
稠密余震観測測線図。青色ダイヤモンド印は、本調査で設置した臨時地震観測点の位置を示す。星印は本震の震央(Adhikari et al., 2015)、丸印はAdhikari et al. (2015)によるネパール地震観測網のデータによって決定された本震後45日間の震央位置(マグニチュード4.0以上)を示す。
近年,建物の設計においては,建物を詳細にモデル化し,その非線形挙動を解析的に追跡してその性能を評価することが主流となっている.建物の非線形特性においては,非線形化による減衰効果の評価が極めて重要であり,その主要なパラメータは降伏時変形である.一方,降伏時変形の推定式は40年以上前に実験結果の統計処理により求められた経験式を現在も用いているのが現状である.そこで,過去30年の国内で発表された鉄筋コンクリート部材の実験結果に関する論文を収集し,そこに示されている荷重―変形関係をデジタル化することにより,降伏時変形に関するデータベースを構築した.更に,部材の変形を①曲げ変形,②せん断変形,③鉄筋の抜け出し変形,に分けて理論的に降伏時変形を推定する方法を考案し,実験データベースを用いて検証している.
更に,建物全体の挙動における降伏点推定精度の影響を検討するため,実大5層の鉄筋コンクリート造建物を作成し,E-Defenseを用いて振動破壊実験を実施した.実験では,大きな損傷を加えた後にエポキシ樹脂を用いたひび割れ補修を行い,再度加振することにより,補強効果の確認も行った[図3.4.4].
長周期地震動(周期2秒程度から10秒以上)は,超高層ビルや巨大石油タンクなどの大規模な構造物の急激な増加によりその重要性を増している.被害を及ぼすような長周期地震動はプレート境界大地震から発せられるのが典型であり,これらの地震では,表面波による伝播経路効果とサイト増幅効果の組み合わせにより遠方の堆積平野等に強い長周期地震動をもたらすことを明らかにした.また,内陸活断層地震の震源断層ごく近傍の強震動に,周期1〜10秒以上の広い帯域の長周期地震動が含まれることや(2016年熊本地震),深発巨大地震においても,表面波によらない長周期地震動が近地波動場に強く生成することが確認された.
上記の震源効果・伝播経路効果・サイト増幅効果を精度良く評価する手法として数値シミュレーションを採用したが,この手法では堆積平野や伝播経路を含む三次元速度構造モデルとプレート境界地震の適切な震源モデルが決定的に重要である.そこで,モデル化の標準的な手続きを定めた上でモデル構築を行い,それらモデルを用いて想定東海地震,東南海地震,宮城県沖地震や,南海地震(昭和型)に対する長周期地震動シミュレーションを行った.その結果をハザード地図として表現するため,最大地動速度や地動継続時間,及びいろいろな周期の速度応答スペクトルの分布図を作成した.これら分布図は地震本部の地震調査委員会から「長周期地震動予測地図」試作版として公表され,構築した「全国1次地下構造モデル」暫定版も同時に公開されている.
大地震による大型平野での長周期地震動の即時予測に向け,日本列島の強震観測網で捉えた揺れの記録と,不均質な地下構造を考慮した地震波伝播シミュレーション結果を同化し,最新の同化波動場に基づいて数十秒後の波動伝播を高速により予測する,データ同化・予測システムの開発研究を進めている.陸域の高密度強震観測網(K-NET, KiK-net)に加えて,近年海域に設置が進むDONETやS-net等の海域強震・津波観測網のデータを用いることで,海溝型地震の発生を即座に把握し,将来の揺れを地震波よりずっと高速に予測することが期待される.さらに,地震波伝播の応答関数(グリーン関数)を予め計算しておくことで,瞬時の予測に繋げることも可能である.即時予測の実現に向け,リアルタイムにデータを伝送する強震観測点の整備と,SINET5を通して観測データをスパコンに取り込みリアルタイムで処理する統合的なシステム開発を進めている.
太平洋プレートで深発地震が発生すると,プレートに沿って地震波が遠地まで良く伝わることで,関東〜東北〜北海道の太平洋沿岸に沿って大きな震度が現れる現象は,「異常震域」として良く知られている.冷えた,堅いプレートが地震波を良く伝える効果,さらに,プレート内部の不均質構造における高周波数(f>1-2 Hz)地震波の前方散乱による「プレートの導波効果」によるものである.このため,異常震域で観測される地震動は高周波数成分のみが含まれ,強い散乱によって生じた長い波群を持つ特徴がある.一方,2013年オホーツク海深発地震(深さ610 km, Mw8.3)では,北海道から東北の日本海側の震度が大きい,通常の異常震域とは逆の震度分布が現れた.広帯域地震計記録を調査したところ,強い揺れは,周期2秒以上の長周期成分に富み,それらは震源から上部マントルに向けて放射されたS波とそのsP変換波,さらに遠地では地表でのsS反射波であることが確認できた.また,地震波がプレート内を遠距離伝わる間に周期1秒前後の地震波は周囲の低速度マントルへと抜け出す「プレートの反導波効果」が発生し,これが太平洋側の震度を小さくしていたことも,地震波伝播シミュレーションから確認できた.また,この巨大深発地震では,震央から5000〜8000 km離れたモスクワやカザフスタンが有感となり,建物からの避難騒ぎが起きた.遠地記録を調べたところ,遠地の強い揺れは厚い大陸地殻で生成するsSS,sSSS反射波や,地球深部で反射したScS波による,やや長周期(5-20秒)に富んだ波動であったことがわかった.
地震災害軽減のための強震動予測では,頻発する被害地震の強震記録に基づき,地震学,特に震源物理に裏打ちされた最先端の手法開発を目指すと共に,地震工学分野で利活用価値の高い応答スペクトルの客観的評価指標を積極的に導入することにより,国際的に受け入れられる検証活動にも注力する必要がある.近年,標準化の意義が強く認識されるようになり,その流れは規格や技術性能にとどまらず,研究開発にも及んでいる.強震動評価に関しては,Verification and Validation(V&V:検証と妥当性確認)による品質管理基準を堅持することにより,過去の地震の観測波形再現と将来の地震の予測波形の双方に対して定量的根拠を明確にし,オープンソースとして強震動予測の開発コードを国際的なプラットフォームにおいて公開することが重要とされている.
米国南カリフォルニア大学に本部を置く南カリフォルニア地震センターSCECでは,断層面と地下構造モデルを入力情報として,複数の強震動予測手法によるValidationを行う場として広帯域地震動プラットフォーム (SCEC Broadband Platform) が構築されている.特徴は,時刻歴波形ではなく工学的利活用を目的とした5%加速度疑似応答スペクトルによる評価,地震動の再現度合を判断する客観的評価指標の導入,そして計算コードの公開である.本研究では,このプラットフォームに米国や韓国で開発された手法に加え,日本で開発された強震動予測手法を実装すると共に,国際展開を図っている.
また,強震動予測に関する国際共同研究を米国・トルコ・イラン・ベトナム・インドネシア等と行い,各国の被害地震への適用と強震動評価を進めている.