生じたことによる直接的な影響に加えて,溶ける直前にも大きな変化が生じていることがわかった.つまり,ソリダス直下(T/Tm > 0.94)の固体状態において,多結晶体の減衰が顕著に増大し,また,粘性の活性化エネルギーも顕著に増大することがわかった.しかも,融点で0.4%程度の微少なメルトしか生成しない試料でもこの固体状態での変化は大きく,メルトによる直接的な影響を遥かに凌ぐ.上部マントルに存在し得るメルト量は,地球化学的制約条件から1%未満であると予想されているが,部分溶融の影響に対する従来の理解では,上部マントルで観測される地震波低速度域を微少量のメルトで定量的に説明することは困難であった.本研究の成果は,地球化学と地震学の結果を整合的に説明することを可能にするものとして重要である.実際,海洋リソスフェアの地震波速度及び温度構造から得られた横波速度の温度依存性は,カンラン岩のソリダス直下で急激な速度低下を示す(Priestley and McKenzie, 2013).本実験データから得られた非弾性モデルは,この速度低下をほぼ定量的に説明することに成功した.融点直下における物性変化の詳しいメカニズムはまだ解明できていないが,粒界構造の無秩序化(プリメルティング)によるものと推測している.

3.3.1 多結晶体特性からみた地球内部ダイナミックスの素過程

上部マントル粘性率は、主要鉱物であるオリビン多結晶体の実験的に得られる流動則を地質条件に適用することで推定できる。しかし、とりわけ拡散クリープ条件において、研究グループ間で粘性率にして2桁もの異なる結果が報告されており、信頼できる流動則は確立されていなかった。オリビン粒界ではCaやAlなどの不適合元素が濃集(粒界偏析)する。実験結果の違いは、用いられたオリビン多結晶体試料中の粒界偏析の有無に起因すると予想した。我々はCaとAlをわずかに添加したオリビン多結晶体試料と無添加試料を作製し、大気圧高温一軸圧縮実験によって化学組成が流動特性に与える影響を調べた。その結果、粒界拡散クリープが支配的であること、及び添加試料は試料の融点の0.92倍程度以上から無添加試料と比べて軟化し、その程度は温度上昇とともに増加することを明らかにした。添加試料が軟化した原因は、粒界偏析と温度に駆動されるソリダス近傍での粒界の無秩序化によるものと結論づけた(Yabe, Sueyoshi & Hiraga., 2020, JGR)。その軟化の効果を組み込んだ拡散クリープ則に基づいて、海洋上部マントル粘性率の深度構造を推定した。粒径が1 mmであると、1019–1020 Pasの低粘性層およびプレート冷却に伴う高粘性層の発達が推定され、リソスフェア‐アセノスフェア構造とよく対比できた (Yabe & Hiraga, 2020, JGR)。

4.2.2 国際室の運営と業務

国際室は教授4名,准教授5名,オブザーバー(所長,事務長,副事務長,人事及び研究協力担当)及び業務スタッフ(特任専門職員2名,技術補佐員1名)で構成され,ほぼ毎月定例の国際室会議を開催して運営にあたっている.共同利用担当など事務部と連携して,海外からの研究者招聘(長期・短期)業務に加え,地震研に滞在する研究者・留学生の招聘に関する手続き支援,学術協定締結・更新業務,協定に基づく共同研究や全学主催の行事への派遣,ワークショップ・サマースクール開催に関する業務を行っている.育成室・広報アウトリーチ室と協力し,国際学会でのブース展示をここ数年実施している.

(1)招聘事業

外国人研究員の招聘事業は, 3ヶ月以上の長期招聘(特任教授・准教授などの教員級と若手のPD級)と3ヶ月未満の短期招聘との2種類で構成されている.長期招聘研究員については,地震研ホームページで公募し,パンフレットを作成して国際学会で配布したりなど広く呼びかけており,平成29年度22名,平成30年度32名,平成31年度42名,令和2年度34名,令和3年度33名の応募があった.短期招聘については,地震研の教員による推薦として所内公募を行っている.これらの応募者について,国際室メンバーで選考会議を開催,候補者を決定し,教授会・共同利用委員会へ推薦している. 令和2年度の外国人研究員のリストを[表4.2.1](長期招聘者)に示す.(令和2年度は短期招聘者なし)

(2)国際共同研究・教育の推進

  2019年度まで実施していた中国科学院大学のサマースクールへの講師派遣は行われなかった.2018年に協定を締結した北京大学地球・空間科学学院と, 2020年9月24日, 25日の2日間,オンラインで第2回固体地球科学サマースクールを共同開催し,地震研・北京大学の教員・学生他、計182名が参加した.今年度で7回目となるJSTさくらサイエンスプランは対面での実施は中止となったが,オンラインでオリエンテーションおよび発表会等を実施した.国立台湾師範大学3名,国立台湾大学,国立中央大学(台湾),インド工科大学,インド科学教育研究大学(インド),中国科学院大学各1名,中国科学院 地質・地球物理研究所2名(中国)の計10名の大学生・院生は2020年9月23日にオリエンテーション,9月24日,25日は北京大学とのオンラインサマースクールに参加した.また同年12月10日には第2回のオンラインミーティングを開催し,2021年3月16日に学生と受入教員によりオンラインで研究活動の内容の発表会を行った.

(3)国際アウトリーチ活動

すべての学会がオンライン開催となったため,展示もオンラインでの参加となった.JpGUでの展示は,広報・アウトリーチ室に協力して実施し,国際室招聘プログラムの紹介動画の作成や,開催期間中のオンライン同窓会を開催した.またAGUではサポーター枠で参加し,国際室紹介動画の紹介などを行った.地震研Webサイトの改訂に合わせて,国際室部分をリニューアルした.

 

3.1.3 大気・海洋現象が引き起こす固体地球の弾性振動現象

大量の地震計・気圧計・水圧計などのデータを丹念に解析し,ノイズと思われていた記録の中から新たな振動現象を探り当て,その謎の解明を目指している.その際,大気-海洋-固体地球の大きな枠組みで現象を捉える事が重要である.

(3-1)脈動実体波に関する研究

 2014 年 12 月 9 日爆弾低気圧が大西洋で発生しイギリスやアイルランドに被害をもたらした. その際に海洋波浪により発生した P 波は地球深部を伝播し日本にまで到達した.観測された P 波の振幅は 0.1μm と一見小さいが,同じ地域で起こったマグニチュード 6 の地震にも匹敵す る.このような海洋波浪起源の地震波は,近年地球内部構造を調べる上で注目されている.そこで,嵐による海洋波浪が励起する脈動 S 波を初めて検出し,観測データから嵐がどのように地震波(P 波・S 波などの実体波)を励起しているかを明らかにした. 大西洋で発生した爆弾低気圧時の日本の地震計記録を解析し,爆弾低気圧によって励起され た周期 5-10 秒の P 波・S 波を検出し,震源位置と強さを推定した.低気圧の移動にともない 震源は海底の等深線に沿って移動している事が分かった.同様の脈動実体波の検出を系統的に行い普遍的に存在することを示した.

 本研究は、遠く離れた嵐によって励起された地震波を使って嵐直下の地球内部構造が推定で きる可能性を示している.地震、観測点ともに存在しない海洋直下の構造を推定できる可能性 を意味し,地球内部構造に対して大きな知見を与える可能性がある.

(3-2)海洋島の地震計記録から海洋外部重力波活動を推定する

 海洋島に設置された広帯域地震計のノイズレベルを解析してみると、しばしば周期100秒から数100程度のブロードなピークが観測される。原因として海洋外部重力波起源だと考えられているが、定性的な議論が中心となっている。最近、津波(物理的には海洋外部重力波と同一の減少)の伝搬にともなう海洋島の弾性変形(Nishida et al.,2019)の定量的な評価できろことがわかってきた。しかし津波は物理的には外部重力波であるが、平面波を仮定していたため、そのままではその活動の見積もりに使うことは出来ない。そこで、津波に対して開発した手法をランダムに励起された海洋重力波に対して拡張し、海洋外部重力波の定量的な議論の可能性を示した。

(3-3)地震波干渉法による地震波速度構造モニタリング

地震・火山現象を理解する上で、地震波速度構造の時間変化を捉える事は重要である。これは、地震や火山噴火に伴った応力変化や流体の移動は、近傍の地下構造に大きな影響を与えるため、地震は速度構造の変化から応力状態や流体の分布などに制約を与えることが期待できるためである。実際に地下構造の時間変化を求めようとする場合、コントロールソースを用いて繰り返し地震波トモグラフィを繰り返す事が想的である。しかし多くの場合現実的ではない。一方自然地震を使う場合、震源の不確定性や震源分布の偏りなどに起因する不確定性が速度構造の不確定性を引き起こす。そのため、たとえ時間変化が見かけ上見えたとしても、それはただのノイズなのか本当の速度変化なのか判然としがたい。地震波干渉法による解析では、励起源の分布がランダムかつ一様な場合には、一方の観測点を仮想的な震源とみなすことができるためこの問題を回避することが可能である。地震波干渉法によって検出された地震波速度構造の時間変化は地震・火山現象以外にも、降水量に伴う変化等表層付近の現象に強く影響されていることも分かってきた。本研究では、降水量等の影響を定量的に評価するために、状態空間モデルが有効であることをしめし、拡張カルマンフィルターによる地震波速度構造の推定手法を開発した。この手法を、2011年新燃岳噴火時の地震波形データに適応し、火口近傍のみ噴火に1ヶ月ほどまえから噴火に向けて、約5%程度地震波速度構造が低下していることを示した。

3.12.8 インターン学生の受け入れ・国際共同研究

国際深海科学掘削計画(IODP)による地震発生帯研究として,熊野沖3次元構造探査結果から浅部低周波地震発生の原因を考察した論文を出版した(Shiraishi et al., 2020EPS).南海トラフ西端,日向灘沖で沈み込む海山がプレート境界特性や地震活動に及ぼす影響を評価するために,新たな掘削提案を10月に提出した(PI:仲田).チリ三重会合点での熱構造解析を進めるとともに,観測中の海底地震計回収の準備を行った(科研費基盤B).IODPの次期長期計画(Exploring Earth by scientific ocean drilling)の作成にレビューアとして参加した.またどの日本語版の作成に参加した.IODP・ICDP(国際陸上科学掘削計画)の日本代表機関(JDESC)の理事として,外務を担当した.