カテゴリー別アーカイブ: 部門・センターの研究活動

3.2.5 高度な観測機器を開発するための研究

(a) 精密機械工作技術を用いた小型傾斜計の開発

海底ボアホールや陸域の深部ボアホール,あるいは海底面など,観測例の乏しい「観測フロンティア」での傾斜観測を目的とした小型傾斜計の研究開発を行っている.開発した小型・長周期の折りたたみ振り子を核とした傾斜計を製作し,実際に坑内ボアホールでの観測を継続している.これまでに得られたデータを分析することにより,長期ドリフト特性について良好な結果を得た.今年度は機器更新などを行い観測を維持しつつ、省電力化などの改良を検討した。

(b) 反磁性を利用した小型重力計の開発

反磁性体と組み合わせることによって、受動的に浮上させた永久磁石を基準とした重力計の開発に取り組んでいる。重力計の感度を高めるためには、浮上に必要な比較的大きな力を確保しつつ、参照マスを動作点に拘束する復元力を小さくするという技術的困難がある。この課題を効率的に解決するため、有限要素法を用いたシミュレーションを行い、最適な解(磁石と反磁性体の形状、配置など)を求める取り組みを行っている。求めた最適解に基づいて試作重力計を製作し、重力観測を試みる予定である。

(c) 長基線レーザー伸縮計の開発(観測開発基盤センターと兼務)

神岡鉱山地下に建設した全長1.5 kmの基線をもつレーザー伸縮計の研究開発を継続している。前年度までに開発したシステムにより定常的な観測を行うことが可能となり、実際に地震イベントなどを観測するなどの成果をあげている。引き続き干渉計の性能(ひずみ分解能、長期安定度)の評価を行い、それに基づく装置の改良、維持を行う取り組みを行う計画である。今年度は干渉計のひずみ分解能を制限するレーザーの周波数安定度の評価を開始した。具体的には、干渉計に用いているものと同様のレーザーを製作して観測サイトに設置して、2台のレーザーの周波数を比較することによる評価を試みた。その過程でレーザーの制御系についていくつか改良の着も得られたので、今後、制御系を改良した上で再度比較測定を行う予定である。

3.2.4 観測や室内実験と理論を結びつける研究

(a) 地球のグローバルな変形・重力変動の理論の高度化

球体地球モデルを用いた粘弾性変形の理論計算手法の構築・改良を行っている.これまでの研究で取り入れられてこなかった自己重力,地殻・マントルの圧縮性,3次元不均質構造を扱える手法を開発した.開発したモデルを2004年スマトラ島沖地震に適用し,GRACE衛星重力データが主に粘弾性変形によって説明できることを示した.島弧等の陸上のGNSS観測点が少ない場合に本手法は有効である.また,球対称モデルの粘弾性変形について,地球内部の体積歪分布や応力分布を高精度に計算する手法を開発した.本手法は巨大地震後の広域地震活動が長期的にどのように変化していくか解明するのに役立つ.

(b) スロー地震に関する研究

潮汐や黒潮の変動に関係する海洋荷重の変動により,南海トラフの微動や東海地方の浅部のバックグラウンドの地震活動の変化を生じさせている可能性を示した.潮汐応力が大きい時期には小さい地震が大きい地震へ成長する確率が高くなり,結果的に巨大地震が潮汐によりトリガリングされる確率が大きくなることを統計的に示した.東京湾北東部のGNSSデータの解析から,房総半島沖とは異なる長期的スロースリップが生じていることを発見した(観測開発基盤センター 「スロー地震学」プロジェクトを参照)

(c) 断層深部の摩擦挙動を調べる室内実験とシミュレーション

ゆっくり滑りや深部低周波微動,さらには,内陸断層のローディングを担う断層の下部延長のマイロナイト帯など,脆性—延性遷移領域での断層物質の摩擦挙動を調べるため,高圧熱水下で大変位の剪断実験ができる試験機の開発を東大理学部と共同して行っている.今年度は,昨年度製作した回転式プレスに取り付ける熱水圧力容器を設計し,製作発注を行った.

いっぽう,数理部門,及び産総研と連携して,熱水環境下の実験でみられる長い特性時間をもつ強度回復プロセスが地震発生域の深部延長での大きなゆっくり滑りイベント(SSE)を産み出しうることを二次元弾性体中で行ったシミュレーショで示してきた.このシミュレーションでは,地震が約100年に一度,大きなSSEが100年に3度程度おこるが,地震の4割がSSEの最中に,別の4割が,SSEの収束から3日以内に起きるという結果となり,あわせて地震の8割が,大きな(深部延長での1-2m程度の滑り)SSEによってトリガされていた.本年度は,このトリガ現象を,遅れ破壊現象として理解することを企て,一自由度摩擦系の数値実験を行った.遅れ破壊で一般に期待されるように,地震の発生がSSEの後の期間に集中する傾向はみられたが,その程度は,連続体でのシミュレーションでみられたよりも二桁ほど弱いものであった.

3.2.3 地震,地殻変動等の最先端観測や新しい観測の試み

(a) 南アフリカ鉱山における半制御地震発生実験

南アフリカの金鉱山の地下深部の採掘域周辺に多数の高感度微小破壊センサを設置し,半径100m以上の範囲にわたってM-4以下という数cm程度の微小破壊までを検出・位置標定する,世界でも例をみない観測を行ってきた.これまでに地質断層面上にだけ非常に強く集中して,ほぼ定常的におこるM-4からM-2の活動の存在を発見し,さらにその中には非常に多くのM-4程度のリピーター活動があることを報告していた. 昨年度,京都大学と共同して,このリピーター活動を14ヶ月間にわたって追跡した結果,リピーター群のうち1/3程度のものにおいては,イベントの繰り返しが進むにつれて,イベントのMが漸減していく傾向があることを見出した.今年度は,多重比較に対するペナルティーをとりいれた統計検定を行い,このような傾向をもつリピーター群は活動度も漸減する傾向にあること,また,逆に観測期間の途中から出現し,活動度が漸増するリピーター群も存在することを見い出した.さらに,リピーターの活動の漸減と漸増が,空間的に非常に近接(~0.5m)したリピーター群たちで同時に起きている例が多く見い出された.これは,それぞれの群でのリピーター活動の消長が,断層の巨視的なクリープ速度の増減ではなく,リピーターをおこしている断層面凹凸の噛み合いの変化によっているだろうことを示唆する.断層の物質的状態変化が観測から示唆されたのは世界で初めてである.

  また,東北大学と共同して,南アフリカの金鉱山の地下3.3kmでおきたM2地震(破壊域サイズ約100m)の破壊域をつらぬくボーリングコア(地震後に採取),及び,事前に採取してあった破壊域近傍のボーリングコアを用いて,破壊域周辺の応力分布を推定している.これまでに、ブレークアウト,ディスキング,DCDA法,及び,本震の断層の滑り方向からの拘束を全て満すような応力状態を探した結果,M2.2地震の破壊域周辺では、差応力が静岩圧より何倍も大きく,起震断層の摩擦強度が高かった(摩擦実験で得られる摩擦係数約0.7を大幅に下回るようなことはない)こと,破壊域の主要部がその中に位置する貫入はんれい岩(厚味30m)と周辺の母岩(珪岩)中では,大きく応力状態が違うことを見い出していたが,今年度は,新たにDRA法による絶対応力測定に着手し,現在までの結論と矛盾しないこと,DRAによるデータを増やすことで応力状態の推定幅がより狭められる可能性があることを見い出した.

(b) 見通し外VHF帯伝播異常と地震発生の相関

北海道大学が行っているえりも地域でのVHF帯の見通し外放送局からの伝播異常観測のデータ約9年分(2006年1月1日から2014年12月31日まで)を同大と共同して解析した.スポラディックE層の出現時期を除いた期間について, 受信強度が12分連続して閾値を超えたあとの4日間に警報を出すというルールで警報マップをつくり,日高地域に発生したM5以上の地震と比較したところ,警報期間が対象期間の17%しか占めないのに対して,24個の地震のうち29%が警報期間におこっていた.この結果は,地震と異常が関係ないとした場合に比べて2倍の情報ゲインがあり,偶然の一致である確率は5%を切っている.また,2016年4月14日夜から始まった熊本地震の直前にあたる同日未明に,島原で観測していた宮崎放送局からの信号に異常伝播が記録されていた.しかし,2015年1月1日から2016年11月30日までの記録全体に対して行った同様の解析では,異常の発生と地震の発生に統計的に有意といえるほどの相関はみつからなかった.

3.2.2 精密な重力観測に基づく研究

(a) スロースリップに関わる重力・地磁気観測

沖縄県石垣島の半年に一度発生するスロースリップの発生域において,2011年秋から絶対重力計,2013年から超伝導重力計を設置し,重力観測を実施している(絶対重力観測は現在休止中).この観測の目的は,高圧流体がスロースリップの発生メカニズムにどのように関わっているか解明することである.これまでにスロースリップイベント中の重力変化を捉えることに成功し,地下水等のノイズを補正する手法の開発を進めている.流体の移動を独立した物理量の観測により裏付けるため,石垣島,西表島の2か所で地磁気連続観測も継続している.

また,長期的スロースリップが繰り返し発生している東海,豊後水道,日向灘における重力観測を年1回程度,実施している.東海では2013年より始まったスロースリップが継続しており,スロースリップ中の重力データを蓄積しつつある.

(b) 超伝導重力計による精密重力観測

長野県松代において,超伝導重力計を用いた重力連続観測を行っている.重力計の記録から,2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震のあと,年間およそ10マイクロガルという大きなレートで重力が減少を続けていることが明らかになった.この観測点は,地震の震源域からは400km以上離れており,GEONETによるGNSSデータから推定される上下変動は比較的小さいにもかかわらず,このように大きな重力変化が見られるのは,地震のあと継続しているアフタースリップあるいは粘弾性緩和による地下の密度変化をとらえていると考えられる.この現象を詳しく調べるため,より震源域に近い東北地方において新たに重力連続観測を実施するための準備を行っている.

重力観測の精度が上がるにつれ,観測点周辺の環境要因,とくに水文学的な影響が顕著に現れるようになる.降雨および積雪による影響をモデリングするための数値モデルを開発したほか,積雪質量のその場測定のためのPETボトルを使った簡易式積雪重量計を開発して日本海側各地において精度検証のための実験を行っている.

上述のように,超伝導重力計による観測は沖縄県石垣島においても行われている.この観測点では,大気・海洋・地下水が相互作用を及ぼしあい,重力に複雑な影響を及ぼしていることがわかってきた.それを効果的に補正するため,周辺地域において水文観測や重力サーベイを繰り返し実施している.また,この地点に特有のこととして,VLBIアンテナの動作による地面振動が重力計にノイズを発生させるという問題があるが,逆にそれを解析することで,超伝導重力計における磁気浮上の特性を明らかにするという研究も進めている.

(c) 海洋プレートの沈み込みや巨大地震によって生じる重力変動の観測研究

絶対重力計FG5 を用いて,プレートの沈み込みによって日本列島に生じる10 年スケールの中長期的重力変化の研究に取り組んできた.測定は北海道(厚岸,えりも,有珠山) ,東北(女川,仙台,水沢,八戸,由利本荘) ,東海(御前崎,菊川,豊橋) ,四国(室戸・足摺岬),九州(宮崎) の各地で年約1回の頻度で繰り返されてきた.東日本では2011年東北地方太平洋沖地震の余効変動に伴う重力変化を,西日本ではスロースリップに関連する重力変化を捉えつつある.東日本ではFG5の観測点を基準として,周辺約50点で相対重力測定を実施している.重力の余効変動として,東北南東部では3年間で30~60マイクロガルの重力減少が見られるのに対し,東北北部(青森,岩手北部,秋田)では,重力増加が認められる.アフタースリップや,粘弾性緩和の効果が表れているものと考えられ,今後,地殻変動データと総合した解析を行う予定である.また,御前崎については,国土地理院との共同研究として1997 年以来毎年2-4 回程度の観測を繰り返しているが,既存の知見からは説明できない長期的なトレンドに加え,2001年と2013年頃から生じた長期的スロースリップの時期に重力が減少することが発見された.この変化には地殻流体が関係している可能性があり,スロースリップのプロセスを解明する上で貴重なデータになる.

3.2.1 GNSS観測と地殻ダイナミクス

プレート運動や地殻変動を計測する手段として,GNSS (全地球測位衛星システム) は最有力の武器である.地震研究所のGNSS 研究グループは,独自の研究の他,全国の大学の地殻変動研究者による各種の国内・国際共同研究の企画・調整・推進を行っている.ここでは,地震研のGNSS グループが中心となって実施した観測・研究のうち,主なものを紹介する.

 (a) 国内におけるGNSS 観測研究

東海地方直下で発生するスロースリップの実態解明のため,静岡大・東海大等とも協力しつつ,東海地方に稠密GNSSアレイを構築して2004 年から連続観測を行っている.2016年度には,静岡県,愛知県に設置した合計60のGNSS観測点での観測を継続した.今年度は,前年度からの京都大学との共同研究として,GEONET点も含むGNSSデータに基づいて,2013年頃から始まったとみられる浜名湖付近の長期スローイベントについて時空間すべり変化についての研究を行った.また,2004年から2016年までのデータを3年ごとに区切ってそれぞれの期間でのひずみ変化量を算出した.面積ひずみや最大ずりひずみで見ると,特に2011年東北地方太平洋沖地震の影響が顕著であるが,地震発生後次第にその影響は小さくなりつつある.また,2009年8月に発生した駿河湾地震の局所的な影響も見て取れる.2016年4月熊本地震の余効変動調査には引き続き参加した.(観測開発基盤センター 地殻変動観測を参照)

(b)GNSS を利用した新技術の開発

GNSS研究グループは1996 年頃より日立造船(株) 等との共同研究によって海洋GNSS ブイを用いた津波計の開発を行ってきた.しかしながら,これまでの方式では沿岸から20㎞以内程度での設置が限度であることから,より沖合での観測を目指して開発研究を進めている.昨年度から文部科学省科学研究費補助金基盤研究S(課題名:海洋GNSSブイを用いた津波観測の高機能化と海底地殻変動連続観測への挑戦)を5か年計画として実施している.この研究は高知高専,名古屋大学及び弓削商船高専の研究者を研究分担者とし,このほか通信情報研究機構,気象研究所,宇宙航空研究開発機構などの機関の研究者が連携研究者や研究協力者として参加している.本研究においては遠洋での高精度リアルタイム津波観測を安定的に行える技術を確立するほか,新たな試みとして海洋GNSSブイに音響送受装置を搭載することにより海底地殻変動の連続観測を試みることとしている.昨年度に引き続き,今年度はブイ周辺に音響装置を投入して船舶による試験観測を実施したほか,CTD観測による海中環境の調査も実施した.

3.2 地球計測系研究部門

教授 加藤照之(部門主任),新谷昌人(兼任),大久保修平(兼任) ,吉田真吾(兼任)
准教授  今西祐一,中谷正生,田中愛幸
助教 高森昭光
外来研究員 寺田幸博
学術支援専門員 渡邊倫子
大学院生 王 振 (D3)

地球計測系研究部門では,GNSS 観測を手がかりにしてプレート運動などの実態を解明する研究,精密な重力観測に基づいて地球内部で起きている現象を解明する研究,最先端の地震観測や地殻変動観測等によって地震発生や火山活動などを詳細に解析する研究,観測や室内実験のデータと理論を結びつける研究,超精密機械工作やレーザー干渉など最先端の技術を用いた高度な観測機器を開発するための研究などを進めている.

3.1.2 火山現象の数理的研究

爆発的噴火から溶岩ドーム噴火までの多様な火山噴火現象の統一的理解と,観測データに基づく噴火条件の推定手法の確立を目指し,理論的研究と数値実験を行っている.具体的な研究課題としては,火山噴煙・火砕流のダイナミックスを対象とした大規模シミュレーション研究,および,火道におけるマグマ上昇に関する理論的研究を進めている.

火山噴煙については,近年,気象レーダーや人工衛星を用いた観測によって噴煙高度やその拡大が高精度で測定されるようになってきた.そこで,これらの観測データから火口での噴出条件や噴火強度を推定するモデルの開発と,鍵となる物理過程を表すパラメータの決定を目的とし,3次元噴煙モデルを用いて様々な噴火条件・大気条件に関する大規模数値シミュレーションを進めている.実際の噴火で多項目的に得られた観測データ・野外調査データを整合的かつ定量的に説明することを目的として,カルデラを形成するような超大規模噴火の仮想的な事例,大規模噴火のフィリピン・ピナツボ火山の1991年噴火事例,中規模噴火のインドネシア・ケルート火山の2014年噴火事例,小規模噴火の霧島山新燃岳の2011年噴火事例,水蒸気噴火の御嶽山2014年噴火事例,マグマ水蒸気噴火の口之永良部島2015年噴火事例といった幅広い代表的噴火事例に関する再現シミュレーション研究を進めている.

火道流については,1次元火道流モデルを用いて,爆発的噴火における噴火様式の推移に対する火口形状の影響,および溶岩ドーム噴火から爆発的噴火への遷移に対するマグマの脱ガスや結晶化の影響を系統的に評価した.また,1次元火道流モデルと3次元噴煙柱ダイナミクスモデルを組み合わせることによって,噴煙柱崩壊による火砕流の発生条件を決定した.さらに,火山周辺の地殻変動観測や噴出率観測と1次元火道流モデルを組み合わせることによって噴火の推移予測を行うデータ同化の理論的枠組みの構築を進めている.

3.1.1 地震発生場の研究

(1-1) 大きな SSE を含む地震サイクルシミュレーション研究

昨年度の遷移域で大きなSSEがおこるような地震サイクルの連続体シミュレーションにより,SSE後短期間 (1ヶ月程度) に地震が起きる確率が非常に高いという結果が得られた. 今年度は,SSEから地震までの待ち時間の分布を、RSF則による遅れ破壊であると考えて,一自由度 のバネーブロックモデルによる考察で, 連続体シミュレーションで得られた待ち時間の確率分布を定量的に理解することを試みた.連続体シミュレーションの結果を参考に,通常の一定速度での載荷に加えて,地震サイクルの 1/3 程度の周期で大きな (地震の静的応力効果の 1-3 割程度) ステップ的応力増加を加えるシミュレーションを行ない,サイクル中三度目の応力ステップを与えるタイミングを様々に変えて,地震がおきるまでの待ち時間を調べたところ,SSE が大きいほど待ち時間が0近くに集中するようになる傾向はみられたが,その集中度は連続体でのサイクルシミュレーションで得られたものより格段に低いことがわかった.一方で,1自由度モデルでの結果は,連続体中での自発的震源核の加速的発展を近似し,余震の時間遅れの説明に使われている Dieterich (1992) の式とは整合しており,この違いが何処から来るのかについては答えが見い出せていない.

(1-2) 断層破壊数値計算法の理論的基礎づけ

近年,地表面や二層媒質境界面など不連続面で区切られた不均質媒質を考慮した断層破壊計算手法の定式化が提案され実装が試みられている.本年度は,2 次元動的破壊問題において媒質境界破壊の取り扱いに必要となる時刻更新スキームを提案し,計算コードを作成して検証した (Kusakabe & Kame, 2017).

(1-3) 地震即時重力変化検出の研究

「即時地震重力変化」の検出に挑戦し,観測データの解析と理論モデル構築の両方を行った.データ解析では,意に反して「既存理論モデルから予測される重力信号がデータ中に同定できない」結果となったが,それを説明する新たな観測モデル(無限媒質中では即時重力と慣性力が完全キャンセルしセンサー出力がゼロになる)を提案した.これを定量的に評価した所,非常に説得力のある結果を得た.重力観測に基づく検出の限界を明確に示し,これを受け重力歪み計による検出の方向性を示した.

(1-4) 地震活動のフォワードモデル

大地震発生前に震源域周辺の地震活動がしばしば変化することはよく知られているが,大地震は低頻度なので,このような現象を定量的経験則として確立することは容易ではない.地質学的構造に起因する地震の「個性」も問題を困難にする一因である.このような困難を解決するために,地震活動を決定する物理過程を解明することにより,地震活動のフォワードモデルを確立することを目指している.将来的には地震活動のインバージョンによって地震発生場の力学状態の情報が抜き出せるようになるべきである.このような問題意識に基づき,地震活動の背後にある物理過程に関する研究をこの数年行っている.2017年度においては,潮汐など周期的応力摂動に対する地震発生率の応答に関する研究を行った.断層における破壊核形成過程の簡単なモデルを解くことで,周期的外力の位相に関する地震発生確率分布の解析的表現を得た.この結果は,摂動外力に対して地震発生率が指数関数的に増大することや,摂動外力と地震発生率変動の位相のずれなども微視的パラメタを用いて定量的に予言している.観測データとの比較検討や,より現実的な状況への一般化は今後の課題である.

3.1 数理系研究部門

教授 小屋口剛博(部門主任)
准教授 波多野恭弘,亀 伸樹,西田 究
助教 鈴木雄治郎
特任研究員 齋藤 拓也,髙田 智史, 中尾 篤史
外来研究員 桑野修
外国人研究員 Roy Subhadeep
大学院生

小澤 創(M1),木村将也(M2),日下部哲也(D3),小山 健太郎(M1),櫻井翔太(M2),志水宏行(D3),武田海(M2),田中宏樹(D3),水谷 雄太(M1),山口優太(M2)

本部門では,地震や火山活動およびそれに関連する現象を理解するために,数学・物理学・化学・地質学の基本原理に基づく理論モデリングの研究を行っており,その内容は多岐にわたる.

3. 部門・センター活動

構成は2017年1月現在