部門・センターの研究活動」カテゴリーアーカイブ

3.7.2 フロンティア解析による地球の内部構造と内部過程の解明

海域から陸域までの幅広い領域にわたる東北日本弧下のレシーバー関数イメージングを,海陸にわたるamphibiousなアレイデータを統合解析することで達成した.海底の低速度堆積層がレシーバー関数解析の障害となることは知られているが,その影響を詳細に分析し,補正する手続きを提案し,海陸にわたり連続的な速度不連続面(沈み込んだ海洋Mohoなど)をイメージすることに成功した.このような解析をより広域な東北日本弧下にたいして行うことにより,これまでレシーバー関数イメージングが行われてこなかった前弧下の沈み込みの過程が明らかになることが期待される.

 北西太平洋に展開された広帯域海底地震計のデータから北西太平洋下のP波速度構造を制約した結果をまとめ,国際学術雑誌で成果を発表した.既存のS波速度構造と比較した結果,リソスフェアではVp/Vsが深さとともに急激に増大することが検出された.またLAB近傍ではVp/Vsの値が大きくなっていることが検出された.これらの結果は,リソスフェア内には化学的成層構造があり,LAB近傍で粒界弱化現象が起こっていることにより解釈できることを提案した.

 海洋上部マントルの等方1次元電気伝導度構造の解釈法として,温度構造をプレート冷却モデルに従うと仮定し,ポテンシャル温度,熱境界層の厚さ,マントル中のH2O,CO2含有量,地殻の電気伝導度をモデルパラメータとして電磁気応答関数から直接制約する手法を開発した.従来のモデル正則化付インバージョン解析で得られる電気伝導度構造モデルには正則化の影響による虚像の可能性が必ず含まれていて,モデルの現実性を議論する必要があるが,本手法では解釈すべきコンセプトモデルのパラメータを直接決定するのでそのような議論からは解放される.また電気伝導度構造モデルをコンセプトモデルで解釈する際にはこれまで定性的な一致を議論するのにとどまっていたが,本手法ではコンセプトモデルから電磁気応答関数を復元して定量的にフィッティングを議論できる.本手法を「ふつうの海洋マントル計画」のA, B海域で得られたアレイ内平均の電磁気応答関数へ適用したところ,A海域とB海域の温度境界層の厚さに違い(A海域の方が薄いことが従来解析より示唆されていた)が定量的に有意であることを確認できた.またポテンシャル温度とマントル中のH2O,CO2含有量の間のトレードオフ関係を定量的に示す事ができた.

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図3-7-5 「かいこう7000II」によって撮影されたNM16に設置したEFOS.2014年9月17日,記録計の入った耐圧容器が回収された.

図3-7-2「技術革新」以前は,分解能は高いが海底下10 km程度までしか解像できない屈折法地震探査か,深部(–50 km以深)はわかるが分解能が低いグローバル表面波トモグラフィーが,LAS探査の手段であった.小スパンアレイによる「広帯域海底地震探査」の開発は,LAS全体を深さ方向に連続的にかつ高分解能で探査することを可能にした.

図3-7-2「技術革新」以前は,分解能は高いが海底下10 km程度までしか解像できない屈折法地震探査か,深部(–50 km以深)はわかるが分解能が低いグローバル表面波トモグラフィーが,LAS探査の手段であった.小スパンアレイによる「広帯域海底地震探査」の開発は,LAS全体を深さ方向に連続的にかつ高分解能で探査することを可能にした.

3.7.1 海・陸機動観測による地球内部構造とダイナミクスの解明

海半球センターでは,センターの立ち上げ当初から固体地球科学分野の基礎的な重要課題を解明することを目的にした,大型科研費によるプロジェクトを実施してきた(海半球ホームページ).また並行して,常に一段質の高い観測研究を進めるための観測機器開発と解析手法開発を行なってきた.海半球計画(1996–2001 年)においては,西太平洋域に総合的地球物理観測ネットワークを構築して地球内部をグローバルな視点で見る基盤を整えた.また,地震と電磁気の海底長期機動観測装置を開発して,グローバルな観測網よりも高い解像度を獲得した.2004-2009年度の特定領域研究「スタグナントスラブ:マントルダイナミクスの新展開」(スタグナントスラブ計画)では,太平洋プレートの沈み込みに焦点をあて,観測網と機動観測からアプローチする我々のグループに国内の高温高圧実験グループと計算機シミュレーショングループを統合して,スラブの滞留と崩落のメカニズムおよびそのマントルダイナミクス,更にその地球史上の意義を明らかにした.2007–2011年度の科研費基盤研究(S)(NECESSArray計画)では,日中米の国際協力により,中国東北部に120点の広帯域地震観測網を展開し,直下のマントル遷移層に横たわるとされるスタグナントスラブ構造解明を目指した.その結果,中朝国境に存在する巨大火山・長白山の下の遷移層で横たわるスラブが欠如していることが描出され,マントル深部から長白山にマグマを供給する経路が存在する予想外の可能性が明らかとなった.

 2010–2014年度の科研費特別推進研究「海半球計画の新展開:最先端の海底地球物理観測による海洋マントルの描像」(ふつうの海洋マントル計画)では,自ら開発した世界最先端の海底観測装置と観測技術を駆使して,海底拡大軸・ホットスポット・プレート収束帯などの影響を受けずにほぼ水平なマントル流があると期待される,「ふつう」の海洋マントルにおいて,(a) リソスフェアーアセノスフェア境界(LAB)の原因および (b) マントル遷移層の水分布という,2つの固体地球科学分野の根本的課題の解明を目指し,北西太平洋のシャツキーライズの北西側(海域A)および南東側(海域B)の2海域[図3.7.1]における観測を実施した.年代が近い両海域においても構造が顕著に異なることが明らかとなり,マントル史をふまえた成因の解明の必要性を再認識した.また,2014年度からは,太平洋域の約2億年に渡る進化の解明からマントルダイナミクスの理解を深化させることを目的とした「太平洋アレイ(Pacific Array)計画」に基づいた観測研究を開始した.

(1)太平洋アレイ計画 (Pacific Array)

(1-1) 経緯と計画の概要

特別推進研究「ふつうの海洋マントル計画」では,プレートテクトニクスの基本的な構造が存在すると考えられる海洋リソスフェア・アセノスフェアシステム(LAS)の解明を目指した先端的観測研究を行った.その成果として,十数台の広帯域海底地震計/電磁力計からなる小スパンアレイによる1–2年程度の観測により,アレイ直下の地震波速度(方位異方性を含む)・電気伝導度構造について,空白域であったモホ面からアセノスフェアまでの深さにわたる連続探査を可能にする技術革新を達成した(Takeo他, 2013, 2016, 2018; Baba他, 2010, 2017).海洋マントルの地震観測研究が,これまで主に屈折法探査による海洋モホ面直下(海底下10 km程度),またはグローバル表面波トモグラフィーによる深部(50 km以深)の大まかな構造(水平波長が数千 kmの解像度)のみにとどまっていたことに比べると,この「広帯域海底地震探査」の手法を適用することで,LAS全体を深さ方向に連続的に探査できる[図3.7.2]ようになったことは,観測研究上のブレークスルーと考えられる(同様の解析は電磁気観測データについても可能になった).「太平洋アレイ(Pacific Array)計画」は,このブレークスルーに基礎を置き,海洋底における1–2年間の広帯域地震計・電磁力計アレイ観測(各十数台)を1単位として,時期をずらしながら十年程度で太平洋の広い領域をカバーする観測網の実現を構想している[図3.7.3].“アレイのアレイ” を考えることで国際協力の下,十年程度の時間枠で到達可能な目標となり,海外の当該分野の第一線の研究者らの賛同のもと国際連携体制が作られ,第1期の観測を2018年から日韓共同および米国により太平洋の2カ所の海域で開始した.また2019年には,新たに米国の二つのアレイ計画がNSFによって採択され2021年以降に観測網展開(第2期)を行う予定である.

 日韓共同の太平洋アレイ観測は,地球上最古の海域でOldest1海域観測と称して,2018年11月に広帯域海底地震計12台と海底電磁力計7台をマリアナ東方の太平洋で最も古い海域に展開した.本アレイ観測は,太平洋アレイの1アレイとして全体計画に貢献すると共に,太平洋プレート生成のダイナミクスの解明と海洋プレート成長モデルの検証を目的としている.観測網展開の航海(KIOST所有の研究船を利用)には日韓の大学院生も多数参加した.一方,米国の観測網展開は2018年5月に行われ,中部太平洋海域に30点の広帯域海底地震計を展開し,アセノスフェア内小規模マントル対流のイメージングを目指す.この観測航海には,本センター所属の大学院生2名が国際インターンとして参加し,観測網の展開に貢献した.両アレイとも展開してから1年後の2019年に無事回収が行われ,現在データの解析が進められている.米国はさらに二つ目のアレイを2019年11月に太平洋南部に展開した(一年後の2020年11-12月に回収).地震研を中心とした日本チームは,台湾との国際共同観測研究として,Oldest-1を補完し最古の海域全体をカバーするOldest-2アレイを2021年夏から開始すべく準備を進めている.台湾側の観測船のプロポーザルが採択されたものの,Covid19の影響で予定通り観測が行われるかは見通しが立たず,翌年に延期される可能性が高い.またOldest-2のあとには,ハワイ-天皇海山列屈曲点周辺での海底地震・電磁気観測(HEB)を,ドイツとの国際共同観測計画として進める.

(1-2)海底地震観測

「太平洋アレイ計画」の第1期のアレイ観測として,太平洋最古の海洋底(グアム島東方沖)での海底地震・電磁気観測を計画している.その前半部(Oldest-1観測)は韓国ソウル大学との国際共同観測研究として実施している.Oldest-1観測自体は2018年秋から2019秋にかけて実施され,回収された記録を用いて,日韓共同でのデータ解析が行われている.また,第1期アレイ観測の後半部(Oldest-2)として台湾との国際共同観測が計画されており,2021年の観測開始に向けて準備を進めている.また,第2期のアレイ観測として,ハワイー天皇海山列屈曲点周辺での海底地震・電磁気観測(HEB)を,ドイツとの国際共同観測として計画している.

(1-3)海底電磁気機動観測

海底電磁気機動観測は,全12観測点の内の7観測点に自由落下・自己浮上方式の海底電磁力計(OBEM)を設置し,全台を無事回収した.すべての観測点で有効なデータが取得できていることが確認できている.現在,韓国の共同研究者と共同してデータ解析を進めており,観測アレイ下のマントル最上部からマントル遷移層上面までの電気伝導度構造を明らかにできると期待している.予察的な解析結果は,この海域ではリソスフェアに相当すると考えられる低電気伝導度層の厚さが200km程度にまでおよぶことを示した.この値は,北西太平洋の「ふつうの海洋」域よりも厚く,むしろ東北アウターライズ沖の構造に近いので,古い海盆の構造が単一のリソスフェア冷却モデルでは説明できないとした,従来の研究成果を補強するものである.

(1-4)マントルの高分解能イメージング

Oldest-1アレイ観測で回収された広帯域地震波形連続記録に対して,「広帯域海底地震探査」手法を適用し,太平洋最古の海洋底(約1.7億年)の一次元S波速度構造を求めた.得られた構造を同じ太平洋プレート上にある「ふつうの海洋マントル計画」の海域A(約1.3億年)・海域B(約1.4億年)の構造と比較した.Oldest-1の構造は海域Bと似ていることが明らかになった.半無限冷却モデルに基づくプレート成長を仮定して,海域Bの構造を0.3億年成長させた構造はOldest-1の構造を説明できず,なんらかの熱的擾乱の必要性が示唆される.
 また,太平洋域の陸上および海底地震計記録を用いた表面波トモグラフィー解析により,太平洋全体の3次元上部マントルS波速度構造を明らかにする研究を継続的に行っているが,Oldest-1アレイ観測で得られたデータを追加した結果,この領域の構造が改善され,最古の海洋底のリソスフェアが従来のモデルより高速度かつ厚いという違いが得られた.
 電気伝導度構造については,「ふつうの海洋マントル計画」の海域A・Bそれぞれで異方性を考慮した1次元構造の解析と,等方3次元構造の解析を進めている.1次元電気伝導度異方性については,A海域のアセノスフェアの深さにおいて高電気伝導度の軸が北東-南西方向に検出されたが,この向きは太平洋プレートの絶対運動方向とも過去のプレート拡大の方向とも斜交するので,一般的に考えられているプレート拡大やマントル対流にともなう異方性構造の出現と解釈することは難しい(Matsuno et al., 2020).一方で等方3次元構造モデルは,アセノスフェアの深さにおいてアレイとほぼ同等の幅を持って北東-南西方向に伸張する高電気伝導度領域の存在を示している.したがって1次元異方性構造解析の結果は,この大きな不均質構造を異方性で解釈したものと考える事もできる.不均質構造が何を示しているかについては更なる考察が必要である.

(2)その他のプロジェクト

(2-1)太平洋オントンジャワ海台

オントンジャワ海台においてJAMSTEC等との共同観測を2014年から科研費基盤研究(B)の採択を受け実施した.このプロジェクトは,これまで充分な海洋物理観測がなされていなかったこの巨大海台下の深部構造とその成り立ちを明らかにすることを目的としている.2014年末から2017年初頭にかけて観測が実施された.観測機器は全台回収された.電磁気データについては,現在時系列データの1次処理を進めている.地震波データについては,表面波を用いた3次元上部マントルS波速度構造解析の結果,オントンジャワ海台のリソスフェアが周辺海域のリソスフェアより有意に厚いことが明らかになった.岩石学的結果と地球内部物性論の知見とあわせた結果,これは,オントンジャワ海台形成時の脱水された溶け残りマントルがオントンジャワ海台下部に底付けされたためであることを示唆していると考えられる.また,地震波干渉法による解析を行い,周期10-50秒の帯域で位相速度を測定した.この解析の過程で,周期25秒付近に鋭いピークを持つ波が存在することを明らかにした.解析の結果,この波はバヌアツ付近を震源とするものであることが明らかになった.

(2-2)小笠原西之島

小笠原西之島周辺海域において,西之島下のマグマ溜りおよび海洋島弧の電気伝導度構造を推定することを目的とした電磁気観測を2016年より継続的に行っている.本研究は,火山噴火予知研究センター,地震火山噴火予知研究推進センター,観測開発基盤センター,海洋研究開発機構,名古屋大学および気象庁との共同プロジェクトである. 2016年10月から2017年5月にかけての第1次観測では,当センターのOBEM4台と海洋研究開発機構のベクトル津波計(VTM)1台を設置・回収した.続いて2018年5月から同9月にかけての第2次観測では,当センターのOBEM5台を設置・回収した.第2次観測の回収の際に海洋研究開発機構のOBEM6台を新規に設置し,2019年5月にそのうち4台を回収した(第3次観測).2台のOBEMは,錘を切り離せず浮上しなかった.いずれのOBEMも音響による錘切離し信号には正常に応答したこと,着底位置が設置時より数10mずれていたことなどから斜面崩壊などで切り離し部が埋まってしまった可能性がある.この航海では,当センターの2台のOBEMおよび海洋研究開発機構のVTM3台を新たに設置した(第4次観測).これらの機器は同年8月の航海で回収予定であったが,台風の影響で航海を実施できなかった.2020年12月および2021年1月には無人潜水艇による潜航調査を含む公開を実施した.第4次観測で設置した機器は5台中2台を自己浮上にて回収したが,これらの機器は設置時の位置から3 km前後も島から離れる方向に移動していたことが判明した.また自己浮上にて回収できなかった機器(当センターの2台のOBEMを含む)のうちのVTM1台および第3次観測で回収できなかったOBEM2台について無人潜水艇を用いて探索したが,機器の発見・回収には至らなかった.構造解析は全ての観測データの収集を待って行う予定であるが,副次的成果として,第1次観測中の2016年11月中旬に全磁力と傾斜に顕著な変動があったことが確認された.この期間,西之島の噴火活動は休止していたが,西之島を取り囲むように設置した5台全ての機器で同時期に変動が観測されたので,火山内部で生じた何らかの現象を捉えたものと考えられる(Baba et al., 2020).第2次観測中の2019年7月には小規模の噴火があり,これに関連すると考えられる全磁力の変化が各観測点で観測された.また西之島東側の斜面に設置したOBEMは設置時と回収時で位置が大きくずれており,OBEMの傾斜変化や磁場データが示すOBEMの回転などと併せて考えると,観測点付近で斜面崩壊を起こったことが推定される.また第4次観測期間中の2019年12月から2020年8月にかけては大規模な噴火が確認されており,回収できなかった機器はこの噴火活動の影響をうけて自己浮上が不可能な状態になった可能性がある.

3.6.6 その他の火山に関する研究

(1)西之島における噴火活動の把握

 小笠原諸島の西之島は,2013年11月に海底噴火を開始し,2015年11月頃までに噴出した溶岩は旧島の大半を覆い面積で2.7㎞2,噴出量は1.6㎞3に達した(第1期).2017年4月(第2期)および2018年7月(第3期)には活動が再び活発化して溶岩を流出したが,活動の規模は次第に低下し,一旦沈静化した.2016年10月と2019年9月には上陸調査を実施し,噴出物の調査と旧島上への地震・空振観測点の設置を行った.その後,2019年12月に再び活動が始まり,2020年8月まで噴火は続いたが(第4期),沈静化し現在にいたる.火山センターでは関係者と協力しつつ,地質学と地球物理学の両面から火山活動の把握と西之島の成長プロセスの解明を目指して研究を進めている.

 遠隔調査:2013年11月以降,西之島の成長過程を衛星画像に基づいて把握し,溶岩噴出率の推移等を明らかにしてきた.2016年6月の観測では気象庁の啓風丸の協力を得て,規制区域(火口から1.5 km)の外から無人ヘリコプターによる観測を実施した.4Kカメラによる撮影を行い,溶岩流の形態的特徴の詳細や,スコリア丘の表面に発達した亀裂構造を観察した.スコリア丘の麓においては,岩石試料を採取した.また,第2期および第3期活動後にも,気象庁の凌風丸および啓風丸の協力を得てドローンによる地形観測,試料採取等を行い,それぞれの活動の概要を把握した.他の部門・センターとの共同研究では,西之島周辺海域に海底地震計を設置して,噴火活動に伴う振動を連続的に観測することに成功し,2015年から2017年にかけての噴火活動の推移を連続的に把握した.一方で,第2期の活動推移を明らかにするために,ひまわり8号赤外画像,ランドサットOLI,プレアデス,ALOS-2画像等の高分解能衛星画像を用いた解析を行った.この結果,第2期活動は2017年4月中旬から8月上旬まで続き,陸上と海面下を合わせた総噴出量は1.6×107 m3 ,平均噴出率は1.6×105 m3 /dayと推定され,当該期の平均噴出率は第1期と同程度かやや低いことが明らかになった.第4期活動についても衛星画像の解析を中心に噴火活動の推移を明らかにする研究を進め,2020年6−7月には過去最大の噴出率(106 m3 /day以上)を記録し,噴火様式が大きく変化したことを明らかにした.2020年12月には海洋研究開発機構と協力して,ドローンによる地形地質の調査,岩石試料採取を行った.島の面積や体積などの地形変化量を明らかにしたほか,噴出物の分析により,第4期活動ではマグマ組成が安山岩から玄武岩質安山岩へと変化したことを明らかにした.
 西之島から130 km離れた父島に設置した空振計と気象庁の地震計のデータを用い,相互相関解析から,西之島の噴火に伴う空振活動の把握を行った.また,波の力だけを用いて海上を移動する無人ボート,ウェーブグライダーを用いた海域火山観測システムを海洋研究開発機構と神戸大学が中心となって開発を行っており,本センターでは,これに搭載する海上インフラサウンド計測システムを開発し,実用試験を行った.2017年度の実験では,父島近海から放流し,西之島まで航行,西之島を中心とする半径5 kmの周回軌道を5周して父島近海に帰還するまでの10日間,空振および水中ハイドロフォンのデータを収録し,一部を衛星通信によって送信を続けた.試験の結果,システムが実用レベルに到達したことを確認した.2020年度の実験では,西之島近海から放流し,西之島周辺を周回した後,20日後に父島近海で回収された.期間中に火山活動は見られなかったが,2017年度の実験で不十分であった空振計防水対策が改善されたことを確認した.

  上陸調査: 2015年秋以降の活動低下を受けて,2016年10月16日から25日にかけて西之島の火山活動と生物相の調査を実施した.上陸調査では,西海岸および旧島で地形・地質の調査および火山噴出物採取,地震・空振観測点の設置,噴火後の海鳥営巣状況の把握が行われた.また同航海中に,西之島周辺海域での海底地震計,海底電位磁力計の設置・回収とウェーブグライダーを用いた離島モニタリングシステムの試験も実施した.旧島上に設置した地震・空振観測点は,第2期活動の噴火開始1日前から火道内部のマグマ上昇を示すと考えられる低周波地震や傾斜変動を捉えることに成功した.一方,採取した第1期噴出物の全岩化学組成分析を行った結果,全試料について安山岩組成であり,1973-1974年噴出物と旧島溶岩との中間的な組成であることや,SiO2含有量の低下やMgO含有量の増加が認められることがわかった.
 2019年9月には環境省の総合学術調査に参加し再度上陸する機会を得て,第2期以降の噴火活動により生じた地形や地質,噴出物の調査と試料採取,地震・空振観測点の再設置を行った.2017年噴火により島の西側および南西側に流出し,地形を大きく変えた溶岩流は,地質学的には第1期活動の噴出物とよく似ていることがわかった.一方,全岩化学組成分析の結果,噴出物は安山岩であるが第1期噴出物とわずかに異なり,SiO2 含有量の低下やMgO含有量の増加が認められることがわかった [図3.6.5].2019年12月には再び噴火が始まり,爆発的噴火と溶岩の流出により島は再び成長を始めた.再設置した地震計や空振計により,新たな噴火活動の開始の様子やその後の噴火推移を捉えることに成功した.

(2)海外の火山における噴火活動の研究

 2010年に有史初めての噴火を開始したインドネシアのシナブン火山において,SATREPSプロジェクト(インドネシアにおける地震火山の総合防災対策)として,インドネシア・火山地質災害軽減センター(CVGHM)と共同で現地調査を実施し,地質図を作るとともに,将来の噴火に備えたイベントツリーを作成した.また2013年からは,ケルート,メラピを含む活動的6火山を対象に,CVGHMとの共同研究を新たなSATREPSプロジェクト(火山噴出物の放出に伴う災害の軽減に関する総合研究)として開始した.その間,インドネシアで進行中の火山噴火についての活動評価を分担した.2013年に活発化したシナブン火山においては,溶岩流/ドームの成長をレーザー距離計による計測や衛星写真からの図化により地形変化を解析し,噴出率が時間とともに指数関数的に減衰したことを明らかにした.また,火山灰や火砕流堆積物中の溶岩試料の化学分析を継続して実施し,マグマ組成がほとんど変化せず,噴出率の低下により結晶度が増していることを示した.2015年からは噴出率が低下しているにもかかわらずブルカノ式噴火が繰り返して起こり2年以上継続した.これは山頂が地形的に不安定のために溶岩ドームが崩れ続けて大きくなれず,火口上の溶岩の荷重圧を稼ぐことができずに継続的に溶岩供給が続き,火道上部では,マグマからの脱ガスが不完全なために爆発が継続していると解釈した.2014年2月13日にプリニー式噴火を起こしたケルート火山において現地調査を実施し,噴出量や噴火の推移を明らかにした.そこでは,プリニー式噴火に先行して,先の噴火でできた溶岩ドームを噴き飛ばす爆発的な噴火によって火砕サージが発生したこと,プリニー式噴火の噴煙柱が崩壊して火砕流が火口から周囲に発生したことなどを明らかにした.

 1980年代に災害を伴う噴火を発生したコロンビア共和国のネバドデルルイス火山およびガレラス火山を対象とする,SATREPSプロジェクト(コロンビアにおける地震・津波・火山災害の軽減技術に関する研究開発)の一環として,火山の表面活動を監視するシステムの開発を分担している.対象の2火山を含む,中南米地域の活動的な火山の熱活動を,衛星赤外画像から監視するシステムを開発し,現在活動を続けているネバドデルルイス火山における熱異常を捉えると共に,この地域での雲活動の変化のデータへの影響を評価した.また,ネバドデルルイス火山に新たに整備した空振観測網のデータを用いて,微弱な噴火に伴う空振の自動検出を試み,目視等による噴火検出を補助する情報として有用であ ることを示した.

 インドネシアのアナククラカタウ島で2018年12月に発生した山体崩壊とそれに伴う津波災害に関連して,JST国際緊急共同研究・調査支援プロジェクト(J-RAPID)「インドネシア スンダ海峡津波関連」の中の課題で地質学的研究を分担し,CVGHMの研究者と共同で現地調査を行った.アナククラカタウ島北部や隣のパンジャン島西岸での地質調査により,初期の火砕物密度流堆積物,崩壊に伴い発生したと考えられる津波の遡上痕跡や津波堆積物,崩壊後のマグマ水蒸気爆発に由来するテフラを見出した.これらの堆積物の層序関係や層相,構成物をもとに,噴火と山体崩壊,津波のプロセスに制約を与えた.